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文献名1霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻
文献名2第4篇 言霊将軍よみ(新仮名遣い)ことたましょうぐん
文献名3第22章 神の試〔888〕よみ(新仮名遣い)かみのためし
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-04-18 18:07:57
あらすじ国依別一行は、シーズンを渡りアマゾン上流を目指した。一行の行く手には、数百里にわたる山脈が横たわっていた。屏風ケ岳というその山は海抜二万五千尺にのぼり、アマゾンを一望できる景勝地であった。国依別はこの山を越えるにあたり、秋山別とモリスを南のルートから登らせ、自分たちは北のルートを取った。この山脈の中央の峰・帽子山山頂で合流することを約して、一行はそれぞれ四五日を要する山道を登って行った。秋山別とモリスは宣伝歌を歌いながら登って行ったが、野宿する間に猛烈な山おろしが吹き、秋山別は暗闇の中、どこかへ吹き飛ばされてしまった。岩の根にしがみついていたモリスは、夜明けとともに一人不安を感じながら、秋山別との再会を念じつつ山道を進んだ。にわかに女の叫び声が聞こえてきた。モリスが近寄ると、そこには妙齢の女性が縛られて苦しんでいた。モリスが助け起こすと、女は荒男たちにさらわれて来て乱暴されそうになっていたが、男たちは宣伝歌が聞こえてくると逃げてしまったのだ、とモリスに語った。モリスがよくよく女の顔をみると、それは不思議にも、日暮シ山に居るはずの紅井姫であった。屏風ケ岳に突然現れた紅井姫は、実は自分はモリスに恋心を抱いていたのだと言い、モリスに言い寄ってきた。紅井姫はあの手この手でモリスの情を惹こうと言い寄るが、モリスは自分の改心の決心を明かして頑なに拒み、姫に宣伝使としての自分の使命の理解を求めた。紅井姫と見えた女性は厳然として立ち上がり、自分は旭日明神であると明かし、モリスの心底確かに見届けたと告げ、国依別を助け神業に参加するようにと言い残して消えてしまった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月20日(旧06月28日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年9月15日 愛善世界社版253頁 八幡書店版第6輯 136頁 修補版 校定版261頁 普及版119頁 初版 ページ備考
OBC rm3122
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本文  国依別の一行は  シーズン河を打渡り
 荒野を駆けり山を越え  夜を日についでアマゾンの
 上流さして進み行く。
 忽ち前方に屏風の如き、余り高からず、低からざる延長数百里に渡る山脈の横たはるを見る。此山は屏風ケ岳と云ひ、海抜二万五千尺、山頂の横巾は五十里に及ぶ。此山脈上より東南を広く観望すれば、アマゾン河は銀河の如くに流れ、鬱蒼たる森林は雲の如く、目に入る景勝の地点なりける。
 国依別は此山に登るに就いて、左右に分れ絶頂に達したる上、作戦計画を定むる事とし、秋山別、モリスを南より登らしめ、自分は北の谷から安彦、宗彦と共に宣伝歌を唄ひ、屏風山脈の中央に帽子の如く突出せる峰を出会所と定めて登ることとせり。此山上に達するには如何しても、徒歩にて、四五日を要する丈の距離がある。
 秋山別、モリスの両人は南の谷より、宣伝歌を唄ひ乍ら、標的の帽子山を目がけて進み行く。日は漸くにして山に隠れ、暗黒の幕は次第々々に濃厚に二人の身辺を包み来たるにぞ、二人は止むを得ず、坂道の傍に草を布き、横臥し、夜を明かさむとするや、俄に猛烈なる山颪吹き来り、二人の体は殆ど中天に飛ばさるる如き勢となりぬ。二人は『惟神霊幸倍坐世』を一生懸命に称へたれども、七十米の猛烈なる風力は容易に止まず、終に秋山別は風に吹き飛ばされて、暗夜の空を何処ともなく、散り失せにける。
 モリスは幸ひ岩の根に喰ひつきて此難を免れける。漸くにして風は歇み、夜明けとなりて四辺を見れば、秋山別の姿無し。……大方夜前の烈風に吹き散らされて、どつかの谷底にでも落ちて居るのだらう、あの風は追風であつたからよもや西北の方へ散つて居る筈はない、キツと東南へ散つたであらう、さうすれば是から宣伝歌を高らかに唄ひ進み行かば、秋山別が吾声を聞きつけて来るだらう……などと心の中に思ひ乍ら、宣伝歌を唄ひ唄ひ山と山とに囲まれた谷道をトボトボと登り行く。
 俄に聞ゆる女の叫び声、何事ならむと足を早め、声する方に近より見れば、妙齢の女、手足を縛られ、髪ふり乱し、そこに倒れ居たり。モリスは驚きて、手早く手足の縛を解き、言葉静かに、
『モシモシ、どこの御女中かは存じませぬが、何者に斯様な残酷な目に会はされたのですか。是にも何か深い様子のある事で御座いませう』
『ハイ、有難う御座います。妾はシーズン河を渡り、此方へ参ります折り、四五人の荒くれ男に捉へられ、ドンドンドンドンと手足を括られた儘、ここまで担がれて、夢の如く連れて来られました。さうして今の先、妾に向ひ五人の男が交る交る無理難題を吹きかけまするので、妾は余りの悲しさ、何事にも応じませなかつた。さうした所、五人の荒男は腹を立て、鋭利な剣を引抜き、一度により集まつて、妾を嬲殺しにしてくれむと申し、今や彼等に嬲殺しにされようとする刹那、有難き宣伝歌の声が聞えて来ましたので、曲者は其声に辟易して一人も残らず、雲を霞と逃げ散つた所で御座います。あなたは何れの方かは存じませぬが、かよわき女の一人旅、行きもならず、帰りもならず、実に険呑で御座います。誠に御邪魔で御座いませうが、何卒御伴をさして下さいませぬか』
『それは大変に危い事で御座いました。併し乍ら私は神様の御用に依つて、アマゾン河の上流迄参らねばならぬ者、女の方と道伴れになることは、到底出来ませぬから、是計りは平に御断り申します』
と女の顔を覗き込めば、不思議や紅井姫にてありける。
『オー、貴女は紅井姫様ぢや御座いませぬか? どうしてマアこンな所に連れられて御出でなさいましたのかなア。サアどうぞ一時も早く立去り、元来し路へ御引返し下さりませ。かような所に長坐をして居れば、又候悪者が引返して来て、如何なる事を仕出かすか分りませぬ』
『お情ないモリスさまの其御言葉、妾はあなたの内事司として、ヒルの館にお仕へ遊ばす砌より、朝夕お顔を拝し、何時とはなしに恋路に心を曇らせ、日に日に身体は痩おとろへて、重き病の身となりました。そこへ、秋山別の嫌な男、朝な夕な、妾に寄り添ひ、いろいろと妙な事を言ひかけ、大変な迷惑を致して居りました。余りあなたを思ふ恋の弱味で、恥かしくて、心にもなき情ない事を申しましたが、決して妾の心はさうでは御座りませぬ。どうぞモリスさま、今日はあなたと妾と只二人、こンな機会は又と御座りますまい。今でこそ妾の腹の底を打明けますから、どうぞ二世も三世も先の世かけて可愛がつて下さいませ』
と涙を流し、真実を面に表はして、かきくどく其しほらしさ。モリスは心の中にて非常に煩悶したるが思ひ切つて、
『これはこれは姫様、あなた様は怪しからぬ事を仰せられます。如何して兄上様の御許しもなく、左様なみだらな事が勝手に出来ませうか。此儀計りは平に御許し下さりませ』
『ホヽヽヽヽ、これモリスさま、よう、そンなことを、今になつてようマア仰有いますな。妾はあなたの心の底の底迄よく窺つて居りますよ。そンなテレ隠しは仰有らずに、一時も早くウンと云つて下さい。妾も気が気でなりませぬワ』
『実は御察しの通り、寝ても醒めても、道ならぬ事とは知り乍ら、姫様の美はしき姿を一目拝むで……あゝ可愛い女だ……と思ひ込ンだが病み付きで、恋の病におち、それからと云ふものは、何を食つても味はなく、身は次第に痩衰へ、煩悶苦悩をつづけて居りましたが、或事より神様のお戒めを受けて翻然として悟り、今では、是迄のモリスとは違ひますから、此事計りは御許し下さいませ。モリス、手をついて御願ひ致します』
『あのマア、モリスさまの白々しい御言葉、仮令天地が覆る共、一旦痩る所迄思ひつめた女、どうしてさう綺麗サツパリと思ひ切られる道理が御座いませう。余りぢらして下さりますな。恋は神聖と云ひまして、あなたと妾が夫婦になつた所で、夫がナニ罪になりませう。サア早く御返事をして下さい。又実際に嫌なら、嫌とキツパリ言つて下さい。妾も一つの覚悟が御座います』
と云ふより早く、懐剣を取出し、引抜いて、早くも喉にあてむとするを、モリスはあはてて其手を押へ、涙乍らに、
『モシモシお姫様、あなたのそこ迄思ふて下さる御心は実に勿体なく有難う存じます。其御志は仮令死ンでも忘れは致しませぬ。併し乍ら今日の私は、最早神の光りに照されて、国依別様の弟子となり、アマゾン河の森林に言霊戦に参る途中で御座いますれば、何卒ここの所を聞分けて、思ひとまつて下さりませ』
と声を震はせ、泣き声になつて諫むるにぞ、紅井姫は首をふり、
『イエイエ、何と仰有つても、女の一念晴らさねば置きませぬ。そンなら帰つてから夫婦になつてやらうと、ここで一事云つて下さい。それが出来ぬと云ふことが御座いますか』
『折角乍ら、其事計りはどうぞ思ひとまつて下さいませ。モリス改めてお断わりを申します』
『あゝ是非に及ばぬ。そンならモリス殿、妾は冥途へ参ります』
と又もや懐剣を引ぬき首に当てがはむとするを、モリスはあわてて其手を押へ、
『又しても又しても、御合点の悪い御姫様、モリスの様なヒヨツトコの愚鈍者の分らずやが、如何して尊い姫君様の恋男になることが出来ませう。あなたの御志は身に代へて有難う御座いますが、どうぞこれ丈は許して下さいませ。モウ私は女に会ふことは断念して居りますから、折角の決心を何卒ゆるめて下さいますな。モリスのお願で御座います』
と手を合せ頼み入る。
 紅井姫、厳然として立上り、言葉をあらためて、
『我れこそは大江山に守護をいたす、鬼武彦が幕下旭日明神と申す者、汝の心底は最早疑ふの余地なし。いざ是よりアマゾン河に向ひ、天晴れ、言霊戦に功名手柄を現せよ。我も汝に力を添へ、守り与ふれば、如何なる事あるとも、決して恐るることなく、撓まず、屈せず、国依別の命に従つて、神界の為に活動せよ。モリス殿さらば……』
と言葉終るや、忽ち立ち昇る白煙あたりを包み、紅井姫と思ひし美女の姿は此場より霞の如く消え失せにけり。
(大正一一・八・二〇 旧六・二八 松村真澄録)
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