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文献名1霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻
文献名2第5篇 神風駘蕩よみ(新仮名遣い)しんぷうたいとう
文献名3第20章 破滅〔1744〕よみ(新仮名遣い)はめつ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2018-07-15 09:07:02
あらすじ一方右守のサクレンスは、太子・アリナを亡き者にしたと思い、妻のサクラン姫と酒盛りをやっていた。ところが、自分たちの計画をシノブに聞かれてしまう。シノブは、悪事を公にされたくなければ自分を女帝にすえるよう、サクレンス夫妻を脅す。そこへカーク・サーマンが、陰謀の露見を知らせに来る。太子・スバール姫は助け出され、右守の弟のエールがすでに成敗されたと3人に告げる。三人は身の破滅を悟る。折りしも、捕り手が館を取り囲み、3人は縛り上げられてしまった。
主な人物 舞台 口述日1925(大正14)年01月30日(旧01月7日) 口述場所月光閣 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年9月30日 愛善世界社版267頁 八幡書店版第12輯 251頁 修補版 校定版272頁 普及版69頁 初版 ページ備考
OBC rm6820
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本文  蓄財と名望欲と政治欲、其外自己愛の道にかけては抜け目のない右守の司サクレンスは、日頃の願望成就の時到れりとなし、妻のサクラン姫と共に、都下大騒擾の跡仕末もつけず、民衆怨嗟の声も空吹く風と聞き流し、珍味佳肴に酒くみ交はし得意となつて心の埃芥を平気の平左で吐き散らしてゐる。得意の時、図に乗るは小人の常とは云ひ乍ら、あまりに智慧の足らぬ男である。人心恟々として物騒至極の今日此頃、而も玄関口に現はれ訪問客を相手にし乍ら、已に国務総監になりすましたやうな気で盛にートルを上げ、いきりきつて居る。
 右守は女房の酌でヘトヘトになり、凹んだ目をボツとさせ乍ら眼鏡越しに女房の蜥蜴面を打眺め、出来損ねた今戸焼の狸の人形のやうな不可解千万の面をさらし舌皷を打ち乍ら、
右守『オイ、奥さま否、女房、嬶んつ殿、何と俺の劃策は水も洩らさぬ注意の届いたものだらう、エーン』
サク『旦那様、何ですか、車夫か馬丁か何ぞのやうに嬶だの、嬶んつだの嬶村屋だのと、こんな玄関口で見つともないぢやありませぬか。警固の兵士が若しもこんな事を聞きましたらキツト馬鹿にしますよ。何卒之から妾を呼ぶには奥とか、後室とか云つて下さい。お願ですから』
右『イヤ、之は失敬千万、恐れ入谷の鬼子母神殿、釜の下の燃杭左衛門、閻魔大王之介、嬶左衛門尉挽臼殿、サクレンスが酒の上の暴言、真平々々御免候へ、何分奥さまのお名前がサクラン姫だから、チツト許り此右守も精神がサクラン致し、何となくボツと致したやうだ。サクラン……ではない、サフランでも煎じて一服飲まして貰ひたいものだな。サフランが無ければ朝鮮人参でも結構だ。然し乍ら諺にも云ふ通り……人参買うて首を吊る……と云ふ事もある。右守の貧乏世帯では到底左様な高価な医薬品は挺には合ひ申さぬ。それよりも奥方殿の御麗しきおん顔を拝し奉り、恐悦至極に存じ奉つておいた方が、何程愉快だか知れないわ、アツハヽヽヽ』
サク『旦那様、いい加減に妻を嘲弄しておきなさいませ。口に関所がないと云つても、あまりぢや厶いませぬか。時に旦那様、太子殿下やスバール姫は大丈夫で厶いませうかな』
サクレ『ウンウン、大丈夫大丈夫、不要緊不要緊。あゝしておけば自然に餓死を為るだらう、さうすりやこつちの幸福だ。何程辛抱が可いと云つても、十日も二十日も飲食を絶たれたならば、到底生命は保て無い、寂滅為楽とおいで遊ばすは、決まりきつたる天地の道理だ。エー、俺に子供があればバンナ姫に娶して、うまく国政を自由自在に操るのだが、惜い事にはお前が石女だから、惜い乍らも他人にやるよりマシだと思つて、父違ひの弟に顕要の地位を譲り、弟はやがて大王殿下となり、肝心の兄貴は臣下となつて、アタ阿呆らしい、神妙に仕へねばならぬのだ。然し乍ら弟は只単に看板に立てておくのみだ。その実権はヤツパリ此サクレンスの手に握つておくのだから、先づ芝居だと思へば辛抱も出来やうかい、エツヘヽヽヽ。ても扨も愉快な事だわい』
サクラ『旦那様、そしてあのアリナはシノブの云つた通り大宮山の神殿に居つたでせうか』
サクレ『イヤ、彼奴は到頭風を喰つて逃失せ、比丘の姿となつて法螺貝を吹き、そこら中を深網笠で廻つて居ると云ふ報告が来たので千円の懸賞付で今捜索してる処だ。彼奴を捉へたら、否応云はさず秋野ケ原の水車小屋の地底の牢獄に投げ込み、人知れず干し殺してやる計画がチヤンと整つてゐるのだ。あんな奴の事は、さう意に介するに足らないよ。何と云つても肝腎要の太子を、あゝ仕て置いて○○して了へば最早俺の天下だ。エツヘヽヽヽ、何と妙案奇策だらう』
サクラ『そりや本当に心地のよい事で厶いますな。流石は右守様、いや大名総監様、天晴々々。貴方が御出世なされたならば、麻につれる蓬も同然、妾の地位も高まる道理。然し女中頭のシノブが聞いたら、さぞ失望落胆する事でせうね』
サクレ『どうで彼奴は、ドテンバの淫乱の両屏風と来てゐるのだからいい気味だ。いつもいつも大王様のお側近く侍りよつて耳嗅ぎ許り得意にしてゐる曲者だから、あんな奴ア臍でも噛んで死んだ方が、何程国家の為になるか知れないわ、エツヘヽヽヽ』
サクラ『然し乍ら旦那様、謀は密なるを要すとか申しまして、どこ迄も注意に注意を加へねばなりませぬ。ヒヨツとすればあの女は右守家にとつて爆裂弾かも知れませぬから、そこは、うまく云つて、操つておいて下されや』
サクレ『エー、そんな事に抜目のあるサクレンスと思つてゐるか、云ふ丈け野暮だよ。サア一杯ゆかう。今日は土堤を切らして充分酔うて呉れ。目的成就の前祝だからのう』
 斯かる処へ玄関の障子の外からかん走つた女の声、
『右守様、妾はシノブで厶います。這入りましてもお差支は厶いませぬかな』
 右守はギヨツとし乍ら顔色をサツと変へ、女房と狸と蜥蜴の面合せをし乍ら、唇で舌を噛み三つ四つ腮をしやくり、二人一時に、
『ハイ、差支は厶いませぬ。サアサアお這入り下さい』
シノブ『左様なれば御免を蒙ります。臍でも噛んで死ねばいいのに、憎まれ子世に覇張ると申しまして、此通りピンピンしてゐます。決して爆裂弾ではありませぬから御安心なさいませ。何と云つても太子様を水車小屋の地底の岩窟に入れて、干殺さうと為さる凄い御腕前、実に感心致しましたよ。もしもし御夫婦様、別に青い顔して、お慄ひ遊ばすには、当らぬぢやありませぬか。アリナさま迄引捕らまへて地底の牢獄に投げ込み、干殺さうとして厶るのですもの、本当に呆れて了ひますわ。如何で厶います。梟の宵企み、うまく計劃が成就致す見込が厶いますかな』
右『これはこれは思ひがけなきシノブ殿のお言葉、どうして、さやうな無道な事が出来るものですか。人間として、恐れ多くも太子様を干殺さうなんて、人間の面を被つたものがする事ぢや厶いませぬ。実は酒に酔うたまぎれに、嬶左ヱ門に向つて揶揄つてゐたのですよ。もとより根なし草の戯れ言、気にかけて下さつては困ります』
シ『人間として出来ないやうな、大それた畏れ多い事を平気でおやり遊ばす右守様だもの、到底妾の如き耳嗅のお転婆女では側へも寄れませぬわ。どうか爪の垢でも頂いて煎じて飲みたいもので厶いますわ』
右『こりや怪しからぬ、さう疑つて貰つちや、右守も一切事情を逐一弁明せなくちやなりますまい。マアゆつくりと気を落付けて、忠臣義士たる拙者の言葉をお聞き下さい』
シ『貴方はもうお忘れになりましたか。先日妾がお直使に化けて参りました時、太子様を○○せうとお約束なさつたぢや厶りませぬか。そしてアリナさまを王位に上らせ、妾を王妃にしてやらうと、うまく誤魔化しましたね。貴方の腹の中はエールさまを王位に上らせ、王女のバンナさまを王妃とし、勝手気儘に国政を料理せうと云ふ、大した陰謀を劃策してゐらしたのでせう。何もかも一伍一什、只今、玄関先にて承はりました。然し妾が、かう云つたと申して驚きには及びませぬ。物も相談ですがどうです。一層の事妾を女帝にして下さつては。若しゴテゴテ仰有るなら何もかも上は大王様へ、下は国民一般へ、貴方の陰謀の次第を吹聴致しますが、それでも貴方にとつてお差支は厶いますまいか。若しそんな事は出来ないと仰有るなら、サア此場でキツパリと言明して下さい。一寸の虫も五分の魂とやら、妾にも考へが厶いますからな』
 夫婦はシノブの言葉に一つ一つ錐で胸先を、揉まるる如き苦みを感じ乍ら、
右『イヤ、恐れ入りました。明日とも言はず今日只今より貴女を主君と崇め奉り女帝様と申上げますから、何卒さう腹を立てず落付いて下さいませ』
サクラ『夫の申上げました通り妾も女帝殿下と尊敬し、今日只今より臣下の礼を以て仕へませう』
シノブ『ホヽヽヽヽうまい事仰有いますな。そんな事を云つて妾を安心させ、暗打でも遊ばす御計画でせう。今日迄の貴方等のやり方から推定しても、その位の事は、貴方にとつては宵の口ですからね』
 かかる処へカーク、サーマンの二人は慌しく帰り来て、
『右守様に申上げます。タヽヽ大変な事が突発致しました』
 右守は此言葉に二度ビツクリし乍ら、俄に酒の酔も醒め、片膝を立直して、
『何、大変が起つたとは、何処にだ。サア早く言はないか』
カ『ハイ申上げるつもりで吾々両人がスタスタと慌てて帰つて参つたのです。申上げなくて何と致しませう。太子殿下を初めスバール姫は、三五教の宣伝使に助けられ、駒に跨つて堂々と城内にお帰り遊ばす事になりました。そしてエールの君様は岩山の神の森に於て、大女のバランスに、首筋をつまんでインデス川へ投げ込まれ、川中の岩石に頭を打割られ、川水を紅に染めて、ブカンブカンと流れて了はれました。グヅグヅしとる時ぢや厶いますまい。右守様、貴方のお首が危う厶いますよ』
サクレ『嘘ぢやないか、そんな事のあらう筈がない』
サ『決して決して、誰が嘘なんか申しませうぞ。正真正銘、ありのままの事実の注進で厶います』
サクラ『それだから、いつも貴方に気をつけなさいませと御意見を申したではありませぬか。一体貴方の頭脳は、余り粗末過ぎますから、こんな失敗が出来るのですよ、エー口惜い、どうしたら宜しいのかな』
シ『イツヒヽヽヽヽ右守さま、もう斯うなりや妾の女帝も、貴方の大名総監もサツパリ駄目です。男らしく覚悟なさいませ。否自決遊ばせ。実の所は王女のバンナ姫様も妾が、うまくちよろまかして、城内からおびき出し、インデス川の辺で首を締め、川中へ投げ込んでおきましたから、エールさまと一緒に同じインデス川で水盃でもしてゐらつしやるでせうよ。もう斯うなつた以上は気の毒乍ら、貴方のお家は断絶、罪が軽うて切腹、まさか違へば逆磔刑ですよ。妾だつて、最早安閑としては居られませぬ。サア右守さま、介錯をして上げますから腹をお切りなさいませ。そして奥様は首でも吊るか、溜池にでも身を投げて、早くその製糞器を片付けなさいませ。グヅグヅしてゐると死後迄も恥をさらされますよ。私も冥土のお伴を致します。已に既に懐剣は用意して参りました。この鋭利な短刀で喉笛を切るが最後、結構な結構な天国へ国替と云ふ段取ですわ』
 かく互に身の終りの相談をやつてゐる所へ門前俄に騒がしく、目付頭は数百の部下を従へ、右守の館を十重二十重に取巻き、頭役自ら数名の目付と共に入り来り、
『サクレンス、サクラン、シノブ三人とも御用だ。神妙に手を廻せ』
と呶鳴り乍ら懐より捕縄を出し無雑作に三人を厳しく固く縛り上げてしまつた。
(大正一四・一・七 新一・三〇 於月光閣 北村隆光録)
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