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文献名1霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻
文献名2第3篇 民声魔声よみ(新仮名遣い)みんせいませい
文献名3第10章 宗匠財〔1734〕よみ(新仮名遣い)そうしょうざい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2018-06-28 06:35:00
あらすじバランス解放を求める民衆の勢いに、ついに大目付頭もバランスを解放する。大目付頭はバランスの申し立てを調査するため、タルチンを拘引する。タルチンは逆に理屈で大目付頭を言い負かし、釈放される。
主な人物 舞台 口述日1925(大正14)年01月29日(旧01月6日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年9月30日 愛善世界社版136頁 八幡書店版第12輯 201頁 修補版 校定版137頁 普及版69頁 初版 ページ備考
OBC rm6810
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本文  取締所を中心とし附近に於ける民衆と侍との闘争は、一時酣となつて来たが民衆の救主、貧民の慈母と尊敬されて居る大頭目のバランスを取返さむとして、民衆一般は爺も婆も、脛腰の立つもの、猫も杓子も刻々に集まり来り其の勢凄じく、目付隊も侍も如何ともすべからず、遂に大目付頭も我を折つてバランスの縄を解き、民衆との妥協を図り且つ、諫言申上げる事となし、茶坊主を召喚して事の実否を調査した上、左守の悴アリナを民衆の前にて重刑に処す事を誓ひ、茲に漸く大騒動も鎮定するに至つた。目付頭は逸早く部下に命じて茶坊主を拘引せしめた。茶坊主が拘引されたのを見るや、スバール姫は大に驚き、折柄労働服姿にて忍び来りし恋人と共に暗に紛れて都を遠く姿を隠した。アリナも亦形勢の容易ならざるを覚り、忍と共に暗に紛れて城内を逸走して了つた。茶坊主のタルチンは厳しく縛られたまま、大目付頭の前に引出され訊問を受けた。
大目付役『其方の姓名は何と申すか』
 タルチンは長い禿頭を二つ三つ振り乍ら、やや腰をかがめて、
『ハイ、私は向日の森の傍に住む茶の湯の宗匠タルチンと申すもので厶います。何ぞ折入つた御用が御座りますかな。罪も無い私をお役人さまが突然遣つて来て、斯んな処へ連れて来られる覚えは御座りませぬ。爰は悪人の来る処ぢや御座りませぬか、清浄無垢の私、神妙に茶の湯をお歴々方に伝授し淋しく大人しく余世を送つてゐるもので厶います。それに三年も連れ添うて居つた大切の大切の嬶に逃られ、心配の最中、斯んな処へ連れて来られては一向、日当も取られず、誠に貧民の私、明日から腮櫃が上つて了ひますがな。どうか相当の日当を頂戴致し度い者で御座ります。そして罪もない私をお縛りに成りましたのだから、賠償品を頂き度う御座ります。冤罪者賠償法が、発布されむとする今日、どうか、其所は、あんまり高い事は申しませぬから、私の価値相当に御支給を願ひ度いもので御座ります』
大目付『貴様は馬鹿だな。お歴々の家庭に出入し茶の湯の伝授でもしようと云ふ身であり乍ら、斯様な処へ引連れられて、左様の請求をすると云ふ事があるものか、エーン』
タルチン『如何なる処へ参りましても、ヤツパリ日当は請求致します。左守の司の邸へ参つても、又畏多くもタラハン城内の茶寮に参りましても、相当のお手当を頂いて居りますから、仮令半時でも、それ丈けのお手当を頂かなくちや渡世が出来ませぬ。お前さまの様に沢山の子分を使つて朝の九時頃から出勤して、椅子に凭れ面白さうに新聞を見ながら彼是する間に十二時が来る、さうすりや料理屋弁当を取つて強たかお食りなされ、又一時間ばかり食後の運動だと云つて面白い処を廻り、夫から読み残りの新聞を読み、盲判を二つ三つポンポンと押して、サツサと宅に帰り大小名の待遇を受けて、沢山の月給を取るお方と同じに見て貰つては、チツと割りが悪う御座ります。私のやうに高い炭を爐にくべ、「ヘーコラ、ハイコラ」とお辞儀許りして、ヤツトの事で糊口を凌ぐ許りのものと同日に語る事は出来ませぬ』
大目付『その方は女房に逃げられたと申したが、その女房は何と申すものか』
タル『ハイ、私の女房は思ひの外のドテンバで厶いますが、どうしても名を申しませぬので袋と申してゐます。その袋に千両の金を持つて逃げられ、私は梟が夜食に外れたやうな失望落胆の淵に沈んでゐます。貴方も人民保護のお役なら私の女房を捜して下さい。そして女房と金とを取返して貰ひ度いものです。実は保護願をしようと思ひましたが、何分珍客さまがおいで遊ばすので目放しが出来ず、其処へあの大火事と来てゐますのでツヒ遅れてゐました』
大目付『其方は、その日暮しと申してゐるが、どうして其千両の金を所持致して居つたのだ』
タル『之は又妙な事を仰せられます。お金と云ふものは人間の持つべきものです。人間が金をもつているのが、どこが不思議ですかな』
大目付『持つてゐるのが悪いとは云はぬ、どうして拵へたかと云ふのだ』
タル『之は又大目付頭にも似合はぬお言葉、どうして拵へたかとは私をも紙幣偽造犯人とお思ひですか。彼の紙幣は兌換だか不換だか知りませぬが、貴方がたが経営して御座る印刷局から刷り出された物ぢや御座りませぬか。キューピーさまや福助さまが付いて御座る彼のお札ですよ。私は紙幣を拵へるやうな器用なものでは厶いませぬ。茶の湯では十二手前を本とし、それから分れて三百十六手前となり、又茶の湯の綱目としては初段から七段迄の手前を存じて居ります。茶の湯の事なら、いくらでもお答へ致しますが、金を拵へる事はチツとも存じませぬ。之はお役人さまの、お眼鏡違ひで御座りませう、オツホン』
大目付『エー、分らぬ奴だな。その金を、どうして儲けたかと聞いてゐるのだ』
タル『之は亦妙なお尋ねで御座りますな。私は茶の湯の宗匠が稼業で厶ります。如何して儲けようと、商売の上で、儲けた事をお叱めを蒙る訳も有るまいし、又夫を貴方に説明する義務も無し、又貴方も人の儲けた金を彼是言ふ権利も御座りますまい、そんな事は要らぬお節介ですよ。私もチヨコチヨコお前さまの御親類内へ茶の湯で出入りを仕て居ますが、お親類の方の話を聞けば、大目付さまは沢山な賄賂を取つて町の真中へ待合を許し、其所へ妾を抱へて御座るとの事、此話は決して違ひますまい。何と云つても、貴方の御親類、しかも、貴方のお妹御の嫁入先で聴いたのですから』
大目付『こりやこりや、外聞の悪い何を云ふのだ。沢山の目付が、其所に聞いて居るぢや無いか。其方は神法を心得ぬか、「事の有無に拘らず、人を公衆の前にて誹謗した者は知計法第八百条にて刑鉢に処す」と書いて有る。メツタの事を云ふものではないぞ』
タル『ヘツヘヽヽ、御都合が悪う御座りますかな。チツト茶の湯加減が過ぎましたので、熱い汗をかかせました。ハツハヽヽ』
大目付『お前の宅に、エー、珍客が居られたと云ふ事だが、本当か』
タル『ヘーヘー、居られましたとも、まだ現にゐられるでせう。畏れ多くもスダルマン様が、元の左守の娘子スバール姫と云ふ、夫は夫は天女のやうな美人をかくまつて呉れと云ふ事で、夜な夜なお通ひで御座ります。本当に素敵な美人ですよ。何と言つてもスダルマン様の御身、御意見申すも恐れ多いと謹んで御意に応じました。何分取締所あたりから御褒美でも頂け相なものと、首を長うして待つて居りますよ。妙法様のお心を慰め奉り、無上の歓喜をお与へ申した此タルチンは、正に勲一等功一級の価値は確にあるでせう。夫にも拘らず、タラハン国に於て雷名隠れなき最大権力者、左守のガンヂー様の一人息子アリナの君様に頼まれて、未来のお妃様のスバール嬢様に、お茶の手前を伝授申し上げて居るのです。何程偉相に申してもお前さまとしては、妙法様を直接にお世話したり、お妃さまに尊い茶道を伝授すると云ふ事は出来ますまい。マアそんな小難しい顔せずにお考へなさいませ。今に妙法様が、大王の跡を継がれましたならば、私は大王様のお師匠様と成つて、殿内深く、すまし込み、殿下の耳を嗅ぐ役に抜擢されますよ。夫だからお前さまも出世が仕度くば今の中、此タルチンを十分待遇して置きなさい。葡萄酒の一打位贈つても可し、金平糖の一斤位はチヨイチヨイ贈つて下さい。此方も茶菓子の足しにも成り、誠に好都合だ。お前さまも、私に取り入るのは今の中ですよ、オツホン』
と豪然としてすまし込んでゐる。
大目付『オイ、ハルヤ、タルチンの縄目を解いて遣れ』
『ハイ、承知致しました』
タル『イヤ、ならぬならぬ、此縄目は此儘にして置いて呉れ。妙法様に、お前等が寄つて集つて、斯んな目に会はしやがつたと云つて、具さに言上して遣る。さうすると、屹度タルチンの贔屓をなさつて、お前等は直ぐ様免職だ。お気の毒様の事だ、愚図々々して居ると大目付頭様に飛火が致しますよ。此縄が解し度ければ、解かして遣らう。幾等機密費を出しますかな』
大目付『アツハヽヽヽヽ此奴ア、どうも、キ印だ。キ印を捉まへて法律で罰する事は出来ぬ。身心喪失者と認める。オイ、タルチン、唯今より放免する、有難う思へ』
タル『ヘン、さう、うまくは問屋が卸しませぬよ。妙法様の御覚え目出度き寵臣を縛り上げ乍ら、放免も糞も有つたものか、チツとお前さまの遣り方は方面が間違つて居るぢや無いか。いつかな いつかな此処を立退いて成るものか。今に妙法様がタルチンの所在を尋ねて、最新調の自動車を以て迎へに来られるに違ひない。夫迄は誰が何と云つても、此処は一寸も動きませぬぞ』
大目付『アヽ困つたものを引張つて来たものだな。オイ、ハルヤ、兎も角、此狂人の縄を解き、彼が館に送つて遣れ。さうして妙法様が御在宿かいなかと云ふ事を、よく調べて来るのだぞ。必ず不都合の無いやうに気を注けて行け』
と云ひ乍ら大目付は懐から時計を出して、
『ヤア、もう退出時間だ』
と云ひ乍ら逃ぐるが如く、ドアを開けて妾宅さして帰り行く。
 タルチンは、大声を張上げ乍ら、
タル『コリヤ、大目付の奴、逃ると云ふ事があるか。待て、貴様に一つ灸を据ゑて遣る事が有る。俺の言ふ事を聞かずに逃て行けば、明日から免職だぞ』
と呶鳴り立てて居る。
 漸くにして数多の目付が持て余しもののタルチンをいろいろと納得させ、葡萄酒や菓子等を与へて機嫌をとり、ヤツとの事で彼の家に送り届ける事となつた。
 タルチンは目付連に護送され乍ら吾家に帰り行く道々、葡萄酒の酔がまはつて、謡ひ出した。
『あゝ面白い面白い  この世の中は何として
 馬鹿に面白うなつたのか  妙法の君は吾家に
 タラハン城と間違へて  妃の君と諸共に
 朝から晩まで意茶付いて  涎を垂らしてお在します
 それに左守のガンヂーの  悴のアリナがチヨコチヨコと
 横目を使つて遣つて来る  さう斯うする中タラハンの
 町に響いた鐘の音  窓押し開けて眺むれば
 ドンドンドンと町中の  民家は燃える人は泣く
 瞬く間にタラハンの  街の半は黒土と
 成つて了つた気の毒さ  今迄贅沢三昧を
 尽して居よつた富者等の  今日の惨めの態見れば
 ホンに愉快な世の中だ  大目付頭と云ふ奴は
 俺を態々引張つて  下らぬ事を尋ね上げ
 理窟に負けて泡を吹き  屁古垂れよつてブルブルと
 菎蒻のやうに慄ひ出し  懐中時計を取出して
 もはや退出時間だと  甘い辞令を浴びせかけ
 コソコソコソと逃げよつた  斯んな瓦落多役人が
 都大路の真中に  頑張つて居るやうな世の中は
 如何して吾々人民が  枕を高く寝られよか
 さはさり乍ら是も皆  大神様の仕組だろ
 零落れ果てた俺さへも  妙法の君のお見出しに
 預りよつて姫様の  お手をとつての指南役
 茶の湯のお蔭でこの俺も  薬鑵頭が霑うた
 エヘヽヽエツヘ エヘヽヽヽ  さつてもさても世の中は
 人間万事一切は  皆塞翁の馬の糞
 糞でも喰へ大目付よ  俺がもうツヒ出世して
 貴様の頭を抑へたろか  エヘヽヽエツヘ エヘヽヽヽ
 お嬶の袋は逸早く  俺を見捨てて逃げよつた
 之も矢張り神様の  俺を助ける思召
 お尻の大きい嬶貰へや  向ふの方から逃げ出して
 行つて了つたその訳は  後の悶錯なきやうと
 ウラルの神の御計らひ  天女のやうな妻を持ち
 結構に結構に世の中を  面白可笑しう暮すため
 之ほどボロイ事はない  エヘヽヽエツヘ葡萄酒に
 酔た酔た酔た酔たよた助の  呉れた酒でも味がある
 ほんに浮世は斯うしたものか  三分五厘に茶化して通る
 茶の湯の師匠のタルチンは  天下に無比の幸福者だ
 向ふに見えるは吾住める  館の側の向日の森だ
 オイオイ皆の御連中  少時待つてゐるがよい
 俺が出世の暁は  キツト引立ててやるほどに
 必ず必ず世の中を  悲観なさるな善い後は
 必ず悪い悪いあとは  必ず善い芽が吹くものだ
 エヘヽヽエツヘ エヘヽヽヽ
これこれ皆の衆 御苦労で厶つた。もう之から去んで下さい』
(大正一四・一・六 新一・二九 北村隆光録)
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