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文献名1霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻
文献名2第4篇 山色連天よみ(新仮名遣い)さんしょくれんてん
文献名3第20章 曲津の陋呵〔1722〕よみ(新仮名遣い)まつのろうか
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2018-05-24 00:09:06
あらすじ一方、タラハン城内では、王、左守、右守をはじめとする重臣たちが、太子とアリナの行方不明について評定をしていた。左守ガンヂーは息子アリナの不徳を詫びるが、王も、太子が日ごろ城内の生活に不満を抱いている様を嘆き、かつての自分と王妃の失政を悔いる。右守は、今回の事件は左守の倅アリナに責任があり、その親たるガンヂーともども処分を受けなければならないと主張する。左守は責任を感じて自殺しようとするが、王女バンナに止められる。右守は、実は左守を追い落として自分が左守の地位につき、太子を廃して王女に自分の弟エールを娶わせ、政権を握ろうとの魂胆であった。右守は自分の野望を遂げんと、太子が日ごろ王制を嫌っていることを挙げ、王制を廃して共和制を敷こうと提案する。しかしながらこの発言は王を始め重臣たちを怒らせてしまい、左守は怒りのあまり右守に切りつける。左守は重臣のハルチンに止められ、その間に右守は逃げ去ってしまう。右守は城から逃げ出すときに、ちょうど帰ってきたアリナとぶつかって階段を転げ落ち、足を折りながら家へ逃げ去った。
主な人物【セ】カラピン王、左守ガンヂー、右守サクレンス、王女バンナ姫【場】重臣ハルチン【名】スダルマン太子、アリナ、エール(サクレンスの弟) 舞台 口述日1924(大正13)年12月29日(旧12月4日) 口述場所祥雲閣 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年8月19日 愛善世界社版264頁 八幡書店版第12輯 128頁 修補版 校定版267頁 普及版68頁 初版 ページ備考
OBC rm6720
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本文  タラハン城内カラピン王の御前に左守右守を初めとし、数多の重臣が薬鑵頭に湯気を立て太子が知らぬ間に殿内より姿を隠し、踪跡をくらました大椿事につき、いろいろと干からびた頭から下らぬ智慧を絞り出して小田原評定が初まつて居る。
カラピン王『時に左守殿、日頃憂鬱に沈んだ吾太子は今日で三日になつても、まだ帰つて来ないのは、どうしたものだらう。何か、いい考へはつかないかのう』
左守『ハイ、誠に恐れ入つた次第で厶ります。殿中監督の任にあり乍ら、此老臣、大王に対し奉り、死を以て謝するより外に道は厶いませぬ』
王『其方の悴も、まだ帰つて来ぬか。余は思ふに、日頃太子の気に入り、其方が悴とどつかの山奥へ踏み迷ふてゐるのではあるまいかのう』
左『不束な悴奴、太子様のお言葉に甘へ、いつも恐れ多くも友人気取りになつて振れ舞ひます。その不遜な行為を、臣は常に憂ひ、いろいろと折檻も致し警告も与へて居りますが、二つ目には薬鑵頭だの、骨董品だの、床の置物だのと、罵詈嘲笑を逞しふし、太子様の御寵愛を傘に着て親の云ふ事を聞きませぬ。誠に困つた不忠不義の痴者で厶います。もし今度幸ひに悴が帰りますれば密室に監禁し、よく物の道理を説き聞かせ、それでも聞き入れねば只一人の悴なれども王家のため、国家のため、臣が手にかけて、悴が命を絶ち、国の災を除く覚悟で厶います。どうか暫く御猶予を願ひます。何れ其中には無事御帰城遊ばすで厶いませうから』
王『ヤ、そちの悴も新教育とやらを受け、余程性質が悪くなつて来たやうだ。然し、吾太子も太子だ。平民主義だとか、平等主義だとか、国体に合ない囈言を申し、貴族生活が気に入らぬ等と駄々をこね、日夜不足さうな面貌を現はし、吾注意を馬耳東風と聞き流し、手におへない人物となつて了つた。之も全く余が一時悪霊に魂を魅せられ天地に容れざる残虐の罪を犯したその報いで、老後の身を以て、あるにあられぬ心の苦労をさせられてゐるのだらう。アヽどうなり行くも宿世の因縁だ。もう左守殿、あまり頭を痛めて呉れな。余も太子の事は只今限り断念する』
左『恐れ多き殿下のお言葉、臣下の吾々、何と申してお詫をすれば宜いやら、実に恐懼の至りで厶います』
王『右守殿、太子が帰らぬとすれば、何とか善後策を講じなくてはなるまい。其方の意見を聞き度いものだ。かかる一大事の場合、少しも遠慮は要らないから、其方が心の底を忌憚なく打明けて呉れよ』
右守『ハイ恐れ入りまして厶います。太子様の御出奔以来、家中の面々を四方八方に派し、殿下の御行衛を捜索致させましたが、今に何の吉報も得ませぬ。今日で三日三夜、此右守も心を痛め、胸をなやまし、食事も碌にとれませぬ。翻つて国内の事情を顧みれば、到る所に民衆不平の声、いつ大事が勃発するかも知れない形勢になつて居ります。加ふるにバラモン軍が襲来するとの噂喧すしく、人心恟々として山川草木色を失ひ、将に阿鼻叫喚地獄を現出せむとするの形勢で厶います。斯くの如く国家多事多難の際に太子の君が御出奔遊ばされた事は我国家にとつては、痩児に蓮根と申さうか、泣面に蜂と申さうか、実に恐れ多き次第で厶います。風前の燈火にも等しきタラハン国の形勢、国家を未倒に救ひ、大廈の崩れむとするを支ふるのは、倒底一木一柱のよくすべき所では厶いませぬ。何分にも此際には上下一致、億兆一心、あらむ限りの誠心を捧げて国難に殉ずる覚悟が吾々初め、なくては叶ひませぬ。かかる危急存亡の際に、太子の君を唆かし奉り、殿内より誘き出したる左守殿の悴アリナこそは天地も赦さぬ大逆無道の悪臣で厶る。まづ国家民心を治むるには親疎の情を去り、上下の区別を撤廃し、真を真とし、偽を偽とし、悪を悪とし、公平無私的態度を以て賞罰を明かにし、天下に善政の模範を示さなくてはなりますまい。恐れ乍ら、臣は先づ第一着手として、左守の悴アリナの処分をなさねばならないだらうと考へます。ついてはその父たる左守殿は此際責任を感知し、闕下に罪を謝し、下は国民に対する言ひ訳の為め、進んで骸骨をお乞ひなさるが時宜に適したる最善の処為と考へます。否、国法の教ふる所と確信致します。殿下、何卒賢明なる御英断を以て、官規を振粛し頑迷無恥の官吏を退け、以て国民に殿下の名君たる事を周知せしめ度く存じまする』
王『イヤ、右守の言も一応尤もだが今日は未だ太子の行衛も分らず、又アリナの所在も分らぬ混沌の際だから、左守の処分は、さう急ぐには及ぶまい』
右『殿下の仰せでは厶いまするが、国家危急存亡の際、さやうな緩慢の御処置は却て国家を危くするものと考へます。何卒御英断を以て疾風迅雷的に解決し、快刀乱麻を断つの快挙に出られむ事を右守、謹んで言上仕ります』
王『汝右守のサクレンス、汝は王家を思ひ国家を思ふ、その熱誠は実に余は嘉賞する。併し乍ら我国家は余に及んで十五代、王統連綿として何の瑕瑾もなく、国民尊敬の中心となり、仮令小なりと雖タラハンの国家を維持して来たものだ。然るに今太子が貴族生活を嫌ひ、殿内を飛び出すやうになつては、最早王政も専制政治も到底永続する事は出来ない。仮令太子が帰城するにしても、彼は余が後をついでタラハン国に君臨する事は好まないだらう。一層の事、王女のバンナを後継者となし、適当なる養子を入れて、王家を継承させ度いと思ふが、左守、右守その他の重臣共は、どう考へるかな』
左『殿下の宸襟を悩ませ奉り、臣として、ノメノメ生命を長らへ殿下の御心配を坐視し奉るに忍びませぬ。右守の云はるる通り、実に臣と云ひ悴と云ひ、王家の仇国家の潰滅者で厶いますれば申訳のため、今御前に於て皺ツ腹をかき切り、万死の罪を謝し奉ります。右守殿、何卒国家の為忠勤を励んで下さい。殿下、左様ならば』
と云ふより早く用意の短刀、鞘を払つて左の脇腹につき立てむとする一刹那、王女バンナ姫は慌ただしく、簾の中より走り出で、
王女『左守ガンヂー早まるな。今死ぬる命を永らへ、王家のため国家のために何故誠を尽さないのか。死んで忠義になると思ふか。言ひ訳が立つと思ふか。血迷ふにも程があるぞや』
と鶴の一声、左守はハツト許りに両手をつき、白髪頭を床にすりつけ乍ら声を振はせ涙を絞り、述ぶる言葉もきれぎれに、
左『ハイ、誠に無作法な狼狽へた様をお目にかけまして申訳が厶いませぬ。何卒、御宥恕を願ひ奉ります』
右『アハヽヽヽ、左守殿、御卑怯では厶らぬか。一旦男子が決死の覚悟、仮令王女様の御言葉なればとて卑怯末練にも死を惜み、生の執着に憧れ給ふか。左様な女々しき魂を以て、よくも今迄左守の職が勤まりましたな。チツトは恥を知りなされ』
と悪逆無道の右守のサクレンスは左守の自殺を慫慂してゐる。彼は十年以前迄は左守のガンヂーが右守として仕へてゐた頃、家令に抜擢され、右守が左守に栄進すると共に自分も抜擢されて右守の重職に就いたのである。今日の地位を得たのは、全く現左守の斡旋によるものであつた。然るに心汚き右守は大恩あるガンヂーを邪魔物扱になし、今度の失敗につけ込み左守に詰腹を切らせ、自分がとつて左守に代り国政を自由自在に攪き乱し、時節を待つて王女バンナ姫に自分の弟エールを娶はせ吾一族を以て国家を左右し、自分は外戚となつて権勢を天下に輝かし、日頃の非望を達せむと企てたのである。
 カラピン王は右守のサクレンスに右の如き野心あるとは夢にも知らず、危機一髪の際、国家を救ふは数多の重臣の中、此右守の外なしと、益々信任の度を厚うした。
 されども流石に吾弟のエールを王位に上せ、バンナ姫と相並んで王家を継がせ、万機の政治を総統させる事は口には出し得なかつた。そこで彼は、ワザとに次のやうな事を御前会議の席で喋々喃々と喋りたて、王を初め重臣共の腹を探らうとした。
右『殿下に申上げます。「今日は国家のため遠慮会釈もなく言上せよ」との御令旨、参考のために、殿下を初め一同の重役達に吾意見を吐露致します。御採用下さらうと、下さるまいと、それは少しも臣の意に介する所では厶いませぬ。倩々天下の情勢を考へまするのに、世界の王国は次第々々に倒れ、何れも民衆政治、共和政体と代り行く現代の趨勢で厶います。加ふるに肝腎要の太子の君は平民主義がお好きでもあり、常に共産主義を唱道されてゐるやうで厶います。開国以来、十五代継続遊ばした此王家をして万代不易の基礎を固め王家の繁栄は日月と共に永遠無窮に、月の国の一角に光り輝くべく日夜祈願をこらしてゐましたが、最早今日となつては、どうも覚束ないやうな気分が致します。殿下を初め奉り、諸君の御意見は如何で厶いませうかな』
 此意外なる言葉に王を初め左守、その他の重臣は水を打つたる如く黙然として大きな息さへせなかつた。暫くあつてカラピン王は顔面筋肉を緊張させ乍ら、
王『意外千万なる右守が言葉、天の命を受けて君臨したる我王室を廃し、共和政治を布かう等とは不臣不忠の至りだ。右守、汝も時代の悪風潮に感染し、良心の基礎がぐらつき出したと見える。左様な精神で、どうして我国家を支へる事が出来るか。よく考へて見よ』
 此言葉に並ゐる老臣等は稍愁眉を開き、一斉に口を揃へて王の宣言に賛意を表した。左守は憤然として立上り両眼に涙を浮べ乍ら、右守の側近くニジリ寄り短刀の柄に手をかけ、声を慄はせ乍ら、
左『汝右守のサクレンス、徒に侫弁を揮ひ、表に忠臣義士を粧ひ、心に豺狼の爪牙を蔵する悪逆無道不忠不義の曲者奴、万代不易の王政を撤回し共和政体に変革せむとは何の囈言、不臣不忠の至り、もう此上は左守が死物狂ひ、汝が一命を断つて国家の禍根を絶滅せむ、覚悟致せ』
と云ふより早く右守に向つて飛びつかむとする。王女のバンナは又もや声をかけ、
王女『左守、暫らく待て、王様の御前であらうぞ。殿中の刃物三昧は国法の厳禁する所、血迷ふたか、狼狽へたか。左守、冷静に善悪理非を弁へよ』
 左守は声を励まして、
左『王女様の厳命なれども、もとより不忠不義なる此左守、死して万死の罪を謝し奉る。ついては御法度を破る恐れは厶いませうが、此右守を残しておかば王家を亡ぼし国家を亡ぼす大逆者で厶れば、右守の命を絶つ考へで厶います。何卒此儀はお許し下さいませ』
と又もや斬つてかかる。右守は打驚き松の廊下の師直よろしく、
左守殿、殿中で厶る 殿中で厶る』
と連呼し乍ら彼方此方へ逃げまはる。重臣のハルチンは加古川本蔵よろしく、左守の後よりグツと強力に任せて抱きかかへ羽抱絞めにして了つた。左守は、
左『エー、放せ、邪魔召さるな。王家の一大事だ。国家の禍根を払ふのは此時で厶る』
とあせれど藻掻けど、強力のハルチンに抱きつかれ無念の歯噛みし乍らバタリと短刀を床上に落した。右守は此隙に乗じて雲を霞と卑怯未練にも逃げ出して了つた。
 かく騒ぎの最中へ太子の君はアリナと共に悠然として城門を潜つた。今や生命からがら髪振り乱し、逃げ出して来た右守のサクレンスは狼狽の余り門口にてアリナの胸にドンと許りつきあたり、二人は共に門前の階段から、二三間許り下の街道へ転げ落ちた。幸ひにアリナは何の負傷もせなかつたが、右守のサクレンスは脛を折りノタノタと四這ひとなり生命カラガラ吾家を指して猫に追はれた鼠よろしく逃帰り行く。
(大正一三・一二・四 新一二・二九 於祥雲閣 北村隆光録)
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