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文献名1霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻
文献名2第5篇 出風陣雅よみ(新仮名遣い)しゅっぷうじんが
文献名3第20章 入那立〔1145〕よみ(新仮名遣い)いるなだち
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-12-28 15:18:47
あらすじサマリー姫は、カールチンたちが夜が更けても帰ってこないので、サモア姫、ハルマンその他を引き連れてイルナ城にやってきた。東雲の空のもと、カールチンたちが霜柱の立つ庭の上にのびているのを見つけた。揺り起こされたカールチンたちは揺り起こされて不審の念に打たれている。そこへ竜雲、レーブ、カル、テームスがやってきて、セーラン王が奥で待っていることを伝えた。王の前に出たカールチン、ユーフテス、マンモスの三人は、どのような沙汰があるかと震えていた。セーラン王は三人に右守館で百日間の閉門を命じた。そして清照姫、セーリス姫、サモア姫には、百日の間三人の世話をするように申し付けた。異議を唱える清照姫に対し、セーラン王は、権謀術数で三人をだました報いだと理由を告げた。しかしカールチンは、王位簒奪を企んだ自分の罪を閉門で許してくれた王の慈悲に感謝を述べ、清照姫ら三人の女性の付添は必要ないと断った。一同はそれぞれ述懐の歌を歌った。ヤスダラ姫は神の教えに照らされてセーラン王を恋い慕う心を転じ、宣伝使になることを誓った。そして黄金姫の一行と共にハルナの都に進むことになった。セーラン王は今まで忌み嫌っていたサマリー姫を深く愛し、夫婦ともにイルナの城に三五の教えを布き、国家百年の基礎を固めることとなった。カールチンは改心し、元の右守に任じられた。テーナ姫の凱旋を待って夫婦睦まじく王に仕えた。セーリス姫は王の媒酌によってユーフテスの妻となり、サモア姫もマンモスの妻となってイルナ城に仕え、子孫繁栄した。黄金姫と清照姫は、ヤスダラ姫およびハルマンと共にハルナ城に向かった。レーブ、カル、テームス、竜雲は別に一隊を組織して各地に三五教を宣伝しながらハルナの都を指して進んだ。リーダーは王の忠実な臣下となって側近く使えることになった。
主な人物 舞台イルナ城(入那城、セーラン王の館) 口述日1922(大正11)年11月25日(旧10月7日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年7月1日 愛善世界社版239頁 八幡書店版第7輯 728頁 修補版 校定版245頁 普及版103頁 初版 ページ備考
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本文  サマリー姫は父カールチンの夜更けて帰り来らざるに心を痛め、サモア姫、ハルマン其他二三の家僕を従へ、イルナ城の表門を潜つて広庭迄やつて来た。東雲の空漸く紅く、霜柱の立つてゐる庭の芝生や土の上にぶつ倒れて、カールチン始め十数人の家の子はふんのびてゐる。サマリー姫は眉をひそめながら、
『エヽ情ない、何として又斯様な処に、父を始めユーフテス、マンモスが倒れてゐるのだらう。ハルマン、一つ揺り起してくれないか』
『ハイ承知致しました』
と云ふより早く、捻鉢巻に襷をかけ、まづ第一にカールチンを抱き起した。カールチンは目をこすりながら、あたりをキヨロキヨロ見廻し、
『ヤア其方はサマリー姫、サモア、一体ここは何処だ。俺が酒に酔つたと思つて、屋外へ放り出しよつたのだなア。怪しからぬ事を致す、ヨーシ、此方にも考へがある』
と立上らうとする。何人の悪戯か知らぬが、庭先の巨大なる捨石に紐を以て腰から括りつけられ、動く事が出来ぬ。
『カールチンさま、しつかりなさいませ。ここは入那城内の大広庭で厶いますよ。貴方は昨夜よからぬ事を考へて、城内へ闖入し来たのでせう。神罰立所に当つて、こんな態の悪い乞食のやうに野天で倒れてゐたのでせう。コレ、ユーフテス、お前もシツカリせないか、何といふ黒い顔をしてゐるのだ。顔中墨が一杯ぬつてあるぢやないか』
『ヘー、兎も角、旦那様のお供を致しまして、うまく敵を殲滅し、いよいよ刹帝利になられた御祝にお酒を頂戴致し、余り酔うた揚句、こんな所まで、副守護神が肉体を伴れて、酔ざましに出張したと見えます。イヤもう、ラツチもないことで厶いました。アツハヽヽヽ』
『ナニ、其方はカールチンと共に、セーラン王様を暗殺しよつたのだなア。モウかうなる上は王様の仇敵、覚悟をしたがよからう』
と懐剣をスラリと抜いて逆手に持ち、ユーフテスに向ひ斬つてかかるを、ハルマンは後より姫の両腕をグツとかかへ、
『先づ先づお待ちなさいませ。これには何か様子のある事で厶いませう。狼狽て仕損じてはなりませぬ』
マンモス『ヤアここは城の馬場だつた。サツパリ狐にやられたと見えるワイ。モシモシ カールチン様、陰謀露顕に及んでは大変です、サア早く逃げませう。オイ、ユーフテス、お前も早く逃げたり逃げたり』
『コリヤコリヤ、両人、何も騒ぐ事はない。先づ俺の綱をほどいて、俺が逃げたあとで逃げるのだ。主人を捨てて、貴様ばかり自由行動をとるといふ事があるか、エーン』
サマリー『オホヽヽヽヽ、何とマア、とぼけ人足ばかり集つたものだなア』
サモア『見れば旦那様にユーフテスにマンモスの三人、失恋党の領袖連ばかりが、お揃ひで………何と面白い夢を見られたものですなア』
 カールチンは目に角を立て、
『コリヤ コリヤ サモア、失恋党とは何だ。マ一度言つて見よ。了簡致さぬぞ』
『誠に御無礼なことを申しましたなア。余り可笑しいものですから、ツイ脱線しました。オホヽヽヽ』
 かかる所へ竜雲、レーブ、カル、テームスの四人、館の玄関をパツと開き現はれ来り、
竜雲『ヤア、カールチン殿、サマリー姫様、先づ奥へお越し下さいませ。王様がお待兼で厶います』
 サマリー姫は嬉しげに、
『ハイ、お前さまは竜雲さまとやら、此カールチンの悪人をよく戒めて帰して下さい。妾は一時も早く王様に御面会を願ひませう。コレ、ハルマン、案内をしておくれ』
と云ひながら、サマリー姫は王の居間をさして、ハルマンと共に進み行く。
カールチン『到頭酒に食ひ酔うて、知らず知らずに登城の途中、斯様な所でくたばつたと見える。何者か悪戯をしよつて、某が腰に紐を括りつけよつたと見える。兎も角も竜雲殿、拙者の紐をほどいて下され。手も一緒に括られてゐるやうだ』
『アハヽヽヽ、念の入つた泥酔だなア』
と云ひながら、手早く縛めをほどいた。これはレーブが昨夜ソツと悪戯をしておいたのである。ユーフテスの顔の黒くなつたのも、矢張りレーブの副守の悪戯であつた。
カールチン『ヤア有難い、サア、是から館へ帰らう。オイ、ユーフテス、マンモス、後につづけ』
テームス『待つた待つた、さうはなりませぬぞ。今王様が右守司に面会したいと仰有つて奥に待つてゐられます。一つ御礼を申上げたい事があると言はれますから、サア遠慮なしに奥へお通りなされませ。ユーフテスさまも手水を使つて一緒に拝謁をなさいませ。マンモスも同様だ』
ユーフテス『イヤ、滅相もない、王様に御礼を云はれるやうな悪い事は致して居りませぬワイ。此場はこれで御見逃しを願ひます』
『さう心配を致すな、案じるより生むが易い。マア行く所まで行つて見な、善か悪か吉か凶か分つたものぢやない。一つ悪い気がした所で、たつた一つの首をとられると思やいゝぢやないか。首の一つ位何ぢやい。アーン』
 ユーフテスは首のあたりを手で探りながら、
『ヤア、ヤツパリ俺の首は依然として密着してゐるワイ、どうぞ今日は大目に見逃してくれ。命の親だから』
『何と云つても勅命だ。綸言汗の如し。一度出づれば之を引込める訳には行かぬ。サア行かう』
と素首をグツと引掴んだ。ユーフテスは弥之助人形のやうに、ビツクリ腰をぬかし、手も足もブラブラになつた儘、テームスに引張られて、奥殿へ運ばれた。竜雲はカールチンを引抱へ、これ亦奥へ進み入る。レーブ、カルはマンモスを二人して引担ぎながら、これ亦奥殿へ運び入れた。
 失恋党の三人は王の前に引出され、色青ざめ、唇を紫色に染めてガチガチと歯を鳴らしてゐる。
『右守司殿、随分昨夜は御愉快で厶つたらうなア』
『ハイ、夢の中で夢を見まして、イヤもう何とも申上げやうが厶いませぬ』
と訳の分らぬ事を恐る恐る答へた。
『アハヽヽ、天下をとると云ふ事は、随分愉快なものだらうなア。どうだ、是から其方は刹帝利の後をついでくれる気はないか』
ヽ滅相もない、何事も王様の御意に任します。王様のお言葉とあらば、一言も背きは致しませぬ』
『余が言葉ならば一言も背かぬと申したなア。それに間違はないか』
『ハイ、武士の言葉に二言は厶いませぬ』
『然らば汝右守司、叛逆未遂の罪に依つて割腹仰せ付ける』
 カールチンは此言葉に肝を潰しひつくり返り「アツ」と叫んだ。
『割腹仰せ付けるといふは表向き、其方は今日限りテーナ姫が凱旋あるまで、閉門仰せ付ける。有難く思へ』
 カールチンはヤツと胸を撫で下し、
『ハイ、割腹に比ぶれば、閉門位は何とも厶いませぬ。私一人で厶いますか』
『イヤ、ユーフテス、マンモスも同様だ。一人々々別個に閉門する時は、妙な心を出し、悲観に陥つては却て為にならぬから、其方等三人は右守の館に同居閉門を命ずる。勝手に酒でも飲んで失恋会議でも開いたがよからうぞ』
ユーフテス『ハイ、何と粋の利いた王様、誠に以て重々の御厚恩、御礼の申上げやうも厶いませぬ』
『汝等三人、男ばかりにては炊事其外万端に支障を来すであらう。これよりヤスダラ姫、セーリス姫、サモア姫をお給仕として百日間共々に汝の側に侍らすから、有難く思へ』
 カールチンは不思議さうな顔をして、王の面体を打眺め、呆然としてゐる。
『アハヽヽ、今日より、この入那城は三五教の教理を遵奉し、喜ばして改心をさせる方針だから、汝等も満足であらう。イヤ清照姫殿、セーリス姫殿、サモア姫殿、御苦労ながら百日間閉門を致す、三人の失恋党を満足させてやつて貰ひたい』
清照『王様、お戯談を仰有るも程があります。苟くも王者として、戯談を仰有るといふ事はありますまい』
『決して戯談は申さぬ。清照姫殿は王の危難を救ひ、入那城の安泰を計つて下さつた殊勲者である。さりながら三五教の道に在りながら、権謀術数を以て敵を籠絡するは大道に違反するもの、是非々々カールチン、ユーフテス、マンモスの仮令百日なりとも、閉門中の世話をなし、彼等三人を心の底より満足して改心致すやうになさるのが、そなたの罪亡ぼしだ。黄金姫殿、左様では厶らぬか』
『オホヽヽそれ見なさい、清さま、余り智慧が走ると、こんな天罰を受けねばなりませぬぞや。これだから誠正直で行かねばならぬといふのだ、自分の美貌を看板に男をチヨロまかし、王の危難を救ふのはよいが、其権謀術数が宣伝使としての行ひに反してゐるのだから仕方がありませぬ。サア清さま、セーリス姫さま、サモアさまも、男をチヨロまかした神罰が酬うて来たのだから、百日の閉門の間、三人の方に虫の得心する所まで親切を尽すのだよ。オツホヽヽ、エライことになつたものだ。王様のお言葉には、一言も反かうと思うても、背く余地がありませぬワイ』
清照『ハイ有難う厶います。三人閉門の処へ又三人の女が附添ふとは、何とマア都合の好い事でせう。お母アさま、百日も一緒に居りますと、どんな気になるかも知れませぬから予め御承知を願つておきますよ。なア、セーリス姫さま、貴女だつて、フトした機みから、本当にユーフテスさまがゾツコンお好きになられるかも知れませぬわねえ。サモアさまだつて其通りでせう。オホヽヽ』
『エヽ仕方がない、男女の道は何程親が目を光らして居つても、防ぐことは出来ない、まして百日も離れて居れば、如何ともすることが出来ないから、清さまの自由意思に任しませう』
『右守司殿、サア三人の女と共に男女六人、早くここをお立ちなされ』
『閉門は確にお受け致しました。併しながら、今の王様のお言葉にて満足致しました以上は、清照姫様のお附添ひは御無用で厶います。私が悪いので厶いますから、清照姫様が私をいろいろと操り遊ばしたのも、決して恨みとも無理とも思ひませぬ。かへつて清照姫様に来て貰つては迷惑を致します。又百日の閉門中に心の悪神を放り出し、誠の精神に立復りたく存じますれば、異性が側に居りましては、満足に修行も出来ませぬから、何卒こればかりは御取消を願ひます。ユーフテス、マンモスも私と同意見だと思ひますから、何卒宜しくお取上げを願ひます』
『然らば汝の望みに任す』
『ハイ有難う厶います。心の曇つた吾々、悪逆無道をお咎めもなく、閉門位でお許し下さるとは御礼の申し様も厶いませぬ。今後は何処までも誠を尽し、王様の御恩に報ずる考へで厶いますれば、何卒々々御見捨てなく、百日後は下僕の端になりとお使ひ下さらば有難う存じます』
 サマリー姫は声も涼しく三十一文字を歌ふ。

『大君の恵の露にうるほひて
  野べの醜草も甦りける。

 重々の罪汚れをもカールチン
  宣直します君ぞかしこき。

 カールチン父の命よ今よりは
  二心なく君に仕へませ』

カールチン『有難しセーラン王の勅言
  千代も八千代も忘れざらまし。

 罪深き吾を見直し聞直し
  宣り直します三五の神。

 恋雲も今や全く晴れにけり
  三五の月の光見しより』

ユーフテス『いろいろと恋の魔の手にあやつられ
  よからぬ事を企みてし哉。

 村肝の心に住める鬼大蛇
  今は全く消え失せにけり』

セーリス『ユーフテス神の司よ聞し召せ
  恋と欲との二道は立たず。

 欲に迷ひ恋に迷ひていろいろと
  あやつられたる人ぞいぢらしき。

 われも亦よからぬことと知りながら
  君迷はせし心は恥し』

サモア『マンモスを舌の先にていろいろと
  弄びたる吾ぞうたてき』

マンモス『恥しや恋の囚となり果てて
  思はず恥をさらしける哉。

 大君の恵の露の深くして
  重き罪科赦されにけり』

竜雲『月も日も入那の城の暗雲も
  晴れて日の出の御代となりけり』

黄金『三五の神の光の現はれて
  入那の城に旭かがやく』

セーラン『有難き神の御稜威に守られて
  入那の城に月は輝く』

ヤスダラ『はるばるとテルマン国を逃げ出して
  尊き君に会ひにけるかな。

 さりながら神の光に照らされて
  吾恋雲は消え失せにけり。

 サマリー姫貴の命よ今よりは
  セーラン王に仕へましませ。

 ヤスダラ姫貴の命は黄金姫の
  教に従ひ神の道行かむ』

テームス『四方八方を深く包みし雲霧も
  はれて嬉しき今日の空哉』

カル『足曳の山野も清く晴れにけり
  入那の城の神の伊吹に』

レーブ『何事もなくて治まる君が代は
  さながら神代の心地せらるる。

 われも亦黄金姫に従ひて
  ハルナの空に向ふ嬉しさ』

 茲にいよいよヤスダラ姫は神の教に照らされて、セーラン王を恋ひ慕ふ心を転じ、天下万民の為に誠の道を四方に宣伝せむことを誓ひ、黄金姫の一行と共にハルナの都に進むこととなつた。セーラン王は今まで忌み嫌うてゐたサマリー姫を深く愛し、夫婦相並びて入那の城に三五の教を布き、国家百年の基礎を固むる事となつた。そしてカールチンは改心の結果、右守司と元の如く任ぜられ、テーナ姫の凱旋を待つて夫婦睦じく王に仕へた。セーリス姫は王の媒酌によつてユーフテスの妻となり、又サモア姫も王の媒酌に依つてマンモスの妻となり、入那城に仕へて子孫繁栄した。黄金姫は清照姫、ヤスダラ姫及びハルマンと共にハルナ城に向つて進むこととなり、レーブ、カル、テームス、竜雲は別に一隊を組織し、三五教の宣伝歌を歌つて各地を巡教しつつ、ハルナの都を指して進み行くこととなつた。リーダーは王の忠実なる臣下となつて側近く仕ふる事となつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。
(大正一一・一一・二五 旧一〇・七 松村真澄録)
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