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文献名1霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻
文献名2第3篇 虎熊惨状よみ(新仮名遣い)とらくまさんじょう
文献名3第16章 泥足坊〔1672〕よみ(新仮名遣い)でいだるぼう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグスーラヤの湖(スダルマ湖の別名) データ凡例 データ最終更新日2018-07-07 22:28:58
あらすじ
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年07月17日(旧06月4日) 口述場所祥雲閣 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年4月14日 愛善世界社版183頁 八幡書店版第11輯 675頁 修補版 校定版191頁 普及版84頁 初版 ページ備考
OBC rm6516
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本文の文字数2548
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本文  神の教の三千彦が  スダルマ湖水の西岸に
 無事安着の折もあれ  初稚姫のあれまして
 三五教の宣伝は  同行ならぬと手厳しく
 いましめられて是非もなく  伴ひ来りしデビス姫
 涙とともに袂をば  別ちて一人スタスタと
 姫の身の上案じつつ  ハルセイ山の峠をば
 半登りし折柄に  道のかたへに悲しげに
 倒れて泣ける女あり  何人ならむと立寄つて
 つらつら見れば此は如何に  年は二八の花盛り
 伊太彦司が最愛の  ブラヷーダ姫と覚りしゆ
 労はり助け介抱し  厚き情にほだされて
 胸に焔の炎々と  立上りたる苦しさに
 心は同じ恋の暗  月下に抱き泣きゐたる
 時しもあれやデビス姫  ここに突然現はれて
 心の迷ひを説き明かす  二人は恋のさめて
 汚れし心を悔悟なし  詫ぶればデビスに非ずして
 木花姫の御化身  尊き神の御試しに
 会ひし二人の胸の裡  可憐の乙女を振棄てて
 人跡稀な山径を  只スタスタと登り行く
 ハルセイ山の峰を吹く  嵐に裾をば煽られて
 足もトボトボ頂上に  上りて見れば三人の
 見知らぬ男が朧夜の  木蔭にひそみ何事か
 声高々と話し居る  三千彦心に思ふやう
 これぞ全く山賊の  往来の人を待ち構へ
 宝を奪ふその為に  よからぬ事の相談を
 なし居るならむと傍の  木蔭に腰を打卸し
 様子如何にと聞き居たる。
甲『オイ、随分恐ろしかつたぢやないか。今通つた奴は、一体ありや何だらうな。何程勇気を出して呼びとめようと思つても、あまり先方が大きな男だものだから、怖気がついて、自然に身体が慄ひ、どうする事も出来なかつたのだ。あんな奴に出会ふと泥さまもサツパリ駄目だのう』
乙『うん、彼奴ア何でもデーダラボッチに違ひないぞ。大きな法螺貝の様な声を出しやがつて、四辺の山や谷を響かして通りやがつた時の怖さと云つたら、体が縮まる様だつた。睾丸は、何処かへ転宅する。心臓院の庵主さまは荷物を引担げて遁走する。肺臓院の半鐘は急を訴へる。五臓郡六腑村の百姓は鍬を担げて逃げ出す。本当に小宇宙の君子国は、地異天変の乱痴気騒ぎだつたよ。その結果、俺の顔まで真青になつて了つたよ』
丙『ハヽヽヽヽ、弱い奴だな。あんな小さいデーダラボッチがあるかい。デーダラボッチと云へば大道坊とも泥足坊とも別称して、スメール山を足で蹴り倒し、印度の海を埋めようとするやうな大道者だ。俺達の大道路妨とはチツとは選を異にしてゐるが、然し乍ら今通つた奴は屹度比丘に違ひないぞ。貴様の目はあんまり、びつくりして目の黒玉が転宅して、白目許りになり、視神経の作用で、さう大きく見えたのだらう。大きいと云つても八尺位のものだ。キツト彼れは軍人上りの比丘に違ひないわ。疑心暗鬼を生ずと云つて、恐い恐いと思つてるから、そんな幻映を生じたのだ。チツとしつかりせぬと此商売は駄目だぞ』
乙『成程比丘かも知れぬ。体中が比丘々々しよつた。ハルセイ峠の二度ビツクリと云つて、如何に聖人君子の泥棒さまでも、此峠丈けは一度や二度はビツクリする事はあると、昔から定評があるのだ。三五教の宣伝使が「胴を据ゑ、腹帯をしめて居らぬと、ビツクリ箱が開くぞよ、今にビツクリして目まひが来るぞよ。フン延びる人民沢山出来るぞよ」と謡ひもつて通りよつた。チとビツクリに慣れて置かぬと、吾々の商売は真逆の時に、十二分の活動が出来ぬからのう。何と云つても貴様等二人は新米だから仕方がないわ』
甲『オイ、何は兎もあれ、今晩はテンと仕事がないぢやないか。折角香ばしさうな奴が来たと思へば、吾は伊太彦宣伝使なんて、肝玉の飛び出る様な声で通つて了ひやがる。今度は四五人の足音がしたので一働きやらうと思ひ、捻鉢巻で木蔭に潜んで居れば、デーダラボッチのやうな比丘が通りやがる。本当に怪体が悪いぢやないか。俺達のやうな新米は到底あんな奴にかかつたら駄目だ。年の若い、足の弱い、女でも通りよると、都合が宜いのだけどなア』
乙『さうだ。俺達は人間相手の商売だ。人間は男許りぢやない。爺も婆もある。時には若い女もあるだらう。小口から無理に手を出すと失敗るから、マアよい鳥が来る迄、ここで待つのだな』
甲『待つ身につらき沖の舟
  ほんに遣る瀬がないわいな
   チヽツヽシヤン シヤン シヤン
アツハヽヽヽヽ』
丙『馬鹿、何を惚けてゐるのだ。千騎一騎ぢやないか』
甲『何、歌でも謡つて肝玉を錬つて大きくしてるのだ。英雄閑日月あり、綽々として余裕を存する事大空の如しだ』
乙『ヘン、よう仰有りますわい。鮟鱇の様な口から阿呆らしい、そんな歌がよく謡へたものだ。貴様の口つたら丸で河獺の様だぞ。貴様が飯を喰ふ時は、狐のやうに口を尖らし、鼻が曲り、顔一面が丸で馬のやうに躍動するんだからな。そして頭許り無茶苦茶に動かしやがつて、額口から上が縦に振動くと云ふ怪体な御面相だから、泥棒の嚇し文句もサツパリ駄目だ。驚く処か向ふの方から笑つてかかるのだもの、飯食ふ時ばかりか、一言喋つても顔中が縦横十文字に躍動すると云ふ、珍な代物だからサツパリ駄目だい。一層の事、貴様は泥棒を廃して、ハルナの都の裏町辺で小屋者となり、顔芸でもしたら、人気を呼ぶかも知れないぞ。ハヽヽヽヽ』
甲『コリヤ、こんな山の上で人の顔の棚卸しばかりしやがつて、あまり馬鹿にするな。之でも泥棒さまとして、相手によつては睨みが利くのだ。マア俺の過去は咎めず、将来の活動を見てをれ。「あんな者がこんな者であつたか」と申して、貴様等がビツクリするやうな大事業をして見せるわ』
乙『ヘン、御手並拝見した上で、その業託は聞かして貰はうかい』
 三千彦は三人の話を、木蔭に潜んで面白がつて聞いてゐた。
三千彦(独言)『然し乍らブラヷーダ姫は後からここを上つて来るに違ひない。屹度此奴等三人の為に裸体にしられ、凌辱を受けるかも知れないから、ブラヷーダさまが無事、ここを通過する迄、此木蔭に潜んで待つて居らう。もし事急なりと見れば、デーダラボッチだと云つて嚇かして散らしてやれば宜いのだ。うん、さうださうだ』
と一人頷き乍ら息をこらして控へてゐる。
 折から細いやさしい女の宣伝歌が聞えて来た。泥棒連は耳を澄まして無言の儘、様子を窺つてゐる。
(大正一二・七・一七 旧六・四 於祥雲閣 北村隆光録)
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