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文献名1霊界物語 第30巻 海洋万里 巳の巻
文献名2第4篇 修理固成よみ(新仮名遣い)しゅうりこせい
文献名3第17章 出陣〔859〕よみ(新仮名遣い)しゅつじん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-06-10 17:28:48
あらすじ秘露の国の日暮シ山の山腹に広大な岩窟を掘って、ウラル教は本拠地を構えていた。巴留の国の北西部から秘露の国全体にかけて勢力を誇っていた。奥の一間にはこの地のウラル教の教主ブールをはじめ、幹部連が会議を開いていた。ブールは懸念を表明し、ヒルの都には楓別命が代々三五教の拠点を張っており、しかも先日は三五教宣伝使のために御倉山の拠点を奪われてしまったこと、それのみならず近年はバラモン教の石熊も勢力を増してきていることに対して、どうウラル教を盛り返したらよいか、幹部の意見を求めた。幹部のアナンとユーズは、飢饉がもうすぐ終わって天候が回復する見込みであることから、それを予言としてウラル教の神の慈悲であると宣伝に触れ回り、その一方で、僧兵を引き連れてヒルの都の楓別の館を襲撃し、一気に三五教を殲滅しようと献策した。ブールは、御倉山やチルの里で三五教宣伝使に手もなく敗北を喫した先例を挙げて、本当に大丈夫かとアナンとユーズに念押しをした。アナンとユーズは、あの敗北は深謀遠慮から出た策略の一つであったと強がり、今回は必ず勝利すると請け負った。そこまで聞いて、ブールは二人に作戦を任せた。しかしブールが退出すると、アナンはさっそく臆病風に吹かれて心配をし始めたが、ユーズはアナンを鼓舞し、二人は武装した部下たちを連れて、楓別命の館に向かって出撃することになった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月16日(旧06月24日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年9月15日 愛善世界社版201頁 八幡書店版第5輯 642頁 修補版 校定版214頁 普及版79頁 初版 ページ備考
OBC rm3017
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本文  秘露の国日暮シ山の山腹に広大なる岩窟を掘り、ウラル教の霊場を作り、ロツキー山の本山と相応じて、一旦亡びかけたるウラル教も再び頭を擡げ、巴留の国の西北部よりヒル全体に其勢力を拡大して居る。此岩窟を日暮シ山の聖場と称へてゐた。此処にはブールを教主とし、ユーズ、アナンの両宣伝使はブールを助け、数多の宣伝使を四方に派し、大いにウラル教宣伝に力を尽しつつあつた。
 奥の一間には教主のブールを始め、アナン、ユーズの二人、色麗しき香り高き林檎を堆く盛り、互に皮を剥き、舌鼓を打つて味はひ乍ら、幹部会議を開いて居た。
ブール『此ヒルの国には紅葉彦命の伜楓別命三五教を宣伝致し、其勢中々侮る可らず、加之バラモン教の石熊の一派、此頃又もや俄に頭を擡げ、吾々ウラル教の牙城に向つて突進し来り、数多の国人は去就に迷ひ、今は殆ど両教の為に数百年のウラル教の努力も、根底より覆へされむとしてゐる。吾々は何とかして、彼等両教の徒を駆追せなくては、ロツキー山の本山に対し、申訳が御座らぬ。吾々が日頃唱道して居た、世の終りは近づけり、悔い改めよ、天国の門はやがて開かれむと、予言せし神示空しからず、今年の此大旱魃、大饑饉、山河草木、殆ど枯死せむとする此惨状、如何なる頑迷不霊の徒と雖も、之を見て無情を感じ、現世を忌み天国を希求せざる者あらむ、此機逸す可らずとなし、国魂神を斎りたる御倉山の谷に、数多の国人集まると聞き、遠路の所遥々宣伝の為に、吾々出張し、大部分吾教理に服し、天国に救はれむとする折しも、三五教の宣伝使忽然として其場に現はれ、体主霊従的教理を説き、再びウラル教をして根底より転覆せしめたる其腕前、かかる邪教を看過するは吾々ウラル教宣伝使として、教祖常世彦命に対し奉り、又ウラル彦の教主に対し、陳弁の辞なし。加ふるに、又もや荒しの森にて、昨日の如き大敗を取りしは、返す返すも残念至極の至りではないか?……アナン殿、此頽勢を如何にして挽回せむと思はるるか、腹蔵なく述べられたい』
と覗く様にして問ひかけた。アナンは暫く双手を組み、差俯向いて思案にくれてゐたが、ハタと両手を打ち、ニタリと笑ひ、
アナン『教主殿、私に一切を御委任下さらば、三五教は申すに及ばず、バラモン教徒をして一人も残らず帰順させて見ませう。併し乍ら此機を逸しては、到底其目的を達することは出来ませぬ。やがてここ十日も過ぐれば、今日の天候より観察するに、大雨沛然として降り来り、山河草木忽ちにして元の如く青々として蘇生するは鏡にかけて見るようで御座いますれば、今の内に宣伝使を残らず四方に派遣し、国人の弱点につけ入り……汝等悔い改めざれば今や亡びむとす、今迄の心を悔い改め、ウラル教に身を任せよ、さすればやがて天に祈り慈雨をふり注ぎ、山河草木人類をして蘇生の喜びに酔はしめ、天国の楽みを再び地上に現はし与へむ、早く悔い改めよ、天国はウラル教を信ずる者の領分なり……と、此際獅子奮迅の活動を開始せば、数多の国人は今迄迷へるバラモン、三五の両教を弊履の如く抛棄して吾教に先を争ひ、潮の如く集まり来るは目に見る如き感じが致します。どうぞ吾々に此れを一任なし下さいますれば、数多の宣伝使を使役し、宣伝使長となつて一肌脱いで見る覚悟で御座います』
ブール『成程、それも妙案だ。然らばアナン殿、宣伝の件に就いては、一切万事御任せ申す』
アナン『早速の御承知……否御信任、有難くお受け仕ります』
と喜色満面に溢れ、肩を怒らし、腕を振り、意気揚々として、期する所あるものの如く雄健びしてゐる。ユーズは少しく首を傾け乍ら、
『教主殿、アナン殿の御進言は至極妙案奇策と存じますが、敵の末は根を切つて葉を絶やすとか申しまして、如何しても根本的に両教を絶滅するには、幹部に向つて大打撃を与へなくては、到底駄目でせう。仮令一時ウラル教に帰順する共、又もや、彼れ三五教の言依別、国依別の如き勇者ある上は到底完全に教義を宣布することは不可能でせう。先づ第一に焦眉の急とする所は、言依別、国依別の両宣伝使を亡き者とし、ヒルの都の楓別命の本城に攻め寄せ、根底より転覆絶滅せしめなくては到底駄目でせう。私の考へとしては、どうしても、枝葉の問題を後にし、此大問題たる根幹を芟除せなくてはならないと存じます』
ブール『ユーズ殿の云はるる通り、吾れも其戦法を以て最も肝要なる手段と心得る。……アナン殿、如何で御座らうか』
アナン『然らば斯う致したら如何で御座いませう。此館に集まれる八十人の宣伝使を半割き、四十人を一先づヒル、カル両国に至急派遣し、残り四十人の宣伝使を吾々が引率し、教主殿は此聖場におはしまし、少数の役員信徒と共に、お守りを願ひ、吾々はユーズ殿と先づ楓別命の館に向つて、夜襲を試み、只一戦に滅亡せしめ、神の力を天下に現はしなば、素より体主霊従の事大主義に囚はれたる人々は、一も二もなくウラル教の権威に畏服し、帰順致すは明かな活たる事実で御座いませう』
ブール『然らば両人にお任せ申す。何卒一切万事に違算なき様頼み入る』
アナン『仰せ迄もなく、目から鼻へつき抜けた、智謀絶倫のユーズ殿、私が後に控えさせられての作戦計画なれば、水一滴の遺漏も御座いませぬ。御安心下さいませ』
ブール『いやいや斯く迄勢力を四方に張つたる、楓別命又言依別、国依別のあの腕前、到底一通りにては往生致すまい。何とか神策を考究致さねば、軽々しく進んで敵の術中に陥るやうな事あらば、それこそ挽回の道がつかぬ。此点に於てブール、甚だ心許なく存ずる。一例を挙ぐれば、御倉山の渓谷に於て、数多の宣伝使が居乍ら、脆くも吾々は敗走致せし苦き経験に徴し、容易に侮る可からざる強敵なれば、吾々は最も深く神を念じ、神力を身に充実して進まねばなりませぬぞ。智謀絶倫と聞えたるユーズ、アナンの両将迄が只一言の言霊をも交へず、雲を霞と逃げ帰つたる無態さ、吾れは只一人ふみ止まるに忍びず、止むを得ず引返せし様な仕末なれば、果して両人に於て、確固不抜の成算が御座るかなア』
ユーズ『アハヽヽヽ、吾々の神算鬼謀は敵に向つて弱しと見せかけ、ワザとに敗走の体を装ひ、彼等両人を版図内に深く入り込ませ四方より取囲み、袋の鼠と致して本教に帰順せしむるか、但は滅亡せしめむかとの考へより退却を致したので御座る。仮令三五教の宣伝使慓悍決死にして、鬼神を拉ぐ勇あり共、たかの知れた一人や二人、何の恐るる所が御座いませう。これもユーズが一つの計略で御座れば、必ず必ず御煩慮なく、ユーズ、アナンの実力を御信任あらむことを希望致します』
と諄々として愉快気に述べ立てたり。
ブール『荒しの森の味方の敗北、たかが一人の宣伝使に対し、実に何とも形容の出来ない無念さではなかつたか。今思ひ出しても、実に腹立たしい。汝等両人、吾前にのみ強く、敵の影を見れば忽ち軟化し、所謂陰弁慶の徒にはあらざるやと、聊か懸念せざるを得なくなつた』
アナン『アハヽヽヽ、是に就ても天機洩らす可らざる深遠なる吾々の戦略、必ず必ず御心配なさいますな。キツと大勝利を現はし、お目にかけるで御座いませう』
ブール『然らば、汝両人を信任し、一切を委託する。随分気を付けて呉れ』
と一間に入つて了つた。後に二人は顔見合して、思案顔、
アナン『オイ、ユーズ、実に困つたことになつたものだないか。楓別命は実に古今無双の神力を具備する大神将なり、言依別、国依別は之れ亦不可思議なる力を持つてゐる。彼等両人が放射する五色の霊線は、到底吾々近寄る可らざる威力がある。又バラモン教の石熊も中々以て注意周到な奴、決して油断は出来ない。如何したら、千騎一騎の此場合、彼等を殲滅することが出来ようかと心配でならないワ』
ユーズ『それだから、俺達はユーズを利かして、教主様の前でいろいろと言葉を構へ、威張つて見せ、教主の心に力を与へたのだ。勇将の下に弱卒なしだ。弱将をして能く勇将たらしむるは、両人の任務である。サア、アナン殿、これより宣伝使を全部引つれ、又数百人の信者を以て、先づ第一に楓別の宣伝使の館を夜陰に乗じ、襲撃することにせう。大刀竹槍の用意は出来て居るであらうか?』
アナン『大刀竹槍を使ふは変事に際してのみ用ゐることを、神明許させ玉へ共、未だ武器を以て立向ふべき時ではあるまいぞ』
ユーズ『さてユーズの利かぬ其お言葉、千騎一騎の此場合は即ち大変事のことでは御座らぬか? 斯様な時に武器を用ゐざれば、何れの時に用ゐむや。仮令敵は少数と雖も、古今無双の勇者、到底、口先の弁舌を以て帰順せしむることは思ひも寄らざる事なれば、短兵急に暴力を以て彼等の牙城を屠むらなくては、ウラル教の休戚に関する大問題だ。危急存亡の分るる所、ウラル教国家の興亡此時にあり。……サア、アナン殿、早く決心あれ』
アナン『智謀絶倫と聞えたるユーズ殿の言葉、アナン賛成致しませう』
ユーズ『早速の御承諾、実に有難し』
と座を立ち、別室に入り、宣伝使の溜り所に在る宣伝使を吾居間に呼集め、ヒルの館の夜襲に時を移さず着手せむ事を厳命した。一同は一も二もなく、ユーズの言葉に服従し、武装を整へ、ヒルの都の楓別命が館をさして、数百人の部下と共に、旗鼓堂々と進み行く。
(大正一一・八・一六 旧六・二四 松村真澄録)
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