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文献名1霊界物語 第44巻 舎身活躍 未の巻
文献名2第1篇 神示の合離よみ(新仮名遣い)しんじのごうり
文献名3第1章 笑の恵〔1170〕よみ(新仮名遣い)わらいのめぐみ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-01-14 18:19:13
あらすじ
主な人物 舞台祠の森 口述日1922(大正11)年12月07日(旧10月19日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年8月18日 愛善世界社版7頁 八幡書店版第8輯 141頁 修補版 校定版7頁 普及版3頁 初版 ページ備考
OBC rm4401
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本文  三千世界の大宇宙  善と真との光明に
 守り玉へる五六七神  御稜威は宇内に輝きて
 御霊のふゆの木の間漏る  祠の森の月影に
 面を照らして治国別の  神の命の一行が
 冬の御空も晴公や  五三公万公純公の
 四人の伴と諸共に  バラモン教の兵士が
 逃げ去り行きし其跡の  乱離骨灰微塵となりて
 退却したる惨状を  思ひ出して物語る
 時しもあれや玉国別の  神の命や道公の
 休らふ祠の近辺に  ひそかに聞ゆる女子の
 囁く声に耳すませ  ハテ訝かしと聞きゐたる
 無心の月は皎々と  治国別が頭上をば
 木の葉を透して照らしゐる  俄に吹き来る凩に
 木々の枯葉はバラバラと  霰の如く落ち来り
 俄に女の囁きも  吹来る風に遮られ
 千切れ千切れに聞えつつ  遂には夢のあとの如
 ピタリとやみて凩の  梢を渡る音のみぞ
 あたり響かせ聞えける。
『先生、万公にはシカとは分りませぬが、此山中に思ひも寄らぬ女の声が聞えるぢやありませぬか。どうも声の出所は祠の近辺の様ですが、又道公の奴、気楽さうにあンな声を出して、玉国別様に狂言でもして、お慰みに供してるのぢやありますまいかな』
『イヤイヤ決してさうではあるまい。風の音に遮られてシカとは聞えないが、どうやら女の声らしい。何程巧妙に声色を使つてもヤツパリ贋物は贋者だ。どつかに違つた所があるよ。今の声には何とはなしに、驚きと喜びと悲しみとが交つてゐる様だ。ヒヨツとしたら、五十子姫様が神様のお示しに依つて、玉国別様の病気見舞にお越し遊ばしたのではあるまいかと思はれるのだ』
『如何にも、さう承はればさうかも知れませぬ。それならこンな所に安閑としては居れますまい。サア先生、万公と御一緒に御挨拶に参りませう』
『慌て行くには及ばぬ、玉国別様の方から御用が済みたら、道公さまがついてゐるのだから、何とか知らして下さるだらう。それ迄はどういふ御都合があるかも知れないから控へて居つたがよからう。世の中には有難迷惑といふ事があるからなア』
『成程流石は先生だ。何から何迄好うお気の付いた事。此万公も感心を致しました。折角可愛い奥さまと御対面を遊ばして厶る所へ無粋な男が飛出しては、殺風景ですからなア。此万公も万公(満腔)の同情をよせて、暫く控へる事に致しませう』
『ウン、それがよかろう。ここらで一眠りしたら何うだ。いい加減に休ンでくれぬと、安眠妨害になつて困るからなア』
『ヘー……』
 晴公はそばから、
『何と云つても、雀の親方ですから仕方がありませぬ哩。昼の内はチユン チユン チヤアチヤア囀つて居つても、日が暮れるが最後、チユンともシユツともいはぬのが雀の性来だが、此奴ア時知らずだから、何時迄も囀るので、吾々も大に迷惑だ』
『オイ晴公さま、俺が雀ならお前は燕だよ。まだも違うたら轡虫だ。ガチヤ ガチヤ ガチヤと声計りか、動静までが騒がしい落着かぬ男ぢやないか。まるで秋の田の鳴子のやうな代物だワイ』
『ヘン晴さまはヤツパリ春だ。秋の田の鳴子とは、併しよい仇名をつけてくれたものだ。しかし鳴子は雀を追払ふものだからなア、アツハヽヽヽ』
『両人よい加減に寝たらどうだネ、治国別も困るぢやないか』
『コレ御覧なさいませ。どの木の葉にも露が溜り、月が宿つてピカピカと光り、まるで瑠璃光の中に包まれてるやうぢやありませぬか。目の奴、眠ることを忘れて、瑠璃光の光に憧がれ、仲々休戦の喇叭を吹きませぬワ。モウ暫く万公を大目に見て下さいませ』
『ウン、成るべく静かに頼むよ』
『先生、モウぼつぼつおりても良いぢやありませぬか。玉国別さまも目が悪いなり、道公一人で、奥さまにやつて来られ、いろいろの愁嘆場を聞かされて困つてゐるかも知れませぬよ。これから五三公は純公と二人で、様子を見て来ませうか』
『どンな御都合があるか知れないから、行くのなら足音を忍ばせて、ソツと往つたが良い。雀も鳴子もこちらに預けておいてなア、アハヽヽヽ』
『ナル程、逃げる小雀、なることならば一足なりと先へ雀と参りませう。なア純さま、お前も俺に従いて前へ前へと進み公さまだ。顔も随分黒いからなア』
『アハヽヽヽ鳴子と雀の二代目が出来よつた。之を思へば世の中に何一つ亡びてなくなるものは無いと見える。此方が沈黙すれば又彼方で騒ぎ出す、一方を押へれば一方が膨れる、到底惟神に任すより仕方がないワイ』
と一人呟いてゐる。万公、晴公は息を潜め、俄に眠につかむと、自ら寝息を製造して夢中の国へ高飛せむと努めてゐる。風は漸くにして鎮静し、祠の前の人声は明瞭に聞え来たりぬ。
 五三公、純公の二人は差し足抜き足泥棒が暗夜に人の家を覗くやうな按配式で、漸く祠の後に近付き見れば玉国別の妻五十子姫及今子姫の姿が月の光にボンヤリと浮いたる如くに見えければ、五三公は小声で、
『オイ純公さまよ、この五三公の察しの通りヤーツパリだ。ヤツパリはヤツパリだなア、エヽー。結構なものだらう。親切なものだらう。有難いぢやないか。羨ましいぢやないか。本当に妬けて来るぢやないか。エヽ怪体の悪い、しまひにやカしてくるわ。なア純さま、コリヤ此儘でスミ公といふ訳には行くまいネー』
『やかましう言ふない。聞えたら何うする。純公さまの御主人様だ。怪体が悪いなぞと余り軽蔑してくれない。嬉しいわい。なつかしい、有難い、辱ない、勿体ないわ』
『それにしても、道公の奴気が利かぬぢやないか。御夫婦さまの仲でまるで検視の役人のやうな面をしよつて出しやばつてゐよる。彼奴ア、チとおとして来よつたのだな。俺の先生を見よ、随分粋が利くぢやないか。キツと玉国別さまも五十子姫さまも、心の中では……あゝ旦那様か……女房であつたか、ようマア親切に来てくれた、会ひたかつた会ひたかつたと、互に抱つきしがみつき嬉し涙にくれ玉ふべき所だのに、夫婦の恋仲を隔てて通さぬ道公の馬鹿者、チツと気を利かしてもよかりさうなものだがなア』
と思はず知らず高声が勃発した。さうすると純公は最早ヤケクソになり力一杯大きな声で、
『道公の奴、道を知らぬも程があるワイ。夫婦の道は又格別だがなア。どの道困つた代物だよ。アハヽヽヽ』
と肩を揺つて、ヤケ糞になつて笑ひ出す。道公は此声に驚き、慌て祠の後へ進み来り、
『コリヤ純公、馬鹿にするなイ。御主人様が御病気で、奥様が慰問しにお出でになつたのだ。それが何が可笑しいか。先生に対して失礼ぢやないか。サアこれから御無礼の罪をお詫するのだぞ。気の利かぬにも程があるぢやないか』
『ヘン、気の利かぬのはお前の事だよ。なぜお前は今子姫さまと一緒に治国別さまのお側へ行かぬのだ。折角夫婦が御面会遊ばして厶るのに、何の事だい。そんな事で弟子が勤まるか。なア五三公、さうぢやないか』
『ウン、お前の云ふのも尤もだ。道公さまの云ふのも道理だ。モウ斯うなつちや仕方がない。こンな枝葉問題を捉へて舌戦をやつてゐる場合ぢやないぞ。早く先生御夫婦に御挨拶を申上げねばなるまい』
と五三公は先に立ち、玉国別の面前近く進む。純公は両手をついて、
『先生様、私は純公で厶ります。お目はどうで厶いますか。ヤア奥様、ようマア御親切に来て上げて下さいました。私の女房が来てくれたやうに嬉しう厶います』
 五十子姫は顔を掩ひ乍ら、
『ホヽヽお前は純さま、此度の旦那様の御遭難で、大変に苦労をかけましたなア。併し貴方は御壮健で御目出たう厶います』
『ハイ、旦那様が御壮健で、私が代れるものなら代つて居れば良いので厶いますが、何分厄雑者の栄える世の中で、善い者には害虫のはいるもので厶います。オイ道公、どうだ。奥様からこンな結構な御挨拶を頂き、身に余る光栄ぢやないか、貴様も何か一つ御言葉をかけて頂いたか、どうだい。滅多にそンなことはあるまい……ソリヤきまつてゐるよ。何を云つても気が利かない男だからなア。時と場合といふことを知らない石地蔵さまは、困つたものだい』
『この道公さまは先生からは特別のお言葉を頂き、奥様は申すに及ばず、今子姫様からも御礼の言葉を……根つから一寸も頂かぬのだ。アハヽヽヽ』
五十子『ホヽヽ何とマア気楽な方々ぢやなア』
今子『旦那様のお悩みを他所に、そンな気楽相なことを云つちやすみますまいで、チとお嗜みなさいませ』
『すみてもすまいでも、純公さまですよ。チツとなつと面白いことを云つて、先生様の御苦痛を軽減すべく努めてるのですよ。女童の知る所でない。エヽしざり居らう、オツと道純が一心変ぜぬ勇気の顔色取りつく島もなかりけり、シヤン シヤン シヤン……だ。アハヽヽヽ』
五十子『貴方は五三公さまぢやありませぬか。主人がお世話になりました相です。有難う厶います』
『私は五三公、貴女は五十子姫様、男と女の違こそあれ、同じ名前ですからヤツパリ御因縁も深いとみえます。奥様に代つて特別に先生様の御世話を、何くれとなく気を付けて、まだ致しませぬ。誠にすまぬことで厶います。今から御礼を云はれちや聊か迷惑の至り、これは折角乍ら御返上致します。どうぞ道公さま純公さまの方へ御廻し下さいますやうに』
五十子『ホツホヽヽヽ』
今子『ウツフヽヽヽ』
『コレ、今子さま、俯むいてせせら笑ひを致しましたなア。其笑ひ声といひ、月にすかして見た笑顔と云ひ、中々以て意味深長、イヤもう此五三公も、貴女の笑顔には恍惚と致しましたよ。一瞥城を傾けるといふ千両目許で眺められた時の心持と云つたら、胸をさされる様で厶いました』
 今子姫は顔に袖をあて、恥しげに俯向いてゐる。五三公は世間慣れのした磯端の団子石の様な円転滑脱なあばずれ者、宣伝使の伴となつて、ここ迄伴いて来たものの、物の機みにはチヨイチヨイと生地が現れる厄介至極な滑稽男である。五三公は右の手を額口のドマン中にチヨンと載せ、カイツクカイのカイカイ踊りをし乍ら、治国別の休らふ森蔭をさして、
『オイ道公、純公、粋を利かせよ』
と呼ばはり乍ら登つて行く。
『ハツハヽヽヽ、玉国別もおかげで余程頭痛が軽減して来たやうだ。目も何うやら、一方はハツキリとし、一方の方は薄明りが見える様だ。笑うといふことは実に霊肉の薬になるものだなア』
『歓喜の笑声は天国の門平安の道公を開くと云ひますからなア。軈て先生の目も開くでせう。どうぞ力一杯笑つて下さいませ』
『笑ひは結構だが、さう俄作りの笑ひも出来ず、何分無粋の玉国別のことだから、笑ひの原料が欠乏を告げてゐるのだからなア』
『先生、貴方の御身体には笑ひが充満して居りますよ。一寸道公が笑はして見せませうか』
と云ひ乍ら後へまはり脇の下を指の先でくすぐらうとする。玉国別は道公の手が障らぬ内にツと立ちて逃出し、早くも笑つてゐる。道公は尻を捲り、腰を屈め、ワザと鰐足になつて石亀の踊つたやうなスタイルで玉国別を追つかける。玉国別始め一同は思はずドツと吹出し、腹を抱へて笑ふ。玉国別も道公に追はれて、何回となく祠の周を笑ひ乍ら逃廻つてゐる。
(大正一一・一二・七 旧一〇・一九 松村真澄録)
(昭和九・一二・二〇 王仁校正)
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