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文献名1霊界物語 第10巻 霊主体従 酉の巻
文献名2第1篇 千軍万馬よみ(新仮名遣い)せんぐんばんば
文献名3第5章 狐々怪々〔435〕よみ(新仮名遣い)こんこんかいかい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-12-24 01:41:02
あらすじロッキー山の命令を聞いた常世神王は、お気に入りの三姉妹を差し出すのに忍びず、身代わりとして、間の国の春山彦の三人娘を差し出そうとする。早速遠山別が三人娘を迎えに間の国へと出立した。そこへ、間の国で捕らえた三五教の宣伝使・照彦が護送されてきた。照彦は護送の駕籠からでると、座敷にどっかと座して常世城の没落を不適にも予言すると、笑い声と共にどこかへ消えてしまった。一同はあっけに取られたが、竹山彦は狐のいたずらであろう、と笑っている。そこへ門番の蟹彦が、照彦が門前で現れて暴れている、と注進があった。急いで駆けつけると、そこには誰もおらず、ただ月が皓皓と照っているのみであった。彼方の森からは狐の鳴き声が聞こえてくる。
主な人物 舞台常世城 口述日1922(大正11)年02月19日(旧01月23日) 口述場所 筆録者東尾吉雄 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年8月20日 愛善世界社版42頁 八幡書店版第2輯 405頁 修補版 校定版45頁 普及版19頁 初版 ページ備考
OBC rm1005
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本文  美山別、国玉姫の二人の上使の悠々と帰りし後の奥殿は、何となく一座白けて、互に吐息の聞ゆるのみ。
『ワハヽヽヽヽ、何とまあ、世の中はままならぬものだなア。吾々が力を尽し心を竭して照山彦と二人で、松、竹、梅の三人を此処までお供を申し上げ、常世神王様の御機嫌斜めならず、吾々もお蔭で神王様にお賞めの詞を戴いて喜ぶ間もなく、有為転変の世の中とは云ひながら、変れば変るものだなア。手を覆へせば雲となり、手を翻へせば雨となる。折角喜んで連れ帰り、常世城内に錦上更に花を添へたと思つたのは束の間、夢か現か幻か、ロッキー山の大神様より、松、竹、梅の三人を速かに生擒にして送つて来いとの御厳命、あれ程御機嫌のよい常世神王様に、如何してその厳命を伝へられやうか。屹度掌中の玉を奪られたやうに、失望落胆の淵に沈まれるのは見えるやうだ。マアマアお役目柄、斯う云ふ時は下役の竹山彦は都合がいいワイ。サアサア鷹取別さま、上使の趣、常世神王へ御奏上遊ばさるがよからう』
鷹取別、鼻のベシヤゲた顔をあげて、
『フガフガホンガ……ホンナホトハ、ハタハタハタドリハケガフハズトモ、フチノヨウヒク、ハケハマヒコガ、ソソモンヒテフレ』
『フガフガフガ、ホンナホトハなんて、何の事だか竹山彦にはさつぱり分りやしない。ハナハナもつて困り入つた。ヤア、仕方がない、遠山別さまの番だ。フヤクホウジヨウハサレハセ』
 遠山別は苦虫を噛むだやうな面付しながら、むつくと立ち、寝殿目蒐けて足重たげに、ノソリノソリと出でて行く。
『折角生命がけになつて猪を捕つた犬が、猟師に鉄砲の台で頭をこづかれたやうなものだなア。酒屋へ三里、豆腐屋へ五里の山坂を越えて、漸う油揚を買つて大方家の軒まで帰つた時に、空の鳶に禿頭をコツンとやられて、吃驚して腰を抜かした矢先、油揚を攫へて去なれたやうな、面白からぬ有難くもない怪体な場面だ。常世神王様も短い夢を見られたものだ。今夜のやうなこんな結構な、丸で婚礼見たやうに、目出度いめでたいとよろこんだ間もなく、コンコンさまに魅まれたやうに、何が何やらさつぱりコンと訳が判らぬ事になつて了うた。それだからコンタンは夢の枕と云ふのだ。ああ、コンコンチキチン、コンチキチンだ。春山彦がよろこんで隠まうて居つた綺麗な女を、鷹取別が鷹が雀を掴むやうに引奪つて帰つて、常世神王に賞めてもらつて、鼻高々と今夜は帰つて女房に自慢をしようと思つて居たのに、鼻はメシヤゲてこんな態、それについても常世神王の広国別さま、今夜の驚きはお察し申す。コンナコントラストが又と世界にあるものか。鼈に尻をぬかれたと言はうか、嘘を月夜に釜をぬかれたと言はうか、たとへ方ない今晩の仕儀、実にコン難コン窮の至りだ。コンコンチキチン、コンチキチンだ』
照山彦『オイ竹山彦、ソンナ無駄口を言つてる場合ぢやなからう。何とか善後策を講じなくてはならないのだ。お前もいよいよ鷹取別さまと肩を並べる様になつたのも、三人の娘を首尾よく連れて帰つたお蔭ぢやないか。神王様のお心をお察し申せば、そんな気楽な事を言うて居られるかい』
『ハテ、困つたなア、誰ぞよい智慧貸しては呉れまいか、この竹山彦に』
 かかる処へ、広国別の偽常世神王は、遠山別を従へこの場に現れ、気分勝れぬ面もちにて、
『アイヤ皆の者、松、竹、梅の三人を、一時も早くロッキー山の館にお送り申さなくてはならぬ。ぢやと申して……』
竹山彦『ぢやと申して、鬼と申して、虎と申して、竹山彦には何とも、しし仕様がありませぬワイ。これは一つ鷹取別さまに智慧を貸して貰ひませう。モシモシ、ハタホリアケハン、ホイケンハ、ホウデホザリマス』
とわざと鼻声を出す。鷹取別は、
『フガフガフガ』
と解らぬ言語を続けるのみ。
『折角予が気に入つたる三人の娘、お渡し申すは本意なれど、今暫く当城内に留め置きたし。吾聞く、春山彦には、月、雪、花の三人の花の如き娘ありとのこと、手段を以て三人の娘を連れ帰り、身代りとしてロッキー山に送らば如何に』
『イヤ、遉は常世神王さま、天晴れの妙案、遠山別言葉を構へ、これより間の国に向ひ、三人の娘を召し連れ帰らせませう』
『委細は汝に任す。よきに取り計らへよ』
『ワハヽヽヽ、妙案々々妙ちきチン、コンコンチキチン、コンチキチン、竹山彦、カンカンチキチン、カンチキチン』
 斯かる処へ、目付役の雁若は慌しく進み来り、
『申上げます。ただいま中依別様、間の国より三五教の宣伝使、照彦と云ふ豪の者を唐丸駕籠に乗せ御帰城でございます。如何取り計らひませうか』
『アイヤ、遠山別、その他一同の者、中依別の連れ帰りし照彦とやらを、この庭前に引き据ゑ、詳細なる訊問いたせ』
一同『ハハーツ』
 常世神王は悠々として寝殿さして進み入る。
    ○
(話は少し元へ返る)
 馬に跨り悠々と意気衝天の鼻息荒く、三五教の宣伝使照彦を捕へて、常世城の門前に立帰つたる中依別は、門の戸叩いて大音声。
『アイヤ、門番、中依別なるぞ。速かにこの門開け』
蟹彦『ヤ、ナンヂヤ、又妙な奴がやつて来たのでないかな。中よりアケなんて、決つたことを言ひよるワイ。閂のした門を、中より開けるのは当然だ。外より開けられる門なら、外から呶鳴らなくても、黙つて開けて這入ればいいのだ』
とつぶやきながら、閂を左右にソツと開いた。
 中依別は馬に跨りながら、
『アイヤ、蟹彦、夜中に開門大儀であつた。この駕籠が通つた後は、門扉を堅く閉め守れよ。ヤアヤア家来の者共、大儀であつた。汝らは各自家に帰り休息せよ』
と云ひ捨てて奥へ奥へと進み行く。
 中依別は中門の外にて馬をヒラリと飛び下り、馬の鬣、顔、首などを撫で擦りながら、
『ヤア、鹿毛よ、長々苦労をかけた。ゆつくり廐へ行つて休んでくれ』
 蟹彦は腰から上の横に曲つた、細長き身体を揺りながら馳せ来り、駕籠の中を一寸覗き、
『イヤー』
と又もや腰を抜かして大地に倒れ伏す。中門はサツと開かれ、中依別は駕籠を舁がせながら奥深く進み入り、庭先に駕籠を下させ、
『只今無事帰城致しました。三五教の宣伝使照彦、よく御検視下さいませ』
竹山彦『ヤー、これはこれは中依別殿、お手柄お手柄、定めて別嬪で御座らうな』
『イヤ、なに竹山彦殿、八字髭を生やした、筋骨逞しき鬼をも取りひしぐ大丈夫でござる、御油断あらせられるな』
 鷹取別は鼻声にて、
『ホレハホレハ、ハカハカヒヨリワケカ、ヒヤクメ、ハイギハイギ』
竹山彦『百目、二百目、一貫目、三十貫目の荒男、さぞ重かつたでござんせうな』
『竹山彦殿、冗戯も時にこそよれ、櫛風沐雨、難を冒して使命を全うし、漸く帰り来りし中依別殿、鄭重に御待遇なさらぬか、照山彦御注意申す』
 駕籠の中より、
『三五教の宣伝使照彦とは仮の名、一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、天の数歌名に負ひし戸山津見の神、見参せむ』
竹山彦『ヤア、これは中々手強き奴でござる。アイヤ方々、御油断あるな』
遠山別『拙者はこれより臣下を召し連れ、間の国に出張いたさむ。後は鷹取別殿、照山彦殿、竹山彦殿、万事宜しく頼み入る』
と言ひ捨てて旅装を整へ、馬に跨り、数十人の家来を引き連れ、月の光を浴びながら一目散に進み行く。
 照彦は駕籠の戸開けて立ち現はれ、遠慮会釈もなく座敷の真中にドツカと坐し、
『吾こそは三五教の宣伝使、常世の国の枉神を言向け和すそのために、手段を以て中依別が駕籠に乗り、ここに現はれし上は、汝らが運命も朝日に露の消ゆるが如く、春日に雪の解くるが如く、風前の燈火、扨も扨もいぢらしい者だ。アハヽヽヽ』
と言ふかと見れば、姿は消えて行方も空に白煙、松吹く風の庭木をわたる声のみ聞え来る。
照山彦『合点ゆかぬこの場の仕儀、中依別殿、彼は何者なりしぞ』
中依別『………………』
竹山彦『ワハヽヽヽヽ、此奴、狐の悪戯だらう。多士済々たるこの城中に、人もあらうに中依別の、中にも別けてより処のない馬鹿役人を遣はしたその酬い、泣かぬばかりの顔付して、よりどころなき今の体裁、訳の判らぬ事だワイ。アハヽヽヽヽヽヽ』
 かかる折しも、横歩きの蟹彦は、庭先の樹間潜つてこの場に現はれ、
『御一同に申し上げます。タヽ大変でございます。只今駕籠に乗つて来た罪人は、門前に現はれ、大勢の家来を手玉に取つて、乱暴狼藉の最中、一時も早く彼を召捕り下さいますやう』
鷹取別『ホガホガホガ』
照山彦『素破こそ一大事。ヤアヤア者共、表門に向へ』
竹山彦『コリヤ面白い、ワハヽヽヽヽ』
 照山彦は数多の家来を引連れ、門前に慌しく走り出て見れば、こはそも如何に、見渡す限りの馬場先は、皎々たる月に照らされ昼の如く、人影らしきもの目に当らず寂然たり。照山彦は両手を組み、首を傾け、
『ハテナー』
 彼方の森蔭より、何物の声とも知らぬ、
『コンコン、クワイクワイ』
『今のは狐の声ではなからうかな』
(大正一一・二・一九 旧一・二三 東尾吉雄録)
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