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文献名1霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻
文献名2第4篇 月光徹雲よみ(新仮名遣い)げっこうてつうん
文献名3第17章 地の岩戸〔1741〕よみ(新仮名遣い)ちのいわと
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじ宣伝歌を歌っていたのは、白馬にまたがった梅公別であった。神示により、水車小屋の地下に立派な人が押し込められていることを知り、地下室に降りて行く。梅公別は、天の数歌の神力により牢獄の岩戸を解き放ち、太子とスバール姫を救い出す。太子は、スバール姫との恋愛を貫こうと、城へは戻りたくないと宣伝使に頼むが、事情を聞いた梅公別は、自分が仲人をしようと太子を諭す。恋愛、父との和解、国家の建て直し、これらすべてを全うする道を、梅公別は示す。太子・スバール姫は、梅公別にすべてを任せて、城に帰る決心をする。
主な人物 舞台 口述日1925(大正14)年01月30日(旧01月7日) 口述場所月光閣 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年9月30日 愛善世界社版231頁 八幡書店版第12輯 236頁 修補版 校定版235頁 普及版69頁 初版 ページ備考
OBC rm6817
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本文  三五教の宣伝使梅公別は白馬に跨り、渺茫として天に続くデカタン高原の大原野を東へ東へと那美山の南麓を目当に進み来り、古ぼけた水車小屋の前に駒を留め独言、
梅公『ハテ、訝かしや、今この附近に人声が確に聞えたやうだ。駒を早めて近寄り見れば人の住みさうにもないこの破屋一つ。水車はあれど運転中止の有様、何かこの小屋には秘密が潜んでゐるに相違ない。どれ一つ調べて見よう』
と駒をヒラリと飛び下り、水車小屋の柱に縛りつけおき乍ら、いろいろと四辺を耳をすまして伺つて見た。どこともなしに人の声が聞えて来る。地の底のやうでもあり、又上の方から聞えて来る様でもあり、声の出所が解らぬ。梅公別は菰を敷きて端坐し瞑目して祈願を籠めた其結果は、「地下室に立派な人が投げ込まれて居る」と云ふ事が解つて来た。四辺をよくよく調べ見れば、鞋に摺りみがかれた床板がある。グツと手をかけ一枚めくつて見ると、地下室へ相当の階段が通つてゐる。梅公別はこの階段を四五間許り右に左に折れ曲り乍ら降つて往くと、其処に二人の男が抱き合うて慄つて居る。
『やア其方は何者だ。察する所何か良からぬ秘密の伏在する魔窟と見える。有体に申上げろ』
サ『ハイ、ワヽヽ私はサヽサーマンと云ふヒヽヽ一人の人間で厶います。何も別に悪い悪事を致した覚えは更に厶いませぬ。右守の司様の御命令に依りまして、此処に勤めて居るので厶います。どうぞ今日の所は見逃して下さいませ。お慈悲です、お情です、頼みます。コヽコラ、カーク、貴様もチヽ些と云ひ訳の弁解を致さぬか』
カ『いや申し宣伝使様、私はカークと申まして余り悪くもない、良くもない世間並の人間で厶います。実の所は右守の司が大変な謀叛を企らみ、カラピン王の太子スダルマン太子を、二千円の懸賞付で取つ捉まえて呉れと、内々御命令が下りましたので、二十人のものが、ソヽその百円づつ確に儲けさして頂きました。どうぞ御量見下さいませ。何時でも取る金は取つたのですから、太子様は何時でもお返し申ます。のうサーマン、ソヽさうぢやないか』
サ『ソヽそれでも太子様をコヽ此人に渡さうものなら、俺達のクヽ首が飛ぶぢやないか』
梅『お前等の云ふ事は些とも要領を得ない。要するにタラハン城の太子様を右守に頼まれて何処かへ匿したと申すのだな』
サ『ハイ、其通りで厶います。毛頭相違は厶いませぬ。何処かへ匿しまして厶います』
梅『何処かでは解らぬぢやないか。かつきりと在所を云つたらどうだ』
サ『ハイ、たうとう……所へ匿しました』
梅『何と云ふ所へ匿したのだ』
サ『ハイ、チヽチのつく所です。オイ、カークお前も半分云へ。俺も秘密を明しては責任があるからなア。一口づつ云はうぢやないか』
カ『ハイ、宣伝使様、包まず隠さず申上げます。カーに匿しました』
サ『シーに匿しました』
カ『ツーに匿しました』
梅『何、チーとカーとシーとツーと、アヽ地下室か。地下室と云へば此処ではないか』
サ『サーで厶います』
カ『ヨーで厶います』
梅『オイ、邪魔臭い。左様で厶いますと云へば可いぢやないか』
サ『こんな秘密を申上やうものなら、右守の司から打ち首に合はされますから、夫れで態と解らぬやうに言葉を分けて申しました。御推察下さいませ、貴方の明敏の頭脳でお考へ下されば解るでせう』
梅『成程、それも一理がある、面白い。それでは二人が分けて話して呉れ。自分は言霊別だから一言聞けば大抵解る。さうして此地下室に押し込まれて居る方は一人か二人かどうだ』
 二人は互に一言づつ、
『フ、タ、リ、サ、マ、デ、ゴ、ザ、リ、マ、ス。ソ、シ、テ、ヒ、ト、リ、ハ、ス、ダ、ル、マ、ン、タ、イ、シ、サ、マ、ヒ、ト、リ、ハ、ス、バー、ル、ヒ、メ、サ、マ、デ、ゴ、ザ、イ、マ、ス。ミ、ツ、カ、マ、ヘ、カ、ラ、ナ、ニ、モ、ク、ハ、ズ、ノ、マ、ズ、ニ、オ、シ、コ、メ、ラ、レ、ク、ル、シ、ン、デ、イ、ラ、レ、マ、ス』
梅『ヤ、もう解つた。貴様達は此処を些とも動く事はならぬぞ』
カ『ハイ動けと仰有いましても此通り腰が抜けて仕舞つたものですから、動く事は出来ませぬ』
梅『荒金の土の洞穴底深く
  繋がれ給ふ君を救はむ。

 吾こそは三五の道の神司
  君を救はむと忍び来にけり』

 太子は石牢の中よりさも爽かなる声にて、
『惟神神の恵の幸はひて
  岩戸の開く時は来にけり。

 三五の神の司の御恵の
  露に霑ふ若緑かな。

 吾妹子は隣の牢屋に繋がれぬ
  とく救ひませ吾より先に』

 スバール姫は最前から此様子を考へて居たが、地獄で仏に遇うたる心地、喜びに堪えず、さも嬉し気に、
『訝かしきこれの牢屋にとらはれて
  泣き暮らしけり吾等二人は。

 皇神の珍の御光現はれて
  常夜の暗を照らす嬉しさ』

 梅公別は牢獄の鍵を探せども何処にも鍵らしきものが見当らないので、両人に向ひ厳しく訊問して見ると牢獄の鍵は右守の司が持つて帰つたとの答である。梅公別は途方に暮れ乍ら一生懸命に天の数歌を奏上し祈り初めた。不思議や牢獄の岩の戸は自然にパツと開けて五色の光明が室内を射照した。太子もスバール姫も転ぶが如く牢獄を走り出で、梅公別の体に前後より喰ひつき嬉し涙にかきくれ、少時言葉さえ出し得なかつた。
梅『承はれば殿下はタラハン城の太子様、又貴女はスバール姫様との事、どうしてまア斯様な所へ押し籠められ玉うたので厶いますか』
太『恥し乍ら吾々二人は恋におち城内を密に脱け出で、山奥の破れ寺に入つて匿れ忍んで居りました所、心汚なき右守のサクレンスなるもの、王家を奪はむ企みより、吾々を邪魔者と見做し、悪漢に命じ金を与へてふん縛らせ、斯様な所へ連れ参り、吾等二人を干し殺さむとの企み、もはや決心の臍は極めて居りましたが、思ひも寄らぬ貴方のお助け、斯様な嬉しい事は厶いませぬ』
ス『宣伝使様、有難う厶います。お蔭で命を救うて頂きました。此御恩はミロクの世迄も忘れは致しませぬ。命の親の神司様、辱なふ存じます』
梅『人を救ふは宣伝使の役、其様に礼を云はれては却つて迷惑を致します。神様が私の体を通して貴方等をお救ひ遊ばしたのですから、国祖国常立大神様、豊雲野大神様にお礼を仰有つて下さいませ。サア私と一緒に声を揃へてお礼を致しませう』
『ハイ、有難う』
と両人は梅公別司と共に、心のどん底より満腔の赤誠を捧げて、感謝の辞を大神に奏上し終り、梅公別は両人に向ひ、
梅『サア皆さま、かやうな所に永居は恐れが厶います。これから私がタラハン城へお送り致しませう。今迄の間違つた心を取り直し城内へお帰り遊ばし、大王殿下の宸襟をお安め遊ばしませ』
太『ハイ、何から何迄、御親切に有難う厶います。併し乍ら此女は父には内証で連れて居りますので、此女を連れて帰る訳には参りませぬ。それだと云つて今更捨ててゆく事も可愛さうで出来ませぬ。又私の恋愛至上主義より見ても捨てる訳には行きませぬから、何卒お慈悲に此処から二人をお見捨て下さいませ。一生のお願で厶います』
梅『アーそれは間違つたお考へ、どうあつても私がお伴を致しませう。さうしてお二人の恋愛は敗れないやうに私が媒介となつて、父王殿下の御承諾を得る事に致しませう。必ず御心配なくお館へお帰りなさいませ』
太『父は大変に頑固で厶いますから、神司のお言葉と雖も到底承知は致しますまい』
梅『それは貴方の心の偏見と申すもの。天の下に子を愛せない親が厶いませうか。貴方がこのスバール様を愛して居られるよりも百層倍増て貴方の父上は貴方を愛して居られますよ。愛する貴方の心を慰むる恋人をどうしてお憎み遊ばしませう。宣伝使の言葉に二言はありませぬ。生命を賭しても貴方の恋を完全に成功させませう。承はればタラハン国は紛擾絶間無く国家は危機に瀕して居るやうです。御父殿下も御心配の折柄、天にも地にも一人子の太子様のお行衛が分らないやうな事では層一層父殿下の御心配は増す許り、国家の擾乱は日を逐うて激烈を増す計りです。その虚に乗じて悪臣共が非望を企て世は一日と修羅の巷となる許りでせう。是非私に跟いてお帰りなさいませ』
太『ハイ重ね重ねの御教訓有難う厶います。そんならお言葉に従ひ一先づ城内に帰る事に決心致します。真に済みませぬが、どうか送つて下さいますやう』
梅『やア早速の御承知、遉はタラハン国の太子様、私も満足致しました』
ス『妾もお言葉に甘へ、宣伝使様のお伴を致しまして太子様と共に参らして頂きませう。どうか宜敷うお願ひ致します』
梅『や、御心配遊ばすな。きつと円満に解決をつけてお目にかけませう。何事も神様にお任せ申せば大丈夫ですから。併し太子様、此両人はどう遊ばしますか』
太『ハイ、許し難い悪人で厶いますれば、此両人を牢獄へぶち込み懲しめてやり度いは山々で厶いますが、私も牢獄生活の苦しみを味はひましたので、吾身を抓つて人の痛さを知れとやら、どうも可憐さうで放り込んでやる気も致しませぬ。この処置については宣伝使様の御判断に任せませう』
カ『アヽ、もしもし宣伝使様、決して私は此後に於て悪事は致しませぬから、どうぞ牢獄へ入れる事だけは許して下さいませ。その代りお馬の別当でも何でも致します』
梅『人を救けるは宣伝使の役だ。併し乍ら恐れ多くも太子殿下を苦しめ奉つた其方共なれば、一人だけ助けてやらう。一人は気の毒ながら此牢獄に打ち込んでおく積りだ。太子様どちらが比較的善人で厶いますか』
太『ハイ、私としては甲乙の区別がつきませぬ。揃ひも揃つて悪い奴で厶いますから』
サ『もし太子様私は何時も貴方に対し同情を持つて居たぢや厶いませぬか。このカークと云ふ奴、私が「太子様にお腹が空くだらうから、焼甘藷の蔕でも買つて来てソツと上げたらどうだらう」と云うた所、大悪党のカークの奴、「私はそんな宋襄の仁はやらない、断乎として水一杯も呑ます事は出来ない。右守の司にそんな事が聞えたら、俺の首が飛ぶ」と極端に自己愛を発揮した奴で厶いますから、どうか私をお助け下さいませ』
梅『アツハヽヽヽ、オイ、カーク、お前はサーマンが今云つたやうな事を申したのか』
カ『ハイ、是非は厶いませぬ。神様の前で匿したつて駄目で厶います。あの通り申しました。誠に今となつて思へば申訳のない事を致しました。どうか私を牢獄に投げ込んで帰つて下さいませ。サーマンは女房も有る事なり、私は一人身、どうなつても構ひませぬ。妻も無く、子も無く、何時死んでも泣く者さえ厶いませぬから』
梅『ハヽヽヽ、割とは正直な奴だ。どうやらお前の方が善人らしい。さう有体に白状した上はお前の罪は消えて了つた。気の毒乍らサーマンを牢屋に投げ込むより仕方が無からう。太子様、殿下のお考へは如何で厶いますかなア』
太『や、それは面白いでせう。人の秘密を明して自分が助からうと云ふやうな悪人は懲しめの為め何時迄も冷たい牢獄に投げ込んでおくが宜敷いでせう』
サ『もし太子様、殿下様、どうぞ今迄の悪事は大目にみて下さいませ。其代り殿下の為めならば、今死ねと仰有つても死にますから』
太『やア面白い。然らば牢獄に投げ込む事は許してやらう。どうぢや嬉しいか』
サ『ハイ嬉しう厶います。ようまアお助け下さいました。今後は殿下の為めなら何時でも命を差し出します』
太『やア愛い奴だ。そんなら余の身代りとなつて今此処で死んで呉れ。汝の首を提げて右守司の前に差出し、スダルマン太子の生首と申し、首桶に入れて進物にいたす考へだから』
サ『メメ滅相な、今此処で命を取られては助けて貰つた甲斐が厶いませぬ』
太『ハヽヽヽヽ、汝の如き生首がどうして余の身代りにならうか。瓦は金の代りにはなるまい。あゝ総て人間の心は皆こんなものだらう。父王殿下の御側に親しく仕へ侍る老臣共は「大王殿下の為めならば何時でも命を的に働きます」と、臆面もなく口癖のやうに申て居たが、五月五日の大騒擾の勃発した時は、左守、右守を始め重臣共は四方に逃散り、唯の一人も参内したものは無かつた。高禄に養はれた重臣でさへも其通りだから、匹夫の汝が命を惜むのは無理もない。余は宣伝使に救はれた祝として、汝等両人を立派に放免する。何処へなりと勝手に行つたがよからうぞ』
 太子のこの情の籠もつた言葉を聞くより、今迄腰を抜かして居た両人はムクムクと起き上り、長居は恐れ又もや御意の変らぬ内にと云つたやうな調子で、「ア、リ、ガ、ト、ウ、サ、マ」と互に一言づつ謝辞を述べながら、一目散に階段を昇り雲を霞と吾家をさして馳帰り行く。梅公別は遥の原野に遊んで居る二頭の野馬を捉へ来つて両人に勧めた。スバール姫は騎馬の経験がないので、梅公別が乗り来つた鞍付の馬に乗せ、二人の男は荒馬に跨り乍ら駒の蹄に土埃を立て、東北の空を目当に駆けて行く。
 捉はれし太子の御子も三五の
  神の恵に放たれてけり。

(大正一四・一・七 新一・三〇 於月光閣 加藤明子録)
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