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文献名1霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻
文献名2第3篇 神意と人情よみ(新仮名遣い)しんいとにんじょう
文献名3第12章 敵愾心〔1306〕よみ(新仮名遣い)てきがいしん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-07-19 16:06:32
あらすじ楓の叫び声を聞いて、酔った五人はその場へやってきた。楓の頼みでイルが高姫を引き離そうとしたが、高姫に突かれて倒されてしまった。残りの者は高姫めがけて武者ぶりつこうとしたが、酔っていたので皆高姫に放り出されてしまった。高姫は一人、座敷の真中で大声で見栄を切っていい気になっている。そのすきに楓が後ろから高姫の両足をすくったので、高姫は転回して五人の上にひっくり返ってしまった。高姫は膝頭とむこうずねをしたたか縁板に打ち付けて呻いている。楓はそのすきに両親にこのことを知らせようと裏口から神殿に駆けて行った。五人は高姫が上に倒れかかってきたので、それぞれ悪態をついた。高姫は怒って五人に打ってかかろうとしたが、そこにスマートが現れて、高姫が怪我をしないように、しかし怪力にまかせて後ろ向きに森の方へ引きずっていってしまった。高姫は五人に助けを求めたが、一同はただ高姫を見送るだけであった。そこへ楓が戻ってきて、高姫の行方を尋ねた。イルは、スマートが森に高姫を引きずって行ったので、大方喰われてしまったのだろうと答えた。楓は呑気なことを言っていないで高姫を助けるように五人に指示した。そこへ初稚姫が、珍彦と静子を連れて現れた。珍彦と静子は、楓が高姫に食って掛かったことを注意するが、楓は、高姫が両親を毒殺しようとした、と抗弁する。イルたち五人はそれを聞いて憤慨するが、初稚姫がとんちを利かせて、楓が夢を見たことにして五人をなだめた。初稚姫は、五人に高姫の救出に行かせた。楓は、自分の言うことは夢でも嘘でもないと駄々をこねるが、初稚姫は何事も神様にお任せするようにと楓をなだめた。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月21日(旧12月5日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年12月7日 愛善世界社版162頁 八幡書店版第9輯 209頁 修補版 校定版168頁 普及版83頁 初版 ページ備考
OBC rm5012
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本文の文字数5056
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本文  楓の叫び声に取る物も取り敢へず、ヅブ六連中は此場へバラバラツとやつて来た。高姫は五人の酔どれをグツと睨み、声を荒らげて、
『コリヤ、老耄奴、騒がしい、ドヤドヤと、何しにうせたのだ。不都合な事を申すによつて、義理天上日出神が折檻を致してをるのだ。いらざるチヨツカイを出し、構ひ立てを致すと了簡ならぬぞや』
『コレ、イルさま、イクさま、早う天上さまを放して下さいなア』
イル『ハイ宜しい、お前さまを助けに来たのだ』
と座敷へかけ上る。高姫は、
『イーイ、小癪な老耄奴』
と胸倉をドンと突いた。イルはヨロヨロとヨロめき、縁側から前へ仰向けにひつくり返つた。此態を見て、イク、サール、ハル、テルの四人はヒヨロヒヨロしながらも、気ばかりは勝つてゐるので、高姫目がけて武者振りつかうとする。高姫は楓を放しおき、両手を拡げて、出て来る奴を力に任せ、ウンとつく。何れもヘベレケに酔うてゐるのだからたまらない、高姫が非力にも敵し難く、将棋倒しに放り出されて了つた。そして五人は目がマクマクとしたと見え、泡をふいて苦しんでゐる。高姫は座敷の中央に大の字形に立ちはだかり、大音声、
『日出神、義理天上の生宮の神力は、マヅ此通りだ。仮令百人千人一万匹たりとも、来らば来れ、御神徳の今や現はれ時』
と図にのつてホラを吹立てる。そして楓が後にゐることは、前に気を取られて、スツカリ忘れてゐた。楓はソツと後から高姫の両足を掬つた。アツと叫んで、スツテンドウとひつくり返り、勢余つて再び転回し、五人の上にドスンと倒れた。其間に楓は急を両親に報ずべく、真跣足となつて裏口から神殿へとかけて行く。高姫は膝頭と向脛を縁板に打ちつけ、顔をしかめて、声さへえ上げず「ウーンウーン」と深き息をついてうめいてゐる。五人の酔どれは漸くにして起上り、高姫のそこに倒れたのを見て、
イル『コココリヤ、高姫、俺をどなたぢやと心得てる、イルさまだぞ。貴様は神罰が当つて、梟鳥の奴に目をコツかれ、木からバツサリと落ちて、難儀をさらしてゐたぢやないか。其時に此イルさまが介抱してやつたことを覚えてゐるか。余り悪がすぎると、此通りだ。エエー、オオ俺の意中の愛人たる楓さまを、何科があつて、ぶんなぐりやがつたのだ。ササ貴様、そこに倒れてゐやがるのを幸ひ、愛人の敵をうつてやるのだ。エエー、コレ楓さま、今お前の敵をうつから見とりなさいや』
イク『おい、イル、楓さまは逃げて行つたぢやないか』
『ウーン、肝腎の御本人がゐないと、何だか変哲がないワイ。お馬の前の功名でないと、縁の下の力持ではつまらぬからのう』
サール『此婆は、又しても又しても、乱暴な事ばかりしやがる奴だなア。木からブチヤだれやがつて、大変に苦しみ、俺たちに厄介をかけておきながら、チツと病気が癒つたと思へば、又もや発動しやがつて、あんな可愛い娘を打擲するとは怪しからぬ奴だ。大いに楓さまの肩をもつて、此婆をイヤといふ程擲りつけてやりたいものだな。コリヤ、高姫、貴様、それ程、キリキリ上つたり、おりたり、魔法を使ひよると、俺だとて一寸つかまへにくいわ。チツと静にせぬかい。こりや、おい、イク、ハル、イル、テルの奴まで、上になつたり下になつたり、まいまいこんこしてゐよる、オヤ家までまはり出したぞ。コリヤ大地震だ。小さい喧嘩をやめて、皆非常組と出かけななるまい、コリヤ皆の奴、そんな所にキリキリ舞しとる時ぢやないぞよ』
 高姫は打創の大痛も余程軽減したので、ムクムクと起上り、
『コリヤ、五人の老耄、貴様は此高姫の義理天上様を何と心得とる。許しもなしに酒に喰ひ酔うて、其上に生宮様に刃向かふとは何の事だ、不心得にも程があるぞや』
テル『ナナナ何を吐しよるのだい、悪の張本人奴が。爺の行方が知れぬので、発狂しよつたのだな。オイ、コラ、皆の奴、こんな気違に相手になるな』
『コーリヤ、モウ了簡せぬぞ、みせしめの為だ。日出神の鉄拳をくらへ』
と握り拳を固めて、小口から打つて行かうとする。此時後の方から、
『ウーツ ウーツ』
と唸つてやつて来たのは例のスマートであつた。そしてスマートは高姫の怪我せないやうに裾を食はへて怪力に任せ、ドンドンドンと後向けに引きずつて行く。高姫は腰から下を丸出しにして、
『オーイ、イル、イク、サール、助けに来ぬか、オーイオーイ』
と云ひながら、ドンドンドンと森の中へと引かれて行く。五人は此恐ろしきスマートの働きに肝を潰し、酒の酔ひもさめ、ポカンと口を開けて、高姫の叫びながら引張られて行く森の方を背伸びをしながら、心地よげに見送つて居た。
 楓は慌しく走り帰り、
『ア、皆さま、よう助けて下さいました。お蔭で高姫の毒牙を逃れました。一番がけに駆けつけて下さいましたのは何方で厶いましたいなア』
イル『ヘーエ、拙者で厶います。吾々五人は受付に於て酒の酔をさます折しも、(芝居口調)忽ち聞ゆる怪しの声、しかも妙齢の美人の叫び声……と聞くより、気も狂乱、救ひ……出さねばなるまいと、後鉢巻リンとしめ、襷十字にあや取り、袴の股立ヂンと上げ、此方を指して、一目散に、タツタツタツと一散走り、来て見れば虎狼にも等しき、馬鹿の天上日出神の生宮、おのれ、最愛の楓姫様を打擲いたすとは不埒千万、切つてすてむとかけよる折しも、敵の力やまさりけむ、グツと胸をつかれ、ヨーロヨロヨロヨロと三間ばかり、たあちまち、縁側より仰向にスツテンドウと顛落し、頭蓋骨をシタタカ砕き、腰の骨を幾らか痛めたれど、何を云つても最愛の楓姫の身代りと思へば、死しても冥すべし……と覚悟をきはめました。実に勇ましき勇士でげせうがなア』
『ホホホあのマア御元気なこと、男さまはお酒に酔ふと、それだから厭なのよ』
サール『アハハハハ、コリヤ、イル、どこに捻鉢巻をしてるのだい。襷十文字も、袴の股立も、どこにあるのだ。あまり馬鹿にするない。そんな事を云ふから、楓さまに笑はれるのだ』
イル『ナアニ、一寸芝居をして見たのだよ。アツハハハハ』
『時に皆さま、高姫さまは何処へ行かれましたの』
イル『ナアニ心配なさいますな。今頃にや猛犬に喰はれて居るに違ひありませぬワ。あの犬だつて、あんな大きな体をスツカリ食うて了ふ筈もありますまいから、腕の一本でも残つて居れば、其奴を葬つてやればいいのだ。マア貴女の強敵が亡びまして結構ですよ、御安心なさいませ。かくの如き万夫不当の大丈夫が此館に立籠る以上は、如何なる敵が押しよせ来るとも、何条ひるむべき、忽ち木端微塵と踏み砕き、蹴倒し薙ぎ倒し、天晴功名手柄を現はし、勝鬨あぐるは瞬く間、姫君様、必ず必ず御煩慮なされますなや』
と芝居がかりになつてゐる。
『そんな気楽な事云つて居らず、早く高姫さまを助けて上げて下さいな』
イル『ハイ、私にお頼みですか。但はイクにですか。又はサール、ハル、テル、何れに御指定下さいますかなア』
『エーエ、お酒に酔うて、困つた人だなア。皆さま、早う行つて助けて下さいな。マゴマゴしてゐちや、高姫さまの命がなくなりますよ』
イル『ヘヘヘ、何仰有います。あんな奴ア、犬に食はれた方が、余程都合が宜しいよ。のう皆の連中』
サール『それでも女王様の御命令だから、ともかく、見るだけでもいいから往つて来うぢやないか』
と下らぬクダを巻いてゐる。そこへ初稚姫は珍彦夫婦を伴ひ、現はれ来り、
『あ、貴女は楓さま、お怪我は厶いませなんだか、危ない事だつたさうですね』
『ハイ有難う厶います。チツとばかり頭が痛みますけれど、大した事も厶いますまい』
珍彦『余り楓は口がいいものですから、義理天上さまのお怒りに触れたのでせうよ』
『それだつてお父さま、毒殺を企んでおいて、あべこべに私をとつちめるのですもの、私だつて、余りで言はぬと居る訳には行きませぬワ』
静子『あの通りのお転婆で厶いますから、本当に親が困ります。初稚姫様、親の教育が悪いものですから、こんな時にアラが見えまして、お恥しう厶います』
イル『ナーニ、高姫婆奴、毒害をしようと企みよつたのか、其奴ア聞き捨てならぬ。オイ家来共、悪人の征伐だ、サア来いツ。腕をねぢ切り股を引きさき、首をチヨン切つてこらしめてやらう。いざ来い、来れ』
と尻ひつからげ早くも駆け出さうとする。四人も、
『ヨーシ、合点だ、突貫々々』
と云ひながら、尻ひつからげ、かけ出さうとするのを初稚姫は声を励まし、
『皆さま、お待ちなさい』
と制止した。
イル『それぢやと申して、斯の如き悪人を、どうノメノメと見のがす事が出来ませう。どうぞ私に天上の命をとらして下さい。日頃鍛へた武術の手前、二尺八寸伊達にはささぬ』
と又もや駆け出さうとする。初稚姫は両手を拡げて五人の前に立塞がり、
『待つた待つた、お待ちなさいませ。楓さまが夢を御覧になつたのですよ。サツパリ嘘ですからな、メツタな事をしては可けませぬ』
と初稚姫の早速の頓智に五人は張切つた勢も抜け、互に顔を見合せ、
『ナーンダ、馬鹿らしい、夢だつたか』
と手持無沙汰に、又もやしやがんで了つた。
『それだつて、私、チツトも嘘は云はないワ』
『楓さま、夢の浮世といふ事がありますよ。お前さまは夢をみてゐたのですよ。夢と思ひさへすりやすむ事ですからね』
『だつて頭が痛みますもの、夢になぐられても矢張こんなに痛いでせうかな』
と頭を抱へて、恨めしさうにしやがんで了つた。
珍彦『初稚姫様、仕方のない娘でせうがな。時々大それた、あんな嘘を申しましてな、両親も困りますの』
『お父さま、わたえ、嘘は嫌ひといふのに……そんな事云つて貰つちや、私の立瀬がないワ。アンアンアンアン』
静子『何でもいいぢやないか。おとなしくしてゐなさい』
『それでも痛くてたまらないワ』
初稚『サ、イルさま、イクさま、外三人さま、早く高姫さまを救ひ出しに行つて下さいな』
イル『ハイ、承知致しました。サ、四人の者共、天下無双の勇士、イルに続けツ、前へ進めツ、一二三ツ』
と軍隊式にチヨクチヨクと地上を刻みながら、高姫の引きずられて行つた木の茂みを探ねて走り行く。後見送つて初稚姫は両手を合せ、神界に高姫の無事ならむ事を祈つた。
楓『姫様、本当に義理天上といふあの婆アさまは、無茶な人ですよ。思ひ出すと、余りの業託をいふので、腹が立つてたまりませぬワ。貴女様がお助け下さらなかつたならば、モウ今頃はお父さまもお母さまも亡くなつてゐるのですもの。私は子として、何うしてこれが黙つてゐられませうかねえ。チツと戒めておいてやらなければ、何時、お父さまやお母さまを毒害するか分つたものぢやありませぬ。私、ここ一週間程といふものは、夜分もロクに寝た事はありませぬのよ。両親の身の上が気にかかつて仕方がないのですもの』
『ああそれは御尤もで厶います。併しながら何事も神様に御任せなさいませ。三五教の宣伝歌にも厶いませうがな……神が表に現はれて、善と悪とを立別ける……とお示しになつてゐますから、キツと悪人は神様が仇を討つて下さいますよ。人間は何事も神様にお任せする方が安全ですからね』
『ハイ、有難う厶います』
珍彦『姫様、よう言うて聞かして下さいました。吾々夫婦もこれでヤツと安心致しました。実の所、吾々夫婦も此間から一目も能う寝なかつたのです。何時此楓が懐剣を持つて、親の敵だと云つて、高姫様に切りかけるやら分らない形勢で厶いましたので、茲七八日といふものは、夫婦の者が夜分になれば一睡もせなかつたのです。どうぞ不調法がないやうと大神様に祈つてゐました。先づ先づそのお蔭で無事に今日迄暮れました。誠に有難う厶います。高姫様の御大病中にも夫婦の者がお尋ねせなくちやなりませぬのだが、娘が聞きませぬので、心ならずも、いかい失礼を致しました。又娘は娘として、高姫さまにお見舞にやつてくれと申しましたが、どうも懐剣を放さないので、剣呑でたまりませず、娘も見舞にやらず、吾々夫婦もお見舞にゆかず、高姫様がお不足仰有るのも無理も厶いませぬ。何と云つても親の敵を討つと云つて、あのイヤらしい山口の森へ丑の時参りをするといふ娘で厶いますからな。本当に敵愾心の強い、女子だてら仕方のない難物で厶います。どうぞ貴女様のお力で、トツクリと言ひ聞かしてやつて下さいませ』
『楓さま、お腹が立ちませうが、どうぞ私の居間迄御遊びに来て下さいませ。又面白い歌でも歌つて遊びませう。サ、お出でなさいませ』
と優しく楓の手を曳いて、十七才の女同士が初稚姫の居間を指して進み行く。
(大正一二・一・二一 旧一一・一二・五 松村真澄録)
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