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文献名1霊界物語 第35巻 海洋万里 戌の巻
文献名2第2篇 ナイルの水源よみ(新仮名遣い)ないるのすいげん
文献名3第12章 自称神司〔976〕よみ(新仮名遣い)じしょうかむづかさ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-09-27 11:23:07
あらすじ四人は白山峠の山頂に到着した。そこからはスッポンの湖の一部が小さく見えた。三公はそれを見て両親への思いを述懐する。孫公はふと、一行の中に宣伝使がいないことを不安に言い始めた。孫公と虎公は、宣伝使を選挙で決めようと掛け合いを始める。滑稽なやり取りをした後、虎公は孫公が臨時宣伝使となるべきだと告げる。孫公は意気が上がり、仮にも宣伝使と認められたからには、神力を発現して大蛇退治の言霊戦に功を現さねばならないと、得意になって勇ましい宣伝歌を歌う。しかしどこからともなく、中空より玉治別の宣伝歌が聞こえてきた。宣伝歌は、一行が神聖な宣伝使を冗談でも選挙で任命したことを厳しく戒めた。そして、孫公を宣伝使として前に立てようなどという心持を起こした虎公、お愛、三公にも厳しい注意を与えた。四人は声の出所を求めてあたりの谷底を覗き込んでみたが、人の影も見当たらなかった。一行は白山峠の急坂を降って行く。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年09月16日(旧07月25日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年12月25日 愛善世界社版133頁 八幡書店版第6輯 520頁 修補版 校定版141頁 普及版53頁 初版 ページ備考
OBC rm3512
本文のヒット件数全 2 件/宣伝歌=2
本文の文字数3251
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本文  白山峠の山頂に漸くにして辿りついた四人の男女は、峰の嵐に吹かれつつ汗を拭ひ四方の山野を心地よげに観望しながら小憩を試みてゐる。
 遥かの東北に当つて、白く光つたものが見えてゐる。それは春公、お常が大蛇に呑まれた思ひ出深きスツポンの湖の一部である。三公はその湖がフツと目につき慨歎措かざるものの如く、
『皆さま、ズツと向ふの方に幽かに白く光つてる所がありませう。あれが私に取つては、寝ても起きても忘れ難き、両親の古戦場で御座います……』
と言つた限り、差俯むいて落涙する。
孫公『なアんだ、あんな小つぽけな湖か。仮令一杯になつてゐた所で知れたものだ。今度は神様と一緒だから大丈夫だ。メツタに呑まれるやうなこたアありますまい』
三公『イエイエ、今見る様な小さい湖水ぢやありませぬ。山に包まれて僅に其一部が見えてゐる計りです。目も届かぬ許の大湖水ですよ。何と云つても、ナイル河の水源地ですから、大変なものです。皆さま、是からシツカリ腹帯をしめて行きませう』
孫公『かう云ふ時に本当の宣伝使が一人あると、大変都合が好いのだけれどなア』
虎公『孫公さま、宣伝使ぢやなかつたのか』
『宣伝使のお供ですから根つから気が利きませぬワイ。併しながら其様な名前がなくても心に誠さへあれば、大蛇は十分言向和す事が出来ませう。名は実の賓だから、宣伝使の雅号のみでは、決して仕事は出来ませぬよ。先づ心細ければ、あなた方三人が此孫公を何とかして宣伝使に選挙して下さい。さうすれば名実相叶ふ所の大活動をやりますから……』
虎公『名は実の主だから、如何しても名がなくては行くまい。無名の戦になつて了つちやつまらないからなア』
孫公『有難い、サア普通選挙だ。誰も彼も選挙権があるのだから、早く投票をして下さい。併しながら無記名投票ですから、其御考へで願ひます』
虎公『生憎用紙もなければ、投票函もありませぬが、如何したら宜しからう』
孫公『先づ選挙区を第一区、第二区、第三区と分け、私が候補者に立ちますから、どうぞ口頭でも宜しい、早く選挙の開始を願ひます』
虎公『一票に幾ら出しますか。百円位は安いものでせう。今一寸衆議院に出ようと思へば、少くて五万円、多くて十万円は要りますからなア』
孫公『代物は見ての御帰り、選挙して見て値打がないと見たら、御取消になつても差支ありませぬ。そんなら一層の事投票なしに口で言つて下さいな。簡単で物事が埒よう運びますから……』
虎公『投票を省くなんて、トヘウもない事を仰有いますなア。そんなら虎公が宣伝使の立候補の宣言致しますから、どうぞ皆さま、貴重の一票をお恵み下さいませ。候補者一人では競争者がなくて、選挙もサツパリ張合がない。皆さま何卒私に選挙を願ひます。一票は私の縁故たるお愛さまに願ひませう。さうすればあと一票、三対一によつて、大勝利ですから……』
孫公『困つたなア、三公が投票して呉れた所で、どちらも同点数だ。若しさうなつた時にはどうするのですか』
虎公『年長者を当選者ときめませうかい』
孫公『さうすると、虎公さまは幾つですか』
虎公『あなたよりも二三年古いやうです』
孫公『困つたなア、さうすると戦はずして敗北かなア。エヽ残念な、又次期の総選挙か解散があつた時に華々しく名乗つて出る事にしよう。今度は断念致しませう。さうすると虎公さまの一人舞台だ、仮令三公さまが棄権しようが、私が棄権しようが、当選疑なしといふものだ』
三公『コレ孫公さま、飽くまでも選挙場裡に立つて戦ひなさい。三五教には退却の二字はないぢやありませぬか。及ばずながら私があなたを選挙します。さうすれば大多数を以て当選疑なしです。一人でも三公だから三票は大丈夫ですよ、アハヽヽヽ』
虎公『全部取消だ。孫公さま、臨時宣伝使となつて吾々を導いて下さい。私は辞退しておきますから……』
孫公『ヤア有難い、そんなら只今より三五教の宣伝使孫公別命だからそのお心組で願ひます。宣伝使になつた祝ひに、一つ此山上で言霊戦をやりませう。政見発表の代りに戦見発表宣伝歌をやりますから謹聴を願ひます………。
 神が表に現はれて  賢者と愚者を立別ける
 人は見かけによらぬもの  黒姫司にケンケンと
 朝な夕なにボヤかれて  馬鹿な男と言はれたる
 孫公司も何時迄も  まごまごしてはゐられない
 心の奥のドン底に  人にみえない智慧がある
 智慧の光はいつまでも  隠れて消ゆるものでない
 袋の中に鋭利なる  錐ある時は鋭脱し
 其鋒鋩は現はれる  何にも白山峠かと
 思うて来たのにこれは又  どうした風の吹き廻し
 月にスツポン湖の  大蛇の奴が現はれて
 三公の親を食たおかげ  自転倒島から従いて来た
 孫公司は選まれて  思ひもよらぬ宣伝使
 こんな嬉しい事はない  三公さまや虎さまよ
 お前は神か竜神か  木の花姫か知らねども
 余程身魂の光る奴  三五教の黒姫が
 看破し得ざりし孫公の  此神力を認識し
 全会一致の勢ひで  選挙したのは偉い奴
 お前の様な選挙人  世界に沢山あるなれば
 体主霊従の悪政は  全く根絶するだらう
 聖人賢人哲人は  野に埋もれて何時迄も
 頭あがらぬ今の世に  こりや又如何した幸ひか
 孫公別の宣伝使  神力示すはこれからだ
 あゝ惟神々々  神は吾等と倶にあり
 吾等は神の子神の宮  三公さまが両親の
 命を取つて鼈の  湖にひそめる大蛇奴を
 広大無辺の神力の  備はりきつた宣伝使
 孫公別が現はれて  三公虎公お愛をば
 御供の神と定めつつ  進み行くこそ勇ましき
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  辞職の出来ない宣伝使
 握つた上は放さない  其執着はスツポンが
 かぶりついたる如くにて  如何しても斯うしても放しやせぬ
 三千世界の梅の花  一度に開く常磐木の
 松の神代がめぐり来て  世におちぶれた孫公も
 雲井にぬき出た白山の  此絶頂で勇ましく
 神の使の宣伝使  任命されたる上からは
 仮令野の末山の奥  虎狼や獅子熊の
 狂へる野辺も厭ひなく  心を尽し身を尽し
 筑紫の島は云ふも更  常世の国や高砂の
 島の奥まで乗込むで  尊き神の御光を
 輝き渡すは目のあたり  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ』
 何処ともなく中空より宣伝歌の声が聞え来る。四人は不審の眉をひそめながら、耳をすまして聞いてゐる。
『神が表に現はれて  善と悪とを立別ける
 善に見えても悪霊  悪に見えても善の魂
 心は捩ぢけ智慧曇り  一寸先の分らない
 凡夫の身魂が寄り合うて  神の尊き宣伝使
 選挙するとは何事ぞ  神の心と空蝉の
 人の心は裏表  如何に選挙に当選し
 月桂冠を得たとても  神が許さにや真実の
 誠の力は出よまいぞ  あゝ惟神々々
 神の心も白山の  此絶頂でいろいろと
 心を砕き胸痛め  湖水にひそむ曲神の
 其猛勢に戦いて  無道の選挙をしたとても
 微塵も効力ない程に  何れも心を取直し
 早く誠に立かへれ  屋方の村の親分と
 羽振り利かした三公も  武野の村の虎公も
 貴族生れのお愛まで  神の教に酔つぱらひ
 今は全く山上に  身魂は堕落して了うた
 此為体でありながら  大蛇の潜むスツポンの
 湖に向つて言霊の  戦ひせむとは身知らずだ
 命知らずの侠客も  今は命が惜しうなつて
 そんな弱音を吹くのだろ  弱音ばかりか臆病風
 此山頂に吹いてゐる  朝から晩まで偉さうに
 肩肱いからし大手ふり  法螺吹き廻つた男達
 何を血迷ひ黒姫の  愛想を尽かした孫公に
 卑怯未練に頼むぞや  少しは胸に手を当てて
 考へ直してみるがよい  吾は玉治別司
 神に代つて一同に  誠心で気を付ける
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』
と言つたきり、其声はピタリと止まる。
 四人は声の出所を求めて、彼方此方と谷底を覗き込んで見たが、そこらに人らしき者の影も見えなかつた。ここに一行四人は白山峠の急坂を東北指して下り行く。
(大正一一・九・一六 旧七・二五 松村真澄録)
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