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文献名1霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻
文献名2第1篇 筑紫の不知火よみ(新仮名遣い)つくしのしらぬい
文献名3第7章 無花果〔948〕よみ(新仮名遣い)いちじく
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-09-13 12:43:01
あらすじ坂をのぼりながら、房公はまた滑稽な宣伝歌を歌いだし、はるばる遠い筑紫の島まで駆り出された苦労の恨みを黒姫にぶつけた。歌い終わると房公と芳公は疲れてその場にゴロリと横になってしまった。黒姫は文句を言う二人をなだめて先に進むために、途中でむしってきた無花果の果実を二人に分け与えた。芳公が無花果に喰らいつくさまを見て、黒姫は思わず吹き出した。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年09月12日(旧07月21日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年12月10日 愛善世界社版89頁 八幡書店版第6輯 394頁 修補版 校定版94頁 普及版36頁 初版 ページ備考
OBC rm3407
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本文  房公は坂を登りつつ又歌ひ出したり。
『思へば昔其昔  日の出神や祝姫
 面那芸彦の通りたる  筑紫ケ岳の山路を
 黒姫さまの御蔭で  スタスタ登る床しさよ
 房公さまはドツコイシヨ  日の出神と云ふ格だ
 芳公さまはドツコイシヨ  面那芸彦と云ふ役だ
 黒姫さまの御為に  こんな山坂登らされ
 ホンに誠に面の皮  晒した様なものだらう
 黒姫さまは祝姫  神の命の宣伝使と
 思うて見てもドツコイシヨ  皺苦茶婆アぢやはづまない
 祝の姫のドツコイシヨ  やうな御若い女なら
 少々小言を言はれても  余り苦しうはなけれ共
 何ぢや知らぬが腹が立つ  黒姫さまのウントコシヨ
 方から吹来る風もいや  いやいや乍ら従いて来た
 ハアハアフウフウフウスウスウ  おれは何たる因果だろ
 こんな山坂登るとこ  うちのお鉄が見たならば
 ウントコドツコイ悔むだろ  さぞや歎くであろ程に
 天道さまもドツコイシヨ  聞えませぬと取りついて
 ウントコドツコイ泣くだらう  思へば思へばいぢらしい
 お鉄のことが苦になつて  足も碌々進みやせぬ
 あゝ惟神々々  神の御霊の幸はひて
 お鉄の体も恙なく  子供も丈夫でスクスクと
 生立ちまして房公が  無事に凱旋するまでは
 どうぞ守つて下さんせ  ハアハアスウスウ汗が出る
 最前飲んだ清水奴が  頭の上まで上りつめ
 薬鑵頭がもり出した  汗が流れて目が痛い
 ドツコイドツコイ膝坊主が  キヨクキヨク笑うて来よつたぞ
 何が可笑して笑ふのだ  黒姫さまが一心に
 高山峠を登るのが  ドツコイ可笑して笑ふのか
 足の裏にはドツコイシヨ  痛いと思うたらウントコシヨ
 大きな豆が出来たよだ  何程マながよいとても
 足の豆では真平だ  黒姫さまに豆狸
 守護致してこんな事  俺にさしたぢやあるまいか
 こらこら芳公シツカリせ  お前の足は如何なつた
 どしても俺は歩けない  向ふに一つの楽みが
 黒姫さまのドツコイシヨ  心の様にあるなれば
 痛い足でも引摺つて  進み行く甲斐あるけれど
 何の当途もなき涙  汗と脂を絞られて
 これがどうして堪らうか  ウントコドツコイドツコイシヨ
 そこに尖つた石がある  気を付けなされよ黒姫さま
 もしや怪我でもしたなれば  高山さまにドツコイシヨ
 会はすお顔があるまいぞ  怪我ない中に気をつけて
 ソロソロ登つて行かしやんせ  さはさり乍ら孫公は
 どこにどうして居るだろか  猿の小便きにかかる
 かかる処へ悠々と  現はれ来る五人連
 三人の姿を一目見て  コリヤ堪らぬと逃げ出す
 怪しと跡を眺むれば  光つた物が落ちてゐる
 矢庭に中をあけて見りや  黒姫さまが朝夕に
 尋ね廻つたドツコイシヨ  黄金の玉が入れてある
 それ計りか沢山の  お金がチヤラチヤラなつてゐる
 名さへ分らぬ甘さうな  果物迄も丁寧に
 ドツコイドツコイ三人の  お方おあがりなされよと
 言はぬ許りの顔してる  見るより三人は喜んで
 先を争ひ鷲掴み  グツと呑み込む其甘さ
 あゝあゝヤツパリ夢だつた  歩き乍らにこんな夢
 見たるおかげでドツコイシヨ  喉から唾がわいて来た
 あゝ惟神々々  夢でもよいから今一度
 ドツコイドツコイこんな目に  あはして下され頼みます
 夢に夢見る心地して  行方も知れぬハズバンド
 火の国都に御座るかと  喉を鳴らして黒姫が
 やつてゐたとこドツコイシヨ  目算ガラリと相外れ
 同名異人の人ならば  それこそ夢がさめるだろ
 今見た夢は黒姫の  前途の箴をなしつるか
 コリヤ斯うしては居られまい  黒姫さまえ如何なさる
 夜食に外れた梟の  やうな六かしい顔をして
 ケンケン当つて下さるな  歩き乍らに見た夢が
 どうやらお前の前途をば  知らして呉れた物らしい
 ホンに怪体な夢ぢやなア  あゝ惟神々々
 夢の浮世と言ひ乍ら  こんな夢をば見せずして
 お慈悲に一度黒姫を  高山彦にドツコイシヨ
 会はしてやつて下さんせ  これが私の御願ぢや
 芳公とても其通り  黒姫さまを敵のよに
 決して思うちや居らうまい  惜そな惜そな顔をして
 喰ひ残した無花果を  下さるやうな御親切
 決して忘れちや居らうまい  此房公も黒姫に
 先立ち水を飲んだとて  小言を言はれた事丈は
 水に流したと言ひ乍ら  ヤツパリ覚えて居りまする
 ウントコドツコイ水臭い  黒姫さまの御心底
 あつく感謝し奉る  ウントコドツコイドツコイシヨ
 ハアハアハアハアフウスウスウ  本当に嶮しい坂だなア
 天津御空に雲の峰  うすく黄色に光つてる
 土中の熱さに蚯蚓奴が  ピンピンはね出し日に焼かれ
 カンピン丹になつてゐる  命知らずの蚯蚓虫
 ウントコドツコイドツコイシヨ  命知らずのウントコシヨ
 蚯蚓計りぢやない程に  ここにも一人や二人ある
 又もや腹が空つて来た  どこぞここらに果物が
 なつては居ぬかと木々の枝  ためつすかしつ眺むれど
 喰へそな物は見当たらぬ  困つたことが出来て来た
 肝腎要な腹が空り  どうして道中がなるものか
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましまして
 吾等三人の一行に  おいしい果物下さんせ
 命カラガラ願ひます  ハアハアフウフウ、あゝえらい
 二つの眼に汗にじみ  そこらが見えなくなつて来た
 欲にも得にもかへられぬ  ここで一服致しませう
 芳公お前も休まうか  黒姫さまとは事違ひ
 前途に楽みない二人  如何して此上きばれうか』
 言ひつつコロリと横になる  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ。
 房公は道の傍にゴロンと横たはり乍ら、空行く雲を眺め、恨めし相な顔をして黒姫を熟視してゐる。芳公も亦その傍に横たはり、足をピンピンさせ乍ら空行く雲を愉快げに見つめて何事か小声で囁き出した。
黒姫『皆々さま、モウ少し往つてから休んだら如何だなア。ツイ今清水のそばで休んで来た所ぢやないか。こんなことしてゐると、山の中で日が暮れて了ひますよ』
房公『ヘン、今に限つて、皆々さま……と御丁寧にお出でなすつたな。其手は喰へませぬワイ。吾々は最早機関の油が切れて了つたのだから、此上は運転不可能だ。お前さまは心猿意馬といふ心の猿駒が火の国の都に望みをかけてゐるのだから、気が急くだらう。夫程吾々両人がまどろしくあるならば、どうぞお先へ、一足行つて下さい。命あつての物種だ。お前さまの恋の犠牲に貴重な命まで棒に振つては、一向計算が持てないから、まあ此処で一つゆるりと休養を致しますワ。ヘー誠に御都合が御悪う御座いませうが、成行だと諦めて、御勘弁下さいませ。何を云つても、竜宮の乙姫様の御肉体だから、大したものだ。私の様な足弱は、到底貴女と同様には行きませぬワイ。斯うして大地に背中を密着させて見ると、何ともなしに気分が宜しい。……世の中に寝る程楽はなきものを、起きて働く馬鹿のたわけ……とか申しましてなア、命知らずの向う見ずに働く様な馬鹿は、マアマア一人位なものでせうかい、アツハヽヽヽ、ウツフヽヽヽ』
黒姫『コレコレ両人、丁寧に云へば、丁寧に言うと云つて不足をいふなり、どうしたらお前さま、お気に入るのだい。ホンにホンに度しがたき代物だなア』
芳公『シロ物でもクロ物でも、到底つづきませぬ。第一、胃の腑の格納庫が空虚になつて了つたのだから、施すべき手段がありませぬ。お前さまの懐に持つている其無花果を、せめて半ジユクでも良いから恵んで下さると、チツと許り機関が運転するのだがなア』
黒姫『エヽ弱い男だなア。そんなら、之を一つあげるから、半分づつに割つて、格納しなさい。そうすりや、チツと許り馬力が出るだらう』
房公『ハイ、どうせ婆アさまから貰ふのだから、バ力が出るは当然だ。併し乍ら無花果を半ジユク頂いては、腹が下る虞があるから、せめて二三ジユク下さいな』
黒姫『エヽつけ上りのした男だなア。そんなら仕方がない、秘蔵の無花果だけれど、お前にあげませう。此峠を越す迄は果物がないと云ふ事だから、此重たいのにむしつて来たのだ。お前達は注意が足らんから、こんな目に会ふのだよ。それだから神様が食物を粗末に致すな、何でもまつべておけ……と仰有るのだ。こんな時になつて弱音を吹き、困らない様に大慈大悲の神様が、何時も御注意を遊ばすのだから、これからは気をつけたが宜しいぞや』
房公『イチジユク御尤もで御座います。貴方の御詞を是からは、一イチジユク考致しましてこんな破目に陥らないやうに心得ます』
 黒姫は二人の前に懐から出しては、一つづつポイポイと投げてやる。二人は手早く手に受け乍ら、
『一ジユク二ジユク……オツと三ジユク、オツと四ジユク……』
と言ひつつ数へ乍ら受取る。
黒姫『ホンに行儀の悪い男だなア、丸きり四つ足の容器みた様だ。せめて物食ふ時は起き直り、チンとして頂きなさい』
房公『ハイ、恐れ入りました、御注意有難う。……サア芳公、黒姫様の御恵みを頂戴しようぢやないか』
芳公『黒姫さまのおかげで、一ジユク、否一命が助かりました』
黒姫『黒姫の尊いことが分つただらう』
芳公『流石は黒姫さまですワイ。お年を取られた効で、何から何まで能うお気がつきますなア、オホヽヽヽ』
と肩を上げ下げし乍ら、飛びつくやうにして、矢庭に口の中へ捩込んで了つた。黒姫は此姿を見て吹き出し、
黒姫『ホヽヽヽヽ』
と笑ひ乍ら腹を抱へる。
(大正一一・九・一二 旧七・二一 松村真澄録)
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