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文献名1霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻
文献名2第3篇 民声魔声よみ(新仮名遣い)みんせいませい
文献名3第9章 衡平運動〔1733〕よみ(新仮名遣い)こうへいうんどう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2018-06-26 13:18:17
あらすじ上に王はあっても、時代を解し、王を助けて政治を行うべき臣なく、結果として虚偽、罪悪、権謀術数を事とし、重税を課して民の血を絞っていた。一方ブルジョワ階級は贅を尽くし、文明、教育、病院等の公共の施設は上流階級のみに供され、貧民はそれらの益に預かることなく、飢えと寒さに凍え、生存難の声は日に日に大きくなり、自殺するものは後を絶たない惨状となっていた。各地に大名、小名撲滅の声があがり、決起大会、争闘が絶え間なく起こり、タラハン国は修羅の巷となっているのが現状であった。このような世情を背景に、不逞団、過激団その他の団体が都大路に集まり、タラハン国創立記念日の五月五日を期して一斉に放火し、蜂起したのが先の騒ぎであった。騒ぎが収まった後、有志各団体が罹災民救護のため走り回っていたが、到底すべてを満たすに至らず、流言飛語が盛んに起こり、人心恟々としていた。そこへ、大兵肥満の女が一人現れ、札ビラを路上に撒き散らし、声高々と歌いながら街中を駆け巡っていた。その歌に曰く、今は、優勝劣敗の世の中と成り果てている。この世は神様が万民平等、天国浄土の神政を敷こうとの思し召しにも関わらず、富裕・長者連は国民を苦しめている。その報いは忽ちにして現れた。今こそ正しき神が神軍を引率し、悪を滅ぼす時が来た。民衆よ、勇んで悪人を踏みにじり、血潮を持って世を洗え。自分は、富裕連に出入りする茶湯の宗匠の後妻と化け入り、富裕連の事情を調べていたが、もはや時節が満ちたのを知った。そこで部下に命令してこの大火を起こさせたのだ。自分こそは民衆団の頭目、バランスである。世界の改造を命の綱と神事、今こそ振るい立ち上がれ。数百の目付隊は、有無を言わせずバランスを縛り付け、取締所へ連行した。バランスの部下は頭を取り戻そうと目付隊と闘争を始めたが、二千人の侍が押し寄せ、民衆団は退却せざるをえなくなった。バランスは目付け頭の前に引き出され、尋問を受ける。バランスは、あまり平等を欠いた世の中なので、平衡をもたらそうと、バランス(balance=均衡、平衡)と命名したと答える。自分の部下は国内に数十万おり、万が一自分を処刑したならば、彼らが一斉に蜂起するだろう、と嘯く。また、太子とスバール姫の情事をすっぱ抜き、王家を非難する。バランスが明かす王家のスキャンダルに、目付け頭も目付けも色を失い、互いに顔を見合すのみであった。外からは、またしても民衆と目付隊の戦う声が聞こえてくる。
主な人物 舞台 口述日1925(大正14)年01月29日(旧01月6日) 口述場所月光閣 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年9月30日 愛善世界社版125頁 八幡書店版第12輯 197頁 修補版 校定版125頁 普及版69頁 初版 ページ備考
OBC rm6809
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本文  上に大名あれ共、時代を解し国家永遠の神策を弁へたる輔弼棟梁たるべき小名なく、所在虚偽と罪悪と権謀術数を以て施政の大本となし、重税を課して膏血を絞り、上に立てるブルジョア階級なる者は、肥馬軽裘、有らむ限りの贅を尽し、行人の迷惑を顧みずブウブウと自動車を飛ばして、臭気紛々たる屁と土埃を浴びせて平気に行く。貧民の子は自動車に轢き殺されても、之を訴へ出づる術も無く、強者は白昼強盗に等しき行ひを為して、公々然縦横に濶歩し、弱者は往来の車馬に踏み躙られ悲鳴を上げ、九死の境に呻吟す。文明利器の交通機関は可なりに進歩し完備すれども、貧者は之を利用する事を得ず。教育機関は立派に設けられたりと雖も、貧者は是に入学するを得ず。寄席劇場などは市の四方に建設され地上の楽園を現出すれども、貧者は又之に一回の慰安を求むる事を得ず。病院は各所に甍を列ねて樹立すれども、貧者は是に入つて治療を受くる事を得ず。美味佳肴は料理屋の店頭に並べられたりと雖も、貧者又此恩恵に浴するを得ず。錦繍綾羅を店頭に陳列せる大呉服店は市中目抜の場処に櫛比すれども貧者は一片の布も購求する事を得ず。日夜飢に泣き寒さに凍え、空虚腹を抱えて半病人の如く路の傍を悄々と喘ぎ行くのみ。富者は大小名と結托して暴利を貪り、物価は日を逐うて暴騰し、生存難の声は日を逐うて喧すしく、淵川に身を投ぐるもの、鉄砲腹を為すもの、ブランコ往生を演ずるもの、線路を枕に命を捨つるもの、日に夜に数限りも無く、暗黒の幕は下層社会に日に日に濃厚に下されて来た。民衆の憤怒怨嗟の声、号泣の叫び、恰も阿鼻叫喚地獄の状態と成つて来た。大小名撲滅の声は国内各処に起り、市民大会、民衆大会其他所有民衆の会合は、各処に開かれ、目付役と民衆の争闘、絶間なく血腥き風は四方に吹き荒び、流石安逸なりしタラハン国も、今は漸く修羅の巷と成つて了つた。不逞団歌劇団其他の各種の団体は期せずして都大路に集り、タラハン国の創立記念日なる五月五日を期して、城下の場所に一斉に放火を始め、其虚に乗じて血に飢ゑたる民衆は所有悪業を恣にし、一時は殆んど無取締の状態になりしが、漸くにして侍連の力を借つて稀有の騒乱を鎮圧する事を得たので有る。此騒擾勃発の為に、富有連の傍杖を食つて僅かの財産を焼失したるもの、親を失ひ、妻を失ひ、夫に別れ、或は一家全滅したる者数限りもなく、都大路は流血の巷と化し、死屍累々として目も当てられぬ惨状と成つた。子は母の背にあつて飢に泣き、老人は腰を抜かして路傍に倒れ、或は半死半生、重傷を負うて苦む者幾千人とも数へ切れぬ程であつた。有志の各団体は罹災民救護の為、東西南北に駆まはり、米麦野菜などをあさつて、一時の急を救はむとすれ共、到底其一部の要求を充すにも足らなかつた。流言蜚語盛ンに起り、人心恟々として安からず、今にタラハン国は滅亡の悲運に向ふべしなどと人々の口に依つて喧伝された。斯かる所へ肉体美に過ぎた大兵肥満の女一人現はれ来り、札ビラを路上に撒き散らし乍ら声高々と何事か唄ひ乍ら、碁盤の目の街を彼方此方と駆けめぐつてゐる。
女『神が表に現はれて  人と鬼とを立別ける
 天には黒雲塞がりて  月日の影も地に照らず
 天が下なる人草は  優勝劣敗日をかさね
 強きは高く登りつめ  栄耀栄華の有丈を
 尽して下の難儀をば  空吹く風と聞き流し
 貧しき民を虐げて  生血を絞り脂をば
 力限りに吸取れば  痩せ衰へて餓鬼の如
 骨と皮とに成り果てぬ  神が此世に在す上は
 何時迄許し玉はむや  此世の中は神様が
 万の民を平等に  楽く嬉しく暮させて
 天国浄土の神政を  布かむが為の思召
 然るに何ぞ計らむや  上は左守を始めとし
 富有連や長者等が  勝手気儘に振れ舞ひて
 下国民を苦しめし  報いは忽ち目の当り
 思ひ知つたか左守司  其他百の司達
 今に心を直さねば  打てや懲らせと民衆が
 鬨を作つて攻寄せる  其凶兆はありありと
 今より伺ひ知られたり  あゝ民衆よ民衆よ
 必ず憂ふる事なかれ  至仁至愛の神さまは
 必ず汝が窮状を  何時まで見捨て給はむや
 必ず一陽来復の  春を迎へて永久に
 安き楽き神の国  此世の中に樹て玉ひ
 今迄下に苦しみし  清き正しき汝等を
 高きに救ひ給ふべし  天は降つて地と成り
 地は上つて天と成る  有為天変の世の中は
 何時まで大名小名の  自由の振舞許さむや
 あゝ惟神々々  神は汝と倶にあり
 吾等は神の子神の宮  愈々時節が参りなば
 今迄此世に落ち居たる  百の正しき神さまは
 数多の神軍引率し  悪を亡しよこしまを
 平らげ尽し給ふべし  勇めよ勇め民衆よ
 時は来れり時は今  神政復古の暁ぞ
 不意に起つた大火災  是ぞ全く人間の
 力に及ぶ術でない  何れも貴き神様の
 悪に対する警戒ぞ  如何に大名小名や
 富有連が覇張るとも  彼等が覇張る世の中は
 最早末期と成りにけり  勇めよ勇め皆勇め
 民衆を苦しむ悪人を  片つ端から踏み躙り
 怯めず臆せず堂々と  火の洗礼を施せよ
 血汐を以て世を洗へ  向日の森の茶坊主が
 館に後妻と化けすまし  三年以来身を潜み
 富有連に出入する  彼に付き添ひ富有連の
 事情を査べ居たりしが  最早時節も充ちぬれば
 数多の部下に命令し  火の洗礼を為せたのは
 大兵肥満の此女  富有連中が何恐い
 大名小名糞喰へ  取締役や目付役が
 怖くて此世に居られうか  勇めよ勇め民衆よ
 女乍らも吾部下は  タラハン国の山に野に
 幾十万の生身魂  腕を撫して待つて居る
 愈々命令一下すりや  四方八方の隅々ゆ
 ドンドン狼火が上るだろ  今の好機を逸せずに
 汝等世界の改造を  命の綱と信じつつ
 振へよ立てよ立上れ  民衆団の頭目と
 世に聞えたるバランスは  即ち吾身の事なるぞ
 あゝ勇ましや勇ましや  此惨状を見るに付け
 下人民の傍杖は  実に涙の種なれど
 大小名の狼狽の  其状態を眺めては
 少しは虫も治まらむ  更生院が何に成る
 之も矢つ張り富有等の  汝等民衆一般の
 生血を絞る手品ぞや  必ず迷ふな迷はされな
 思へば思へば村肝の  心の神が踊り出す
 あゝ惟神々々  御霊幸へましませよ
 奸侫邪智の輩の  目玉飛出しましませよ』
 十字街道に待ち構へて居た数百の目付隊は有無を言はせずバラバラと駆け寄つて手取り足取り、取縄を以て雁字搦みに縛り付け、バランスを荷車に乗せて横大路の取締所へと運び込むで了つた。民衆に化けて居た彼の子分はバランスを取返さむと潮の如く押寄せ、目付と団員との闘争が演出された。目付隊は既に危く見えた時、喇叭の声も勇ましく二千人の侍は押寄せ来り銃を擬して威喝を試みたり。素より完全な武器を有つて居ない民衆は歯がみを為し乍ら見す見す大棟梁を奪はれしまま、退却するの止むを得ざるに立至りける。
 バランスは目付頭の前に引出され、厳重なる訊問を受けた。バランスは少しも怯む色無く滔々として目付頭に食つて掛かつた。
目付頭『其方の姓名は何といふか』
バランス『俺の名はバランスと云ふ者だ。民衆救護団の大頭目だ。有名なバランスの面を今迄知らぬようなウツソリした事で、何うして大目付頭が勤まると思ふか、余り平等を欠いだ強食弱肉の現代だから、バランスを取る為にバランスと命名したのだ』
目付頭『其の方は民衆を煽て上げ、不逞の徒を鳩集し、市街に火を放ち、剰さへ所在悪業を敢てし、尚飽き足らず民衆を煽動するとは何の事だ。汝の如き極重悪人は裁判の必要も無い、国家の為不愍ながら銃殺の刑に処するに仍つて、此世の名残に念仏でも唱へて置くが可からうぞ』
 バランスは女に似合はぬ大胆不敵の英雄で有る。身動きも成らぬ所迄縛られ乍ら、少しも恐るる色なく大口開けて高笑ひ、
バランス『アハヽヽヽ、向ふの見えぬ盲ども、銃殺なつと絞殺なつと、出来るなら遣つて見よ。此バランスの命はタラハン国全体とつり代の命だ。数十万の吾部下は国内の各所にバランスが殺されたと聞くならば、一時に蜂起するだらう。汝等如き悪目付共は能く後前の成行を考へて手を下したが可からうぞ。第一国民の模範たるべきものの行状は何だ。向日の森の畔に住む茶坊主タルチンの茅屋に年若き女を忍ばせ、夜な夜な労働者の服を着けて通ひつめ、恋の奴と成つて脂下つて居るで無いか、斯様な事で、如何して世話が完全に出来るか、其方共は呑舟の魚には恐れて近寄らず、鮒やモロコの如きウロクヅを漁つて目付力が何うの、政治が如何のと、好え気に成つて国の滅亡を知らない馬鹿者だ』
目付頭『バランス、何と云ふ畏れ多い事を言ふのか、人民の分際として、その行動を云々すると云ふ不敵な事が有るか』
バランス『ハツハヽヽ、それほどお邪魔に成りますかな。然らば此問題は御推量を願つて置きませう。能く茶坊主を呼出してお査べなさい。夫に付ても許し難きは左守ガンヂーが悴アリナと云ふ奴、不届至極にも茶坊主を取込み、山出し女との媒介を致して居るのみならず、自分は殿中に錦衣を着け、偽太将と成り代り、左守右守の目を眩まして居るでは無いか。大王殿下は御重病にて上下憂鬱に沈む折柄、悴たるものは女に狂ひ、又左守の悴は王位を奪はむとして居る大胆不敵の曲者、其他の大名共は之を見ても推して知るべしで有る。此バランスはタラハン国民衆全部の代表者だ、決して嘘は言はないぞ、早速調べて見るが宜からう』
 此言葉に目付頭も並み居る目付等も色を失ひ、太き息を漏らして互に面を見合すのみで有つた。又もや民衆と目付役と闘ふ声、庭の近辺に喧しく響いて来た。
(大正一四・一・六 新一・二九 於月光閣 松村真澄録)
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