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文献名1霊界物語 第51巻 真善美愛 寅の巻
文献名2第1篇 霊光照魔よみ(新仮名遣い)れいこうしょうま
文献名3第2章 怪獣策〔1317〕よみ(新仮名遣い)かいじゅうさく
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-08-02 14:07:44
あらすじ初と徳は文助に言いつけられて、妖幻坊と高姫のために御馳走をこしらえ、酒に燗をして二人の前に並べた。妖幻坊はお菊に酌を所望したが、お菊は二人をからかうと飛び出して逃げてしまった。高姫と妖幻坊は、松姫もあまり信用がならず、お菊も簡単には手なずけられそうにないとして、初と徳に酒を飲ませてこちらの手に引き込もうと計画した。高姫と妖幻坊は、初と徳に酒を飲ませながら、二人をウラナイ教に引き込もうと話を持って行っている。お菊はその様子をそっと窓からのぞいていたが、宣伝歌を歌いだした。お菊は高姫の企みを歌に歌い込み、また杢助と名乗る男は悪魔が化けているのだろうと歌い終わると、さっと逃げてしまった。妖幻坊と高姫はお菊の歌に懸念を抱くが、また初と徳を取り込みにかかった。高姫は二人を口でちょろまかしている。妖幻坊の体はにわかにふるえだした。窓の外をちょっと覗いてみると、猛犬が矢のように階段を上り、松姫館の法にすがたを隠した。高姫はアッと驚いて腰を下ろし、妖幻坊も冷や汗をかいて震えおののいていた。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月25日(旧12月9日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年12月29日 愛善世界社版25頁 八幡書店版第9輯 274頁 修補版 校定版26頁 普及版12頁 初版 ページ備考
OBC rm5102
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本文の文字数6712
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本文  初、徳の両人は種々と馳走を拵へ、酒を沢山に燗して二人の前に恭しく並べた。
初『私は此お館の新役員で厶います。魔我彦様にお引立に預りまして、つい此間から幹部に選定されました。今迄はウラル教の信徒で厶いましたが、余り此お館にお祀りしてある神様の御威勢が高いので、ついお参りする気になり、信者として四五日籠つてる中、抜擢されまして、今では魔我彦様の御用を聞いて居ります。炊事なんかするやうな地位では厶いませぬが、今日は特別を以て、文助様の御命令により、料理法の粋を尽して拵へて参りました。どうでお口には合ひますまいが、何卒一つ召上つて下さいますやう御願ひ致します。たまたまのお越し故、可成山海の珍味を以て献立がしたいので厶いますが、余り俄かのお出で材料が欠乏致し不都合で厶います』
高姫『ヤ、お前は魔我彦の家来かな、成程、下り眉毛の、一寸面白い顔だな。之から此高姫が此処の教主だから、其積りで居つて下さい。そしてここの信者は幾ら程あるかな』
『ヘーお初にお目にかかつて、顔の批評までして頂きまして、イヤもう感服致しました。まだ新任早々の事で、ハツキリは分りませぬが、トツ百ばかり、あるとか、ないとか言ふことで厶います。魔我彦さまも、この調子なら、今にパツ百人ほど殖えるだらうと申して居りました。貴女は噂に……イ……高き、ダカ姫さまで厶いますかな。どうもよくお出で下さいました。そして立派な男様は貴女様の御主人でゐらせられますか、どうも御夫婦打揃ひ、御出張下さいました段、やつがれ身にとりまして、恐悦至極に存じ奉りまする』
『何と面白い男だなア、ヤ御馳走さま、これからお腹もすいたなり、一寸くたぶれたからゆつくりと頂きませう』
『私で宜しう厶いますれば、一寸お酌をさして頂きませうかな。私も余り、飲めぬ口でも厶いませぬから……』
『ヤ、結構で厶います、何れ用があつたら、此鈴をふりますから来て下さい』
『承知致しました、それぢやお菊さまにお給仕をして貰ひませう』
お菊『コレ初さま、厭だよ、誰がこんな小父さまや小母さまのお給仕するものかい。私がお給仕するのは万さまだよ。イヒヒヒ、すみませぬなア、お構ひさま』
妖幻『オイお菊とやら、此杢助に一つ注いではくれまいか。お前の若い手で注いで貰ふのは、余り気持が悪うはない。高姫さまといふ天下一の別嬪さまがついて厶るのだから可いやうなものの、又変つたのも、此方の気が変つていいかも知れない』
『いやですよ、之からお千代さまと遊んで来なならぬワ、待合の酌婦ぢやあるまいし……御夫婦さま仲よう、シンネコでお楽しみ……御免よ』
と逃げるやうにして、腮を三つ四つしやくりながら、肩をあげ首をすくめ、両手を前へパツと開き揃へ、
『イツヒヒヒ』
と胴までしやくつて、飛出して了つた。後に二人はイチヤイチヤ言ひながら、酒を汲みかはし始めた。
高姫『コレ杢助さま、松姫だつて、文助だつて、中々さう易々と服従するものぢやありませぬよ。口先では立派な事言つて居つても、心の底は容易に帰順致しませぬよ。あのお菊だつて、中々手に合はぬぢやありませぬか、此奴は一つ、何とか工夫をせなくちやなりませぬよ』
『兎も角、あの初と徳とを此処へ呼んで、酒でも飲ませ、腸までよく調べて、其上でこちらの味方を拵へておかねば、駄目だと思ふ。何程お前が義理天上だと云つても、杢助だと云つても、松姫の外、俺の顔を知つた者はないのだからな』
『ソリヤさうですな、それなら一つ、初と徳を呼んで酒を飲ましてやりませうかい』
『ウン、それが可い、就いては、あのお菊も此処へよせて、酌をさせるがよからう。さうでなくちや、彼奴、一すぢ縄ではいかぬ奴だから、甘く手の中へ丸めておく必要があらうぞ』
『貴方は又、お菊に秋波を送つてゐるのですか、エーエ油断のならぬ男だなア、それだから義理天上さまが、お前を目放しするなと仰有るのだ。本当に気のもめる男だな。私の好く人、又人が好く……といふ事がある。こんないい男を夫に持つと、此高姫も気のもめる事だワイ』
『まるで監視付だなア、高等要視察人みたいなものだ。あああ、こんな事なら、今までの通り、独身生活をして居つたらよかつたに、娘の初稚姫にだつて、何だか恥しくつて、顔さへ合されもせないワ。娘どころか犬にさへ恥しいやうだ。それだから、俺はあの犬は嫌といふのだ』
『お前さまは、二つ目にはいぬいぬと仰有るが、何程いぬと云つても、綱をかけたら帰なしはせぬぞや。いぬなら帰んでみなさい。仮令十万億土の底までも探し求めて、お前さまの胸倉をグツと取り、恨をはらしますぞや』
『あああ、怖い事だなア。それなら今後はおとなしう御用を承はりませう。義理天上様、金毛九尾様、今日限り改悪致しますから、お許しを願ひます、エヘヘヘヘ』
『何なつと、いつてゐらつしやい、どうでこんな婆アはお菊には比べものになりませぬから』
『それなら、女王様の御命令を遵奉し、ドツと改悪致して、お菊は入れない事にし、初公と徳公を、ここへ呼んで、ドツサリ酒を飲まさうぢやないか』
 次の間から、
『ヘー、初も徳もここに居ります。お相手を致しませう』
とまだ呼びもせぬ先から、喉がグーグーいつて仕方がないので、襖をあけて、ヌツと顔を出した。
高姫『コレ、初さま、徳さま、お前は最前から私達の話を聞いて居つたのだなア』
初『ヘー、大命一下、時刻を移さず、御用に立たむと、次の間に手具脛引いて控へて居りました。イヤもうドツサリと結構なお二人様の情話を聞かして頂き、有難いこつて厶りました。あれだけ結構な話を聞かして頂いた以上は、一杯や二杯奢つて下さつても損はいきますまい。のう徳公、本当に羨ましいぢやないか』
妖幻『ハハハハ、どうも気の利いた男だ、お前達二人は小北山に似合はぬ立派な者だ。こんな立派な役員が、吾々の来るに先立ち、おいてあるとは、全く神様のお仕組だ。オイ、初公さま、徳公さま、俺の盃を一杯うけてくれ』
初『イヤ、これはこれは御勿体ない、お手づから頂きまして、実に光栄です、なア徳よ』
徳『ウン有難いなア、こんな事が毎日あると尚結構だがなア』
妖幻『朝顔形の盃はないかなア』
徳『ヘー、朝顔形の盃も沢山厶いましたが、前の教主様が、高姫さまの唇に似てると仰有つたので、お寅さまと云ふ内証のレコが、悋気して皆破つて了はれたさうで、今では一つも厶いませぬ』
『フフフフフ、さうすると、此盃は敗残の兵ばかりだな。打ちもらされし郎党ばかりか、ヤヤ面白い面白い、サ、徳公、一杯行かう』
『ヤ、これはこれは誠に以て有難く頂戴いたします。酒といふものは百薬の長とかいつて、いいものですな、かう青々とした春の野を眺めて、一杯やる心持と云つたら本当に譬へやうがありませぬワ、どうぞ之から貴方等御両人の指揮命令を遵奉致しますから、可愛がつて下さいや』
『ウン、よしよし、併し蠑螈別と此杢助とは、どちらがお前は偉大なと思ふ』
初『ソリヤきまつて居ります。背い恰好と云ひ男振と云ひ、天地の違ひで厶りますワ』
『どちらが天で、どちらが地だ』
『そこがサ、テーンと、イー私には分らぬ所です。併し、チーとばかり劣つて居りますなア』
『どちらが劣つて居るのだ』
『杢助様、言はいでも分つてるぢやありませぬか。劣つた方が劣つてるのですもの、高姫さまの前だから、何方へ団扇をあげて可いだやら、マア言はぬが花ですなア、夫婦喧嘩をたきつけるやうな事があつては誠にすみませぬから……』
『ハハハハ、其奴ア面白い、マア言はぬが宜からう』
高姫『コレ初、構はないから言つておくれ、私だつて何時までも、蠑螈別さまの事など思つてはゐやしないよ。あの方は大広木正宗さまの生宮だつたが、今はサツパリ三五教へ沈没したのだから、最早普通の人格者としても認めてゐないよ。何卒蠑螈別さまのこた、言はぬよにして下さい』
初『モシ、高姫さま、ここはウラナイ教ぢやありませぬよ、松彦さまがお出でになつてから、ユラリ彦さまや義理天上さま、ヘグレ神社其外、サーパリ、ガラクタ神をおつ放り出し、残らず三五教の神様と祀り替へてあるのですから、蠑螈別さまが三五教へお入りになつたのが悪い筈はないぢやありませぬか、さうすると今は貴女は三五教ぢやないのですか』
『コレ初さま、お前も野暮な事をいふものぢやない、神の奥には奥があり、表には裏があるのだ。此高姫だつて、表面は三五教になつてるけれど、矢張りウラナイ教だよ。世の中は一通りや二通りでいくものでないから、お前も其精神で居つて下さい。これからお前等二人を杢助さまの両腕として出世をさして上げるから、さうすりや文助さまを頤でつかふやうになるよ、今に受付の命令をハイハイと聞いてるやうぢや詮らぬぢやないか』
『イヤ、分りました。のう徳公、貴様も賛成だらう』
徳『ウーン、お前が賛成すりや、賛成しない訳にも行かぬワ、併しながら松姫さまは何うだろ、こんな事を御承知なさるだらうかなア』
初『ソリヤ高姫さまの腕にあるのだ、俺達や、只御両人の頤使に従つて居れば可いぢやないか』
 お菊は外から、窓へ顔をあて、四人の酒を飲んでゐるのを見て、あどけない声でうたつてゐる。
『天に口あり壁に耳  企んだ企んだ陰謀を
 お菊はソツと両人の  腹の中まで推知して
 一寸其処まで出て来ると  甘くゴマかし戸の外で
 スツカリ様子を窺へば  耳をペロペロ動かして
 尖つた口をしながらも  高姫さまと意茶ついた
 揚句のはてが小北山  此神殿をウマウマと
 占領せむとの企みごと  初公、徳公両人を
 うまく抱込み酒飲まし  さうして之から松姫の
 目を晦まして義理天上  日の出神の生宮と
 居据り泥棒をする積り  何程高姫偉いとて
 どうしてどうして松姫の  鏡のやうな魂を
 曇らすことが出来ようか  そんな悪事を企むより
 早く改悪するがよい  改心するにも程がある
 オツトドツコイこりや違うた  さはさりながら高姫は
 善をば悪と取違へ  悪をば善と確信し
 改心慢心ゴチヤまぜに  なさつて厶るお方故
 私も一寸其流儀  臨時に使用しましたよ
 コレコレもうし杢さまえ  蠑螈別の思ひ者
 朝顔猪口の高さまえ  何程お前等両人が
 初と徳とを抱込んで  うまい事をばしようとしても
 忽ち陰謀露顕して  逃げていなねばならぬぞや
 松姫さまがお前等の  詐り言を真に受けて
 聞かれたとこが此お菊  中々承知は致さない
 侠客娘と名を取つた  浮木の森のチヤキチヤキだ
 オホホホホホホオホホホホ  窓から中を眺むれば
 あのマア詮らぬ顔ワイナ  イヒヒヒヒヒヒイヒヒヒヒ
 杢ちやま、高ちやま左様なら  ゆつくり陰謀お企みよ
 あとからあとから此お菊  叩きつぶしてゆく程に
 何だか知らぬが杢さまの  姿が時々変り出し
 耳の動くはまだおろか  口までチヨイチヨイ尖り出し
 鼻より高うなつてゐる  私が一寸首ひねり
 考へました結末は  虎と獅子との混血児
 金毛九尾と御夫婦に  なつてここまで小北山
 貴の聖場を占領し  朝から晩まで酒のんで
 威張り散らさむ計劃か  但はここに網を張り
 斎苑の館へ往来する  数多の信者を引捉へ
 堕落さした上ウラナイの  醜の教に引込んで
 此世の中を泥海に  濁らし汚すつもりだろ
 何程弁解したとても  お菊がここにある限り
 お前の企みは駄目だぞえ  ああ面白い面白い
 面白うなつて来ましたよ  妖幻坊の杢助や
 金毛九尾の義理天上  鼻高姫の運の尽
 松姫さまの神力と  お千代の方の神懸
 さとき眼に睨まれて  尻尾を出しスタスタと
 忽ち此場を駆出すは  鏡にかけて見るやうだ
 悪魔がそんな扮装をして  大日の照るのに吾々を
 化かそとしても反対に  化けが現はれ舌かんで
 旭に打たれて消えるだろ  それ故お前杢助は
 祠の森にゐた時ゆ  日輪様の照る所へ
 一度も出たこたないぢやないか  たまたま外へ出た時は
 日蔭の深き森の中  初稚姫の伴ひし
 スマートさまにやらはれて  ビリビリ慄うてゐただらう
 お菊はチツとも知らないが  何だか知らぬが腹の中
 グルグルグルと玉ころが  喉元迄もつきつめて
 妙な事をば云ひますぞ  これこれ高姫、杢さまよ
 初公、徳公両人よ  胸に手をあて思案して
 臍をかむよな事をすな  誠の日の出の義理天上
 お菊の体をかりまして  四人の獣に気をつける
 ああ惟神々々  目玉飛び出しましませよ
 アハハハハハハアハハハハ  オホホホホホホオホホホホ』
と歌ひ了り、一生懸命に青葉の芽ぐむ森林の中へ脱兎の如く身を隠して了つた。
妖幻『オイ高姫、ありや気違ひぢやないか。困つた、此処にはモノが居るぢやないか。あんな事を言はしておきや、数多の信者を迷はすかも知れない。何とかして、窘めてやらねばなるまいぞ』
高姫『本当に、仕方のない奴ですワ、松姫さまも、なぜあんな気違ひを置いとくのだらうなア。コレ初公さま、いつも、あのお菊はあんな事を言ふのかい』
初『ヘー、随分誰にでもヅケヅケといふ女ですよ。併しながら今日みたいな悪口云つたこた、まだ聞きませぬな、あの女の云ふ事は、比較的正確だとの定評があります』
『定評があると云ふからには、お前達は吾々夫婦を怪しいものと観察してゐるのかい』
『ヘー、別に……怪しいとは思ひませぬ。只貴方等両人の仲は、ヘヘヘヘ、チと怪しくないかと直覚致しました、違ひますかな』
『杢助さまと夫婦になつたのが、何が怪しいのだ。神と神との許し給うた結構な生宮だぞえ。神だとて夫婦がなければ、陰陽の水火が合はないから、天地造化の神業が成功せないぢやないか』
『ヤ、さうキツパリと承はりますれば、今後は其考へでお仕へ致します。さうすると杢助様は貴女の旦那で厶いますか。よくお似合ひました夫婦で厶います。ヘヘヘヘ、イヤもうお目出度う、それでは今日は御婚礼の御披露の酒とも申すべきものですな、ドツサリ頂戴致しませう。誠に御馳走さまで』
徳『オイ、初ウ、さう御礼を言ふに及ばぬぢやないか、お酒も御馳走の材料も、皆小北山の物でしたのなり、料理も俺達二人がしたのだ。そして新夫婦に、こちらから振舞つてゐるのだから、御馳走さまも何もあつたものかい、先方の方から礼を云つたら可いのだ』
高姫『コレ、徳とやら、お前の云ふ事は一応理窟があるやうだが、それは神界の事の解らぬ八衢人間の云ふ理窟だぞえ。現界の理窟は霊界には通じませぬぞや。かうして御馳走が出来るやうになつたのも、皆天上から日の出神様が御光を投げ与へ、雨露を降らして下さるお蔭で、五穀、さわもの、菜園物一切が出来てるぢやないか、其生神様にお給仕さして頂くお前は誠に結構だ。神の方から御礼申すといふ理窟がどこにあるものかい。チツとお前も神界の勉強をしなさい、さうすりや、そんな小言は云はないやうになつて了ひますよ』
徳『ヘー、何とマア都合の好い教理で厶いますこと』
『コレ、お前は義理天上の云ふ事が、どうしても腹へ入らぬのかなア』
『ヘー、さう俄かに入りにくう厶います。何分お酒や御飯で格納庫が充実してゐますから、今の所では余地が厶いませぬ』
『何とマア盲ばかりだなア、そら其筈だ、霊国の天人の霊と、八衢人間の霊とだから無理もない、お前さまもチツと之から日の出神様の筆先を読みなさい。さうすれば三千世界の事が見えすくやうになるだらう、コレ初さまえ、お前はチツと賢さうな顔してるが、高姫のいふ事が分つたかなア』
初『ハイ、仰せの通り、此お土の上に出来たものは皆神様のお力で厶います。何程立派な人間でも、菜の葉一枚生み出すことは出来ませぬ、仰せ御尤もだと考へます』
『成程、お前は偉いわい、之から杢助様の片腕にして上げるから、どうだ嬉しうないか、結構だらうがな。何といつても三五教の三羽烏の一人、時置師神様だぞえ』
『ハイ、身に余る光栄で厶います。オイ、徳、貴様も改心して、結構だといはぬかい……否改悪して、貴女の仰有る通りだ、と、心はどうでもいい、いつておかぬかい。社交の下手な奴だなア』
徳『それなら高姫さまの御説に、ドツと改悪して賛成致します。何卒宜しう御願ひ申します』
『心からの改心でなければ駄目だぞえ。ウツフフフフ、コレ杢助さま、人民を改心さすのは高姫に限りませうがな』
 妖幻坊は俄に体が震ひ出した。窓の外を一寸覗いて見ると、猛犬が矢の如く階段を登つて、松姫館の方へ姿を隠した。高姫はアツと一声、ドスンと腰を下し、目を白黒してゐる。妖幻坊も亦冷汗をズツポリかき、ガタガタと震ひ戦くこと益々甚しい。
(窓外白雪皚々たり 大正一二・一・二五 旧一一・一二・九 松村真澄録)
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