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文献名1霊界物語 第40巻 舎身活躍 卯の巻
文献名2第4篇 関風沼月よみ(新仮名遣い)かんぷうしょうげつ
文献名3第16章 春駒〔1100〕よみ(新仮名遣い)はるこま
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-12-03 11:20:29
あらすじ春公は照国別一行に加わり、道中テームス峠の急坂を下りながら歌いだした。春公はアーニヤの生まれでもともとウラル教徒であり、竜宮島へ宣伝に行ったまま行方がわからなくなっている兄・岩彦を探している道中、大足別にであってバラモン教徒になった過去を明かした。照国別は、春公が岩彦の弟であることを知った。そして、自分は元ウラル教徒の梅彦であり、岩彦と一緒に竜宮島に宣伝に行ったこと、岩彦が三五教の宣伝使となってバラモン教に潜んでいたが、クルスの森ではぐれてしまった経緯を語った。春公はウラル教やバラモン教にぐらつくことなく、三五教に心を入れ替えて兄の岩彦を探す決意を歌に歌い、一行はテームス峠を下りて行った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年11月04日(旧09月16日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年5月25日 愛善世界社版210頁 八幡書店版第7輯 495頁 修補版 校定版217頁 普及版97頁 初版 ページ備考
OBC rm4016
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本文  春公は宣伝使に重病を助けられ、命の恩人と感謝し、茲に全く三五の神徳に帰順して、一行に従ひ月の都へ道案内として進み行くことになつた。春公はテームス峠の急坂を下りながら足拍子をとつて歌ひ出した。
『私の生れはアーニヤ  ウラルの彦の御教を
 親の代から奉じたる  尊き清き家柄だ
 二人の親は世を去りて  後に残りし兄弟は
 浮世の風にもまれつつ  離れ離れとなりはてて
 兄の行方はまだ知れぬ  ウラルの神の御教を
 大和田中に漂へる  竜宮島に開かむと
 神の司と任けられて  進み出でたる岩彦ぞ
 兄の所在を尋ねむと  フサの国までやつて来て
 小舟を操り和田中を  渡り行かむとする時に
 大足別の神司  タルの港に現はれて
 バラモン教の御教を  いと細々と説諭す
 群衆に紛れて御教を  聞くともなしに聞き居れば
 どこともなしに味ありと  思ひ込んだが病み付きで
 ウントコドツコイきつい坂  皆さま用心なされませ
 バラモン教に辷り込み  遂には大黒主神
 御許に仕ふる身となりて  元の名前の春公を
 名乗りて茲に関守と  抜擢されてバラモンの
 鬼熊別の妻や子の  所在を探ね三五の
 教司を悉く  捕へて月の都まで
 送る使となりました  テームス山は峰高く
 吹来る風は荒くして  人の通らぬ難所なり
 さはさりながらイソ館  ウブスナ山へ進むには
 ここが第一近道ぢや  三五教の司等は
 大半ここを越えるだらう  峠の上に関所をば
 作つて待てとの命令を  遵奉しつつ朝夕に
 酒に心をとろかして  肝腎要の関守は
 つまり私の副事業  お酒を呑むのが本職と
 勤めて暮す折もあれ  バラモン教の蜈蚣姫
 小糸の姫は駒に乗り  ハイハイハイと登りくる
 よくよく見ればどことなく  威厳備はる勢に
 辟易なして知らぬ顔  一大雅量を発揮して
 やすやすと関所を通しけり  かかる所へ三五の
 教の道の杢助が  さも恐ろしき獅子に乗り
 数多の群を引連れて  登り来りし其時は
 心をののき身はふるひ  生きたる心地はなかりけり
 アイタタタツタ躓いた  ウントコドツコイこれわいな
 それから一同自暴になり  こんな危険な山の上
 素面でどうして勤まらう  お酒の酔に紛らして
 一時なりと恐怖心  ごまかし呉れむとガブガブと
 木の実の酒に酔ひつぶれ  風吹く峠に大の字と
 なつて倒れた其結果  風邪の神めがやつて来て
 ウントコドツコイ ドツコイシヨ  私の体に侵入し
 忽ち起る頭痛  カンカンカンと鉄鎚で
 脳天くだくよな苦しさに  悶え居たりし折もあれ
 三五教の神司  照国別の生神が
 現はれまして命をば  助けてドツコイ下さつた
 こんな尊い神の道  如何して外にあるものか
 バラモン教やウラル教  何程尊い道ぢやとて
 朝から晩まで真心を  こめて祈れど寸効も
 現はれ来ない馬鹿らしさ  私は嫌になりました
 照国別の神様よ  これから先にライオンの
 水勢激しき川がある  とは云ふものの易々と
 渡れる個所が一所  あるのを私は知つてゐる
 流れはゆるく瀬は浅く  恰好の場所で厶います
 少しく道はまはれども  唯一の安全地帯なら
 急がば廻れといふ比喩  そこを選んで渡りませう
 それから先は玉山の  チヨツと小さい坂がある
 地理に詳しい春公が  先頭に仕へまつりなば
 月の御国へ易々と  知らず知らずに行けませう
 私を信じて下さんせ  ウントコドツコイ ドツコイシヨ
 さつき行かれた蜈蚣姫  小糸の姫は今頃は
 どこに如何して厶るだろ  お供に仕へたレーブさま
 定めて原野にふみ迷ひ  一泡ふいてゐるだろと
 思へば俄に気がもめる  心の駒に鞭つて
 一時にかけ出す膝栗毛  あゝ惟神々々
 神の御霊の幸はひて  此一行を恙なく
 勝利の都へ易々と  進ませ給へ天地の
 神の御前に春公が  真心こめて願ぎまつる
 ウントコドツコイ ドツコイシヨ  そこには平坦い路がある
 照国別の宣伝使  一つ休んで行きませうか
 甘そな木の実がなつてます  あんまりきつい坂路で
 喉奴が笛をふきかけた  お酒の酔がさめて来て
 頭の具合が何となく  ボンヤリしたよな心地する
 ウントコドツコイ、ヤツトコシヨ』
と勢よく歌ひながら、テームス峠を一行四人潔く下りゆく。
 坂の七八分下つた所に稍緩勾配の広き道がついてゐる。そこには無花果が柘榴のやうにはじけて、人待顔である。
春公『モシ宣伝使様、ここの無花果は有名なもので、善人が通ればあの通り柘榴のやうに大きくなり、紫赤の顔色をして、通行人に接待を致しますなり、悪人が通れば小さくカンカンの莟になり、人の目につかないやうに隠れて了ふ妙な無花果です。私は前から噂は聞いて居りますが、何時通つても今日のやうに口をあけ、甘そな顔をしてゐた事はありませぬ。キツト誠の生神様がお通りだから、あんな姿をして現はれたのでせう。ここで一つ一服して腹を拵へ、喉をうるほし、無花果さまの御厄介に預つたら如何でせうかなア』
照国『大分里程も来た様だから、一つ休息する事にしよう。春さま、お前御苦労だが、あの無花果を少しばかり頂いて来てくれないか』
春公『ハイ承知致しました。モシモシお二人のお供、私と一緒に参りませう』
梅公『そりや面白からう』
照公『私も春さまと一緒に往つて来ます。宣伝使様、どうぞ此処に待つてゐて下さいませ』
照国『ウン、ヨシヨシ一人待つてゐるから、早く頂いて来てくれ』
 ここに三人はイソイソとして、辛うじて細い谷川を渡り、甘さうな無花果を懐に一杯むしつて帰り来り、四人は喉をならしながら、天の恵と押戴いて腹につめ込んだ。
照国『春さま、最前お前の道々の歌によると、兄があるさうだが、其兄は岩彦といつたやうだなア』
春公『ハイ、私の兄は岩彦と申しまして、少し腰の屈んだ男で厶います。ウラル彦の神様の命令に依つて、音彦、梅彦等といふ神司と竜宮島へ渡つたきり、今に何の消息も厶いませぬ。アーニヤの本山は今は孤城落日、昔の勢もなく、僅に残つた信者が神館を守つてゐるばかり、何でも月の国のカルマタ国とか云つて、地教山の西南麓の可なり広い国の都へ神館が移つたさうで厶います。そしてウラル彦様の子孫たる常暗彦様が教主となつて、再び昔日の勢をもり返してゐられるといふ事で厶います。私は兄の岩彦に俄に会ひたくなり、大胆にも小舟に乗つて竜宮の一つ島へ渡らうとする時、バラモン教の大足別の神司がタルの港でバラモンの宣伝をしてゐられたのを聞き、俄に有難くなつて、とうとうバラモン教へ入信しました。併し乍ら月日が経つに従つてバラモン教の金箔がはげ、生地が分つて来て面白くなく、とうとう焼糞になつて大酒呑になつて了ひ、テームス山の関守の長を任けられてゐた所、性の悪い風邪にかかり、蜈蚣の霊に憑かれて、九死一生の場合を神様の御引合せ、あなたの御手を以て救はれたので厶います』
『それならお前は岩彦の弟であつたか。私は其時の梅彦である。岩彦はクルスの森で別れ、バラモン教の騎馬隊の中に躍り入つたきり、まだ顔を見せないのだが、何れ近い中に会ふやうな心持がしてゐるから、マア楽しんでついて来なさい』
『あなたが、それなら梅彦さまで厶いましたか。さう仰有ると何処とはなしに見覚えがあるやうに思ひます。兄の岩彦は貴方と一緒に今日迄活動して居りましたか』
『岩彦さまは実に立派な宣伝使だ。今日迄バラモン教の大足別が本拠たる清春山の岩窟に化け込み、ヤツコスと名乗つて居つた男だ』
『あのヤツコスは私の兄の岩彦で厶いましたか。噂は聞いて居りましたが、まだ会つた事はありませぬ。同じバラモンの内に居りながら、余り所を隔てて居るので、それとは知らずに居りました。あゝ有難い、兄の行方が分つたのも全く神様の御引合せで厶いませう。あゝ惟神霊幸倍坐世』
と合掌し、感涙に咽んでゐる。
照公『春さま、お前も日頃の望みの達する時が来たのだよ、三五教の神様は有難いだらう。モウ滅多にウラル教へ裏返つたり、バラモン教へ後戻りするこたあろまいなア』
春公『如何して如何して、そんな事が出来ませう。どうぞ一日も早く神様のおかげで岩彦に会はして貰ひたいもので厶います。そして兄弟が三五の教に尽したいと思ひます』
梅公『モウ、ウラル式の大酒飲みはやめますかな』
春公『余り好でもない酒だけれど、世の中が淋しくて堪まらないので、やけ酒を煽つて居たのですから、今後は一滴も飲みませぬ。大体が余り好きな酒ではありませぬから』
 照国別は路傍の石に腰打掛けながら、

『天津神国津御神の御恵に
  兄の行方を知りし今日哉。

 三五の神の教の幸はひて
  ライオン川も安く渡らむ。

 テームスの峠を守る関司
  春公さまの病いやしつ。

 身の病直すばかりか魂の
  病を直す三五の道。

 風吹かばさぞ寒からむテームスの
  峠にたてる春の関守。

 あらし吹く風に身魂をもまれつつ
  今は誠の人となりぬる』

と口ずさめば、春公は之に答へて、

『三五の神の司の来まさずば
  われはあの世に旅だちしならむ。

 玉の緒の命も魂も助けられ
  いかで背かむ三五の道。

 朝夕に大酒あふり曲神の
  すみかとなりし吾ぞ忌々しき。

 蜈蚣姫醜の司を捉へむと
  あせる心に蜈蚣すみけり。

 小糸姫神の小糸に結ばれて
  三五教の道を悟りぬ。

 岩彦の兄の所在を聞きし時
  生れかはりし心地しにけり。

 惟神神の御為世の為に
  尽さにやおかぬ春の魂』

と歌ひをはり、照国別に従つて、一行四人は又もや宣伝歌を歌ひながら、テームス峠を西南指して下り行く。
(大正一一・一一・四 旧九・一六 松村真澄録)
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