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文献名1霊界物語 第39巻 舎身活躍 寅の巻
文献名2第3篇 宿世の山道よみ(新仮名遣い)すぐせのやまみち
文献名3第10章 八の字〔1075〕よみ(新仮名遣い)はちのじ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-11-19 11:33:35
あらすじレーブとタールは、ハに追われて逃げていく。二人はこれまでの経緯を歌いながら、走っていく。タールは関節をくじいて山道に倒れてしまった。レーブは先にどんどん逃げて行ってしまう。ハがタールに追いついたが、タールの体につまずいて倒れてしまった。二人はその場に倒れて唸っている。そこへ宣伝歌の声が聞こえ、近づいてきた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年10月27日(旧09月8日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年5月5日 愛善世界社版129頁 八幡書店版第7輯 326頁 修補版 校定版136頁 普及版55頁 初版 ページ備考
OBC rm3910
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本文  レーブ、タールは、河鹿峠の谷底に投げ込まれたるイール、ヨセフの両人を人工呼吸を以て助けむと丹精を凝らす折しも、人事不省に陥りしと思ひ居たるハは俄に立ち上り、怒りの声を放ちて二人を懲さむとせしより、『こりや堪まらぬ』と行歩艱難の谷間を猿の如く伝ひて、漸く道傍の古き祠の下に身を潜め息を休めて居た。そこへハがやつて来て脛腰たたぬ様になり、喞ち嘆くを聞いて俄かに元気づき、弱身につけ込む風の神ならねども、鬼婆鬼娘の声色を使つて、ハを恐喝しつつ得意がつて居る。折しもあれやサツト吹き来る山颪に四辺を包みし濃霧は拭ふが如く晴れ渡り、互に見合す顔と顔、ハは益々怒り、身の苦痛を打忘れて立ち上り、
『無礼者、懲して呉れむ、思ひ知れや』
と韋駄天走りに追駆け来る凄じさ。二人は心も心ならず一目散に木の葉散敷く山道を地響きさせて、トントントンと下り行く。
 レーブは途々足拍子をとり乍ら唄ひ始めた。
『バラモン国に名も高き  ハルナの都に現はれし
 大黒主に仕へたる  鬼熊別の部下となり
 蜈蚣の姫や小糸姫  君の御言を蒙りて
 所在を探ぬる折柄に  斎苑の館に程近き
 河鹿峠に来て見れば  山の小路を伝ひ来る
 母娘二人の巡礼姿  ハの司は躍り立ち
 今や吾々五人連れ  手柄現はす時来ぬと
 手に唾して待ち居たり  かくとは知らぬ母娘連れ
 草鞋脚絆に身を固め  扮装も軽き蓑笠の
 金剛杖にて地を叩き  降り来れる面白さ
 母娘二人の巡礼は  谷間の景色を打眺め
 千黄万紅輝きし  錦の山を打眺め
 感賞したる隙を見て  ハの目配せ諸共に
 木の葉の茂みをかき分けて  大手を拡げ衝つ立てば
 母娘の巡礼は腹を立て  武者振りついた荒男
 物をも云はず鷲掴み  千尋の谷間に投げ棄てぬ
 ヨセフ イールやハ三人  果敢なき姿を見るにつけ
 張りきり居たる勇気まで  何時の間にやら消滅し
 臆病風に煽られて  命あつての物種と
 後をも見ずに逃げて行く  足を早めて七八丁
 下手の方に現はれて  激潭飛沫の谷川に
 藤蔓伝ひ下り立ち  又もや川を遡り
 至りて見れば此は如何に  三人は此処に舞埃の
 中に棄てられ身も魂も  半死半生の其の刹那
 救ひやらむと両人が  谷の清水を手に掬ひ
 イール ヨセフに呑ませつつ  人工呼吸の介抱に
 暫し時をば移しける  死んだと思うたハの奴
 悪運強く生かへり  二人を目蒐けて追ひ来る
 こりや堪らぬと両人は  虎口を逃れし心地して
 命からがら逃げて行く  「ウントコ ドツコイ アイタツタ」
 タールよ気をつけ石がある  此処は大蛇の棲処ぞや
 漸う谷川下り来て  道の傍の古祠
 床下深く忍び込み  慄ひ居たりし折柄に
 又もやハがやつて来て  拳固をかためて追ひ来る
 其勢ひに辟易し  二度吃驚の吾々は
 躰も宙に飛ぶ如く  此坂降る恐ろしさ
 あゝ惟神々々  神が表に現はれて
 善と悪とを立て別ける  此世を造りし神直日
 心も広き大直日  直日に見直し聞直し
 宣り直しつつ両人が  身の過ちを許せかし
 吾等の頭と仰ぎたる  ハに決死の勇あるも
 神の力を現はして  言向和せ吾々が
 身の災を払ひませ  あゝ惟神々々
 御霊幸ひましませよ』
と歌ひ乍ら細き谷道を下り行く。
 タールは又歌ひ出す。
『ガランダ国から現はれた  ガラクタ男のハ公が
 チヨン猪口才な吾々を  追ひ駆けまはすは何の事
 抜山蓋世の勇あるも  バラモン教にて鍛へたる
 吾言霊の神力に  木の葉の風に散る如く
 吹き散らさむかと思へども  やつぱり俺は弱い奴
 『コラ』と一声云つたきり  頭の頂から足の尖
 強き電気に打たれし如く  ビリビリビリと震ひ出す
 不思議な力を持つた奴  強い奴にはドツと逃げ
 弱い奴には攻めて行く  之が孫呉の兵法だ
 抑軍の掛引は  三十六計ありと云へ
 命を大事に逃げ出すが  一番利巧なやり方だ
 何程神の道ぢやとて  命をとられちや堪らない
 「ウントコ ドツコイ ドツコイシヨ」
 レーブの足は遅いぞよ  愚図々々してると追着いて
 ハの奴めが後から  俺の頭をポカポカと
 鬼の蕨をふりあげて  打すが最後「ウントコシヨ」
 ウンと一声果敢なくも  此世の別れ死出の旅
 こんなつまらぬ事はない  こりやこりやもつと早う走れ
 俺から先へ走らうか  お前の様な足遅が
 先へ行くのは物騒な  せめて俺だけ一人なと
 命を保たにやなるまいぞ  「ウントコ、ドツコイ辛気やな」
 耄禄爺の道連れは  ほんに心が揉めるわい
 それそれ近寄る足音が  ドンドンドンと聞えてる
 「ウントコ ドツコイ こら違うた」  谷間を流るる水の音
 さはさり乍ら吾々は  愚図々々しては居られない
 一方は谷川一方は  嶮しき山に囲まれし
 喉首見た様な一筋道  木の葉の茂みがあるならば
 一寸潜んで見たいけれど  生憎此処は禿山だ
 此奴ア堪らぬ どうしようぞ  地獄の旅をする様な
 怪態な心になつて来る  「アイタヽタツタ アイタツタ」
 レーブ一寸待て俺や倒けた  擦り剥けよつた膝頭
 タラタラ流れる赤い血が  こんな処へ追ひついて
 頭をポカポカやられたら  おたまりこぼしは無い程に
 こらこらレーブ一寸待て  友達甲斐のない男
 友の難儀をふり棄てて  後白雲と走り行く
 お前の薄情な其仕打  アーアー痛い足疼く
 こんな事だと知つたなら  早く逃げたらよかつたに
 二人の奴が助けたさ  恐ろし谷間に下り立つて
 虻蜂とらずの惨い目に  遭うたるタールの苦しさよ
 あゝ惟神々々  御霊幸ひましまして
 レーブの足を留めるか  ハの脛腰抜かすなと
 二つに一つの御願ひ  何卒許して下さんせ
 勝手の事とは知り乍ら  九死一生の此場合
 無理かは知らねど願ひます  アーアー怖い恐ろしい
 こんな処に倒れたら  仮令ハ奴が来なくても
 虎狼が現はれて  生命をとつて喰うだらう
 思へば悲しき今の身の  詮術もなき有様よ
 絶望の淵に沈みたる  タールの心を憐れみて
 バラモン教の神様よ  何卒お助け下さんせ
 命からがら願ひます  あゝ惟神々々
 御霊幸ひましませよ』
と道傍に倒れ膝頭の関節を挫き、泣き声となつて呻いてゐる。其処へ息せききつてやつて来たのはハであつた。レーブは如何なりしと頭を上げて眺むれば、彼は遠くも逃げ去つて三歳の童子の如く其姿の小さく見ゆる処まで禿山道を走つて居る。ハの足音はドンドンと刻々に近寄り来る。
 ハは一生懸命坂道を降り来る。勢づいた降り道、俄に身の留めやうもなく細谷道に倒れたるタールの躰をグサグサと踏越え、頭に躓き、勢あまつて二三間ばかり坂道の下に、投げつけられた様に打つ倒れ、これ又膝頭を擦り剥き『アイタヽタツタ』と云ひながら顔を顰め膝頭を撫でて居る。怒りに乗じて忘れて居た腰の痛みが又もや烈しくなつて来た。二人は坂道に八の字形に打倒れ、『アイタツタ、ウンウン』の言霊戦を惟神的に開始してゐる。岩も飛べよとばかり俄に吹き来る暴風に着物の裾を捲られ、ハ、タールの両人は揃ひも揃うて太い黒い臀部を風に丸曝にしてゐる。無心の風は容赦なく吹き荒み、両人の呻声と相和してウーン ウーンと呻り立てて居る。風のまにまに聞え来る宣伝歌の声にタール、ハは耳をすませ、『こりや堪らぬ』と両手を合せ一生懸命に祈つて居る。
(大正一一・一〇・二七 旧九・八 北村隆光録)
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