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文献名1霊界物語 第18巻 如意宝珠 巳の巻
文献名2第3篇 反間苦肉よみ(新仮名遣い)はんかんくにく
文献名3第9章 朝の一驚〔637〕よみ(新仮名遣い)あしたのいっきょう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-03-17 18:02:14
あらすじ綾彦とお民は、朝起きるとさっそく黒姫に暇乞いをする。黒姫は理由を問う。綾彦とお民は、昨晩浅公らが酔いに任せて、自分たちを計略にかけてここに連れて来たことを自慢しあっていたのを聞いてしまった、と話す。黒姫は、浅公らを呼んで問い詰め、ウラナイ教を追放する、と言い渡す。梅公は、悪神がウラナイ教を混乱させようと憑依して、あんなことを言わせたのだ、と言い訳する。黒姫と高山彦は、悪霊退散のために浅公らに谷川で禊をしてくるように、と言う。そして綾彦・お民が聞いた話は、悪霊が浅公らに言わせた嘘だったのだ、と言い聞かせて納得させた。梅公は禊をしに行く道すがら、自分の策略を自慢する歌を歌い、禊終わって帰ってくる。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年04月26日(旧03月30日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年2月10日 愛善世界社版144頁 八幡書店版第3輯 690頁 修補版 校定版148頁 普及版66頁 初版 ページ備考
OBC rm1809
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本文  晩秋の長き夜はいつしか明けて、朝霧籠むる東南の天に、太陽は霞みて低うかかり居る。高山彦は漸く起き上り、不便の地に似あはぬ贅沢三昧、朝風呂、丹前、長火鉢、入り日の影に当つたやうな細長き体に、長煙管を持つた黒姫と二人睦まじさうに、ニタニタと、昨夜の夢を思ひ出してか、悦に入つて居る。斯る処へ新参者の夫婦連、恭しく両手をつかへ、
綾彦『コレハコレハお二人様、お早う御座います、昨夜はいかい御厄介になりまして、吾々夫婦は暖かく寝さして頂きました。どうぞ今日より、折角の思召では御座いますが、吾々夫婦にお暇を下さいませ』
 黒姫、怪訝な顔にて、
『お前は昨夜来た許りぢやないか、あれ程固い事を云つて居つて、一夜の間にさうグラグラと心をかへて何うするのだい。大方お民を高城山へ遣はすのが、夫婦共お気に入らぬのだらう、ヤアそれは若い夫婦として御無理もない、併しながら此処が辛抱だ、前夜も云つたやうに、一つの苦労心配と云ふ事がなければ、人間は誠の花が咲きませぬぞや』
『重ね重ねの御教訓、誠に有難う御座います、併し乍ら吾々夫婦は一旦神様にお任せした以上は、仮令夫婦がこの儘生別れにならうとも、ソンナ事に執着心は持ちませぬ。併しながら、夜前承れば皆様のお酒の上のお話に、八人の方が八百長をお行りなされて、私をウラナイ教に引き込む手段で、俄に芝居を仕組まれましたのですから、私のやうな馬鹿正直者は、到底あの方々と共に暮す事は出来ませぬから、どうぞお暇を下さいませ』
黒姫『何と妙な事を仰有るぢやないか、誠正直一方のウラナイ教に、ソンナ八百長芝居があるものか、大方お前旅の疲れで、ソンナ夢でも見たのだらう』
綾彦『イエイエ決して夢では御座いませぬ、夜前貴方様に御挨拶をして、寝さして貰はうと思ひ、廊下を通りますと、皆さまがお酒に酔ひ、面白さうなお話、聞くともなしに吾々夫婦の耳に雷の如くに響いたのは、夜前普甲峠の辛辣な計略、一伍一什の自慢話、私は腹が立つやら恐ろしいやら、一旦有難いと思うた信念も煙と消え、唯口惜しさに二人は一睡もせず、夜の明けるのを待つて泣いて居りました。必ず夢ぢや御座いませぬ、何卒お暇を下さいませ』
 黒姫不思議の顔をして、
『何とお前合点が行かぬ事を仰有る。どうかして居るのぢやないかな、此処の若い者には、毎日噛みて含めるやうに誠の道が説き聞かしてある。鵜の毛で突いたほども嘘を云ふものはない、あまり正直で間が抜けて、当世に役に立たぬやうな代物ばかりぢや、ソンナ筈は断じてありませぬ、それや何かの幻でせう』
『イエイエ決して幻でも何でも御座いませぬ、現に夜前のお方が自慢話に仰有つたのをお民は確かに聞きました』
と聞くより黒姫は訝しがり、
『一寸待つて下さい、妙な事を云ひなさる、今査べて見ませう。これこれ浅公、幾公、梅公、寅公、辰公、鳶公、皆々此処へ、尋ねたい事がある、出て来なさい』
と稍慄ひ声で呶鳴り立てる。此声に一同八人はバラバラと現はれ来り、各自蛙踞ひになつて、
『今吾々を、お呼びになつたのは、何御用で御座いますか、ねつから間に合ひませず、偶に人を助けた位で沢山の御馳走を戴き、まだ其上に何彼の恩命を下し給ふのは余り勿体なくて冥加に尽きます、何一つ御恩報じも致さず、誠に恥かしい次第で御座います。ヤアお前は夜前の人、マアマアよかつたねエ、これと云ふのも全くウラナイ教の神様のお蔭だ、次には私達のお蔭だよ、此御恩は何時迄も忘れてはなりませぬぞえ』
 綾彦、煮え切らぬ返事、
『ヘエ』
お民『ヒン』
浅公『これこれお民さまとやら、その返事は何だ。痩馬か何ぞの様にあげづらをしてヒンなぞと、命の恩人に向つて嘲弄するのかい、イヤ挑戦的態度を執るのだな』
お民『ヘン』
黒姫『お前達八人の者、夜前の話をもう一遍詳しうして下さらぬか』
 梅、肩を怒らし得意顔で、
『アヽ夜前の吾々の功名手柄話ですか、よう聞いて下さいました。唯一回だけでは折角の神謀奇略、ではない辛苦艱難したことが、貴女のお心に十分徹底しないやうな心持がして物足りないと思つて居ました。それはそれは随分沢山な鬼の手下共』
と針小棒大にべらべらと喋り立てるを黒姫は、
『アヽそれは嘘ぢやあるまいなア』
『エヽ決して決して嘘と坊子の頭は生れてからいうた事がありませぬ、正真正銘ネツトプライスの物語ですよ』
『それでもお前、夜前酒を飲みて、種々の手段を廻らし、八百長をやつて此方を無理に信仰させ、引張つて来た手柄話を交る交るやつて居たぢやないか、誠一つの神の教の道に居ながら、何と云ふ事をするのだい。綾彦夫婦が大変残念がつてこれから暇をくれと云うて居らつしやる所だ。何程云つて聞かしてもお前等は駄目だ、サア只今限り浅、幾外六人破門する。エヽ汚らはしい、ウラナイ教を破る者は外からでない、ウラナイ教から現はれるから気をつけよと神様が仰有つた、何程要害堅固な針をもつて固めた丹波栗でも、中からはぢけ落ちるやうに、お前等はウラナイ教の爆裂弾ぢや、神様のお道の面汚し、アヽ汚らはしい、トツトと一時も早く帰つて下さい』
『それは何を仰有います、傘屋の丁稚ぢやないが、骨折つて小言を聞かされては梅公一同も一向算盤が合ひませぬ』
『それでも蛙は口からと云うて、現在お前の口から自白したぢやないか』
 梅公は空とぼけて、
『アヽあれですかい、夜前は沢山なお酒を頂いて気が緩みたものですから、其処へ大江山の悪魔の霊が襲うて来よつて、吾々八人の功名手柄を抹殺しやうと思ひ、私を初め皆にのり憑り、酒は私には余り呑まさず、悪霊が皆飲みて仕舞ひ、遂には私等の口を藉りて反間苦肉の策をやりよつたのですよ、真実に悪霊と云ふものは油断のならぬものですなア、アハヽヽヽ。オイ浅、幾、寅、辰、鳶、鷹公、貴様も余程腹帯を締めぬと昨夜の様に魔霊に襲はれ、鬼の容器になつて仕舞うぞよ』
辰公『偉さうに云ふない、貴様にも矢張鬼が憑いて居るのぢやないか』
梅公『それやさうだ。お互さまぢや、悪平等的に、吾々八人にすつかり憑依しよつたのだ、アヽ何だか気分が悪い、どうぞ高山彦さま、黒姫さま、一遍悪魔の入らぬやう、ウンと神霊注射の鎮魂をして下さいませな』
黒姫『オホヽヽヽ、アヽさうだつたか、大抵ソンナ事だと思うて居た。之から気をつけなさい、追て鎮魂して上げるから、谷川にでも行つて充分体を清めて来るのだよ』
梅公『オイ、大江山の鬼の住宅七軒の奴、サア洗濯だ。又もや鬼の来ぬまに洗濯婆サン婆サン』
と志やり散らし乍ら、尻引きからげ、細い岩戸を潜り谷川目蒐けて走り行く。後には高山彦、黒姫、綾彦、お民の四人。
黒姫『ヤア油断のならぬ悪霊ぢや、折角の綾彦夫婦が善の道に救はれようとなさる最中に、執拗なる鬼の霊がやつて来よつて引落しにかからうとする。高山さま、確りせないと、何時悪霊が襲来するやら分りませぬなア』
高山彦『ヤアさうだなア、これこれお二人のお方、心配なさるな、今お聞の通りだから決してウラナイ教にはソンナ悪いものは居りませぬ、安心なされ』
綾彦『悪霊と云ふものはソンナものですか、ヘエ油断がなりませぬなア』
黒姫『隅から隅まで、蜘蛛の巣を張つたやうに手配りをして居ますから、一寸も油断は出来ませぬよ、貴女は未だウラナイ教は初めてですから、霊の事を云つても分りますまいが、暫く信神して見なさい、何も彼もすつかり分つて来ます、さうしたらお前さまの疑も氷解するでせう』
お民『アヽ左様で御座いましたか、誠にお気を揉ましまして申訳が御座いませぬ、どうぞ宜敷お願ひ致します』
黒姫『アヽ、それで好い好い、奥へ往つて神様にこの解決がついたお礼を云つて来なさい』
 二人は叮嚀に頭を下げ、静々と神壇の間に進み行く。
 梅公外七人は黒姫の面部にさつと現はれた低気圧の襲来を、危機一髪の間にやつと許され、虎口を逃れた心地して谷川目蒐けて禊のために走り行く。梅公は道々、
『嗚呼恐ろしや恐ろしや  剣を渡る心地して
 あらぬ智慧をば絞り出し  反間苦肉の策を立て
 漸く目的成就して  意気揚々と立ち帰り
 黒姫さまの御前に  忠臣気取で報告し
 やつと解けた閻魔顔  福禄寿の様なハズバンド
 高山彦の目の前で  手柄話を諄々と
 並べ立つれば黒姫も  相好崩して感歎し
 褒美の積りで甘酒を  どつさり飲まして呉れた故
 出会うた時に笠ぬげと  世の諺の其儘に
 前後を忘れて舌鼓  うつて廻つた酒の酔ひ
 副守か何か知らねども  功名心にかり出され
 迂闊と喋つた謀み事  天に口あり壁に耳
 いつの間にかは綾彦や  お民の奴に顛末を
 一切残らず聞き取られ  知らぬが仏、神心
 白河夜船のぐうぐうと  夢路を渡り起き上り
 互に顔を見合せて  旨くやつたな、ようやつた
 俺の知識はこの通り  文殊菩薩も丸跣
 是から信者を集めるは  是より外に手段なし
 これや好い事を覚えたと  心窃に誇りつつ
 肩肱怒らす折柄に  黒姫さまの高い声
 こいつアてつきり御褒美と  喜び勇み八人が
 西瓜頭を並ぶれば  電光石火雷の
 轟くやうな凄い声  胆玉取られ臍ぬかれ
 爪を取られて恥をかき  此難関を如何にして
 突破し呉れむと首ひねる  折しも浮かぶ守護神
 法螺を副守のべらべらと  布留那の弁の黒姫を
 煙に捲いて大江山  鬼の悪霊の仕業よと
 大責任を転嫁する  早速の頓智、梅公が
 甘い理屈に欺かれ  閻魔の顔は忽ちに
 急転直下の地蔵顔  鬼と仏の入替はり
 やつと破門を助かつて  黒姫さまの命令で
 憑依もしない悪霊を  放り出すために谷川で
 禊をせいと教へられ  胸撫で下ろし皺延ばし
 国家興亡はまだ愚か  危急存亡の身の始末
 川に流した心地して  漸く此処にやつて来た
 あゝ面白い面白い  孫呉に勝る兵法を
 際限もなく編み出し  虱殺しに諸人を
 一人も残さずウラナイの  教の道に引き入れて
 鼻高姫や黒姫の  笑壺に入るが吾々の
 上分別では在るまいか  知識の浅い浅公よ
 意気地の弱い幾公よ  うめい智慧出す梅公の
 手足の爪でも頂戴し  煎じて飲めば偉くなる
 寅公、辰公、鳶公よ  是から俺の云ふ事を
 聞いて出世をするがよい  黒姫さまの大将が
 口を極めてべらべらと  お節を説いてウラナイの
 道に入れよと全力を  尽して見てもあの通り
 弁論よりも実行だ  直接行動に限るぞや
 さは然りながら皆の者  夢にもコンナ計略を
 高山さまや黒姫に  必ず喋舌つちやならないぞ
 若しも分つた其時は  皆、各々の鼻の下
 大旱魃の大恐慌  蛙は口から、うつかりと
 酒を飲む時や心得よ  心一つの遣ひよで
 賢も見える又阿呆に  見えると思へば口だけは
 どうぞ慎み下されよ  賛成のお方は手をあげて
 拍手喝采してお呉れ  あゝ惟神々々
 御霊幸倍坐しませよ  月は盈つとも虧くるとも
 朝日は照るとも曇るとも  仮令大地は沈むとも
 黒姫さまが怒るとも  金輪奈落この秘密
 云うてはならぬぞお互の  身の一大事と心得て
 必ず口外するでない  秘密はどこ迄秘密だよ
 神の奥には奥がある  其又奥には奥がある
 奥の分らぬ梅公の  智慧の奥山踏み分けて
 確と梅公に従いて来い  こいでこいでと松世はこいで
 末法の世が来て門に立つ  一つ違へば俺達も
 門に立たねば、ならぬとこ  持つて生れた智慧の徳
 大きな顔して黒姫に  賞めて貰うて傲然と
 ウラナイ教の宣伝使  あゝ面白い面白い
 唯何事も人の世は  曲津に見直し聞直し
 身の過ちは都合好く  宣り直すのが智慧の徳
 あゝ惟神々々  叶はぬ時があつたなら
 頭を下げて梅公に  ドンナ事でも聞くがよい
 聞くは当座の恥なれど  聞かずに知つた顔をして
 失敗したら末代の  それこそ恥となる程に
 阿呆正直今迄の  態度すつくり立替へて
 権謀、術策、戦略に  心の底から立直せ
 あゝ惟神々々  何故に是程よい智慧が
 梅公だけは出るであろ  あゝ其筈ぢや其筈ぢや
 厳の霊のお筆先  一度に開く梅の花
 梅で開いて常磐の松で  世界治める神の道
 見違ひするなよ皆の奴  黒姫さまは偉くとも
 高山さまを貰うてから  何とはなしにぼつとした
 これから俺が全軍の  参謀総長である程に
 参謀本部の梅公の  指揮命令に従つて
 事を執るなら毛の条の  横幅程も違算なし
 余程偉い守護神  俺に守護をして御座る
 必ず俺が云ふでない  日の出神や竜宮の
 乙姫さまのお脇立  中でも一層偉い奴
 吾が神勅を軽蔑し  必ずぬかりを取らぬやう
 皆の奴等に気をつける  あゝ惟神々々
 叶はぬ時の神頼み  アハヽヽ ハツハア アハヽヽヽ』
一同『アハヽヽヽ、随分偉くートルを上げたものだなア』
梅公『何をごてごて吐くのだ、貴様等の命の親だ、お飯の種だ、サアサア黒姫さまがお待ち兼だ。御禊がすみたら帰らう』
 一同はバラバラと元の地底の岩窟に向つて帰り行く。
(大正一一・四・二六 旧三・三〇 加藤明子録)
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