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文献名1霊界物語 第16巻 如意宝珠 卯の巻
文献名2第3篇 真奈為ケ原よみ(新仮名遣い)まないがはら
文献名3第21章 御礼参詣〔611〕よみ(新仮名遣い)おれいまいり
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2024-04-13 16:58:19
あらすじお節は比治山の奥に閉じ込められていたが、悦子姫が助けてくれたことを知ると、平助とお楢は悦子姫に礼を言った。悦子姫は、音彦ら一行を今晩泊めてくれるようにと平助に頼み、平助は承諾した。しかし鬼虎、鬼彦が居ることを知ると、平助はその二人だけは泊めることはならぬ、と言って聞かない。鬼虎、鬼彦もかつて悪事をした手前、恥ずかしくてその晩は平助の家に泊まらず、先を急ぐことにした。平助の家には岩公、勘公、櫟公の三人が宿泊した。晩のうちに平助、お楢、お節も相談して、真名井ケ原の豊国姫神の顕現地にお礼参りに行くことになった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年04月16日(旧03月20日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年12月25日 愛善世界社版270頁 八幡書店版第3輯 501頁 修補版 校定版275頁 普及版124頁 初版 ページ備考
OBC rm1621
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本文  天にも地にもかけ替なき一人の娘を拐され、爺と婆との二人暮し此世を果敢なみ詛ひつつ、不平たらだら世を送る渋面造りの平助は、思いもよらぬ孫娘のお節がゆくりなく帰り来りしに歓び驚き、手の舞ひ足の踏む処を知らず、音沙汰無かりし娘の便り、姿は見せぬ臭い婆アさまのお楢と共に屈める腰をヘコヘコと揺りて飛立つ可笑しさよ。
平助『これこれ、お節、お前は今まで何処に如何して居つたのだ、明けても暮れても婆と二人、お前の事ばつかり、噂をして泣いて居りました。能う、まア戻つて下さつた、もう之で此平助も、何時国替しても心の残る事はない、さアさ、一寸様子を聞かして呉れ』
お節『ハイハイ』
と嬉し涙に声も得立てず、僅に、
『妾は比治山の奥の岩窟に押し込められて居りました。其処へ神さまの様なお方が現はれて妾を救つて下さいました、今門口まで親切に送り届けて下さりました。何卒、お爺さま、お婆アさま宜しう御礼を申して下さい』
平助『ナヽヽ何と言ふ、お前を助けたお方が門に御座るのか、これや斯うしては居られぬ、一言お礼を申さねば済むまい、これこれ婆、お前もお礼を申さぬか』
 婆アは莞爾々々し乍ら耳が聞えぬので、
お楢『爺さま、結構ぢやな、早う神さまに御礼を申しませう』
平助『神さまも神さまだが愚図々々して居ると、助けて下さつたお方が帰られるかも知れぬ』
とカンテラを点け門口に立出で、
『誰方か知りませぬが、娘を助けて下さつて有難う御座います、御覧の通り矮き荒屋で御座いますがお這入り下さいませ、外は此通り雪が溜つて居ます、嘸お寒い事でせう、庭で火でも焚きますから』
悦子姫『ア、貴方がお節殿のお爺さまでござりますか』
平助『へいへい、平助と言ふ爺で御座います、若夫婦には先立たれ、たつた一人の孫を娘として育て上げ、引き伸ばす様に思うて居りましたのに去年の冬、大江山の鬼雲彦の手下の悪者、鬼彦、鬼虎と言ふそれはそれは意地癖の悪い悪人に大切の娘を攫はれ、寝ても起きてもそればつかりを苦に病みて泣いて暮して居りました。婆も私もそれが為めに二十年程も生命が縮みました、お蔭さまでその孫娘に会はれまするのも全く貴方様のお蔭、何卒這入つて悠りとお休み下さいませ、婆も御礼を申し上げ度いと申して居ますから』
悦子姫『アヽ御親切は有難う御座いまするが、妾は少しく神界の御用が差し迫つて居りますれば之にて御免を蒙ります、就ては妾より貴方に強つての御願ひが御座います。聞いて下さいますまいか』
平助『生命の親の貴方様、何なつと仰有つて下さいませ、爺の身に叶ふ事なら生命でも差し上げます』
悦子姫『早速の御承知、有難う御座います、此処に居ります者は妾の道連れ、四五人の者を何卒今晩丈け庭の隅でも宜いから泊めてやつて下さいませぬか』
平助『へいへい承知致しました、百人でも千人でも泊つて下さい』
悦子姫『百人も泊る処はありますまい、只五六人泊めて貰へば宜しいのです』
平助『之は失礼致しまして、あまり嬉しうて爺も脱線を致しました、サアサ皆さま御遠慮なくお這入り下さい、然し乍ら無茶苦茶に這入つて貰うと、大江山の鬼除けの陥穽が御座いますから私の後に跟いてお通り下さい』
と先に立つ。
悦子姫『左様なら、お節殿に宜しく言つて下さい、御縁があれば又お目にかかります。音彦さま、加米公さま、貴方は今晩お疲労で御座いませうが妾に跟いて来て下さい。少しく御相談し度い事が御座いますから』
『委細承知仕りました、仰せに従ひお伴致します』
 悦子姫は二人を伴ひ急いで此場を立ち去りぬ。岩公、鬼彦、鬼虎、勘、櫟の五人は這入りも得せず門口に立つてうろうろして居る。
平助『サアサア皆さま、此処を通つてズツとお這入り下さい』
 岩公、勘、櫟の三人は平助に跟いて奥に入る。
お楢『これはこれは皆さま、寒いのに能うまア娘を送つて来て下さつた、何卒今晩は悠り泊つて下さい』
岩公『へい、如何致しまして、お節さまの御存じの通り私は悦子姫様の家来で御座います、お礼を言つて貰うと却て困ります、何卒今晩丈け泊めて下さらば有難う御座います。ヤア鬼彦、鬼虎の奴、這入つて来ぬかい、何愚図々々して居るのだ』
平助『ヤアお前は大江山の鬼雲彦の同類ぢやな、鬼彦や鬼虎が這入つて来て堪るものかい、折角だが帰りて呉れ帰りて呉れ』
岩公『モシモシお爺さま、其鬼彦と鬼虎と云ふ奴は、お節さまを助けた悦子姫さまの家来だよ、二人の奴、到頭悪を後悔しよつて悦子姫さまの家来となり、お節さまの所在を知らせたものだから娘が助かつたのだよ。今迄の怨恨は水に流し悦子姫さまに免じて泊めてやつて下さいナ』
平助『何と言つてもお前さま達三人は泊めるが二人の餓鬼は泊められませぬ、這入り度ければ勝手に這入つて来たが宜い、勝手を知らずに陥穽にはまるだらう』
岩公『これはしたり、お爺さま、年が老つても敵愾心の強い人だな、今迄の事は水に流すのだよ』
平助『水に流せと言つたつて、此怨恨が流されやうか、俺の身にも、チツトは成つて呉れたが宜い哩』
勘公『それやさうぢや、尤もぢや。お爺さまの仰有る通り、拙者の聞く通りぢや、ナア櫟公』
櫟公『オヽ、さうともさうとも、誰だつて可愛い娘を仮令一年でも苦しめられた親の身として誰だつて黙つて居れようかい、爺さまの仰有るのは至極尤もだ。鬼彦、鬼虎の奴、因縁が報うて来たのだから仕方が無い、今晩は外で立番でもするのが却て今迄の罪亡ぼしになつて良いかも知れぬ』
平助『アヽお前さま等三人のお方、能う言つて下さつた、此爺も大変気に入つた、サアサ泊つて下さい、誰が何と言つても二人の餓鬼は泊める事は出来ませぬ哩』
 家の外にて、
鬼彦『おい兄弟何程泊めてやると言つても、如何もてれ臭くて這入れぬぢやないか』
鬼虎『さうだ、昔の因果が廻つて来て心の鬼に身を責められ、暢気に泊めて貰ふ訳にも往かず、大きな顔をして爺さまや婆アさまに会ふ訳にも往かず、エー仕方がない、音彦さま加米公さまでさへも此雪道を歩いて行かれた位だもの、無理に行つたら行けぬ事はない、此処ばかりが家ぢやない哩、三人の奴は此処で悠り泊めて貰ふ事にし、俺達二人はも少してくる事に仕様かい』
鬼彦『アヽ、それが上分別だ、オイ岩公、勘公、櫟公、俺は一足先へ行つて比治山の麓で待つて居るから、夜が明けたら貴様等三人は出て来い、左様なら、お先へ御免だ、貴様等はお節さまの顔でも見て涎でもくるが宜い哩』
と捨台詞を残し、すたすたと此場を後に比治山の方面指して走り行く。
平助『サア三人さま、奥に炬燵がしてある、寒からうからお這入りなさい、俺は今晩はあまり嬉しうて寝られぬから、娘と久し振りに三人が話をするから、茶漬なつと食つて早くお寝み下さい、又明日は祝ひに御馳走をして上げます』
岩公『これはこれはお爺さま、お婆アさま、奇麗な娘さま有難う御座います、ソンナラお先へ御免を蒙ります、お弁当は沢山持つて居ますから御心配下さいますな、今道々握り飯を頬張つて来ましたので余り腹は減つて居りませぬ、寝まして貰へば結構です』
お節『サアサ皆さま、お寝み下さいませ、妾が御案内致しませう』
と次の室へ案内する。
岩公『アヽ有難い、勘公、櫟公、世界に鬼は無いなア、マア悠り寝まして貰はうかい』
勘公『何だか目がパチパチして寝られないワ』
岩公『寝られなくても、此暖かい炬燵へ這入つて、明日の朝迄ゆつくり休息すれば宜いのだ』
 次の室には三人の家内ひそびそと何か話して居る。
平助『マア何とした嬉しい事だらう、ナアお楢、之でもう俺は死ンでも得心だよ』
お楢『親爺どの、それや何を言はつしやるのだい、二つ目には死ぬ死ぬつて、ソンナ縁起の悪い事を言ふものぢやない、娘が戻つた嬉しさに元気を出して、之から気を若う持ち千年も万年も生延びると言ふ気になりなさらぬかいな』
平助『オーお楢、お前は耳がよう聞える様になつたぢやないか、此奴は不思議だ、如何したものだ、殺されたと思ふ娘は帰るし、一生聾耳ぢやと諦めて居た婆の耳は聞え出す、アヽコンナ有難い事があらうか、之と言ふも全く真名井ケ原に今度現はれ給うた豊国姫の神様の御利益だ、ちつと雪が溶けたら親子三人お礼詣りに行かうかい』
お楢『行かうとも行かうとも、道があかいでも今晩でも直に行きたいのだが、三人のお客さまが居らつしやるのだから、今晩夜が明けたら三人のお客さまと一緒に非が邪でも詣りませう、ナアお節、さう仕様ぢやないか』
お節『はいはい妾が案内致しますから御礼参詣をして下さい、然し明日のお客さまの御馳走を考へて置かねばなりますまい、ナアお爺さま』
平助『オヽ、さうだつたな、何の御馳走をして上げようか、砂混ぜの御飯をして上げようか、栗石の混ぜ御飯にして上げようか、どちらが宜からうか、ナアお楢』
お楢『娘が無事に帰つて呉れたのだから祝ひがてら御馳走を半殺しにしませうか、一層の事皆殺しにして上げようかナア』
お節『皆殺しにするのは大層だから一層の事お爺さま、半殺しが宜しからうぜ』
平助『アヽ、さうじや、半殺しが手間が要らぬで宜いワ、それでは半殺しに定めようか、サア之からそろそろ婆アさま、用意に掛らうかな』
 隣の室に寝て居る岩公は真青の顔をして小声になり、
『オイ、勘公、櫟公、あれ聞いたか』
『オ、聞いた、何と恐ろしい家ぢやないか、砂を混ぜて御飯に食はさうとか、栗石を入れて御馳走にしようとか、偉い事を言ひよつたぢやないか、一体如何なるのだらう』
岩公『ソンナへどろい事かい、今三人がひそびそ話をしてるのを聞いて見れば半殺しにしようか、皆殺しにしようかと言うて居つたぢやないか、コンナ処に愚図々々して居ると生命がないぞ、何とかして逃げ出す工夫はあるまいか、門口には陥穽を掘つて居よるし裏は絶壁だし進退維谷るとは此処の事だ、エ、仕方が無い、逃出そかい、爺の歩きよつた処を覚えて居るから其処へ添つて通れば宜い、皆の奴、用意をせい、勘、櫟、皆来た、三十六計の奥の手だ』
と起き上りそろりそろりとカンテラの火影を忍びて庭の面を這ひ出したり。平助はフツと庭を見る途端に黒い者がのさのさ這うて居る。
平助『ヤイ、何者ぢや、盗人か』
岩公『ハイ、盗人でも何でも御座いませぬ、夜前の三人の客で御座います』
平助『お前さまは寝惚けたのかい、そこは庭ぢやぜ、さあさ早くお炬燵へ這入つて寝みなさい』
岩公『こら、やいやい、鬼爺、鬼婆、鬼娘、貴様の計略はチヤンと知つて居るのだ、貴様の様な鬼は飯に砂を入れたり、栗石を入れて喰ふか知らぬが、人間様は砂や栗石は食らないぞ、お前、半殺しにしようとか、皆殺しにしようとか、それや何事だ、老耄爺奴が』
平助『ハヽヽヽ、ア、お前さまは聞き違ひしたのか、砂混ぜの御飯と言ふのはお米と栗との御飯ぢや、栗石を混ぜると言ふのはお米と麦との混ぜ御飯ぢやわいナ』
岩公『それでも貴様、半殺しにするの、皆殺しにするのと言つたぢやないか』
平助『ハヽヽヽ、半殺しと言つたら牡丹餅の事ぢや、皆殺しと言つたら搗いて搗いて搗ききつた餅の事だ、心配しなさるな』
岩公『何だ、ソンナ事だつたかい、いや、これやお爺さまの折角の思召、半殺しでも皆殺しでも結構です、どしどし拵へて下さい。おい、櫟、勘、心配するな、牡丹餅に餡転餅の御馳走の事だつたよ、アハヽヽヽ』
櫟、勘『ア、それで安心した、何れ丈け胆を潰したか知れたものぢやない、団子も餅も食れぬ先に胸元に三つ四つ餡転餅の固まりが出来よつたワ、アハヽヽヽ』
お楢『サアサ皆様、御心配なしに御寝み下さい、妾は之から皆殺しを拵へます』
岩彦『何分宜しう御頼み申します、同じ事なら半殺しと、皆殺しと両方頂き度いものですな』
お節『ホヽヽヽ』
 三人はやつと安心の上、他愛もなく寝に就きける。ふと目を覚せば小鶏の声。
岩公『ヤア、グツと寝た間にもう夜明けだ。おい皆の奴、早う起きて御馳走を頂戴しようかい』
 お節此場に現はれ、
お節『サアサ皆さま、御手洗をお使ひ遊ばせ、半殺しと皆殺しとが出来ましたから、どつさりお食り下さいませ。今日は真名井ケ原の豊国姫の神さまの出現場にお礼に詣りますから何卒一緒にお願申します』
 岩彦外二人は『ハイ』と答へて跳起き、手洗をつかひ牡丹餅と餡転餅をウンと胃の腑に格納し、六人打連れ立つて真名井ケ原に宣伝歌を謡ひ乍ら進み行く。
(大正一一・四・一六 旧三・二〇 北村隆光録)
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