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文献名1霊界物語 第9巻 霊主体従 申の巻
文献名2第5篇 百花爛漫よみ(新仮名遣い)ひゃっからんまん
文献名3第27章 月光照梅〔420〕よみ(新仮名遣い)げっこうしょうばい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-06-23 23:16:29
あらすじカルの国をただ一人で宣伝して回っていた梅ケ香姫は、はざまの森に着いた。疲れ果てて一歩も進むことができない身の上を一人嘆いている。はざまの森では鷹取別の密偵たちが、三五教の宣伝使を捉えようと潜んでいたが、梅ケ香姫の様子が幽霊のようにも見え、おびえている。一人が梅ケ香姫に声をかけたが、梅ケ香姫は幽霊の振りをして密偵たちを追い払った。梅ケ香姫が一人祝詞を上げていると、そこへ先ほどの密偵たちの一人がやってきた。そして、自分はカルの国の役人だが、実は三五教を密かに奉じる者であり、ぜひ家に泊まっていただきたい、と申し出た。また、鷹取別は桃上彦の三人の娘が三五教の宣伝使となって北上していることを察知し、捉えようと多くの密偵を放っていることを明かし、梅ケ香姫に注意を促した。梅ケ香姫は親切に感謝し、この役人の家に世話になることにした。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月16日(旧01月20日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年7月5日 愛善世界社版211頁 八幡書店版第2輯 350頁 修補版 校定版219頁 普及版89頁 初版 ページ備考
OBC rm0927
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本文  夜を日についでひるの国  虎伏す野辺や獅子大蛇
 曲津の声に送られて  大川小川を打渡り
 やつれ果てたる蓑笠の  身装も軽きカルの国
 花の蕾の梅ケ香姫の  君の命はただ一人
 女心の淋し気に  神を力に誠を杖に
 草鞋脚絆のいでたちは  実に勇ましの限りなり
 梅ケ香薫る春の日も  何時しか過ぎて新緑の
 滴る山野は冬の空  嵐の風に吹かれつつ
 秋の紅葉も散りはてて  ふみも習はぬ常世国を
 行き疲れたる雪の道  太平洋の波高く
 大西洋に包まれし  高砂島と常世国
 陸地と陸地、海と海  つなぐはざまの地峡国
 梅ケ香姫はやうやうに  はざまの森に着きにけり。
 木枯の風は雪さへ交へて、獅子の吼るやうに唸り立つてゐる。太平洋の波を照らして、十六夜の月は海面に姿を現はしたり。梅ケ香姫は只一人、浪を分けて昇る月影に向つて、
『あゝ今日は十六夜のお月さま、何時見ても美はしい御顔。妾も同じ十六歳の女の一人旅、変れば変る世の中ぢやなア。想ひ廻せば、時は弥生の三月三日、花の都と聞えたる聖地ヱルサレムを主従四人立出でて、踏みも習はぬ旅枕、千万の艱みを凌ぎしのぎて遠き海原を渡り、神の恵みの有難くも恋しき父に廻り会ひ、親子の対面、やれやれと喜ぶ間もなく妾姉妹は、神様のため、世人のために尊き宣伝使となつて、又もや山坂を越え荒海を渡り、あらゆる艱難と戦ひ、ここに力と頼む主従四人は、珍山彦の神の誡めに依つて東西南北に袂を別ち、四鳥の悲しみ、釣魚の涙、乾く間もなき五月の空、珍の都を後にして、便りも夏の荒野を渉り、秋も何時しか暮果てて、はやくも冬の初めとなつたるか。神のため、世のためとは言ひながら、さてもさても淋しいこと、神様を力に誠を杖に、やうやう此処まで来るは来たものの、もう一歩も進まれぬ。疲労れ果てたるこの身体、あゝ何とせむ』
と袖に涙を拭ふ折しも、前方より二三の老若この場に現はれ、
甲『オイオイあのはざまの森蔭を見よ、出たぞ出たぞ』
乙『何が出たのだ』
甲『出たの出んのつて、それ霊ぢや霊ぢや』
乙『霊とはなんだい』
甲『今夜のやうな風の吹く晩には、得てして出る奴ぢや。蒼白い痩せた面をして眼をギロツと剥いて、髪をさんばらに垂らしてお出る御方だ。霊は霊ぢやが、霊の上に幽がつくのだよ。それ見い、木枯がヒユウヒユウと呻つてゐる。オツツケ其処らからドロドロだ』
丙『何を威嚇しよるのだ。幽霊も何もあつたものか。何ぢや貴様達は、ビリビリ慄ひよつて、声まで怪しいぢやないか』
甲『慄ふとるのぢやないワイ。何だか身体が細かく動いとるのぢや』
丙『何は兎もあれ、何だか独語を言つてゐるやうだ。そつと行つて偵察をして見やうかい』
甲『貴様、先へ行け』
丙『ハハア恐いのだな。気の弱い奴ぢや、そんな事で吾々の探偵が勤まるか。鷹取別の神さまより、三五教の女宣伝使がはざまの国を渡つて常世の国へ行くと云ふことだから、女宣伝使を見つけたらふん縛つて連れて来いと云つて、吾々は結構なお手当を頂いて夜昼かうして廻つて居るのぢやないか。若も彼んな奴が、その中の一人ででもあつて見よ、吾々は結構な御褒美をドツサリ頂戴して、親子が一生遊んで暮さるるのだ。恐い処へ行かねば熟柿は食へぬぞ、虎穴に入らずむば虎児を獲ずだ。一つ肝玉を出して、貴様から先へ偵察をして来い』
甲『アヽそれもさうだが、何だか気味が悪いな。ヤーそれなら三人手を繋いで、一緒に行かうかい。宣伝使と云ふ事が判れば、別に恐い事も何ともありやしないワ。一人の女に三人の男だ。磐石を以て卵を破るよりも易い仕事だ。併しながら幽の字と霊の字であつたら貴様はどうするか』
乙『幽霊でも何でも三人居れば大丈夫だ。しつかり手を繋いで行つて見ようかい』
と甲乙丙は、梅ケ香姫の休息する森蔭に現はれ来り、
甲『ヤイ、その方は何者ぢや。生あるものか、生なきものか、ユヽヽヽ幽霊か、バヽヽ化物か』
乙『セヽヽヽ宣伝使か、宣伝使なれば鷹取別の神様に……』
丙『シツ、何を云ふのだ。馬鹿な奴だな。モシモシお女中、一寸物をお訊ね致します。貴女は吾々の信ずる尊き有難き三五教の宣伝使で御座いませう。何卒ハツキリと御名告り下さいませ』
 木枯の風はヒユウヒユウと吹き捲つてゐる。浪の音はドンドンと響いて来た。梅ケ香姫は雪のやうな白き、細き手をぬつと前に出し、
『あゝ怨めしやな、妾は嶮しき山坂を越え……』
甲乙丙『ヤア、這奴はたまらぬ。矢張り霊ぢや霊ぢや、霊の上に幽の附く代物だよ。遁げろい遁げろい』
と尻をひつからげ雲を霞と遁げ去つたり。梅ケ香姫は、悄然として独言。
『水も洩らさぬ悪神の仕組、鷹取別は妾姉妹の行方を探ね苦しめむと企つると聞く。繊弱き女の一人旅、アヽせめて照彦でも居て呉れたならば、こんな時には力になつて呉れるであらうに、アー、イヤイヤ師匠を杖につくな、人を力にするな。神は汝と倶にありとの三五教の教、アヽ迷ひぬるか、女心のあさましさよ。たとへ如何なる強き敵の現はれ来るとも、誠一つの言霊の力に、百千万の曲津見を言向け和さねばならぬ神の使だ。アヽ神様許して下さいませ』
大地に平伏し、木の間洩る月に向つて、声低に感謝の祝詞を奏上する折しも、最前現はれし三人の中の一人、丙は突然としてこの場に現はれ、
『ヤア貴女は三五教の宣伝使、昔はヱルサレムの天使長桃上彦命の御娘と承はつて居りました。ここは鷹取別の神の警戒激しく、貴女様三人の御姉妹を召捕るべく四方八方に探女を遣はし、蜘蛛の巣の如き警戒網を張つて居ります。私も実はその役人の一人、今三人連れで様子を窺へば、まさしく宣伝使の一人と悟つた故、二人の同役を威喝して、まき散らして私は忍んで参りました。私の家は実にむさ苦しい荒屋で御座いまするが、暫らく警戒の弛むまで、わが家にお忍び下さいますれば有難う御座います。この国はウラル彦の教の盛んな所で、三五教のアの字を言つても、酷い成敗に遇はねばならぬ危い所でございます。私も元はウラル教を信じて居りましたが、貴女様一行がてるの国からアタルの港へお渡りになるその船の中に於て、三五教の尊き教理を知り、心私かに信仰致して居りますもの、私の妻も熱心なる三五教の信者でございます。かういふ処に長居は恐れ、又もや探偵の眼にとまれば一大事、どうぞ一時も早く、私の家へ御越し下さいませぬか』
『アヽ世界に鬼はない、御親切は有難う御座います。併しながら何事も惟神に任したこの身、たとへ鷹取別の前に曳き出され、嬲殺しに遇はうとも、苟くも宣伝使たる身を以て、人の情にほだされて、たとへ三日でも五日でも空しく月日が過されませうか。神を力に誠を杖に、飽くまでも宣伝歌を唱へて行く処まで参ります。また貴方様に捕へられて、鷹取別の面前に曳出さるるとも、これも何かの神様のお仕組、御親切は有難うございますが、貴方の家へ忍び隠るることだけは許して下さいませ』
『イヤ如何にも感じ入りたるお言葉、理義明白なる仰せには、返す言葉もございませぬ。併しながら、袖振り合ふも多生の縁、これも何かの神様のお引合せでございませう。アヽ然らば私の家へ隠れ忍ぶと云ふ事はなさらずに、何卒一晩私の家へ御出で下さいまして、女房に尊き三五教の教を聴かしてやつて下さいますれば有難うございます』
『アヽ然らば不束ながら神様の教を伝へさして頂きませう』
『早速の御承知、有難う御座います』
と先に立つて行く。又もや後の方に当つて、騒がしき人声聞え来る。
 見れば、鷹取別の紋の入つた提燈の光が木蔭に揺らぎつつ、足早に此方に向ひ来たる模様なり。
(大正一一・二・一六 旧一・二〇 外山豊二録)
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