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文献名1霊界物語 第81巻 天祥地瑞 申の巻
文献名2第4篇 猛獣思想よみ(新仮名遣い)もうじゅうしそう
文献名3第18章 蠑螈の精〔2045〕よみ(新仮名遣い)いもりのせい
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじチンリウ姫になりすましたセンリウは、母のアララギとともに並ぶもの無き権勢を木田山城に奮っていた。あるときセンリウは、木田山城内の森林を逍遥しつつ咲き乱れる花を愛でていた。すると、後ろから突然容姿端麗な美男子が現れ、自分はエース王子の従兄弟・セースであると名乗った。この美男子セースを一目見たセンリウはすっかり心を奪われてしまった。セースがセンリウを誘惑すると、センリウは気のある心をほのめかす歌を返した。すると不思議にも、セースの姿は煙のように消えてしまった。あくる日、センリウは提言して城内の菖蒲池に舟を浮かべ、半日の清遊を試みた。舟にはエース王子、センリウ、アララギのほかは二人の侍女が乗っているのみであった。一同が歌を歌いつつ日を過ごしていると、突然池の水が煮えくり返り、水柱がいくつも立ち昇った。舟は転倒し、エース王子は水中に落ちたままついに姿を現すことはなかった。先日、センリウの前に姿を現したセースという美男子は、実はこの池の主の巨大な蠑螈の精であった。蠑螈の精はエースを亡き者にして、センリウの夫となって城を乗っ取ろうとしていたのである。この騒ぎの中、一同はエース王子が水死したことに気づかず、蠑螈の精セースはまんまとエース王子になりすましてしまった。センリウはこの事件以来、エース王子の様子が何とはなしにおかしなことに気づき、そのことを問い詰めた。蠑螈の精は、自分は先日会った従兄弟のセースであり、エースを亡き者にして王子になりすましたのは自分の計略だと明かした。そして、センリウがチンリウ姫になりすましていることに気づいているが、お互いに偽者として夫婦となり、国を乗っ取ろうとセンリウに持ちかけた。センリウはエースに同意し、二人は木田山城奥深くに身を置いて、快楽にふけることとなった。国政は日に日に乱れ、ついには収集できないほどに混乱が深まって行くことになる。
主な人物 舞台 口述日1934(昭和9)年08月15日(旧07月6日) 口述場所水明閣 筆録者白石恵子 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年12月30日 愛善世界社版 八幡書店版第14輯 527頁 修補版 校定版387頁 普及版 初版 ページ備考
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本文  主人のチンリウ姫を計略を以て退け、自らチンリウ姫と名告りてエース王の妃となり、母のアララギと共に権勢並ぶものなく、数多の群臣の上に君臨して、意気揚々たりしチンリウ姫は、木田山城内の森林を徒然のまま、彼方此方に咲き匂ふ花を賞めつつ逍遥して居る。
『前や後右も左も芳しき
  花に包まれ吾は遊ぶも

 回天の望みを遂げて吾は今
  木田山城の花と匂ふも

 百千花咲けど匂へど如何にして
  わが花の香に及ぶべきかは

 燕子花花の紫水の面に
  写るを見れば夏さりにけり

 木田山の城は広けし山水の
  景色あつめて清き真秀良場

 此の城の花と世人に讃へられ
  吾は楽しく世に生くるかも

 天地は残らず吾手に入りしかと
  思へば楽しき吾身なるかも

 エールスの王はイドの国にあり
  われ若王の妃となりぬ

 何ものの制縛もなく此の城に
  時じくかをると思へば楽し

 国津神のあらむ限りを統べ治め
  王に仕へて御代を照らさむ

 わが母は賢しくませばチンリウ姫を
  わが身となして退ひましけり

 心地よやチンリウ姫は魔の島に
  漂ひながら亡び失せけむ

 かくならば世に恐るべきものはなし
  エース王を力とたのめば

 エース王われに恋ふるを幸ひに
  如何なる事も遂げざるはなし

 朝風にゆらるる百合の花見れば
  清しきわれの姿なるかな

 赤に白に匂へる花も世の人は
  あふひの花と称へ来にけり

 チンリウ姫の贋にはあれど吾もまた
  あふひに匂ふ花にあらずや

 雪といふ字も黒々と墨で書く
  例ある世ぞ何を恐れむ

 贋物と看破りたりし朝月は
  王の威勢に退はれにけり

 朝月は千里の海の島ケ根に
  流され生命亡せにけむかも

 妨ぐる何ものもなき吾なれば
  心のままに世にふれまはむ

 水濁る木田山城の司等は
  吾言霊に苦もなくまつろふ

 吾威勢日に日に高まりゆく見れば
  智慧の力の現はれなるべし

 イド城に長く仕へしわが王の
  行方はいづく最早影なし

 わが王の滅びによりて今ここに
  木田山城の花と匂ふも

 よき事に曲事いつき曲事に
  よき事いつくは吾の身にしる

 かくならば世に恐るべきものはなし
  エース王を操りゆきなば』

 斯く歌ひながら、人もなげに逍遥して居る。後の方より容姿端麗なる美男子、すつくと現はれ、
『姫様のみあと慕ひて来りけり
  エース王の吾は従弟よ

 御姿の気高さ美々しさに見惚れつつ
  心の駒に引かれ来しはや

 汝が姿ふと見初めてゆ朝夕を
  うつつともなく過ぎにけらしな

 傍に人影なければわが思ひ
  君の御前に匂はせ奉らむ』

 此の声に贋のチンリウ姫は驚き振り返れば、エース王に幾倍とも知れぬ美男子、チンリウ姫は恋の悪魔にとらはれ、恍惚として男の側に進み寄り、右手をしつかと握りながら、頬を赤らめて歌ふ。
『思ひきやかく麗はしき艶人の
  此の国原におはしますとは

 エースの王に仕へし吾なれば
  汝に答ふる言の葉もなし

 さりながら汝が愛しき心根を
  われ忝なみて胸にしるさむ

 かかる世に此のうるはしき大丈夫の
  いますとは夢にも知らざりにけり

 ままならば君と千歳を契りつつ
  木田山城に住みたく思ふ』

 美男は歌ふ。
『吾こそはエース王の従弟にて
  セースといふ軽きものなり

 御心に叶ひ奉らば今日よりは
  人目を忍びて千代を語らむ

 われは今エース王の目を忍び
  姫を恋ひつつ此処に来りし

 名も位も生命も吾は惜しからじ
  君と会ふ夜のありと思へば』

 チンリウ姫は歌ふ。
『懐かしの君に会ひてゆわが胸は
  高鳴り止まず面ほてりけり

 明日さればこの森林に君と吾と
  千代の契りを語らはむかも』

 セースは歌ふ。
『ありがたき情の言葉聞くにつけ
  心の駒の雄猛びやまずも』

 斯く歌ひつつ、何処へか煙の如く消え失せにける。
 チンリウ姫は茫然として佇みながら歌ふ。
『いぶかしき事の限りよ麗しき
  恋のセース煙と消えたり

 エースの王にいやまし麗しき
  セースこそはわが生命かも』

 斯く歌ひながら、しづしづと殿内に帰り来る。
 アララギは玄関に迎へながら、
『汝は今いづらにありし供人も
  つれずひとり身危ふからずや

 汝が姿見えぬに吾は驚きて
  千々に心を砕きたりしよ

 明日よりは御供をつれて出でませよ
  一人歩みは危ふかるらむ』

 チンリウ姫は歌ふ。
『百花の清きかをりに誘はれて
  知らず知らずに一人遊びぬ

 水をもてめぐれる木田山城内に
  恐るべきもの如何であるべき

 此の城は吾等が心のままなれば
  心安んじ遊ぶともよし』

 斯く歌へる折しも、エース王は姫の姿なきに稍待ちかまへ気味なりしが、その場に現はれ来りて、
『汝は今帰り来るか吾心
  いたくさやぎてありけるものを

 明日よりは侍女を伴ひ遊ぶべし
  一人歩みは吾意に叶はじ』

 チンリウ姫は微笑みながら歌ふ。
『吾王の幸を祈ると裏庭に
  佇み神言白し居たりき』

 斯くて其の日は黄昏の闇に包まれ、夫婦睦まじく寝に就きけるが、その翌日はチンリウ姫の提言として、城内の菖蒲池に舟を浮べ、半日の清遊を試むる事となりぬ。
 菖蒲池に舟遊びの準備は整ふた。然しながら舟と言つても大木の幹を石鑿を以てゑぐりたるものなりければ、余り多くの人の乗るべき余地なく、エース王はじめ、チンリウ姫、アララギ其の他二人の侍女のみなりける。
 王は菖蒲池の汀に匂へる紫の花を打ち見やりつつ愉快げに歌ふ。
『菖蒲咲く此の池水に棹さして
  ものいふ花と遊ぶ楽しさ

 水底にうつろふ花の紫を
  見つつ床しき舟遊びかな

 八千尋の深き池底にひそむなる
  真鯉、緋鯉も驚きにけむ

 此の池に初めて舟を浮べつつ
  遊ぶは昔ゆ例なきかな

 此の池に魔神の棲むと昔より
  伝へ来れど今日の安けさ

 アララギの雄々しき女と諸共に
  遊ぶ御舟は楽しかりけり』

 アララギは歌ふ。
『吾王の言葉の巧みさあきれたり
  アララギならでチンリウならずや

 年老いし此のアララギは花の香も
  はや失せぬればかをらひもなし』

 エース王は歌ふ。
『春匂ふ花もよけれどまた秋の
  花のかをりも捨て難く思ふ

 五月雨の空晴れにつつ燕子花
  菖蒲匂へる清しき今日なり

 チンリウの姫の装ひ清ければ
  菖蒲もかきつも恥らひ顔なる』

 チンリウ姫は歌ふ。
『わが王の言葉嬉しやたのもしや
  われは生命を捧げて仕へむ

 わが王の手活の花と匂ひつつ
  木田山城の要と仕へむ』

 斯く歌ふ折しも、不思議や池水は俄に煮えくり返り、水柱各所に立ち狂乱怒濤のために独木舟は忽ち顛覆し、エース王は真逆様に水中に落ちたるまま遂に姿を現はさざりける。
 茲に生命からがら、アララギ、チンリウ其の他の侍女は汀辺に這い上り、玉の生命をつなぎける。
 先の日チンリウ姫の前に現はれし、セースといふ美男は此の池の主にして、巨大なる蠑螈の精なりけるが、俄に池水を躍らせて舟を顛覆せしめ、王の生命を奪ひとり、チンリウ姫の夫となりて此の城にはばらむとする計略なりける。
 これより不思議やアララギ及び二人の侍女は、生命は助かりたれども、眼眩み喉塞がりて何一つ見る事を得ず、また語らふ事も得ずなりにける。それ故王の水中に陥りて溺死したる事も知らずに居たりしなり。
 茲に蠑螈の精は、エース王となりて奥殿に端然と控へ、チンリウ姫を側近く侍らせ不義の快楽に耽りつつ国政日に月に乱れゆくこそ浅ましかりける。
 チンリウ姫は、どこともなくエース王に似たれども、稍様子の異なれるに不審の眉をひそめながら歌ふ。
『エースの王は池中に陥りて
  生命死せしと思ひたりしを

 エースの王と思へどどこやらに
  わが腑に落ちぬ節のあるかも

 先の日に吾と語りし艶人に
  若しあらずやと疑はれぬる』

 蠑螈の精は歌ふ。
『愚なりチンリウ姫よ吾こそは
  先の日会ひしセースなるぞや

 幸ひにエース王は滅びたり
  いざやこれより汝と住みなむ

 歎くとも逝きたる人は帰らまじ
  吾にいそひて暮させ給へ』

 チンリウ姫は歌ふ。
『思ひきや汝はセース優男
  わがたましひを蘇らせり

 われもまたエース王にあき居たり
  汝が姿を見初めてしより

 汝こそは常世の夫よ恋の夫よ
  生命捧げて吾は仕へむ』

 蠑螈の精は歌ふ。
『汝とても誠のチンリウ姫ならず
  センリウ姫の贋玉なりけむ

 吾もまた誠のエース王ならず
  従弟のセース優男なり

 贋物と贋物二人が此の城に
  二世を契るも面白からずや

 アララギは眼失ひ唖となり
  わがたくらみを悟らであるらし

 今日よりは汝に免じてアララギの
  病は癒し永久に救はむ』

 チンリウ姫は歌ふ。
『吾母を救ひ給ふかありがたし
  さすがは吾背の君なりにけり

 よき事のいやつぎつぎに重なりて
  恋しき汝にいそひ居るかも

 どこまでもエース王となりすまし
  木田山城に臨ませ給へよ』

 蠑螈の精は歌ふ。
『汝が言葉宜なり吾はどこまでも
  エース王となりて臨まむ

 面白き吾世なるかも木田山の
  城の主となれる思へば』

 斯くして贋のチンリウ姫と、蠑螈の精の化身なる贋のエース王は、木田山城内奥深く住み込みて、国政は日に月に乱れ衰へ、遂には収拾すべからざるに至りたるこそ是非なけれ。
(昭和九・八・一五 旧七・六 於水明閣 白石恵子謹録)
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