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文献名1霊界物語 第7巻 霊主体従 午の巻
文献名2第3篇 太平洋よみ(新仮名遣い)たいへいよう
文献名3第17章 亀の背〔317〕よみ(新仮名遣い)かめのせ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグニウジーランド(ニュージーランド) データ凡例 データ最終更新日2020-05-10 01:19:06
あらすじ船から向こうに見える島影は、ニュージーランドの一つ島であった。大海原彦が鎮まり、真澄の玉が納まる、治立大神が穿いたもうた沓嶋である。波に漂っていた男女は、先に身を投げた女と、長髪の荒男であった。日の出神が差し招くと、二人を乗せた巨大な亀は船に近づいてきた。男女は船に助け上げられ、これまでの来歴を語った。長髪の荒男は彦といい、女は奇姫と言った。彦は、船中に息子の高彦を認めて声をかけた。彦、高彦、奇姫は再会を果たし、船中にて高彦と奇姫は夫婦の契りを結んだ。そして三人手を取り合って宣伝歌を歌い、神に感謝を捧げた。船中の客がこの有様をさまざま話し合っているうちに、船は沓嶋の港に無事に着いた。高彦は天久比奢母智司の前身である。奇姫は、久比奢母智司の前身である。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年01月31日(旧01月04日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年5月31日 愛善世界社版101頁 八幡書店版第2輯 71頁 修補版 校定版106頁 普及版43頁 初版 ページ備考
OBC rm0717
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本文  夜は漸くに明け離れ、東海の浪を割つて昇る朝暾の光は、さしもに広き海原を忽ち金色の浪に彩り、向ふに見ゆる島影は、ニウジーランドの一つ島、大海原彦の鎮まりゐます、真澄の玉の納まりし、治立大神の穿たせ玉ひし沓嶋。浪の間に間に浮きつ沈みつする様は、荘厳身に迫るの思ひあり。
 怪しき船に跨がりて、浪に漂ふ男女の影は、船を目掛けて近より来る。よくよく見れば豈図らむや、猛り狂ふ浪間に身を投げ捨てたる白雪郷の若き女と、白髪交りの長髪の男の二人なりき。日の出神は麾き「来れ、来れ」と呼ばはれば、男女を乗せたる怪しき影は、やうやう船に近寄りきたるを見れば巨大なる亀なりき。二人は直ちに船に飛び乗りぬ。巨大の亀は日の出神に打ち向ひ、熟々顔を見交はしつつ又も姿を海深く没したりける。嗚呼この亀は何神の化身ならむか。
 二人は此処に再生の思ひをなして再び船中の客となり、日の出神に打ち向ひ、涙を湛へながら各自の経歴を物語り、且つ、
『海中に身を投ずる折しも、何処よりともなく一道の光明が現はれて来ました。妾はその光を眼当に浪に漂ひ、浮きつ沈みつ参りました。私の後より一人の男又も追つかけ来り、そうかうするうち、光は消えて真の暗、身は何物かの上に二人とも乗せられて居ました。さうして日の出神様の宣伝歌は、猛り狂ふ風の音、浪の響きを透して手に取る如く聞えました。私はその歌について共に合唱いたしました。不思議や天津御空は晴れ渡り、風凪ぎ浪静まり、長閑な春の浪の上に比類稀なる大亀の背に救はれ御船に助けられたる嬉しさを、いつの世にかは忘れませう。実に有難き大神の深き恵みや』
と、嬉し涙に暮れて二人は交る交る感謝する。
 一人の名は彦と云ひ、この女は奇姫と云ふ。彦は傍らに黙然として俯き居る男の顔を横目に見て、
『ヤアお前は高彦か』
と叫べば、若き男は、
『アヽ、父上様か、若気の致り、尊き親の恩を忘れ、えらい苦労をかけました。お赦し下さいませ。ただ何事も今までの罪は見直し聞き直し、宣り直しを願ひます』
と涙と共に語る。彦は両眼に涙を浮べ、
『アヽ高彦、天にも地にも親一人子一人、如何してお前を憎もうぞ。老先短い我が命一人の我子に生き別れ、この世に生きて詮もなし、たとへ汝の行方が一生知れぬとも、汝の渡りし常世ののせめて土になりたいと思ひ定めて、此処まで来た親の心、どうしてお前が憎からう、心配するな。お前が里の規則を破り白雪郷を追放せられたその後は、後に残りし老の身の明暮涙の袖を絞るばかりであつたが、如何なる神の御引き合せか渡る世間に鬼は無い。それにも一つ嬉しいは、お前の慕うた彼女はいま此処に来てをる。俺がこれから仲媒して、天晴親子夫婦の契を結ばせやう。オイ高彦、可憐の女に、よう来たと柔しい言葉をかけてやれ。広い世の中に親となり、子となり、女房となるも昔の神代から神の結びし深い因縁、同じ船の一蓮托生』
と嬉し涙にかき曇る。此処に親子夫婦の契を結び、三人手に手を取つて宣伝歌を歌ひ神に感謝を捧ぐる殊勝さよ。船の一方には、
甲『オイ、馬鹿にするじやないか。お安くないところを見せつけよつて、俺もかうはして居るものの、に帰れば、皺だらけの父母もあれば、頗る別嬪の女房もあるのだ。それで近所の奴等あ、俺の事を歌に唄ひよつて「よい嬶持つたが一生の徳だよ、近所も喜ぶ、爺も喜ぶ、お婆も喜ぶ、第一熊さま喜ぶ、熊さまどころか、伜も喜ぶ」とこんな歌を唄ひよるのだよ』
乙『オイ、涎を拭かぬか、見つともない』
熊『あまり嫉妬ない、あまりやくと色が黒くなるぞ』
乙『貴様とこの嬶は、あれでも別嬪だと思うて居るのか、笑はしやがる。鼻は獅子舞、眼玉は猫で、菊石だらけで、おまけに跛者と来て居るのだから、悪い事にかけたら完全無欠だ。ウンその尻で思ひ出した、貴様の嬶は村中にない大きなだん尻をぶりぶりさしよつて、歩く態つたらありやしないよ。それでも貴様はみつちやも笑靨、獅子鼻も却つて優らしい、歩く姿は品がよい位に思つて居るだらう。ほんとにお目出度い奴だよ』
熊『オイ、小さい声で云はぬかい、人の前だぞ。此処に居る奴は俺の嬶のことを知りやしない、それだから別嬪らしう俺が云つて居るのに貴様が大きな声で素破抜きよつて、あまり気が利かぬぢやないか。些と心得て呉れぬと困るよ』
乙『困るたつて、事実は事実ぢやないか。貴様とこの嬶はどて南瓜の七お多福で、おまけに菊石面で、ど跛者で大きなだん尻をぶりぶりさして歩いて居る姿たら見られた態ぢやないぞ。それで俺のところの村の名物だ』
と態と大きな声で呶鳴るを、熊公は『シツ』と低い声で制してゐる。
乙『貴様「シツ」なンて俺を牛でも追ふやうな扱ひをしよるのか、俺が牛なら貴様は熊だ。黒熊、嬶大明神ばかり拝むで居る赤熊穴熊さまだよ』
と自暴自棄気味になつて喋りたてて居る。かく話す中に船は沓嶋の港に無事に着きけり。
 高彦は天久比奢母智司の前身にして、奇姫は久比奢母智司の前身なりける。
(大正一一・一・三一 旧一・四 加藤明子録)
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