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文献名1霊界物語 第39巻 舎身活躍 寅の巻
文献名2第5篇 馬蹄の反影よみ(新仮名遣い)ばていのはんえい
文献名3第17章 テームス峠〔1082〕よみ(新仮名遣い)てーむすとうげ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-11-22 11:11:58
あらすじ黄金姫と清照姫の母娘は巡礼姿に身をやつして浮木ケ原を指して進んでいく。フサの国から月の国へ渡る際には、テームス山というかなり高い山を登らなければならない。母娘は山麓の道端の岩の上に腰をかけて息を休めていた。そこへ二人の馬方がやってきて、安くするから馬に乗っていかないか、と声をかけた。黄金姫はすぐにこの馬方が、先日自分たちを襲ってきたバラモン教徒たちだ看破した。早くもたくらみを見抜かれて、レーブは逃げ腰になっている。黄金姫は、二人に鬼熊別の消息を尋ねた。レーブは、大黒主が教主の立場をいいことに勝手放題にふるまって人心を失っているのに引き換え、鬼熊別は妻と娘が行方不明の境遇にあって品行方正にふるまい、バラモン教徒たちの尊敬を一身に集めていると語った。レーブはさらに、鬼熊別がバラモン教徒たちの信頼を集めていることから、近年では大黒主に嫌疑をかけられてさまざまな圧迫を受けているが、じっと耐えて従っている様を涙ながらに伝えた。レーブが真実を面に表した様子に、黄金姫と清照姫は、自分たちが鬼熊別の妻・蜈蚣姫と娘・小糸姫であることを明かした。レーブは驚いてひれ伏した。レーブは、二人にバラモン教に戻ってもらい、ハルナの都の鬼熊別の元にひそかに送り届けたいと申し出た。レーブは、大黒主は蜈蚣姫と小糸姫が三五教に入ったことを聞き知っており、鬼熊別に会わせる前に命を取ろうと画策していることを明かした。黄金姫は夫に三五教の教えを説くつもりであったが、レーブにいらぬ心配をかけさせても仕方がないと考え、レーブたちにしたがってハルナの都に入ることにした。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年10月29日(旧09月10日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年5月5日 愛善世界社版245頁 八幡書店版第7輯 368頁 修補版 校定版257頁 普及版107頁 初版 ページ備考
OBC rm3917
本文のヒット件数全 1 件/宣伝歌=1
本文の文字数4870
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本文  黄金姫、清照姫の母娘は巡礼姿に身をやつし、金剛杖にて地を叩きつつ、霧こむ野辺を西南指して宣伝歌を歌ひながら浮木ケ原をさして進み行く。道につき当つた可なり高き山がある。此山を何うしても越えねば道がない。日は已に山の端に没して四面暗黒に包まれた。此山の名はテームス山といふ。登りが三里下りが三里、可なり大きな峠でフサの国より月の国へ渉る境域である。母娘二人は山麓の路傍の岩の上に腰打掛け息を休めてゐた。そこへ二人の馬方駻馬を引つれ、ハイハイと言ひ乍ら、現はれ来り、
『モシモシ旅のお方、此テームス山はアフガニスタンで有名な峻坂で厶います。女の足では到底跋渉する事は出来ますまい。私はこれから此峠を渉りて月の国へ帰る者、どうぞ此馬に乗つて下さい。帰りがけだから何時もとは半分の賃金に致しておきます』
黄金姫『折角なれど吾々は達者な足を持つてゐるから馬の世話になるのは止めておきませう』
馬方『エヽ馬鹿にすない。足があるなんて、分り切つた事をいやがつて、足のない奴が旅する筈があるかい。いやなら厭でいいワ。乗らぬと吐しやがるが、此方の方から乗せてやらぬワイ』
黄金姫『オホヽヽこれ馬方さま、お前さまは本当の馬方ぢやあるまいがな。お前のひいてゐる馬はそこらに居つた野馬を臨時引つかんで来た証拠には轡も無し、馬の爪が大変に伸びてゐる、そしてお前の言葉は馬方言葉ぢやない。バラモン教の宣伝使の供でもしてゐた代物だろ。そんな事をして吾々母娘を馬に乗せ、急坂になつた所で、馬の足を叩き、馬を転倒させて、吾々母娘を○○しようといふ悪い了見だろ、お前の顔にチヤンと書いてある。そんなウソツパチを喰ふやうな婆アぢやありませぬぞ。又河鹿峠のやうに谷底へつまんで放つて上げようか、お前は五人の中の一人、運よく助かつて逃げた男だらう、どこともなしに面に見覚えがあるから騙したつて駄目だよ』
馬方『イヤもうそこ迄看破されては仕方がありませぬ。実の所はあの時五人の中に加はつてゐたレーブといふ、余りよくない代物です。お前さまが大変な神力を現はして自分の同僚を三人迄谷底へ投込んだ時の恐ろしさ。何とかしてお前さま母娘を亡き者に致さねば、吾々の思惑は何時になつても立たない。又可哀さうに俺達の友達二人まで、冥途の旅をしたのだから、友の仇敵を討つてやらねばならぬ、何れ此峠を越すに違ないと思うて、野馬を引捉へ、道に会うた一人の友達と、一目散にここ迄走つて来て、待つてゐました。併しながらお前さまが私の計略を看破した上は、手も足も出すことは出来ない。そんなら馬に乗るのは止めて貰ひませう。油断をせない旅人を乗せて行つたところで、思惑は立ちませぬからな』
と怖さうに逃げ腰になつて喋つて居る。
黄金姫『コレ、レーブとやら、お前は鬼熊別さまの部下ではないか。但は臨時雇で働いてゐるのか』
レーブ『ハイ、三年ばかり前から結構なお手当を頂戴して、鬼熊別様の奥様の蜈蚣姫や小糸姫さまの所在が分らないので、鬼熊別様も今は立派な身の上にお成り遊ばし、大黒主様と肩を並べられ、世間の信用は大黒主様よりもズツと宜しい。それ故鬼熊別様に従ふ者が日に月に増えて来まして、私も御恩顧を蒙つてゐる者、奥様や娘子の所在を尋ねむ為に、ハムを初め吾々四人が一隊となつて、其所在を尋ねてゐました。併し乍らいくら尋ねても此広い世の中自転倒島へはそれぞれ手分けをして捜しに行つて居りますが、今にお行方は分りませぬ。噂に聞けば三五教に入信られたとの事、ウブスナ山の斎苑館には三五教の宣伝使が集まつてゐられるといふ話なので、河鹿峠を越えて参る途中、あなた様に出会し、仮令蜈蚣姫でなくても小糸姫でなくても、丁度都合のよい婆アさまと娘、有無をいはせず伴れ帰り、鬼熊別様にお目にかけたならば、コリヤ人違だ、併し乍らそれも無理はない、人相書位では分るものではないから、併しよくマアここ迄骨を折つたと、お賞めの言を頂かねば、三年も手当を貰うて居つた印がないと思ひ、一寸失礼をも省みず、一狂言をやつて見ました。右様の次第で厶いますから、決して泥棒でも何でも厶いませぬ。只お手当に対する義務上、あなた様を犠牲にしようとズルイ考へを起したので厶います。併し乍ら私はホンの端くれ役人、これにはハムといふ発頭人が厶います。到底あなた母娘に睨まれては堪りませぬから、どうぞ三五教ならば神直日大直日に見直し聞直し、これも神の御都合だと宣り直して助けて下さいませ。心の底から改心して此通り手を合してお詫致します。コリヤ、テク、貴様もお詫の加勢をしてくれぬか。御立腹がひどいと見えて、容易にお気色が直らぬぢやないか』
黄金姫『お前のいふ事は寸分間違はないか』
レーブ『ヘーヘー、どうして嘘を申しませう』
清照姫『コレ、レーブとやら、鬼熊別様は本当に御壮健でゐらせられますかなア。綺麗な奥様を迎へてゐられる様な事はないかな』
レーブ『どうしてどうして、品行方正な慈悲深いそれはそれは、ハルナの都でも名の高い、聖人君子と、バラモン国一体に仰がれて厶るお方で厶います』
清照姫『大黒主様は壮健でゐらせられますか』
レーブ『ヘーヘー、壮健も壮健、先の奥様が古くなつたというて、小つぽけな家を建てて隠居をさせ、其後へ天人のやうな若い女房を据ゑ、沢山な妾を囲つて、朝から晩まで酒池肉林の乱痴気騒ぎ、誰も彼も眉を顰めて居りますけれど、何を云うても沢山の軍隊を抱へてゐる英雄豪傑、そして梵天王の御子孫といふので、何事をなさつても御意見申上げる者も無し、鬼熊別様に比ぶれば、其信用の点に於ても、品行の点に於ても天地黒白の相違で厶います。大黒主様は余り鬼熊別様の御信用が高うなつたので、少しく猜疑心が起り、何かにつけて御主人様のなさる事を、ゴテゴテとケチをつけ、無理難題を吹かけ、種々雑多の圧迫を加へられますが、御忍耐の強い私の御主人は、大黒主様が何と仰有つても、平気な顔で唯々諾々として従うていらつしやいます。家来の私でさへも気の毒でなりませぬ』
と差俯むいて涙をハラハラと流す、其涙に真実が現はれてゐた。
黄金姫『それを聞いて私も安心した。実は鬼熊別様の女房蜈蚣姫は私だよ』
 レーブは此言に驚いて大地に平伏し、
『コレハコレハ奥様で御座いましたか。存ぜぬこととて重々の御無礼、何卒お赦し下さいませ。そんなら此娘様は小糸姫様で厶いますか』
と又サメザメと嬉し泣きに泣く。
清照姫『私は鬼熊別様の娘小糸姫だ。十五の時に心の曇りから家を飛出し、両親に御心配をかけた者だ。お前は私の来歴を聞いて居るだらうな』
レーブ『ハイ詳しい事は存じませぬが、チヨイチヨイ、同僚間の話頭に上りますので、ウスウス承はつて居りました。それを聞きます上は奥様お娘子に違は厶いませぬ。どうぞ御安心の上此馬に乗つて、私にハルナの都まで送らせて下さいませ。さうしますれば御主人様に対しても忠義が立つといふもの、お願で厶います』
黄金姫『アヽ何と神様は水も洩らさぬ深いお仕組、到底凡人の窺ひ知る所でない。併し乍ら吾夫鬼熊別様は其様な立派な御方になつてゐられるか、ホンに嬉しいことだ。それ丈御忍耐の深い神司とお成り遊ばした以上は、キツと三五教の教をお説き申したならば、三五教になつて下さるだらう。アヽ有難い有難い……。コレ清照姫、モウ大丈夫だ御安心なさい』
清照姫『お母アさま、本当に嬉しう厶いますなア』
レーブ『モシモシ奥様、私の前だから、そんなことを仰有つても宜しいが、モウこれきり三五教の事は仰有らぬが宜しい、鬼熊別様の御迷惑になります。それでなくても奥様や娘様が、三五教の宣伝使に成つてゐられるといふ噂が、大黒主様の耳に入つてからといふものは、大変な、旦那様に対し、圧迫が加はつて来てゐます。旦那様は聖人君子、兵馬の権は少しもお握り遊ばさず、大黒主に睨まれたが最後御身の破滅、それ故一切を神様に任して御隠忍遊ばして厶る其矢先、旦那様が三五教のお話をお聞きになつたといふことが大黒主に聞かれたが最後、亡ぼされて了ひます。どうぞ今日限り言はない様にして下さる方が、旦那様初め御両人様のお為で厶いませう』
 黄金姫は心の裡に………ナーニ、大黒主何者ぞ、何程兵馬の権を握るとはいへ、仁慈無限の三五の言霊の伊吹に依つて言向和すは朝飯前だ。併し乍らこんな奴にそんな事を云つて気を揉ますも可哀相だ………と胸を定めて、
『お前のいふ通り、旦那様の御難儀になることだから、モウ三五教のことは云ひますまい………ナア清照姫、お前もこれきり言はない様にして下さいや』
レーブ『アヽそれを聞いて此奴も安心致しました。併し乍らここに一つの大心配が厶います。都の入口に大黒主の軍隊が警護し、一々人物検めを致し、信仰の試験をして居りますから、其時にどうぞ三五教の教じみたことは一つも言はないやうにして下さらぬと、九分九厘で失敗してはなりませぬから……』
黄金姫『あゝヨシヨシ、安心しておくれ、私も元はバラモン教の宣伝使だから、そこは如才なうやつてのけるから………』
レーブ『誠に済まないことで厶いますが、旦那様にお会ひなさる迄、蜈蚣姫であつたとか、小糸姫であつたとか云ふやうなことを仰有つてはなりませぬぞや。旦那様は旦那様で、あなた方を恋慕うて私かに呼び寄せたいと思召し、吾々を四方の国にお遣はしになり、御行方を探させてゐられますなり、又一方の大黒主の方では……鬼熊別様の奥様娘子が三五教の宣伝使になつてゐるさうだから、何時かは帰つて来るだらう、其時に鬼熊別が三五教に帰順しようものなら、バラモン教は根底から覆つて了ふ。鬼熊別に親子の対面致させては大変だ、それ以前に取つ捉まへて命を取り、鬼熊別様にソツと内証で居らうといふ大将のズルイお考へ、かういふ具合で、大黒主様と鬼熊別様とは始終暗闘が続けられて居りますから、中々都の関門をくぐることは容易なことでは厶いませぬ。甚だ申にくいこと乍ら、あなた様母娘を科人として縛り上げ、馬の背に括りつけて関門をくぐりお館まで送るより手段はないので厶います』
 黄金姫はニタリと笑ひ、心の中にて………ナニそれ程驚くことがあるものか、吾々にはキツと神様が守護して厶る、そんなことは心配すな……と口まで出さうとしたが、俄に呑み込み、ワザと心配さうに、
『何から何まで気をつけて呉れるお前の親切、黄金姫も有難う思ふぞや』
レーブ『ハイ、勿体ない其お言葉、左様ならば今夜はここで寝むことに致しませう。実は此テームス峠は剣呑で厶います。大黒主の一派の奴が関所を構へて往来の人を査べて居りますから、夜分は尚更剣呑なれば、夜の明けるのを待ち、姿を変へて此峠を越えることと致しませう』
清照姫『お母アさま、昼よりもそんな危険な処なら、夜分の方が面白いぢやありませぬか。大黒主の部下が仮令何万押寄せ来る共、言霊の神力や、生れつきの吾武勇にて、一人も残らず谷底へ投げやり、懲しめてやつたら、眠気さましになつて面白いぢやありませぬか。そんなことを聞くと、如何してこんな所に、夜明かしが出来ませう。どうも肉が躍つて腕が鳴り堪へられなくなつて来ました』
黄金姫『コレコレ清照姫、大事の前の小事だ。小童武者に相手になり、ハルナの都へ入城の妨害になつては、それこそ大変だから、レーブの云ふ通り、都へ着く迄は柔順しうして行きませう。まして無抵抗主義の三五教の宣伝使がそんな事をしてはなりませぬぞや、賢いやうでもまだ年が若いから、……アヽ困りますワイ、かうなると老人も矢張必要だなア。オホヽヽヽヽ』
清照姫『何事も神様とお母ア様にお任せ致しませう』
黄金姫『アヽそれが良い それが良い。神様も嘸お前の其お言を御満足に思召すであらう。そんならレーブ、今夜はここで夜を明かすことにしよう』
レーブ『ハイ、さうなされませ。私もこれで安心を致しました』
と主従四人は岩の上に蓑を布き、一夜を明すこととなつた。四辺に聞ゆる狼の唸り声、凩の声と共に物凄く聞え来たる。
(大正一一・一〇・二九 旧九・一〇 松村真澄録)
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