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文献名1霊界物語 第76巻 天祥地瑞 卯の巻
文献名2前付よみ(新仮名遣い)
文献名3太平洋西北岸創造説よみ(新仮名遣い)たいへいようせいほくがんそうぞう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
主な人物 舞台 口述日1933(昭和8)年12月07日(旧10月20日) 口述場所水明閣 筆録者森良仁 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年3月23日 愛善世界社版 八幡書店版第13輯 458頁 修補版 校定版76頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm760011
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本文    銀狐の世界創造

 世界の始には、水の外なんにもありませんでした。その頃、尾の長い狼と、銀狐とが、天に住んでゐました。
 銀狐は、いろんなものを造らうと気をあせつてゐましたが、尾の長い狼が、いつも、
『止せ止せ。そんな事をしても、なんにもならんぢやないか』
と言つて、押止めてゐました。それで銀狐は、たうとう狼が自分の側にゐるのがいやになつて、或日、
『お前、これから出掛けて行つて、焚木を取つて来ておくれ』
と言ひました。そして、狼が出掛けて行くと、銀狐は一本の矢を取り出して、天上世界に穴をあけて、遥か下の方にある海を見下してゐました。やがて、狼が帰つて来ましたが、銀狐は、天上世界に穴をあけたことを隠してゐました。
 翌日になると、銀狐は、又狼を焚木取りにやりました。そして、その留守に、弓の矢を穴に突つこんで、下へ落しますと、弓の矢は、遥か下の方の海に落ちて水の底に沈んでしまひました。銀狐は、穴から抜け出して、下へ下へと降りて行きました。そして、水の面に近づくと小さい円い島を一つ拵へて、そこに止まることにしました。
 暫くして、狼が帰つて来ますと、銀狐の姿が見えませんので、あちらこちらを探しはじめました。そのうちに、天上世界に開いてゐる穴を見つけ出して、そこから下を覗きますと、遥か下の方の小島に、銀狐が坐りこんでゐるのを見つけました。
『おおい、おれは一人で悲しくてたまらんよ。どうしてそこへ降りてゆくのかね』
と狼が声をかけました。銀狐は、なんとも返事をしませんでした。
『そんなに意地の悪いことをするもんぢやないよ。どうにかして、おれも下に降りられるやうにしておくれ』
と狼が又声をかけました。そこで、銀狐が、弓の矢を天の方に差出しましたので、狼はそれを伝つて下へ降りて来ました。
 銀狐が拵へた島は大層小さかつたので、二人がそこに住むことになると、殆ど足を伸ばして寝ることも出来ない位でした。そこで、銀狐が足に力を入れて踏張りますと、島は、だんだんと大きくなりました。銀狐は、最初に島を東に踏み伸ばして、それから北に踏み伸ばして、それから西に踏み伸ばして、一番おしまひに南に踏み伸ばしました。そんなことを、五晩ほど続けてゐますと、その島が、今日のやうな大きな世界になりました。
 銀狐は、島を踏み伸ばすたびに、狼に向つて、
『島のまはりを一走りして、どれ位大きくなつたか見とどけて来ておくれ』
と言ひました。そこで、狼は、一走りすることにしましたが、始めのうちは、島が小さかつたので、すぐに廻つてしまつてゐましたが、おしまひには、余り大きくなりましたので、元のところに帰つて来ないうちに、ひどく年をとつて、体中が灰色になつてしまひました。
 世界が出来上ると、銀狐は、人間や動物や木や泉等を拵へました。狼はそれを見ると、
『こんなに沢山に生ものを造つたんだから、何か食物を拵へてやらなくてはなるまい』
『一年のうちで十月を冬にしようぢやないか』
と言ひました。
『そんなに冬を長くしたら、食物が足りないよ』
と銀狐が言ひました。
『食物が沢山ない方がいいんだよ。人間は塵埃からお汁を拵へることが出来るんだらうから』
と狼が言ひましたが、銀狐はやはり何とも返事をしませんでした。しかし、暫くすると、
『冬を十月にするのは、よくないよ。二月で沢山だ。そしたら、人間は、日向葵の種や木の根や果実を食べることが出来るんだから』
と言ひました。
『いや、いけないよ。やつぱり冬は十月にしなくちやだめだ』
と狼が何処までも言ひ張りました。そこで、銀狐が、たうとう怒り出して、
『お前は、あんまりしやべり過ぎるよ。わしは一年を四月にするつもりだ。冬が二月で春と秋とが一月づつだ。それで結構だ。もうこの事に就ては、とやかくいはないでおくれ』
と言ひました。
 かうして人間世界が出来るし、一年が春秋冬の三つに分れるやうになつたのです。

註アリカ印度人は、日本などと違つて、一年を三期にわけてゐます。この神話は、即ちさうした観念を反映してゐるのです。
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