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文献名1霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻
文献名2第1篇 盗風賊雨よみ(新仮名遣い)とうふうぞくう
文献名3第6章 噴火口〔1662〕よみ(新仮名遣い)ふんかこう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年07月15日(旧06月2日) 口述場所祥雲閣 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年4月14日 愛善世界社版73頁 八幡書店版第11輯 637頁 修補版 校定版77頁 普及版37頁 初版 ページ備考
OBC rm6506
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本文  エは伊太彦の先に立ち、慄ひ声を出し乍ら、道々謡ひ上り行く。
『バラモン教の軍人  伍長となつた此エ
 鬼春別の将軍が  猪倉山の砦にて
 軍の解散した故に  是非なく茲に盗人と
 なり下りたる身の因果  ウントコドツコイ ハアハアハア
 御大将は比丘となり  お金を沢山懐に
 入れてどこかに逃げて行く  後に残つた雑兵は
 ウントコドツコイきつい阪  目腐れ金を頂いて
 月の都に帰ろにも  旅費にも足らぬあはれさに
 やけをおこして酒を飲み  今は詮なき真裸体
 セールの大将に従ふて  虎熊山の岩窟に
 人のいやがる盗人の  乾児のはしに加へられ
 僅に命を保ちつつ  風が吹いてもビツクビク
 山が鳴つても胸躍り  ドキドキドキと世の中を
 恐れ戦き暮しつつ  今日が日迄も暮れて来た
 ウントコドツコイ ドツコイシヨ  折角人と生れ来て
 人の懐あてにする  悪い泥棒となり下り
 此世を忍ぶ苦しさよ  国にまします両親や
 兄や妹が聞いたなら  嘸や驚く事だらう
 胸に勲章をブラさげて  天晴手柄を現はしつ
 帰つて来るかと朝夕に  家族が待つて居るだらうに
 思へば思へば情ない  つまらぬ事になつて来た
 それでも食はんが悲しさに  泥棒の仲間に加へられ
 悪い事とは知り乍ら  長い太刀振りまはし
 人を脅して金を取る  こんな商売をいつ迄も
 続けて居つた事ならば  梵天帝釈自在天
 大国彦の大神の  忽ち冥罰当るだらう
 早く心を改めて  善と真との真道に
 帰り度いとは思へども  何を云つても金が無きや
 善をせうにも道が無い  止むを得ずして悪党の
 仲間で今日迄暮れて来た  ツクヅク此世が嫌になり
 罪亡ぼしに虎熊の  噴火口にと身を投げて
 亡びて了ふと思ふたが  何だか命が惜しくなり
 臆病風にさそはれて  死さへならぬ苦しさよ
 タールの奴と二人連れ  此山口に現はれて
 往来の人を掠めむと  話にふける折もあれ
 四辺の木魂をひびかせて  忽ち聞ゆるホラの声
 魂ふるひ神は飛び  身体忽ち戦慄し
 密樹の蔭に身を潜め  因果を定むる折もあれ
 鬼春別の将軍は  比丘の姿と現はれて
 四人の弟子に打ち向ひ  善悪正邪の理を
 説かせたまふぞ有難き  ここにいよいよ村肝の
 心の底より改めて  悪をフツツリ思ひ切り
 これから難行苦行して  一つの仕事に喰ひつき
 身を粉に砕き父母に  安心させむものをぞと
 茲迄帰り来て見れば  泥棒仲間のタツ公が
 路傍の石に腰かけて  やすんで居るのに出会し
 鬼春別の将軍が  教の言葉の受売を
 初めて居つた所だつた  そこへ伊太彦宣伝使
 宣伝歌をば謡ひつつ  現はれまして両人に
 眼をいからし詰問し  たしなめたまふ権幕に
 恐ろし奴の集まつた  泥棒の岩窟へ案内と
 出かけて往くのは情ない  これもやつぱり旧悪の
 報いが来たのか悲しさよ  梵天帝釈自在天
 憐れみ賜ひエ、タツの  二人の氏子が恙なく
 岩窟を切りぬけ本国へ  立ちかへるべく守りませ
 ウントコドツコイ ドツコイシヨ  アイタタ タツタ躓いた
 肝心要の親指の  爪がおきたか血が滲む
 本当に痛い苦しいわ  これこれもうし宣伝使
 私の指も伊太彦の  神の司よ赤い血は
 私の心の表現ぞ  あはれみたまひて逸早く
 此案内を許しませ  何だか先が恐ろしい
 足はブルブル慄ひだし  腰はワナワナ戦いて
 もはや一歩も行かれない  あゝ惟神々々
 御霊幸倍ましませよ』
伊太『アハヽヽヽ、気の弱い奴だなア。ようそんな事で今迄泥棒が出来たものだなア、まア一服せい』
『ハイ有難う厶います。そんなら此処で一つ、一服致しませう』
と三人は阪道の傍に息を休めて居る。伊太彦は心は矢の如く急げども、何分道不案内の事とて、此両人に案内させるより良法はないと感じ、二人を労はつて、暫く休息を許したのである。
伊太彦『仰ぎ見れば虎熊山の頂は
  天に向つて炎吐きつつ。

 火の神の朝な夕なに荒ぶなる
  此高山ぞ曲津見の宿。

 盗人の頭の巣ふ岩窟に
  二人の姫は世を歎つらむ。

 夜光る玉の力を現はして
  曲の頭を照らさむとぞ思ふ。

 日は西に早傾きて山高し
  急ぎて行けよ二人の案内者』

『心のみ千々に焦れど如何にせむ
  足腰慄ひ儘ならぬ身は』

タツ『竜神の玉をいだきし君ならば
  恐れは非じ独り登りませ。

 夜光る玉を持ちます君ならば
  案内の人も如何で要るべき』

伊太彦『汝等は言葉を構へ危きを
  のがれむとする卑怯者ぞや。

 疾く立てよ心の持方一つにて
  易く登れむ此阪道も』

『是非もなし司の言葉に従ひて
  命限りに案内やせむ』

タツ『のがるべき道にあらねば吾も亦
  エのしりへに従ひゆかむ』

 かく謡ひながら、二人は屠所に引かるる羊の如く、ハアハアと息も苦しげに登りゆく。
(大正一二・七・一五 旧六・二 於祥雲閣 加藤明子録)
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