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文献名1霊界物語 第29巻 海洋万里 辰の巻
文献名2第1篇 玉石混来よみ(新仮名遣い)ぎょくせきこんらい
文献名3第3章 白楊樹〔825〕よみ(新仮名遣い)はくようじゅ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ櫟ケ原(櫟が原) データ凡例 データ最終更新日2021-12-20 17:56:17
あらすじ鷹依姫の一行四人は、ウヅの国の櫟が原にようやく辿り着いた。竜国別、テーリスタン、カーリンスの三人は、黄金の玉を錦の袋に収めて、交代で担ぎながらアリナ山の急坂を上り下りしながらこの場所にやってきた。どうしたわけか、玉は一足一足重量を増すがごとくに思えて転倒しそうな気分になってきた。一行は、白楊樹の陰に足を伸ばして休むことになった。四人は玉を抱えて草の上に眠りについてしまった。折から夜嵐が吹き、白楊樹が弓のようにしなったはずみに、玉の袋を首に掛けていたテーリスタンは白楊樹の枝を抱えてしまい、白楊樹のしなりが元に戻ると、テーリスタンは梢に引き上げられてしまった。驚いたテーリスタンは足を踏み外して落ちてしまった。三人は驚いて目を覚まし、テーリスタンを介抱する。三人はテーリスタンが首に掛けていた黄金の玉が紛失しているのに気付き、テーリスタンに問いただす。鷹依姫に責められたテーリスタンは、やはり権謀術数的なやり方をするから神罰が当たったのだ、と言い返す。鷹依姫と言い合っているうちに、カーリンスが白楊樹の梢に錦の袋が引っかかっているのを見つけた。鷹依姫の命でカーリンスが白楊樹に登りかけたが、悲鳴を上げて落ち倒れてしまった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月11日(旧06月19日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年9月3日 愛善世界社版39頁 八幡書店版第5輯 479頁 修補版 校定版39頁 普及版18頁 初版 ページ備考
OBC rm2903
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本文
 三五教の宣伝使  鷹依姫を始めとし
 竜国別やテー、カーの  一行四人は蛸取村の
 山奥深く進み入り  アリナの滝の上流に
 神代の昔月照彦の  神の命の現れませる
 鏡の池の岩窟に  身を潜めつつ黄金の
 玉の所在を探らむと  鷹依姫を岩窟の
 中に隠して神となし  竜国別は池の辺に
 庵を結び朝夕に  天津祝詞を奏上し
 審神者の職を勤めつつ  テーリスタンやカーリンス
 二人の男を西東  北や南の国々へ
 言宣れ神と身をやつし  アリナの滝の上流に
 月照彦の現はれて  何れの人に限りなく
 玉と名のつく物あらば  到りて神に献ずれば
 大三災の風水火  小三災の饑病戦
 赦し玉ひて其人に  無限無量の寿を与へ
 五穀果物成就し  無限の福徳授かると
 善い事づくめをふれまはし  欲に目のなき国人は
 玉に善く似た円石や  瑪瑙の玉やしやこ翡翠
 珊瑚珠玉を持出して  遠き山野を打渡り
 鏡の池の傍に  供へて帰る可笑しさよ
 竜国別は一々に  目を光らして眺むれど
 一つも碌な奴はない  偶黄色の玉見れば
 表面飾る金鍍金  ガラクタ玉は山の如
 積み重なりて数多く  日を重ぬれど三五の
 錦の宮に納まりし  黄金の玉は影もなし
 テー、カー二人はそろそろと  小言八百言ひ並べ
 『鏡の池を後にして  何処の果にか宿替し
 又更めて一芝居  打たうぢやないか』と両人に
 言挙げすれば鷹依姫や  竜国別は『待て暫し
 モウ一息の辛抱だ  堪へ忍びは幸福の
 母となるぞ』と両人を  チヨロまかしつつ待つ間に
 テーナの里の酋長が  黄金の玉を持出でて
 玉の輿に乗せ乍ら  数多の人数を引連れて
 アリナの滝や鏡池  神の御前に捧げむと
 風に旗をば靡かせつ  進み来るぞ勇ましき。
 虚実の程は知らねども  擬ふ方なき黄金の
 玉に喉をば鳴らせつつ  テーナの里の酋長に
 国玉依別と名を与へ  暫くアリナの滝の辺に
 御禊の業を命じおき  瑪瑙の玉と掏り替へて
 夜陰に紛れて谷を  遡りつつアリナ山
 峰打渉り宇都の国  櫟が原に四人連れ
 萱生茂る大野原  やうやう辿りつきにけり。
 竜国別、テーリスタン、カーリンスの三人は、代る代る黄金の玉を錦の袋に納め、肩に担いでアリナ山の急坂を登り降りし乍ら、汗をタラタラ漸く茲に辿り着きぬ。どうしたものか、此玉は一歩々々重量を増し、後から何者か引張る様な心地し、余程頭を前に傾けて居らぬと、玉の重みに引きつけられて、仰向けに転倒する様な気分になつた。漸くにして生命カラガラ此処までやつて来て、最早大丈夫と白楊樹の蔭に足を伸ばして一休する事と為しぬ。
 身の丈五尺計りの大蜥蜴は幾百ともなく萱野ケ原を前後左右に駆巡り、雀の様な熊蜂、虻は汗臭い臭をかいで寄り来り、油蝉の様な金色の糞蠅、咫尺も弁ぜざる程群集し来り、ブンブンと唸りを立てる、其煩ささ。四人は萱の穂を束ねて大麻に代へ、右の手にて虻、蜂、金蠅などを払ひ乍ら、日の暮れたるに是非なく、玉を抱えて、四人は草の上に横たはり、草臥果てて、舁いて放られても分らぬ迄に熟睡し居たりけり。
 折柄吹き来るレコード破りの夜嵐に、萱草はザワザワと音を立て、白楊樹は風を含んで弓の如く、大地を撫で、虻、蜂、蠅などは、何処へか吹き散らされて、一匹も居なくなつて了つた。白楊樹は弓の如く風に吹かれて地を撫でた途端に、四人の体の上に襲ひ来たりぬ。
 テーリスタンは寝惚けた儘、玉の袋を首に結びつけ乍ら、白楊樹の枝を、夢現になつて力限りに抱えた。さしもの暴風もピタリと止んで、天に冲する白楊樹は元の如く直立して了つた。よくよく見ればテーリスタンは、白楊樹の梢に、何時の間にか上られてゐた。『アツ』と驚く途端に足ふみ外し、唸りを立てて三人が寝てゐる側近く、図転倒と落下し来り、ウンと一声目の黒玉をどつかへ隠して了つて、白玉計りグルリと剥き、大の字となつて、手足をピリピリと震はして居る。玉を包んだ錦の袋は、白楊樹の空に引つかかつてブラつきゐたり。
 三人は驚いてテーリスタンの側に駆寄り『水よ水よ』と叫び乍ら、あたりを見れ共、水溜りはどこにも無い。月は淡雲を押分けて、漸く下界に光を投げた。あたりを見れば地を赤く染めて苺の実がそこら一面に熟してゐる。竜国別は手早く二三個をむしり取り、歯をくひしばつて倒れてゐるテーリスタンの口を無理にこじあけ、苺を潰して、其汁を口中に入れた。テーリスタンは漸くにして息を吹き返し、顔をしかめて、腰のあたりを切りに撫で廻しゐる。
カー『おいテー、貴様一体如何したのだ。こんな所でフンのびたり、心細い事をやつて呉れな。ヤアそして貴様の首にかけて居つた玉袋は何処へやつたのだい』
テー『どこへやつたのか、根つから覚えない。何でも俺は天狗にさらはれて、高い所へあげられた夢を見たが、ヤツパリ元の所だつた。大方夢の中の天狗が取つて帰にやがつたかも知れやしないぞ。何と云つても結構な黄金の玉だから、天狗迄が欲しがると見える。小人玉を抱いて罪ありとは此事だなア。あゝ腰が痛い、玉所の騒ぎかい。何とかして呉れぬと、息がつまりさうだ。アイタタ アイタタ』
と顔をしかめて居る。鷹依姫はビツクリして顔色を変へ、
鷹依『コレ、テーさま、今迄苦労艱難して手に入れた黄金の玉を、お前如何したのだ。サア早く返して下さい。あの玉を紛失でもしたら、承知しませぬぞや』
テー『そんな事云つたつて、無い袖はふれぬぢやありませぬか。何れどつかにアリナの滝でせう。甘い事を云つて酋長の家の宝を何々して来たものだから、神罰は覿面、何々がやつて来て何々したのかも知れませぬぜ。お前さまも余り大きな声で小言を云ふ資格はありますまい。仮令泥棒に盗られた所で元々ぢやないか。泥棒の上前をはねられたと思へば済む事だ。あゝこれで改心をして権謀術数的の行方は今日限り断念なされませ。心の玉さへ光れば、黄金の玉の三つや四つ無くなつたつて、物の数でもありませぬ。酋長の奴の性念玉が憑りうつつてると見えて、アリナの山を渉る時にも随分後から引張られる様で、重たくて、苦しくて仕方がなかつた。此広い高砂島を、あんな重たい物を持つて歩かされようものなら、それこそ吾々は息ついて了ひますワ。黄金の玉を紛失したとてさう悲観したものでもありませぬ。つまり神様から大難を小難に祭りかへて、罪業をとつて頂いたと思へば、こんな結構な事はありませぬ。サアサア皆様、大神様に感謝祈願の祝詞を奏上して下さい』
鷹依姫『これテーさま、何と云ふ勝手な事を仰有るのだ。お前もチツとは責任観念を持つたら如何だい。折角長の海山を越え、苦労艱難をしてヤツと手に入れた三千世界の御神宝を、ムザムザと紛失しておいて、ようマアそんな勝手な事が云へたものだ。如何しても斯うしても、其玉を再び発見する迄は、テーさま、お前は仮令十年でも百年でも、ここを動く事はなりませぬぞえ』
テー『あゝ困つたなア。お月様は何程照つても、肝腎の月照彦神様は如何して御座るのか。キツパリとあの玉はどこに隠れて居るとか、誰人が盗つたとか、知らして下さりさうなものだ。アヽ鷹依姫さまにボヤかれる、腰の骨は歪んで痛い苦い。この様な蜥蜴原に脛腰の立たぬ様な目に遭はされて如何なるものか。神様も余り聞えませぬワイ、アンアンアン』
とソロソロ泣き出したり。
鷹依『これテー、何程泣いたつて、玉は返つては来ませぬぞえ。チトしつかりして、胸に手を当て考へて見なさい。お前はまだ本当に目が醒めぬのだらう』
テー『マアさうセチセチ言はずに、チツと計り猶予を与へて下さい。玉の行方は何処ぞと、沈思黙考せなくては、短兵急に吐血の起つた様に請求されても、早速に開いた口がすぼまりませぬワイ』
鷹依『お前所か、こつちの方から、余りの事で、阿呆らしさが偉大うて、開いた口が、それこそすぼまりませぬワイナ』
 カーリンス空を仰ぎ見て、
カー『ヤア、月夜でハツキリは分らぬが、あのポプラの梢に、何だかピカピカと光つて、ブラ下つて居る物が見えるぢやないか。あれはテツキリ玉の這入つた錦の袋の様だぞ』
 竜国別は白楊樹の空を眺めて、
竜国『ヤア如何にも、あれは錦の袋だ。おいテー、お前は御苦労にも、あの様な高い木の梢へ袋を括りつけ、盗まれぬ様にと気を利かした迄はよかつたが、足ふみ外し、真逆様に墜落して腰を打ち、目を眩かして居よつたのだなア。アハヽヽヽ。サアこれから御苦労だが、テーさまに登つておろして来て貰はうかい。あこ迄括りつけに往た丈のお前だから、木登りはよく得手て居ると見える。サア早う下ろして来てくれ』
 テー、天空を仰ぎ見て、
テー『ヤア如何にも不思議だ。何時の間にかあんな所へ、誰が持つて登りよつたのだらう。私は生れ付き、木登りは拙劣だから、到底あんな所へあがれる気遣はないのだ。大方天狗の奴悪戯しよつたのであらう。あんな所へあがるのは、到底天狗でなくては出来るものではありませぬワイ……なア竜国別さま、あなた鎮魂して天狗を呼集め、あの袋を茲へ持つて来る様にして下さいなア』
竜国『お母アさま、如何でせう。合点の往かぬ事ぢやありませぬか。テーは御存じの通り、身の重たい男で、あの様な所へ、能うあがり相な事はありませぬ。コリヤ矢張天狗の悪戯に間違ありませぬよ』
鷹依『此辺には野天狗が沢山に居るから、油断をする事は出来ませぬ。これは何とかして、神様に御願申し下ろして頂かねば吾々は何時になつても此処を離れる事は出来ませぬ。……コレ、カー、お前はチツとばかり身が軽さうだ。神様の為、世界の為の御宝だから、取りにあがつても滅多に無調法はありますまい。私がこれから大神様に一生懸命願をこめるから、お前御苦労だが、一寸登つて来て呉れまいかなア』
カー『さうですな、マア一寸試に登れるか登れぬか、調べて見ませう』
と、一抱もある白楊樹の根元に立寄り、木の幹に一寸手をかけ『キヤツ』と悲鳴をあげて、其場にカーリンスは打倒れ人事不省に陥りにける。
(大正一一・八・一一 旧六・一九 松村真澄録)
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