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文献名1霊界物語 第16巻 如意宝珠 卯の巻
文献名2第1篇 神軍霊馬よみ(新仮名遣い)しんぐんれいば
文献名3第7章 空籠〔597〕よみ(新仮名遣い)からかご
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-01-27 17:05:22
あらすじ鬼彦らはすっかり改心して、神素盞嗚大神の前に感謝を述べた。しかし、亀彦が大江山本城に進むため、このまま囚人の駕籠に乗せて本城まで運ぶように頼むと、多勢に無勢を心配して、進軍を思い直すようにと忠告した。そこへ、本城から鬼雲彦の手下らが迎え出てきた。すると不思議にもそれまで鬼彦らと話をしていた亀彦ら囚われの一行は、姿が消えてしまった。しかし鬼彦は、迎えに来た鬼雲彦の手下らに対して、自分たちは三五教に改心したから、そう鬼雲彦に伝えるように、と述べて返してしまう。そこへ、二人の男女が現れて、鬼彦を挑発すると、地下の洞窟に誘い入れた。しかし鬼武彦が現れて、洞窟の入口に岩で蓋をし、鬼彦一行と怪しい男女の出口をふさいでしまった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年04月14日(旧03月18日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年12月25日 愛善世界社版90頁 八幡書店版第3輯 433頁 修補版 校定版94頁 普及版38頁 初版 ページ備考愛世版・校定版・普及版ともに「籠」を使っている。
OBC rm1607
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本文  秋山彦が心籠めたる宣伝歌に鬼彦、鬼虎、石熊、熊鷹其他の面々は心の底より前非を悔い、一行の前に鰭伏して両手を合せ、覚束なき言霊の息を固めて秋山彦の後につき天津祝詞を奏上し、宣伝歌を唱へ帰順の意を表したりけり。
鬼彦『素盞嗚尊様を始め御一同の方々に御礼申し上げます、吾々の如き悪魔の容器赦し難き罪人の危難をお救ひ下され、其上にも大慈大悲の大神の大御心を以て身体不自由の吾々をお助け下されし御志何と御礼を申し上げて宜しいやら、今後は心の底より悔い改めます、サアサ何卒一刻も早く此場を御立退き下さいませ、此魔窟ケ原をズツト奥へ進みますれば愈鬼雲彦の岩窟の棲家、又立派なる本城が御座いまする、其処へ参れば数多の邪人共手具脛引いて待ち構へ居れば、如何に勇猛なる貴神様も多少御苦みの事と存じますれば、吾々の言葉をお用ひ下さいまして、何卒此場より御逃れ下さいますよう』
と真心を面に表はして忠告する。亀彦は揶揄半分に、
『ホー鬼彦の大将、随分智慧が能く廻るぢやないか、親切ごかしに吾々の勇将を撃退し暫時の猶予を貪らむとする猾い計略、今此処に於て吾ら一行を苦めむとせし処、天罰立所に致り過つて味方の石弾、征矢に中り零敗の大見当違ひを演じ懲り懲りしたと見えるワイ。然し乍ら吾々は決して婆羅門教の如く、否鬼雲彦の如く善の仮面を被り天下を攪乱せむとするものに非ず、之より鬼雲彦に面会し彼をして汝等の如く心の底より悔い改めしめねばならぬ、今よりは吾々一行を旧の如くに高手小手に縛め、御苦労乍ら、此網代籠に乗せて担いで行つて呉れよ』
鬼彦『イヤ滅相な、貴神等の如きお方を本城へ迎へ入れるが最後、天地転動の大騒動、大江山の城内は乱離骨灰、落花微塵の惨状を演出するは明鏡の物を照して余蘊なきが如しであります、何卒々々此場をお引き取り下さいませ』
亀彦『貴様は矢つ張り鬼雲彦の贔屓を致して居るな、ヤア感心々々、一旦大将と恃みた者に対してそれ丈けの心遣ひを致すは人間の真心の発露である。併し乍ら此処迄思ひ立つたる吾々の心中、中途に駒の頭を立て直す事は男子として忍び難き処だ、如何しても聞かねば吾々は之より強行的行脚を続け大江山の本城に立向ふであらう』
とそろそろ歩み初めたれば、鬼彦は泣声を出し、
『モシモシ、タヽヽヽ大変で御座います、如何に貴神方が英雄なればとて多勢に対する無勢、御苦戦の程お察し申す』
と真心より止める。部下の一同は驚異の面相を陳列して鬼彦の顔をうち衛り居る。
亀彦『何だ、女々しい事を言ふな、貴様も鬼雲彦の左守と迄言はれた男じやないか、それに何ぞや、亡国的哀音を立て絶望的悲調の涙を湛へて吾々を止めむとするは其意を得ない、之には何か深き謀計のある事ならむ、吾等一行は自由自在に山中徒歩の権利を有す、サアサ御一同様、進みて参りませう。仮令鬼雲彦百万の大軍を擁し防ぎ戦うとも此亀彦が只一人あれば沢山なり。強風の砂塵を捲き上ぐる如く、吾一言の息吹によつて根底より悔い改めしめ、悪魔の巣窟をして天国楽園と化せしめむ。ヤア面白し、勇ましし』
と独語ちつつ肩を怒らし気焔万丈当るべからず、足踏み鳴らし雄猛びする。
鬼彦『亀彦様、大変な勢でートルをお上げになつて居られますな』
亀彦『オウさうだ、敵の敗亡目前にートルだ、某の前進を妨げむとしてートルの事致すと量見ならぬぞ、ジヤンジヤ、ヒエールの某を何と心得てるか』
鬼彦『ジヤンジヤ、ヒエールか、ジヤンジヤ馬か存じませぬが能う貴下はジヤンジヤを捏ねるお方ですな』
亀彦『エーエ、ジヤンジヤマ臭い、愚図々々して居ると折角上つたートルがヒエールだ、サアサ行かう』
と又もや行かむとする。
鬼彦『アヽア、行つて下さるなと親切に申し上げても貴下は何処までも行かむとする御気色、モウ斯うなつてはゆかん乍らゆかんともする事が出来ませぬ哩』
亀彦『エ、洒落どころかい、愚図々々吐さずと此方を縛り上げて本城へ担ぎ込まぬか』
鬼彦『ソヽヽヽそれが大変で御座います、今迄の私なれば貴下等が何程行かむと仰しやつても連れて行つて手柄に致しまするが、最早天地の因果を悟り悪を悔い改めた上は、如何して之が黙つて居られませう、人の性は善で御座います、決して悪い事は申しませぬ』
亀彦『ヤア仕方のない弱虫ばかりだナア、鬼雲彦もコンナ連中を養つて居れば並大抵の事でもあるまい、思へば思へば鬼雲彦の御心中お可憐相である哩』
 斯かる処へ二本の角をニユツと生した鬘を被つた五人の男、ノソリノソリと手槍を提げ、此場に現はれ来り、
男『ヤア、鬼彦の大将、お手柄お手柄、サア之から吾々が御案内申さう、鬼雲彦の御大将様子如何にと首を長うしてお待ちかね、嘸お骨折で御座つたらう』
と言ひ乍ら駕籠の中を一々覗きこみ、
男『ヤア何だ、空籠じやないか、素盞嗚尊其他は如何なされた、首尾克う生擒つたとの御注進ではなかつたか』
 鬼虎、熊鷹、石熊、鬼彦は四辺を見れば此は如何に、今迄盛にートルを上げて居た亀彦の姿も素盞嗚尊、国武彦其他一行の影も形もなくなつて居る。
鬼彦『ヤア、此奴は不思議だ、今迄此網代籠に乗せて来た一同の神人、ではない囚人何処へ姿を隠しよつたか、合点の往かぬ事である哩』
熊鷹『サア此処は名に負ふ魔窟ケ原、目に見えない悪魔が出て来よつて吾々が知らぬ間に喰つて仕舞つたのか、但は鬼雲彦の大将の威勢に恐れて自然消滅致したか、何に付けても合点の往かぬ事である哩。ヤア五人の方々、一時も早く本城へ立ち帰り此由早く注進致すな』
 五人の中の一人、目を円くし、
男『ヤア何と仰せられます、一時も早く注進致すなとは合点が承知仕らぬ』
熊鷹『俺は昨日迄の熊鷹ではない、今日は立派な三五教の信者であるぞ、之より本城へ逆襲なし鬼雲彦が素首捻切り引きちぎり八岐大蛇の身魂を片つ端より言向和し、勝鬨あげるは瞬く間だ、汝は一刻も早く此場を立ち去り吾々が寄せ手の軍勢に向つて防戦の用意オサオサ怠るな』
 五人は一度にいぶかり乍ら、
『ソヽヽヽそれは真実で御座るか』
熊鷹『真偽は今に分るであらう、汝は早く此場を立ち去れ』
 この権幕に五人は互に顔見合せて、
『何だ、鬼彦の大将と言ひ、熊鷹の阿兄と言ひ、其他一同の顔の紐は薩張解けて仕舞ひ、今迄の鬼面は忽ち変じて光眩き女神の様な顔色に堕落して仕舞ひよつた、ハテ困つた事だワイ、善の道へ堕落するとコンナ腰抜けに成つて仕舞ふものかなア』
 五人は踵を返し一目散に彼方を指して逃げ帰る。鬼彦は衝立ち上り三五教の宣伝歌を謡ひ終り、
『サア一同の方々、如何で御座る、何だか拍子抜けがした様には御座らぬか』
一同『左様で御座る、折角張り詰めた今迄の悪心は水の中で屁を放つた様にブルブルと泡となつて消え失せました、誰も彼もアルコールの脱けた甘酒の様になつて仕舞つた、亀彦が意見をして呉れたが之も余り拠り所が無い、甘い様な辛い様な、厳しい様な寛かな様な訳の分らぬ言葉であつた。丁度甘酒に、生姜の汁を入れて飲む様なものだ、親爺の強意見を聞き乍らソツとお金を貰ふ様な心持だつた、サアサ之から入信の記念として大江山の本城に駆け向ひ鬼雲彦の素首、オツト、ドツコイ悪神の魂を抜いて助けてやらねばなるまい』
 一同拍手して賛成の意を表し、鬼彦を先頭に宣伝歌を謡ひつつ、凩荒ぶ荒野原や谷川を右に左に跳び越え進む折しも、忽然として叢の中より現はれ出でたる男女の二人、鬼彦一行の姿を目蒐けて冷やかに笑ひ乍ら、
『ヤア貴方は大江山の英雄豪傑と聞えたる御方、然るに今日のお姿は如何で御座る。薩張台なしでは御座らぬか、玉の落ちたラムネの様な判然致さぬ其顔付、狐にでも欺されなさつたか、イヤ、エ、素盞嗚尊の悪神の口車に乗せられて胆をとられ腰を抜かしたのではあるまいか、何れにしても合点の往かぬ耄碌姿、耄碌魂、脆くも敵に翻弄されてノソノソと帰り来るとは言ひ甲斐なき鬼彦一同の面々、鬼雲彦の大将に於かせられても嘸々お喜び遊ばす事であらう、持つべきものは家来なりけりと団栗の様な涙を流してお喜びになるであらう、アハヽヽヽ、オホヽヽヽ』
と笑ひ転ける。鬼彦はムツト顔にて、
『エー、何処の何奴か知らぬが吾々は吾々としての自由の権利を実行したのだ、汝等の如きものの容喙すべき処でない、愚図々々吐すと言霊の発射を致してやらうか。蠑螺の如き鉄拳、否牡丹餅で貴様の頬辺を殴つてやらうか』
『アハヽヽヽ、オホヽヽヽ、ヤア皆の方々、此方へ御座れ、サアサ早く』
と岩をクレツと剥れば、中には階段がついて居る。
鬼彦『ヤア何時も吾々のお通り路だがコンナ処に穴があるとは今迄知らなかつた。こいつは妙だ、ヤイ鬼虎、熊鷹、石熊其他の面々一同、見学の為めに岩窟の探険と出掛ようではないか』
 鬼虎は、
『面白からう』
と先に立つて下り行く。数百人の荒男は残らず好奇心に駆られて岩窟の中にガラガラツと田螺の殻を山の上から打ちあけた様な勢で一人も残らず転げ込むだ。忽然として現はれたる鬼武彦は岩石の蓋をピタリと閉め其上に千引の岩をドスンと載せ、
『アハヽヽヽ、マア之で暫くは安心だワイ』
(大正一一・四・一四 旧三・一八 北村隆光録)
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