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文献名1霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅の巻
文献名2第4篇 神行霊歩よみ(新仮名遣い)しんこうれいほ
文献名3第20章 五十世紀〔587〕よみ(新仮名遣い)ごじゅっせいき
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-01-20 21:04:36
あらすじ三人はどうやって鏡の岩を突破しようかと思案に暮れている。松彦は、河鹿峠で吹き飛ばされて失った、三人の肉体の死骸と、乗ってきた馬の死骸を持ってこなくては、天国に入れない、と謎をかける。厳彦は、松彦の謎にある「馬」は心の駒を表し、「肉体」は魂のことであると気づいた。そうして、自分たちが天国の美しさに心の駒の手綱を緩め、魂を宙に飛ばしてしまい、祝詞の奏上を忘れていたことに気づいた。三人が天津祝詞を合奏すると、鏡の岩が自然に開かれて、大きな道が現れた。一行が進んで行くと、向こうから小さな五人連れの男女が歩いてきた。松彦は、これは五十世紀の人間の魂である、と説明した。一行は美しい湖水の岸についた。松彦は三人を舟に迎え入れると、高天原さして漕ぎ出した。やがて、波の彼方の一つ島に、麗しい金殿玉楼が見えてきた。一行は上陸すると、壮麗な門をくぐり、松彦の案内で中に進んで行く。
主な人物 舞台 口述日 口述場所 筆録者藤津久子 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年12月5日 愛善世界社版256頁 八幡書店版第3輯 374頁 修補版 校定版254頁 普及版117頁 初版 ページ備考
OBC rm1520
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本文  松彦の天使に伴はれた一行三人は、鏡の岩にピタリと行当り、如何にして此関所を突破せむかと首を傾けて、胸に問ひ心に掛け、首を上下左右に静かに振り乍ら、やや当惑の体にて幾何かの時間を費やしゐたり。
玉彦『吾々は現界に於ても、心の鏡が曇つてゐる為に、万事に付け往き当り勝ちだ、神界へ来ても矢張往き当る身魂の性来と見える哩。アヽ、どうしたら宜からうな。見す見す引返す訳にも往かず、何とか本守護神も好い智慧を出して呉れさうなものだなア』
松彦『貴方はそれだから不可ないのですよ。自分の垢を本守護神に塗付けるといふ事がありますか』
玉彦『吾々は常に聞いて居ります。本守護神が善であれば、肉体もそれに連れて感化され、霊肉共に清浄潔白になり天国に救はれると云ふ事を固く信じてゐました。斯う九分九厘で最上天国に行けぬと云ふことは吾々の本守護神もどうやら怪しいものだ。コラコラ本守護神、臍下丹田から出て来て、此の肉の宮を何故保護をせないのか、それでは本守護神の職責が尽せぬでは無いか。肉体天国へ行けば本守護神もが行ける道理だ。別に玉彦の徳許りでない、矢張本守護神の徳にもなるのだ。何をグヅグヅして居るのかい』
と握り拳を固めて臍の辺をポンポン叩く。
松彦『アハヽヽヽ、面白い面白い』
玉彦『之は怪しからぬ、千思万慮を尽し、如何にして此鉄壁を通過せむかと思案にくるるのを見て、可笑しさうに吾々を嘲笑なさるのか、貴方も余程吝な守護神が伏在して居ますな』
松彦『天国には恨みも無ければ悲しみも無い。亦嘲りもありませぬ。私の笑つたのは貴方の守護神が私の体を籍つて言はれたのですよ』
玉彦『さう聞けば、さうかも知れませぬな。これこれ厳彦サン、楠彦サン、貴方がたの本守護神は何と仰有いますかな』
楠、厳『アア未だに何とも御宣示がありませぬ。茲暫らく御沈黙の為体と見えます哩。斯うなると実に恥しいものだ。吾々の背後には立派な女神の守護神が鏡に写るのが見える、有難い、吾々は何と云つても矢張身魂が立派だから、守護神もあの通り立派なと思う刹那、パツと消えて了つて後には霊衣さへ見えなくなつて了つた。アヽ心の油断といふものは恐ろしいものだナア』
松彦『貴方がたは何か一つ落して来たものはありませぬか』
『最早娑婆の執着心を捨てた以上は、落すも落さぬもありませぬワ。強つて落したと云へば執着心位のものでせうよ』
松彦『イーエ、ソンナものぢやありませぬ。貴方がたに取つて、高天原の関門を通過すれば容易に通過が出来ます』
玉彦『コレコレ楠サン、厳サン、お前たち何か落した物が思ひ出せないか』
厳彦『オー思ひ出した。河鹿峠を下る時に、大切な馬一匹と自分の肉体を一つ落して来た様に記憶が浮んで来る。落したと云つたら、マアソンナ物だらう。もしもし松彦サン、馬の死骸や人間の死骸を拾つて来なくては此処が通過出来ないのですか』
松彦『さうです。馬の死骸と人間の死骸を拾つて来なさい。さうすれば容易に通過が出来ませう』
玉彦『一寸待つて下さい。貴方の仰有る事は少し脱線ぢやありますまいか。斯の如き四面玲瓏たる天国に左様な穢苦しい死骸を持つて来てどうして関門が通過出来ませうか。清きが上にも清き天国に、死んだ馬を引ずつて来た処で乗る訳にも往かず、一足も歩く訳にも往くまいし、ハテ訳の分らぬ事を仰有ります哩』
松彦『サア其落した馬と人間の死骸を生かしさへすれば、立派に通過が出来るのだ。マア一寸本守護神と篤り御相談をなさいませ。私はそれまで此処に待つて居ます』
玉彦『ヤア御忙しいのに済みませぬな』
厳彦(横手を打ち)『ヤア分つた分つた、本守護神の囁きに依つて、一切万事解決が着いた。馬を落したと云ふ事は、心の駒の手綱が緩んで何処かへ逸走して了つたと云ふ事だつた。死骸を落したと云ふ事は吾々の身魂が天国の美はしき光景に憧憬れ魂を宙に飛ばして了つたといふ謎であつた。さうして最も一つ大事なのは、神界旅行に必要なる天津祝詞の奏上や神言の合奏であつた。箕売が笠でひるとは此事だ。現界に居る時は一生懸命に、宣伝歌を称へ、天津祝詞の言霊を朝夕奏上したものだ。其言霊の奏上も、天国に自分も救はれ、数多の人を救はむが為であつた。然るに其の目的たる天国に舞ひ上り乍ら、肝腎の宣伝使の身魂を何時の間にやら遺失して了ひ、心の駒は有頂天となつて空中に飛散して了つて居た。アヽ天国と云ふ処は、油断のならぬ処だな、結構な処の気遣ひの処で怖い処だ。サアサア御一同様、天津祝詞を此鏡岩に向つて奏上致しませう』
と一同は夜の明けたる心地して、勇み立ち、天津祝詞を一心不乱になつて百度計り奏上した。鏡の岩は自然と左右に開かれ、坦々たる花を以て飾られたる、清き大道が現はれて来た。三人は声を揃へて、
『ヤア松彦様、有難う御座いました。御蔭様で難関も無事に通過致しました。何分に馴れぬ神界の旅行、勝手も存じませぬから、何とぞ宜しく御世話下さいませ』
松彦『否々、貴方の事は貴方がおやりなさい。現界に於て貴方がたは、常に、人を杖に突くな、師匠を便りにするなと云つて廻つて居られたでせう』
 三人は、
『アハヽヽヽ、余り好い景色で気分が良くなつて何も彼も忘れて了つた。さうすると矢張り執着心も必要だ』
松彦『それは決して執着心ではありませぬ。貴方がたの身魂を守る生命の綱ですよ。ヤア急いで参りませう』
 向ふの方より、身の丈二尺ばかりの男女五人連、手を繋ぎ乍ら、ヒヨロヒヨロと此方に向つて進み来るあり。
玉彦『ヤア小さいお方が御出でたぞ。此処は小人島の様だな。天国にはコンナ小さい人間が住まつて居るのですか。ナア松彦サン』
松彦『何、神界許りか、現界も此通りですよ。一番図抜けて大男と云はれるのが三尺内外一尺八寸もあれば一人前の人間だ。顕幽一致、現界に住まつてゐる人間の霊体が此高天原に遊びに来てゐるのだ。ああやつて手を繋いで歩かないと、鶴が出て来て、高い処へ持つて上るから、其難を防ぐ為、ああやつて手を繋いで歩いて居るのだ』
玉彦『ハテ益々合点が往かなくなつて来た。吾々三人は、常世の国を振出しに、世界各国を股にかけ、現界は大抵跋渉した積りだが、何程小さき人間だと云つても六尺より低い男女は無かつた。赤ん坊だつてあれ位の背丈は、現界の人間なれば持つてゐますよ。貴方、何かの間違ひではありますまいか』
松彦『六尺以上の人間の住まつて居つたのは、今より殆ど三十五万年の昔の事だ。貴方が河鹿峠で帰幽してからは、最早三十五万年を経過して居るのだ。現界は二十世紀といふ、魂の小さい人間が住まつて居た時代を超過し、既に三千年暮れてゐる。現界で云へば、キリストが現はれてから五十世紀の今日だ。世は漸次開けるに伴れて、地上の人間は労苦を厭ひ、歩くのにも電車だとか、自動車、汽車、風車、羽車等に乗つて天地間を往来し、少しも手足を使はないものだから、身体は追ひ追ひと虚弱になつて最早五十世紀の今日では、コンナ弱々しい人間になつて了つたのだ。併し乍ら、十九世紀の終りから二十世紀にかけて芽を吹き出した、三五教の教を信じ不言実行に勉め、労苦を楽しみとしてゐる人間の系統に限つて、夫れと反対に六尺以上の体躯を保ち、現幽神界に於て、神の生宮として活動してゐるミロク人種もありますよ』
三人『吾々は昨夜、河鹿峠で落命したと思つて居るのに、最早三十五万年も暮れたのでせうか。如何に神界に時間が無いと云つても之は又余り早いぢやありませぬか』
松彦『サアお話は聖地に到着の上ゆつくりと致しませう。神様がお待兼ね、ぼつぼつ参りませう』
と先に立つて歩み出した。三人は松彦の後にいそいそと随ひ行く。忽ち眼前に展開せる湖水の岸に着いた。金波銀波洋々として魚鱗の如く日光に映じ、其壮観譬ふるに物なき程である。七宝珠玉を以て飾られたる目無堅間の御船は、幾十艘とも無く浮んでゐる。松彦は、其中最も美はしき、新しき船にヒラリと飛び乗り、三人に同乗を勧め、自ら櫓を操り乍ら、西南を指して波上豊に揺れ行く。湖面は日光七色の波を以て彩どられたる如き波紋を描きつつ、船唄勇ましく聖地の高天原を指して、勇み漕ぎ行く。波の彼方に、霞の上に浮いてゐる黄金の瓦、銀の柱、真珠、瑪瑙、珊瑚、瑠璃、琥珀、硨磲等の七宝を鏤めたる金殿玉楼は太陽の光に瞬きて、六合を照す許りの荘麗を示してゐる。漸くにして船は一つの島に着いた。地上一面に敷かれたる金銀真珠の清庭がある。東の門は巨大なる真珠を以て固められ、西には瑪瑙の神門、南は瑠璃の神門、北には硨磲の神門を以て囲まれ、東北には白金の門、西南には白銀の門、西北には黄金の門、東南には瑪瑙の門を造られ、其他に、八の潜り門は各珍らしき宝玉を鏤められ、其壮観美麗なる事、筆舌の能く尽す処ではない。松彦は先づ東門より三人を伴ひ、静々と進み入る。入口には眉目美はしき男女の天使、満面に笑を湛へて一行を歓迎しつつありき。松彦は是等の美はしき天使に目礼し乍ら、三人と共に奥へ奥へと進み行く。
(大正一一・四・四 旧三・八 藤津久子録)
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