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文献名1霊界物語 第40巻 舎身活躍 卯の巻
文献名2第1篇 恋雲魔風よみ(新仮名遣い)れんうんまふう
文献名3第2章 出陣〔1086〕よみ(新仮名遣い)しゅつじん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-11-26 12:10:47
あらすじ出陣の用意が整い、幹部たちは見送りをなしたあとに本城の奥殿にて簡単な酒宴を催した。幹部たちが帰途に着いた。夜は深々と更け、夜嵐が吹きすさぶ丑満のころ、大黒主は石生能姫と共に来し方行く末を語らいあっていた。大黒主が弱気になり、早く息子に位を譲って隠居したいとしょげ返ったのに対し、石生能姫は笑って活を入れ、また本妻の鬼雲姫を呼び戻してともに神業に参加すべきだと意見した。大黒主は、本妻を追い出したのも、憎い鬼熊別を再び召し出したのも、石生能姫を思い言い分を立てたい一心からだと弁解する。石生能姫は、鬼雲姫だけでなく鬼熊別も擁護し、両者ともにバラモン教の繁栄には欠かせない人材だと鬼雲彦に忠言した。そして、鬼雲彦があくまで鬼熊別を疑うのならば、自分自身が鬼熊別を訪ね、その心中を見定めて来ると宣言した。鬼雲彦もついに折れて、石生能姫の鬼熊別邸訪問をゆるし、二人は寝に着いた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年11月01日(旧09月13日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年5月25日 愛善世界社版24頁 八幡書店版第7輯 427頁 修補版 校定版25頁 普及版11頁 初版 ページ備考
OBC rm4002
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本文  バラモン教の神司  鬼春別は大教主
 大黒主や石生能姫  二人の旨を奉戴し
 片彦、ランチ二将軍  左右の翼となしながら
 三千余騎に将として  ハルナの都を出発し
 陣鐘太鼓を打ちながら  法螺貝ブウブウ吹きたてて
 旗鼓堂々と三五教  イソの館へ進み行く
 其勢ひの勇ましさ  鬼神も肝を挫がれて
 絶え入るばかり思はれぬ  軍の司と仕へたる
 大足別も同様に  釘彦、エールの二将軍
 三千余騎に将として  旗鼓堂々とウラル教
 立籠りたるカルマタの  根城をさして攻めて行く
 何れ劣らぬ勇士と勇士  山野の草木も自ら
 靡き伏しつつ虎熊や  獅子狼もおしなべて
 戦き逃ぐる思ひなり  実に勇ましき進軍の
 駒の嘶き轡の音  蹄の音も戞々と
 鬨を作つて攻めて行く  実に勇ましき次第なり。
 出陣の用意は急速に整うた。大黒主、石生能姫、鬼熊別、雲依別其他の幹部は出陣を見送り成功を祝し、終つてハルナの本城の奥殿に進み入り此処に簡単なる酒宴を催し、鬼熊別は一先づ吾館へ立帰る事となつた。雲依別も亦其日は己が館に帰り、神前に戦勝祈願の祝詞を奏し寝に就いた。
 夜は深々と更け渡り、咫尺暗澹として閑寂な気に包まれ、夜嵐吹き荒ぶ丑満の頃迄、大黒主は石生能姫と共に来し方行末の事等語らひ夜を更かしつつあつた。
大黒『あゝあ、吾こそはバラモン教の大教主となつて以来、世の為、道の為にあらゆる艱難辛苦を嘗め尽し、漸くにして月の国に根城を定め、稍安心と思ふ間もなく好事魔多しとやら、三五教、ウラル教の奴輩吾教の隆盛を妬み、今や双方より此本城を攻撃し吾等を亡ぼさむと致す憎くき奴、余りの事に神経過敏となり、夜も碌々に此頃は寝た事もない。せめて石生能姫の優しき言葉を心の頼みとして日夜を送る苦しさ。あゝあ世の中は如何してこれほど災の多きものだらうか。思へば思へば浮世が嫌になつて来たわい。早く大教主の役を伜に継承さして其方と共に山林に隠れ、光風霽月を楽しみ余生を送りたいと思ふ心は山々なれど、伜はあの通り文弱に流れ世間知らずの坊んちやん育ち、実に前途は心細いものだ。何とか致して此苦艱を免るる道はあるまいかな』
とハアハアと吐息をつき悄げ返る。石生能姫は打笑ひ、
『ホヽヽヽ旦那様の其お言葉、何とした弱音をお吹き遊ばすのでせう。そんな弱い事で如何して此月の国を背負つて立つ事が出来ませうか。神様は此チツポケな月の国ばかりか、豊葦原の瑞穂国全体をバラモンの教に帰順せしめ、恵みの露をば万民に霑し与へむとの御神慮では御座りませぬか。左様な意志の薄弱な事では月の国さへも保つ事は出来ますまい。チト心を取り直して元気を出して下さいませ。一国の王者たる身を以て妾の如き卑しき女に心魂を蕩かし、偕老同穴を契り給ひし鬼雲姫様、特に内助の功多き奥様をあの通り退隠させ、日夜涙の生活を続けて御座るのを他所にして、旦那様は妾の様な女を弄び給ふは御神慮に叶はぬ事ではありますまいか。それを思へば妾も安き心は厶りませぬ。何卒一日も早く奥様を本城に招き入れ、夫婦睦まじく神業に参加して下さいませ。そして妾の位置を下して婢女となし下されば、御夫婦に対し力限りの忠勤を励む石生能姫の覚悟、何卒許して下さいませ。これが妾の一生の願ひで御座います』
『ハヽヽヽヽ其方は此大黒主を気が小さいと申すが、あまり其方も気が小さ過ぎるぢやないか。其方が始めて吾と褥を一つにした時、其方は云つたぢやないか。旦那様が妾のやうな不躾なものを斯うして可愛がつて下さるのは実に有難涙にくれますが、然し乍ら奥様の事が気になつて心も心ならず、そればかりが心配だと申したではないか。それ故、永らく連れ添うて共に苦労を致した鬼雲姫を別家させ、其方の希望通りにしてやつたではないか。今となつて左様な事を云つてくれては大黒主も困つてしまふ。俺が許した女房、誰に遠慮は要らぬ。大きな顔をして本城の花となり女王となつて、吾神業を陰に陽に極力助けてくれなくては困つてしまふよ』
『旦那様、妾は奥様の事が気にかかると云つたのは勿体ない、奥様を放り出して欲しいと願つたのぢや御座りませぬ。奥様のある旦那様に可愛がられては誠に済まない。奥様に会はす顔がないと云つたまでで御座ります』
『さうだから其方の心配の種を除くために鬼雲姫を遠ざけたのではないか』
『それはチト了簡が違ひませう。何程奥様が遠ざかつて居らつしやいましても妾の心は如何しても済みませぬ。今までよりも一層お気の毒で堪りませぬ。数多の部下や国民には妖女ぢや、鬼女ぢや、謀叛人だと口々に罵られ、如何して之で妾の胸が安まりませう。御推量なさつて下さりませ。貴方は如何しても、口先で私を愛して下さるが、本当の妾の心を汲みとつて下さらぬ故、つまり妾を苦しめ憎み給ふ事となるので厶ります』
と袖を顔にあてサと泣き沈む。
『其方の云ふ事ならば何一つ背いた事はないぢやないか。今日も今日とて鬼熊別の如き教の道の妨害になる、蟄居を命じてある男を俺に相談もせず代理権を執行すると申して、人もあらうにあれほど俺の嫌ひの鬼熊別を左守に任じ城内の権を一任したではないか。俺にとつては天下の一大事、承諾致す限りではなけれども、其方の言ひ分をたて、其方の機嫌を損じまいと憤りを抑へて辛抱をしてるではないか。万一此国が外教の手におちる様の事あらば、俺は到底此処に安心して居ることは出来ない。吾等にとつての一大事を忍んで居るのも其方が可愛いばつかりだ』
『あの鬼熊別は貴方の目からは、それ程悪い人と見えますか。貴方はお人がよいから悪人輩の讒言を一々御採用遊ばし智者賢者の言を用ひ給はず。あれほどバラモン教を思つて厶る神司は何処に厶りませう。それは貴方の一大事、又私の一大事に関する事、さう易々と少しの感情や気まぐれ位に、そんな大事がきめられますか。何卒心の雲を取り払ひ、正しく鬼熊別の心を汲みとつてやつて下さいませ』
『さう聞けばさうかも知れないが、鬼熊別の女房は到頭三五教に寝返りをうち、娘の小糸姫も矢張り三五の道の立派な宣伝使となつてバラモン教の畑を蚕食し、色々雑多と道の妨害を致す奴、ハルナの都の内幕は何も彼も三五教に知れ渡つて居るのも、側近く仕ふる者の中に内通するものがなくてはならぬ。若し内通するものありとすれば、鬼春別の言葉の如く鬼熊別の外にはない道理、石生能姫、其方は之でも鬼熊別を信用致すか』
『そりや貴方お考へ違ひでせう。あの方に限つて左様な卑しい根性をお有ち遊ばす道理は厶りませぬ。人を疑へば何処までも限りのないもの、人の善悪正邪は神様が直接にお審き遊ばしませう。仮令貴方は神の代表者としても矢張り人間の肉体を有つた神様、如何して人の心の善悪正邪が判りませう。一切の心の雲霧を払拭し惟神の心に立ち帰り、胸に手をあててお考へ遊ばしたらチツと御合点が参りませう。もしも鬼熊別さまに左様な野心がありとすれば、あれだけ国民の信用を一身に担うたお方、どんな事でも出来ませう。貴方は兵馬の権を握つておいで遊ばす故、国王とも大教主とも仰いでゐるものの、人心は既に離れて居りますよ。髭の塵を払ふものばかりお側に近寄つて貴方を益々深い淵に陥れるものばかり、本当に貴方の力になる誠の者は此沢山な御家来の内、妾の公平なる目より見れば鬼熊別様より外に只の一人もありませぬ。何卒一時も早く鬼熊別と胸襟を開いてお道の為、国の為、最善の力をお尽し遊ばす様に石生能姫が真心をこめてお願ひ致します』
 大黒主は石生能姫の云ふ事ならば一旦は拒んで見ても、徹底的に排除する事は恋の弱味で出来なかつた。大黒主は遂に我を折つて、
『それなら鬼熊別の身の上は其方に任す。随分気を付けて彼に謀られぬ様、此方のために力を尽すやうに云ひ聞かしてくれ』
『早速の御承知、石生能姫満足致します。左様ならば明日早朝妾より彼が館を訪ね充分に其意中を探り果して善人ならば日々登場を命じ旦那様の相談柱と致しますなり、もしも心に針を包む様な形跡が鵜の毛の露程でもありますなら、それこそ断乎たる処置を執らねばなりますまい。それなら明日の早朝鬼熊別の館に参りますから御承知を願つておきます』
『其方が態々行かないでも此処へ呼び寄せて調べたら如何だ。女と云ふものはさう易々と門を跨げるものではない』
『オホヽヽヽ旦那様の今のお言葉、今日の女は、社交界の花と謳はれねば女ではありませぬ。夫の成功は凡て女の社交の上手下手にあるもので厶います。妾が鬼熊別の屋敷へ参つたとて、決して旦那様のお顔にかかはる様な汚れた事は致しませぬから、そこは御安心下さいまして、鬼熊別の真の精神をトコトン探らして下さいませ』
『それなら何事も其方に一任する。明日は早朝よりソツと余り人に判らぬやうに彼の館に訪ね行き篤と心中を見届けてくれ。サア夜も大分に更けたやうだ。就寝致さうか』
『はい』
と答へて石生能姫は寝具をのべ、夫婦は茲に漸く久し振りで心を落着け、安々と寝に就いた。
(大正一一・一一・一 旧九・一三 北村隆光録)
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