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文献名1霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻
文献名2第1篇 照門山颪よみ(新仮名遣い)てるもんざんおろし
文献名3第7章 暗闇〔1457〕よみ(新仮名遣い)くらがり
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじワックスは猛犬スマートにくわえられて門外に運び出され、気も遠くなって夏草の上に身を横たえて呻いていた。ビルマは月を誉め鼻歌を歌いながらやってきた。たちまち一天掻き曇り、大空は墨を流したごとくさっと月光を包んでしまった。ビルマはこわごわと述懐を歌いながらふるえている。にわかに黒雲はぱっと晴れて月の光があたりを昼のように照らした。ビルマは足元の黒い影をうかがい、人間だと気が付いた。二つ三つゆするとワックスは気が付き、むくむくと起き上がった。ワックスはビルマが助けてくれたことに礼を言った。そして、あの黒い犬が出て来たのは、三五教の魔法使いが館に忍び込んでいるに違いないと述べたてた。ワックスは腰がいたいのも我慢して、町民を扇動して館から三千彦を追い出さなければならない、とビルマをせきたてた。ワックスは驢馬にまたがり、ビルマが太鼓や打ち鐘ではやしたて、夜中町内を触れ回った。瞬く間にに三百のあわて者たちが飛び出して、ワックスについて館に押し寄せた。この物音に不審を起こした三千彦は、小国姫に病人を看護させて門外に出て来た。ワックスは群衆に下知すると、三千彦を捕えさせた。三千彦は縛られて、アンブラックに投げ込まれてしまった。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月24日(旧02月8日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年5月24日 愛善世界社版91頁 八幡書店版第10輯 291頁 修補版 校定版94頁 普及版43頁 初版 ページ備考
OBC rm5707
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本文  ワックスは猛犬スマートに銜へられ、門の外に運び出され、暫くは気も遠くなり、夏草の上に身を横たへて唸いて居た。斯る所へビルマは月を賞め鼻唄を歌ひ乍らやつて来た。忽ち一天掻き曇り、大空は墨を流した如く、サツと月光を包んで仕舞つた。
ビルマ『暗闇の一滴が
 天と地との間に
 ぼつたりと落ちると
 暗黒と静寂が
 うろたへてやつて来る
     ○
 ふくれ上つた暗闇の中に
 甍の波はどよみ
 煙突の林は黙立し
 四方の山脈は横臥し
 万物は
 今し
 暗灰色に溶けて行く
     ○
 暗闇の一つの壁から
 煤けた
 赤らんだ
 月が
 顔をしかめた
     ○
 月はユララユララと
 ゆらめきながら
 険しい雲の坂路を
 昇り初めた
     ○
 しばし
 やがて
 悪魔が翼をひろげて
 黒雲の臥床に
 月を閉ぢ込めて了ふと
 暗闇がぬけ落ちた歯の間から
 ゲラゲラと笑うて
 急いで地の中へ潜り込んだ
     ○
 翌る朝
 生温い雨が
 しよぼしよぼと降つて居た
    ○
 月は恐ろし雲間に隠れ  ワックス司は雲がくれ
 黒い犬奴が飛んで来て  ウウ、ワンワン吠へ猛る
 ワツと驚くワックスが  帯を銜へてトントンと
 門の外へと引ずり出した  その怖ろしい権幕に
 ビルマはビルビル慄ひ出し  オークスさまは逃げ出す
 睾丸潰したエルの奴  雲を霞と隠れ行く
 さはさり乍らデビスのお姫さま  どこの何処へ雲がくれ
 月雪花にも擬うよな  綺麗な綺麗なお顔立
 一寸見てさへ顫ひつく  雲がお月を隠すよに
 いづこの曲津がやつて来て  テルモン館の蓮華花
 何処へ隠したか知らねども  ワックスさまは気が揉める
 あれ程惚れたお姫さま  三五教の魔法使
 みちみち彦に攫はれて  指を銜へてアングリと
 嘸今頃は草の露  涙に湿る事だらう
 とは云ふものの俺だとて  木石ならぬ人の身だ
 男と生れて来たからは  あんなナイスと一夜の枕を
 交してみたい気も起る  ああ惟神々々
 月下氷人の引き合せ  姫の所在を尋ね出し
 第一番の功名手柄  やらねばならぬ羽目となり
 弥々館を抜け出して  月の光を頼りとし
 此処迄やつて来たものの  一寸先も見えわかぬ
 真暗がりの馬場道  アイタタツタ何者ぢや
 嫌らしいものが触つたぞ  これやこれや其方は化物か
 合点のゆかぬ代物ぢや  三五教の魔法使
 こんな所に化物を  現はし俺の肝玉を
 取らうとしても駄目だぞよ  ウンウンウンウンそれや何だ
 狐か狸か狼か  但は天狗か古狸
 訳の分らぬ唸り声  逃げようと云つても足許が
 ハツキリ分らぬ此場合  この怪物の正体を
 度胸を据ゑて調べよか  もしも姫さまであつたなら
 それこそ思はぬ儲けもの  アア惟神々々
 御霊幸倍ましませよ』
と慄ひ慄ひ歌つて居る。俄に黒雲はパツと晴れて皎々たる夏の月は四辺を昼の如く照した。草に置く露の玉には月光宿り瑠璃の如くに光つて居る。ビルマは足許の黒い影を見て首を傾け窺へば正しく人間の唸り声である。怖々ながら側に寄り『オーイオーイ』と二つ三つ揺つて見た。倒れた影はムクムクと起き上りビルマの顔を覗くやうにして凝視めて居る。ビルマは月を背に負うて居たのでハツキリ顔が分らなかつたが、一方の顔には月光を受けて顔の生地迄分つてゐる。
ビルマ『ヤアお前はワックスぢやないか。随分甚い目に遇つたものだなア。どこともなしに山犬がやつて来やがつてお前を銜へて出た時の怖ろしさ、友達の難儀を見捨てる訳にもゆかず、オークス、エルの奴はビリビリ慄つて居るなり、剛胆不敵の此ビルマが助けようと思うてやつて来た所、お前に突き当り、どうも済まぬ事をした。どうだ、どこも怪我は無かつたか』
ワックス『ウン有難う、よう来て呉れた。友達なればこそ来て呉れたのだなア。山犬が出て来て此処迄俺を銜へ込み、最後になつて三つ四つ振りやがつた時には目がマクマクして怖かつたよ。併し乍ら親友なればこそお前が来て呉れたのだ。この儘放つて置けば俺の命は無くなつたかも知れない。アア有難い、お礼申す、屹度俺が目的を達したならお前を家令にしてやるから楽しんで待つて居れ』
ビルマ『何と俄に雲行が変つたものですな。いつも私を門番門番と呼び付になさいましたが、今日に限つて親友だと云つて下さつた。アア有難い、幾久しう親友として御交際願ひますよ。いつもなら吾々を塵埃の如く振向いても下さらぬのだが、矢張り叶はぬ時の神頼み、こんな時に来て貰うと嬉しいと見えますな。併し斯様の所に居ると誰に見つかるかも分りませぬ。サア一時も早く貴方のお館迄送つて上げませう』
ワックス『家へ帰る所か、お前は何と思ふかも知れぬが、又しても三五教の魔法使が館の中に潜り込んで居るやうだ。さうでなければあの犬が出て来る筈がない。サア是から、人気の立つたを幸ひ、鉦や太鼓を叩いて辻説法を初め、あの三千彦を門外に誘き出し、やつつけねば陰謀露見して吾等の笠の台が飛ぶかも知れぬ。少し腰が痛くとも辛抱して今晩は大活動をやるのだな。アイタタツタ。山犬の奴、ひどくやつ付けやがつた。おい、ビルマ、何処かで驢馬でも引つ張出して来て呉れ。そして鉦も太鼓も探して持つて来い。天へ登るか地獄へ堕ちるかと云ふ境目だからな』
ビルマ『三千彦の魔法使は岩窟の中へ閉ぢ込めて、二人の番卒がつけてある上は、滅多に館の中に帰つて来る筈がありますまい。お前さま山犬に振られて気が狂うたのではありますまいか』
ワックス『エ、馬鹿云ふな、その位な事に気が狂ふものか、サア事遅れては一大事だ、早く早く』
と急き立てる、ビルマは一目散に駆け出し、驢馬に跨り一頭を引き連れ来り、ワックスを助け乗せ、自分は豆太鼓や摺鉦を打ち鳴らしながら、宮町の四辻に向つて駆け出し、

 トントンチンチン トンチンチン
 チントン チントン チントントン

と夜中に飴屋式に囃し立てた。杢平、八平、田吾作もこの声に夢を破られて慌てて戸外に駆け出した。ワックスは馬上より大声を張り上げ、
『ヤアヤア宮町の連中殿、又もや三五教の魔法使がお館に現はれた。サア戸毎に叩き起し脛腰の立つものは拙者に従つて館の表門に押しかけられよ、時後れては一大事、魔法使が先度のやうに宝を奪ひ取り、終ひには命迄取つて仕舞ひますぞ。悪魔を滅ぼすは今此時』
と呶鳴り立てた。次から次へと慌者が触れ歩き、瞬く間に二三百の老若男女が四辻に集まつて来た。ビルマは馬上より、

 ドンドコ ドンドコ ドコドコドン
 チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン

と囃し立て乍ら先頭に立つて進む。ワックスは馬上から進軍の歌を歌ひ初めた。
ワックス『出た出た出た出た鬼が出た  テルモン山の神館
 小国別の奥の間に  打てよ打て打て今打てよ
 館の大事は云ふも更  汝等一同の難儀だぞ
 ドンドコ ドンドコ ドコドコドン  チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン
 各自家の重宝を  戸毎に盗んだ泥坊も
 三五教の魔法使  三千彦司と云ふ鬼だ
 殺せよ殺せよ打ち殺せ  これを見逃し置いたなら
 神の館は云ふも更  お前等一同の身の終り
 命を取るか取られるか  千騎一騎の正念場
 ドンドコ ドンドコ ドコドコドン  チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン』
 歌と拍子につれて数多の老若男女は月光を浴びながら館の表門指して押し寄せた。この物音に小国姫、三千彦は不審を起し、三千彦は小国姫に病人の看護をさせ置き、自分は唯一人門外に駆け出した。ワックスは三千彦の姿を見るより、
ワックス『ヤアヤア皆の者、今其処に現はれた奴が町民の仇、大泥坊の魔法使だ、それ逃がすな』
と下知すれば、何も知らぬ老若男女は蚯蚓に蟻が集まつたやうに四方から木片をもつて打ち叩き、寄つて集つてふん縛り、ワツシヨワツシヨと声を揃へてアンブラックの水瀬にザンブと許り投げ込んで仕舞つた。アア三千彦の運命はどうなるであらうか。
(大正一二・三・二四 旧二・八 於伯耆皆生温泉浜屋 加藤明子録)
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