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文献名1霊界物語 第46巻 舎身活躍 酉の巻
文献名2第3篇 神明照赫よみ(新仮名遣い)しんめいしょうかく
文献名3第15章 黎明〔1225〕よみ(新仮名遣い)れいめい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-03-16 19:21:53
あらすじお寅は静かな夜、これまでの来し方を思い返していた。蠑螈別に恋を破られ、また自分が教団のために貯めた金もとられ、その無念と悔しさが骨の節々にしみこみ、悲しさが一時に飛び出してたちまち信仰と覚悟を打ち破ろうとする。お寅はこれまで神を信じ舎身的活動をやってきたのにどうしてこんな目に会うのだろうと鏡台の前に老躯を投げ出し愚痴っている。ふと人の持っている三つの物質的でない宝、愛、信仰、希望に思い至った。この三つの歓喜を離れては一日だって暗黒の世の中に立ってゆくことはできないと悟り、これまでの自分の過ちを悔い、神素盞嗚大神へのお詫びを述べ、合掌し悔悟の涙にくれながら沈黙のふちに沈んでいた。しばらくするとどこともなく燦然たる光明が輝き来たり、お寅の全身を押し包むような気分がした。お寅は夢路をたどっていた。眠っている眼の底には美しい天国の花園が開けてきた。お寅はふと目をさまし、転迷悔悟の花が胸中に開いたことを五六七大神に感謝した。これまで人を救いたいという念は沸騰していたが、自分一人を救うこともできない自分であることを徹底的に悟った。そして自分ひとりの徹底した救いはやがて万人の救いであり、万人の救いは、自分ひとりの自覚すなわち神を信じ神を理解し、神に神を愛し、自分はその中に含まれる以外にないものだということを悟った。悲哀の涙はたちまち歓喜の涙と変わり、心天高いところに真如の日月が輝きわたり、幾十万の星が燦然としてお寅の身を包んでいるような、高尚な優美な清浄な崇大な気分に活かされてきた。お寅はにわかに法悦の涙にむせ返り、起き上がると口をすすぎ手を洗い、他人の目をさまさないように静かに神殿に進んで感謝祈願の祝詞を、初めて心の底からうれしく奏上することを得た。理解と悔悟の力くらい結構なものはない。その神霊を永遠に生かし、肉体を精力旺盛ならしむるものは、真の愛を悟り、真の信仰に進み、真に神を理解し、己を理解するよりほかに道はないのである。お寅は悔悟と新しい悟りを表明する歌を歌い、入信以来初めて愉快な爽快な気分に酔い感謝祈願の祝詞を三五教の大神の前に奏上し、欣然として居間に帰ってきた。このとき夜は開け放れ、山の尾の上を飛びかう鳥の声がいつもより爽やかに頼もしく聞こえてきた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年12月16日(旧10月28日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年9月25日 愛善世界社版191頁 八幡書店版第8輯 427頁 修補版 校定版201頁 普及版76頁 初版 ページ備考
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本文  一日の太陽が神の御守りの下に静に暮れ行きて、頓て平和な閑寂な夜が地の上に訪れ、遠寺の鐘の音、塒求むる鳥の声など漸くをさまり、四辺は死んだ様に静かになつて来た。鉄瓶の蓋が湯気に煽られて鳴る声が、何となくお寅婆アさまの胸に響いて、浮木の村の侠客時代を偲ばせる様であつた。蠑螈別に命の綱の恋と金とを奪はれて、眠りもやらず、胸に轟く狂瀾怒濤を抑へることにのみ疲れはて、次の間の鏡台の前に向つて、マジマジと自分の姿を見れば、両頬の痩せこけたのを見るにつけても、吾身の老い行きしこと、蠑螈別の逃去りしもさこそ無理ならじと思ふにつけ、其両眼がスグツと涙になる。
『あゝこんな事ではいけない。モウ少し確りして、神様のお道を歩み直さねばなるまい』
と吾と吾手に心を引立てようとしてみたが、夜前の無念さ口惜しさが骨の節々にまでしみ込んでゐる悲しさが一時に飛び出して、忽ち金剛不壊的の信仰と覚悟を打破らうとする。
『あゝあ、わしの今宵の苦しさと云つたら、石を抱かされ、算盤の上へすわらされて、無実の拷問をうけてゐるやうな苦しさだ。人と人とを繋いでゐた糸が切れて、行方も知らぬ荒野を独り寂しげに逍遥ふ心地がし出した。あゝどうしたらよからうかな。安心立命を得むとして神を信じ神を愛し、舎身的活動をやつて来たのだ。それに又何として斯様なみじめな目に会つたのだろ。世の中に不幸な人は此お寅ばかりではあるまい。さりながら又妾の様な悲痛な残酷な憂目に会つた者も又とあるまい。馬鹿らしさ、恥しさ、腹立たしさ、モウ立つてもゐても居られない様になつて来た。あゝどうしようぞいなア』
と鏡台の前に、老躯を投げつけるやうにして愚痴つてゐる。
『あゝさうださうだ、人には三つの宝がある。其宝は決して物質的の宝でも、変則的情欲でもない、神様に対する恋愛だ。第一に愛、第二に信仰、第三に希望だ。此三つの歓喜を離れては、一日だつて暗黒の世の中に立つてゆく事は出来ない。あゝ誤れり誤れり、誠の神様、三五教を守り給ふ太柱神素盞嗚大神様、今日まで仁慈無限のあなたの御恵を蒙りながら、少しも弁へず、蠑螈別の邪説に従ひ、御無礼ばかりを申しました。其心の罪が鬼となつて、今私を責めて居るので厶いませう。あゝ吾敵は吾身体の中にひそんで居りました。払ひ給へ清め給へ神素盞嗚尊………』
と合掌し、悔悟の涙にくれ、稍しばし沈黙の淵に沈みつつあつた。暫くすると、何処ともなく燦然たる光明が輝き来り、お寅の全身を押し包むやうな気分がした。お寅は何時とはなしに夢路を辿つてゐた。ヂツと眠つてゐる目の底には美はしき天国の花園が開けて来た。牡丹や芍薬やダリヤの花が錦の様に咲き盛つてゐる中を、紅白種々の胡蝶と共に遊び歩いてゐるやうな、えも言はれぬ気持になつて来た。お寅はフと目をさまして独言、
『あゝ仁慈深き五六七大神様の光明に照らされて、転迷開悟の花が吾胸中に開きました。薫しき風が胸を洗つて通るやうになりました。今まで人を救ひたい救ひたいとの念は時々刻々に沸騰して、胸に火を焚いた事は幾度か知れませぬ、併しながら万民所か、自分一人を救ふ事も出来なかつた、かよわい私たる事を徹底的に悟らして頂きました。自分一人の徹底した救ひは、やがて万人の救ひであり、万人の救ひは自分一人の自覚即ち神を信じ神を理解し、真に神を愛し、自分は其中に含蓄される以外にないものだと云ふことを、御神徳に依つて深く深く悟らして頂いた事を有難く感謝致します』
と悲哀にくれた涙は忽ち歓喜の涙と変り、心天高き所に真如の日月輝き渡り、幾十万の星は燦然としてお寅の身を包むが如き高尚な優美な清浄な崇大な気分に活かされて来た。お寅は俄に法悦の涙にむせ返り、褥をけつて起上り、口を滌ぎ手を洗ひ、人の目をさまさないやうと、差足抜足神殿に進んで感謝祈願の祝詞を、始めて心の底より嬉しく奏上する事を得た。実に理解と悔悟の力位結構なものはない。其心霊を永遠に生かし、其肉体をして精力旺盛ならしむるものは、実に真の愛を悟り、真の信仰に進み、そして真に神を理解し、己れを理解するより外に途はないものである。
 あゝ惟神霊幸倍坐世。
『暴風一過忽ちに  吾身を包みし黒雲は
 拭ふが如く晴れ渡り  五六七の神の御慈光に
 迷ひ切つたる魂も  瑠璃光の如く照らされて
 やつれ果てたる身も魂も  俄に無限の神力を
 与へられたる思ひなり  真如の月は村肝の
 心の空に輝きて  清光燦爛身を包む
 銀河は長く横たはり  東や西や北南
 天津御空も地の底も  只一点の疑雲なく
 地獄は化して天国の  至喜と至楽の境域に
 楽しく遊ぶ身となりぬ  あゝ惟神々々
 人の身魂は皇神の  広大無辺至聖至貴
 清きが上にも清らけき  大神霊の分霊
 吾身一つの魂の  持ちよに依りて世の中は
 天国浄土となるもあり  地獄修羅道と変るあり
 地上の小さき欲望に  魂を汚され心をば
 紊しゐたりし浅ましさ  天国浄土は目のあたり
 而も吾身の胸の内  開けありとは知らずして
 私利と私欲の欲界に  漂ひ苦しむ世の人よ
 其境遇を窺へば  げに浅ましの至りなり
 われ先づ神に救はれぬ  神に救はれ天国の
 至喜と至楽を味はひぬ  あゝこれからはこれからは
 尊き神の仁徳に  報ゆる為に身を砕き
 魂を捧げて道の為  世人の為に何処までも
 尽しまつらでおくべきか  情は人の為ならず
 吾身を救ふ宝ぞと  悟りし今日の嬉しさよ
 仁慈無限の大神の  恩頼をかかぶりて
 地獄と修羅に迷ひたる  われは全く救はれぬ
 吾身を地獄におきながら  憂瀬におちて苦める
 世人を普く救はむと  思ひし事の愚かさよ
 之を思へば蠑螈別  お民の君は吾為に
 心の門を開きたる  仁慈無限の救主
 かく宣り直し見直せば  天が下には敵もなく
 恨みもそねみも消え失せて  さながら神の心しぬ
 思へば思へば有難き  吾身の垢を洗ひます
 瑞の御霊の御恵み  神素盞嗚大神が
 仁慈の余光を地になげて  暗に苦む人草を
 救はせ給ふ御心を  今や嬉しく悟りけり
 高姫司が称へたる  ウラナイ教は表向き
 仁慈無限の神様の  救ひの言葉と聞ゆれど
 表裏反覆常ならず  忽ち天候一変し
 雷鳴ひらめき暴風雨  吹き来る如き恐怖心
 起させ霊をよわらせて  むりに引込む横しまの
 曲津の教と悟りたり  末代日の王天の神
 其妻上義姫の神  リントウビテンや木曽義姫や
 生羽神社や岩照姫や  五六七成就の肉の宮
 旭の豊栄昇り姫  日の出神の義理天上
 玉則姫や地の世界  日の丸姫の大御神
 大将軍や常世姫  ヘグレのヘグレのヘグレシヤ
 ヘグレ神社の大御神  種物神社の御夫婦神
 大根本の神木の  十六柱の霊の神
 なぞと怪しき御教を  ひねり出して愚なる
 世人を欺く曲言を  此上なきものと迷信し
 朝な夕なに村肝の  心を痛め身を削り
 心肉共に痩せこけて  苦みゐたる地獄道
 今から思ひめぐらせば  さも恐ろしくなりにけり
 天津御空の日は歩み  月行き星はうつろひて
 銀河流るる地の上の  高天原に住みながら
 知らず知らずに根の国や  底の国へと陥落し
 日に夜に修羅をもやしつつ  恋と欲とに捉はれて
 苦みゐたるぞ果敢なけれ  悔悟の涙はせきあへず
 滂沱と腮辺に流れおつ  無明の暗もあけ放れ
 今日は歓喜の涙雨  腮辺に伝ふ尊さよ
 あゝこの涙この涙  世人の魂を洗ひ行く
 瑞の御霊の露ならむ  乾かであれよ何時までも
 流れ流れて河鹿川  清き水瀬の何処までも
 尽くることなく暗黒の  海に沈める曲人の
 身魂を洗はせ給へかし  神は汝と倶にあり
 人は神の子神の宮  神に等しきものなりと
 のらせ給ひし聖言は  仁慈の光明に照らされて
 悔悟の花の開きたる  吾身に依りて実現し
 証明されしものぞかし  曲に汚れし吾身をば
 自ら救ひよく生かし  栄えて後に世の人の
 霊を生かし救ひ上げ  荘厳無比の天国を
 普く地上に建設し  国治立大御神
 豊国主大御神  神素盞嗚神柱
 其外百の神等の  大御心を体得し
 いよいよ進んで宣伝し  神の氏子を助け行く
 尊き司となさしめよ  今まで暗に迷ひたる
 お寅が御前に慎みて  懺悔し感謝し畏みて
 恩頼を願ぎまつる  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ』
 お寅は斯くの如く精神上より生き返り、天国に復活したる心地して、入信以来始めて愉快な爽快な気分に酔はされ、感謝祈願の祝詞を三五教を守り給ふ仁慈無限の大神の御前に奏上し、欣然として吾居間に帰つて来た。此時夜はカラリと明け放れ、山の尾の上を飛びかつて、常世の春を祝ふ百鳥の声、鵲の声、いつもよりはいと爽かに頼もしく聞え来るのを沁々と身に覚ゆるに至つた。
(大正一一・一二・一六 旧一〇・二八 松村真澄録)
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