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文献名1霊界物語 第45巻 舎身活躍 申の巻
文献名2第2篇 恵の松露よみ(新仮名遣い)めぐみのしょうろ
文献名3第7章 相生の松〔1197〕よみ(新仮名遣い)あいおいのまつ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-02-25 19:10:37
あらすじ松姫は実は、松彦の生き別れの妻であった。思わぬ夫婦の対面に驚き喜ぶ松彦は、松姫と来し方をしばし語り合った。アーメニヤで夫婦となっていた二人は、バラモン軍によるエルサレ蹂躙によって生き別れてしまった。松彦はバラモン教に拾われてランチ将軍の秘書となっていた。そして河鹿峠で三五教の宣伝使となっていた兄と再会したのであった。生き別れになった戦乱の当時、松姫は身ごもっていた。家族散り散りに逃げる途中、親切な老侠客に助けられ、そこで女の子を生んだという。松姫は娘をその老侠客夫婦に引き取ってもらい、自分はウラナイ教でフサの国から自転倒島まで渡り、活躍していた。小北山の蠑螈別のウラナイ教に潜入してから、かつて娘を預けた老侠客夫婦がなくなり、娘の千代が孤児になっていたことを知り、侍女として引取り教育していたのだと明かした。このことは千代も知らず、今松彦の前で初めて明かされて夫婦親子の対面となった。三人は歌を持って心のたけを述べ合っている。突然、館の外から瓦をぶちあけたような怪しい笑い声が響いた。親子は驚いたが、この声の主は三人の話を立ち聞きしていた魔我彦であった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年12月12日(旧10月24日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年9月12日 愛善世界社版109頁 八幡書店版第8輯 291頁 修補版 校定版114頁 普及版45頁 初版 ページ備考
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本文  ウラルの姫の系統と  生れ合ひたる高姫が
 バラモン教やウラル教  三五教の御教を
 あちら此方と取交ぜて  変性男子の系統と
 自称し乍らフサの国  北山村に居を構へ
 蠑螈別や魔我彦や  高山彦や黒姫を
 唯一の股肱と頼みつつ  ウラナイ教の本山を
 立てて教を四方の国  宣べ伝へつつ三五の
 神の仁慈にほだされて  全く前非を後悔し
 神の御為世の為に  舎身の活動励みつつ
 今は全く三五の  教の司と成りすまし
 生田の森の神館  珍の司となりにける。
 後に残りし魔我彦は  蠑螈別を教祖とし
 北山村を後にして  坂照山に立こもり
 茲に愈ウラナイの  教を再び開設し
 小北の山の神殿と  称へて教を近国に
 伝へ居るこそ雄々しけれ  蠑螈別や魔我彦は
 高姫仕込みの雄弁を  縦横無尽にふり廻し
 彼方此方の愚夫愚婦を  将棋倒しに説きまくり
 天下に無比の真教と  随喜の涙をこぼさせつ
 螢の如き光をば  小北の山の谷間に
 細々乍ら輝かす  さはさり乍ら常暗の
 黒白も分ぬ世の中は  蠑螈別や魔我彦の
 ねぢけ曲れる教をも  正邪を調ぶる智者もなく
 欲にからまれ天国へ  昇りて死後を安楽に
 暮さむものと婆嬶が  愚者々々集まりゐたりけり
 浮木の村に名も高き  白浪女のお寅さま
 どうした機みか何時となく  小北の山に通ひ出し
 足しげしげと重なつて  蠑螈別に殊愛され
 女房気取りで何くれと  一切万事身のまはり
 注意に注意を加へつつ  あらむ限りの親切を
 尽して教祖の歓心を  やつと求めて丑寅の
 婆さまはニコニコ悦に入り  小北の山を一身に
 吾双肩に担うたる  やうな心地で控えゐる。
 蠑螈別は曲神に  魂をぬかれて酒計り
 夜と昼との区別なく  あふりて心の煩悶を
 慰め居れど時々に  心に潜みし曲鬼が
 飛出し来り高姫の  色香を慕ひ口走り
 お寅の心を痛めたる  其醜態は幾度か
 数へ尽せぬ計り也  お寅は無念を抑へつつ
 勘忍袋をキツと締め  こばり詰めてぞゐたりしが
 大洪水の襲来し  千里の堤防一時に
 決潰したる計りにて  悋気の濁水氾濫し
 人目もかまはず前後をも  忘れて教祖の胸倉を
 つかみ締めたる恐ろしさ  かかる乱痴気騒ぎをば
 表に待ちし松彦の  司の一行に隠さむと
 心を痛めいろいろと  此場の体裁つくろへど
 隠し終うせぬ燗徳利  土瓶の居ずまひわれた猪口
 金切声は屋外に  聞え来るぞ是非なけれ
 お寅婆さまが此山に  来つて御用を始めてゆ
 これ丈怒つた大喧嘩  未だ一度もなかつたに
 如何した拍子の瓢箪か  思ひもよらぬ醜状を
 珍客さまの目の前に  曝露したるぞ神罰と
 云ふもなかなか愚なり  あゝ惟神々々
 御霊幸ひましませよ。
    ○
 小北の山の別館に  潜みて教の実権を
 掌握しつつ朝夕に  神素盞嗚大神の
 大御心を奉戴し  ウラナイ教の曲神を
 日日万に言向けて  根本的に改良し
 蠑螈別や魔我彦の  身魂を立替立直し
 三五教の真髄を  理解せしめて道の為
 世人の為に神徳を  輝かさむと松姫は
 蠑螈別の言ふままに  上義の姫と称へられ
 心ならずも春陽の  花咲き匂ふ時節をば
 神に祈りて松姫が  心の奥ぞ床しけれ
 小北の山に祀りたる  ユラリの彦の又の御名
 末代日の王天の神  其外百の神名は
 いずれも正しきものならず  狐狸の神霊に
 誑されて魔我彦が  誠の神と思ひつめ
 得意になりて宮柱  ヘグレのヘグレのヘグレシヤ
 ヘグレ神社を立て並べ  迷ひゐるこそうたてけれ
 三五教の松姫も  かやうな事に騙れて
 信仰するよな者でない  さは去り乍ら今すぐに
 いと厳格な審神をば  なすに於ては蠑螈別
 其外百の神司  一度に鼎の湧く如く
 怒り狂ひて松姫の  身辺忽ち危しと
 悟りたるより松姫は  素知らぬ顔を装ひつ
 ウラナイ教の実権を  何時の間にかは掌握し
 小北の山の神殿は  殆ど松姫一人の
 指命の下に大部分  動かし得べき身となりぬ
 モウ此上は松姫も  何の遠慮も要るものか
 やがてボツボツ正体を  現はしくれむと思ふ内
 昔別れし吾夫の  松彦さまが三五の
 神の司となりすまし  思ひも寄らぬ此山に
 お寅婆さまに導かれ  登り来りし其姿
 居間の窓より覗きこみ  ハツと胸をば躍らせつ
 俄に恋しさ身にせまり  たまりかねてぞなりければ
 神勅なりと言ひくろめ  お寅婆さまを招きよせ
 今来た人はユラリ彦  末代日の王天の神
 尊き神の生宮ぞ  あの神様に帰なれては
 五六七神政成就の  仕組はとても立たうまい
 御苦労乍ら一走り  お前は後を追つかけて
 末代さまを是非一度  これの館に連れ帰り
 いと慇懃に遇して  いついつ迄も此山に
 鎮座ましましウラナイの  神の教の目的を
 立たさにやならぬお寅さま  これの使命を果しなば
 お前はこれから此山の  最大一の殊勲者と
 おだてあぐればお寅さま  俄に元気を放り出して
 十曜の紋の描きたる  扇片手にひつつかみ
 松姫館を飛出して  オーイオーイと松彦を
 呼戻したる其手腕  なみなみならぬ婆さま也
 あゝ惟神々々  御霊幸ひましませよ。
 蠑螈別の片腕と  自分も許し人も亦
 許す魔我彦副教主  蠑螈別の託宣を
 一から十迄鵜呑みして  善悪正邪の区別なく
 只有難い有難い  誠の神は此外に
 広い世界にやあるまいと  心の底から歓喜して
 真理を紊す教とは  少しも知らず朝夕に
 骨身を惜まず神前に  いとまめやかに仕へつつ
 迷い切つたる魔我彦は  蠑螈別のなす事は
 善悪正邪に係はらず  何れも神の正業と
 迷信せるこそ愚なれ  かくも教に迷信な
 朴直一途な魔我彦も  若き男の選にもれず
 恋に心を乱しつつ  吾れにかしづく女房は
 甲に致そか乙にせうか  又々丙か丁戍か
 なぞと集まる信者をば  女と見れば探索し
 物色しつつ目が細い  色は白いが鼻低い
 鼻は高いが目が細い  背丈が高い低いなど
 朝な夕なに首かたげ  妻の選挙に余念なく
 心を悩ましゐたる折  少しく年はよつたれど
 花を欺く松姫が  これの館に来りしゆ
 二世の女房は松姫と  自分免許の妻さだめ
 神の奉仕の其間は  万事万端気を付けて
 松姫さまの歓心を  買ふ事計りに身を俏し
 吉日良辰到来し  連理の袖を翻し
 合衾式をあげむぞと  楽しみゐたるも水の泡
 思ひもよらぬ松彦が  此神館に現はれて
 ウラナイ教の信徒が  唯一の主神と頼みたる
 神徳高きユラリ彦  又の御名を尋ぬれば
 末代日の王天の神  珍の宮居と現はれて
 突然ここに天降り  上義の姫の松姫が
 霊の夫婦と聞きしより  気が気でならぬ魔我彦は
 胸を躍らせゐたりける  かかる所へ松姫の
 侍女のお千代が現はれて  魔我彦さまへ上義姫
 あが師の君が御用ぞと  聞いたを機に座を立つて
 鼻うごめかし肘を張り  吉報聞かむと行てみれば
 豈計らむや松姫は  打つて変つた其様子
 犯し難くぞ見えにける  義理天上と自称する
 魔我彦、姫に打向ひ  思ひの丈をクドクドと
 述べむとすれば松姫は  挺でも動かぬ勢で
 魔我彦さまへ今日からは  お前に頼む事がある
 松彦さまは吾夫よ  モウ之からは厭らしい
 目付をしたりバカな事  言はない様にしておくれ
 二世の夫のある私  大に迷惑致します
 松彦さまはユラリ彦  末代日の王天の神
 私は妻の上義姫  遠き神世の昔から
 切るに切られぬ因縁で  ヘグレのヘグレのヘグレ武者
 世界隅なく逍よひて  おちて居つたが優曇華の
 花咲く春に相生の  松と松との深緑
 千代の契を結び昆布  お前と私との其仲は
 至清至潔の身の上だ  汚しもなさず汚されも
 せない二人の神司  万の物の霊長と
 生れた人は何よりも  断の一字が大切よ
 恋の執着サツパリと  放かしてお呉れと手厳しく
 不意に打出す肱鉄砲  呆れて言葉もないじやくり
 言葉を尽し最善を  尽せど松姫承知せず
 お千代に迄も馬鹿にされ  無念の涙ハラハラと
 松彦司を恨みつつ  シオシオ立つて元の座へ
 顔の色まで青くして  帰つて見れば万公や
 五三公其他の連中が  力限りに嘲笑する
 魔我彦さまは腹を立て  歯ぎしりすれど人の前
 怒りもならず泣けもせず  煩悶苦悩の胸おさへ
 俯むきゐるぞ憐れなる  少女の千代に導かれ
 松彦さまは別館  進みて見れば此はいかに
 日頃慕ひし松姫が  盛装凝らしニコニコと
 笑顔を湛へて松彦が  手をとり奥へよび入れる
 流石の松彦呆然と  言葉も出でず松姫が
 面を眺めてゐたりしが  あたり見まはし松姫は
 ソツと其手を握りしめ  恋しき吾夫松彦よ
 夜の嵐に誘はれて  別れてから早十年
 余りの月日を送りました  雨の晨や風の宵
 思ひ出しては泣くらし  思ひ出しては又歎く
 月日の駒の関もなく  今日が日迄も吾夫の
 行方を探ね神様に  祈りを上げて一日も
 早く会はさせ玉へやと  祈りし甲斐もありありと
 現はれ玉ひし神の徳  今日の集ひの有難さ
 何から言うてよかろやら  話は海山積れ共
 其糸口も乱れ果て  解きかねたる胸の内
 推量なされて下さんせ  マアマア無事で御達者で
 私も嬉しいお目出たい  貴方に見せたい者がある
 どうぞ喜んで下さんせ  語れば松彦涙ぐみ
 其手をしかと握りしめ  お前は吾妻松姫か
 ヨウまあ無事でゐてくれた  お前に別れた其後は
 世を果敢なみてウロウロと  フサの国をば遠近と
 巡り巡りて月の国  バラモン教の本山に
 現はれ玉ふ神柱  大黒主の部下とます
 ランチ将軍片彦が  司の神に見出され
 神の柱や軍人  二つを兼ねてまめやかに
 仕へ乍らも両親や  兄の身の上汝が身を
 思ひ案じて一日も  安く此世を渡りたる
 時も涙にかきくれて  悲しき月日を送る折
 尊き神の引合せ  河鹿峠の谷間で
 恋しき兄に巡り会ひ  茲に心を翻へし
 三五教に入信し  御伴に仕へまつりつつ
 野中の森で夜をあかし  橋の袂に来て見れば
 お寅婆さまの母と子に  思はず知らず出会はし
 縁の綱に曳かされて  思はず知らず来て見れば
 日頃慕ひし吾妻は  ここに居たのか嬉しやな
 結ぶの神の結びたる  二人の仲は一旦は
 右に左に別る共  心に解ぬ恋の糸
 解き初めたる今日の空  嬉しさ胸に満ち溢れ
 答ふる言葉もないじやくり  神の恵を今更に
 思ひ浮べて有難く  身に沁みわたる尊さよ
 旭は照る共曇る共  月は盈つ共虧くる共
 仮令大地は沈む共  誠の力は世を救ふ
 真心こめてひたすらに  神の教を守りたる
 二人の身をば憐れみて  思ひもよらぬ此山で
 会はし玉ひし天地の  神の御前に感謝して
 此行先は殊更に  命を惜まず道の為
 心の限り身の限り  仕へまつりて神恩の
 万分一に報うべし  あゝ惟神々々
 御霊幸ひましませよ。
松彦『尊き神様の御恵みに依つて、永らくの間、互に在所の分らなかつた松と松との夫婦が、思はぬ此山で廻り合ふとは、何たる有難い事であらう。先づ其方も無事で、松彦も嬉しい、就ては私に見せたい物があると云つたのはどんな物だ、様子有りげなお前の言葉、グツと胸にこたえた』
松姫『ソリヤさうで厶いませう。貴方にお別れした時に、私は身重になつて居つた事を覚えてゐらつしやるでせう』
松彦『確に覚えてゐる。機嫌よく身二つになつただらうなア』
松姫『ハイ、アーメニヤを逃げ出す途中、フサの国のライオン河の畔で腹が痛くなり、たうとう妊娠八ケ月で、可愛い女の子を生みおとしました』
松彦『そして其子は何うなつたのだ。早く聞かして呉れ』
松姫『途中の事とて如何する事も出来ず、苦んで居る所へ、酒に酔うた男がブラリブラリと通り合せ、親切に吾家へつれ帰り、介抱をしてくれました。それが為に母子共に機嫌よく肥立ち、娘は其男に子がないのを幸ひ、貰つて貰ひ、私はフサの国北山村のウラナイ教へ信仰を致し、遂には抜擢されて宣伝使となり、自転倒島の高城山に教主となつて御用を致して居りましたが、高姫様の三五教へ帰順と共に私も三五教へ帰順致し、言依別命様の内命に依つて、小北山へいろいろと言を設け、うまく入り込んで、神業の為に、心を砕いて居ります。そして其娘はここに居る此お千代で厶います』
松彦『ヤアこれが吾娘か、ヨウまア大きくなつてくれた。親はなうても子は育つとは能く云つたものだな。コレお千代、私はお前の父親ぢや、養育を人手に渡して済まぬ事だつたなア』
と涙ぐむ。お千代は始めて松姫の物語を聞き、松姫は自分の実の母で、松彦は実の父なることを悟つた。お千代は思はず嬉し涙にくれてワツと其場に泣倒れた。松姫も涙乍らにお千代を抱起し、頭を撫で背を撫でて歯をくひしめて忍び泣きしてゐる。

松彦『たらちねの親はなくても子は育つ
  育ての親の恵み尊き。

 吾子をば育て玉ひし両親は
  いづくの人か聞かまほしさよ』

松姫『フサの国竹野の村のカーチンと
  言つて名高き白浪男。

 さり乍らカーチンさまの夫婦づれ
  今はあの世の人となりぬる』

松彦『一言のいやひ言葉もかはされぬ
  育ての親の有難き哉。

 吾娘、千代も八千代もカーチンの
  育ての恩を忘れまいぞや』

千代『有難き育ての親に悲しくも
  別れて誠の親に会ひぬる。

 たらちねの父と母とに巡り合ひ
  嬉し涙の止めどなくふる』

松姫『母よ子よと名乗らむものと思ひしが
  あたり憚り包み居たりし。

 吾母と知らずに仕へ侍りたる
  お千代の心いとしかりけり』

千代『吾母と知らず知らずに懐しく
  師の君様と思ひ仕へぬ。

 どことなく温みのゐます師の君と
  朝な夕なに伏拝みける』

松彦『三五の神の大道に入りしより
  三日ならずに妻にあひぬる。

 妻となり夫となるも天地の
  神の御水火のこもるまにまに。

 天地の神の御水火に生れたる
  吾子は千代に栄え行くらむ』

千代『父母の恵のたまくら知らね共
  何とはなしに慕ひぬる哉。

 カーチンの父の命を生みの親と
  慕ひて朝夕仕へ来にけり。

 朝夕になでさすりつつ吾身をば
  育て玉ひし親ぞ恋しき』

松彦『さもあらむ、藁の上から育てられ
  慈悲の温みに生ひ立ちし身は。

 われよりも育ての親を尊みて
  とひ弔ひを忘れざらまし』

松姫『恋したふ、あが脊の君に巡り会ひ
  嬉し涙のとめどなき哉』

 かく親子は歌を以て心の丈を述べてゐる。館の外面より俄に聞ゆる瓦をぶちやけた様な声、
『グワハツヽヽヽ、イツヒヽヽヽ』
 親子三人は此声に驚き、あたりをキヨロキヨロと見廻した。怪しき笑ひ声はそれつきりにて屋上を吹き亘る凩の音ゾウゾウと聞えてゐる。此声の主は魔我彦であつた事は前後の事情より伺ふ事が出来る。
(大正一一・一二・一二 旧一〇・二四 松村真澄録)
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