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文献名1霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻
文献名2第1篇 花鳥山月よみ(新仮名遣い)かちょうさんげつ
文献名3第8章 大勝〔1775〕よみ(新仮名遣い)たいしょう
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじ太子チウインは王女チンレイ、右守の娘ハリス将軍、勇将ジャンクを従え、三五教の宣伝使照国別・照公とともに、二千五百騎を駆って、トルマン城を包囲する大足別軍を殲滅しようと、進軍してきた。大足別は援軍が来たのを見て驚き、もはやキューバーの安否を省みず城を攻め落とすよう、命令を下した。戦いの中、左守は奮戦の末、敵のために命を落としてしまった。大足別は左守軍の敗北につけこんで城門まで攻め寄せ、トルマン城は危機に陥る。すると城門に千草姫・キューバーが現れ、城はすでに奪い取ったと大足別に告げる。この虚報に大足別は軍を返して、援軍を迎撃する。しかし、背後からガーデン王の守城軍が攻撃し、大足別軍ははさみ打ちにあって敗走する。王は勝利の舞を舞うが、敗走した大足別軍が市街に火を放ち、人々の悲惨の声が聞こえてくる。照国別をこの様をみるや、まっしぐらに物見櫓に駆け上り、照公とともに天の数歌、続いて天津祝詞を奏上した。すると火災はたちまちにして静まった。二人の活躍に、王をはじめ一同は手を打って歓喜した。左守・右守は特別に王家の墓所に葬り、国家の守護神として祠を建て、永遠に祭祀することとなった。また、王は、照国別・照公の仁義・神徳に感じて、三五の大神を鎮祭することを誓った。一方、王は居間にいた千草姫とキューバーを詰問するが、その場は千草姫の弁解を信じ、キューバーは許されることとなった。キューバーは大足別が敗走したことにより、自分の立場を心配するが、千草姫=高姫は、逆にトルマン国の乗っ取り、ひいてはインドの全土の征服をもくろむ。千草姫は後からやってきた王子、王女、ハリスらも煙に巻いてしまい、キューバーを擁護する。
主な人物 舞台 口述日1925(大正14)年08月23日(旧07月4日) 口述場所丹後由良 秋田別荘 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年10月16日 愛善世界社版96頁 八幡書店版第12輯 425頁 修補版 校定版98頁 普及版50頁 初版 ページ備考
OBC rm7008
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本文  トルマン国の太子チウインは王女チンレイ、及びハリスの女将軍を別将となし、武勇のほまれ高きジヤンクを第一軍の司令官と仰ぎ、三五教の宣伝使照国別及照公司を殿となし、鉦皷をうちならし、旗差物賑々しく、二千五百騎を従へ、吾居城を攻囲む大足別の大軍を殲滅すべく軍歌を唄ひ乍ら、夜を日に次いで帰り来る。山河草木威風になびき、禽獣虫魚に至る迄、其威徳を讃美せざるはなかつた。チウイン太子は馬上豊に進軍歌を唄ふ。
『トルマン国は昔より  尊き神の造らしし
 地上に於ける天国ぞ  吾王室の祖先等は
 民の心を心とし  神の教を万民に
 伝へ諭して世の中を  いと平けく安らけく
 治め給ひし尊さよ  中つ御代よりバラモンの
 悪き教のまじろひて  愛国心は日に月に
 春の氷と消えてゆく  父ガーデンもいつしかに
 時代の風にもまれまし  ウラルの神の御教を
 軽んじ玉ふ世となりて  政治は益々紊れゆき
 民の悲鳴はかまびすく  千鳥の如く聞え来る
 アヽ吾々は如何にせむ  倦みつかれたる人心を
 雄々しき清き雄心に  復活せしめ吾国を
 いと平けく安らけく  昔の神代の其儘に
 ねぢ直さむと真心を  尽して神を祈る折
 バラモン教の別派なる  スコブツエン宗が渡り来て
 吾が国民の魂を  狂ひ惑はせ邪教をば
 植つけたるぞ忌々しけれ  大黒主の勢力を
 大看板と押立てて  吾王室に迫り来る
 心汚きキユーバーを  打ち懲しつつバラモンの
 大足別が軍勢を  神の威徳に打破り
 凱歌を挙げて本城を  安全無事に治む迄
 死す共動かぬ吾心  勇めよ勇め振ひ起て
 三千余騎の吾兵士  吾れには神の助けあり
 産土山の斎苑館  輝き給ふ素盞嗚の
 神の尊の御使  照国別の宣伝使
 照公司と諸共に  吾等が軍を助けまし
 天下無敵の言霊を  打出し給へば敵軍は
 風に木の葉の散る如く  敗走せむは目のあたり
 進めよ進めいざ進め  大足別の亡ぶ迄
 妖僧キユーバーの倒る迄』
と声も涼しく鉦皷法螺貝の音に和して、鶴翼の陣をはり乍ら、目も届かぬ大原野をチクリチクリと引網の如く、トルマン城を中心に押寄せ来る。
 照国別は殿を勤め乍ら、数百の兵を引連れ、別に一隊を造り、進軍歌を歌ひつつ進み寄る。
『三五教の宣伝使  吾は照国別司
 人の命を奪ひ合ふ  戦に臨むは本意ならず
 さはさり乍ら今になり  トルマン国の窮状を
 見すてて通るも大神の  道に仕ふる吾として
 心苦しき此場合  止むを得ざれば御軍に
 加はり乍ら後陣を  仕へまつりて進み行く
 あゝ惟神々々  神は吾等と共にあり
 吾等は神の子神の宮  素より刃に血汐ぬり
 敵を斃さむ心なし  只惟神々々
 神の恵の露の玉  清き心の大砲に
 つめ込み敵に相向ひ  仁慈の鞭を下すのみ
 進めよ進め吾兵士  トルマン城は近づきぬ
 ガーデン王や左守司  今や防ぐに全心を
 傾注しつつ吾軍の  至るを待たせ玉ふらむ
 チウイン太子の前軍は  何れも神命に従ひて
 左右の指の其如く  自由自在に活動し
 容易に敵を国外に  放逐せむは目のあたり
 必ず驚く事勿れ  勇めよ勇め皆勇め
 勝利の都は近づきぬ  進めよ進めいざ進め
 大足別が神軍に  白旗を掲げ真心の
 あらむ限りを現はして  正しき神の御教に
 心の底より服ひて  前非を悔ゆるそれ迄は
 汝等一歩も退くな  神国成就の先がけぞ
 七千余国の月の国  奪ひ取らむとバラモンの
 大黒主は企めども  吾神軍のある限り
 いかで一指をそめ得むや  あゝ勇ましし勇ましし
 吹き来る風はあらくとも  トルマン川は深くとも
 神の守りのある上は  一騎半騎も過たず
 無事安泰に敵軍の  後を首尾よく突くを得む
 進めよ進めいざ進め  敵の姿もみえかけた
 一斉射撃も目のあたり  あゝ惟神々々
 三五教を守ります  国治立の大御神
 神素盞嗚の大神の  御前に照国別司
 畏み畏み願まつる』
 かく歌ひ乍ら、士卒を励まし、前後に心を配り、チクリチクリと前進する。大足別は物見台より此体を見て大に驚き、
『あれは確に援軍ならむ、最早斯くなりし上は、キユーバー一人の為に時期をおくらせ、敵の術中に陥らむ事最も心苦し、一時も早く本城を乗り取り、援軍の来らば城廓を盾に一人も残らず鏖殺しくれむ、攻撃するは今なり』
と俄に部下に厳令を下し、一斉に筒先揃へて、トルマン城さして潮の如く押寄せた。
 俄に聞ゆる鬨の声、大砲小銃の音、待ち構へたるガーデン王、左守司は五百の城兵を指揮し、力限りに挑み戦ふ。左守は頭に霜を頂き乍ら、城門をかけ出し、三百の手兵を以て、敵の陣中に打入り、奪戦苦闘の結果武運つきて、馬上より転落し、敵の為に七十年を一期として、帰らぬ旅路に就いた。大足別は勝に乗じて表門に押寄せ、今や殆ど落城せむとする時しも、千草姫、キユーバーの二人は薙刀を引抱へ、表門に躍り出で、大足別を見るよりキユーバーは声を励まし、
『大足別、暫くまたれよ、キユーバー司茲に在り。千草姫の応援あらば急ぎ玉ふな、本城は已に吾手に入れり』
と馬上より大声叱咤すれば、大足別は身をかわし城門を背にして、攻め来る応援軍を相手に防ぎ戦ふ。城内よりはガーデン王の兵数百人、砲を揃へて一斉に射撃を開始し、大足別は前後左右に敵を受け、四方八方に馬をすて、武器をすて、命からがら散乱した。此戦に仍つて、死する者バラモン軍に十八人、城内には二人の死者を出したのみであつた。チウイン太子は敵の脆くも逃行く体を見て、此際敵兵を追撃し、一人も残らず屠りくれむと息まくを、照国別の忠告によつて之を中止し、凱歌を奏して正々堂々、トルマン城に凱旋することとなりぬ。ガーデン王は物見櫓に打登り、城内の強者を指揮してゐたが、敵の無残な敗走と、チウイン太子の雄々しき活動振に勇み立ち、軍扇を開いて櫓の上にて自ら歌ひ乍ら、凱旋の祝気分で舞ふてゐる。
王『トルマン国を包みたる  醜の黒雲今晴れて
 天津日嗣は空高く  輝き玉ふ目出度さよ
 地上遥に見わたせば  都のまはりに敵影の
 一人も無きぞ目出度けれ  之も全く皇神の
 御国を守り玉はむと  助け玉ひしものならむ
 いざ之よりは天地の  神を敬ひ国民の
 模範となりて浦安の  昔の神代を建設し
 大黒主の心胆を  脅かしつつ又しても
 吾神国に相対し  敵対行為を断念すべく
 守らせ玉へウラル教  開き玉ひし大神の
 御前に祈り奉る』
 斯くする折しも、大足別は道々市街に火を放ちたりと見え、夕暮の空、朱を濺ぐ迄、炎各所にあがり、遠近より悲惨の声聞え来る。此時恰も照国別は門内にありしが、之を見るよりまつしぐらに物見櫓にかけ上り、照公と共に天の数歌を奏上し、天津祝詞を奏上するや、四方に起りし火災は忽ち水を打ちし如く治まり、再び聞ゆる歓喜の声に、ガーデン王も太子も王女もハリスも手を打つて感喜した。王は部下に令を下し、左守右守の遺骸を王室の墓所に特別を以て葬り、国家の守護神として祠を建て、永遠に祭祀する事とした。又チウイン太子の奏上に依り、照国別、照公司の仁義の応援と、大神の神徳とを聞き、感謝の余り、三五の大神を鎮祭せむ事を誓ふに至つた。王は戦塵治まり、一先づ大神に感謝し乍ら、後の始末をチウイン太子及ジヤンク其他の重臣に命じおき、休養せむと千草姫の居間に帰り見れば、千草姫はキユーバーと共に、莞爾として相向ひ祝の盃をくみかはして居る。王は見るよりクワツと怒り、
『不義者見つけた、そこ動くな』
と手槍を以て立向へば千草姫は王の手に取付き、
『王様、少時お待ち下さいませ。此神柱は決して国に仇する悪人では御座いませぬ。大足別に脅迫され、心にあらぬ詐りを申し立て、此城内に忍び込み、妾に事情を打明し、救ひを求めて居る者で御座います。今此キユーバーをして、神主となし大神に国家安泰の祈願をし、凱旋の御礼を申上げ、直会の神酒を頂かせて居つた処で御座います。必ず必ず誤解のなき様御願ひ申し上げます』
と落涙し乍ら言葉さかしく弁解する。ガーデン王も忠実なる姫の言葉を疑ふに由なく、其儘差許す事となり、己が居間へと帰りゆく。高姫の霊と憑り変つた千草姫はキユーバーに向ひ、
『コレ、キユーバーさま、貴方は本当に危ない事で御座いましたよ。妾も王様のお出になつた時は何うなる事やらと、大変に心をもみました』
 キユーバーは慄ひ乍ら、
『全くだ、お前の為に大切な命が助かつたのだ。併し乍らどうだらう、大足別将軍は脆くも敗走した様子だし、遠からず私は当城を追出さるるに違ひない。さうなれば恋しいお前と添ふ事が出来ぬ。何とかして夜陰に乗じ、此城内を脱け出す心はないか』
千草『ホヽヽヽヽ、キユーバー様の気の弱い事、そんな御心配がいりませうか。王様は私の美貌にゾツコン惚込んでゐられますよ。貴方は何処までも救世主と名乗つて、神さまいぢりをしてゐて下さいませ。何程王様が御立腹遊ばさうが、重臣が何と申さうが、千草姫此世にあらむ限りは、貴方様に指一本さえさせませぬ。暫くは両人共猫をかぶり、時期の至るを待つて此王城を奪ひ、七千余国の覇者とならうでは御座いませぬか』
キユ『成る程、其奴ア面白からう。そんなら姫の仰せに任せ、此城内に永久に止まる事としよう』
千草『ハ、さうなさいませ』
 斯く話す時しもチウイン太子は軍功を誇り顔に、王女チンレイ及右守の娘ハリスと共にドアを開いて入来り、
『母上様、御無事で御目出たう御座います。おかげを以て敵軍を撃退致しました。どうかお喜び下さいませ』
千草『ヤ、其方は太子、天晴れお手柄お手柄。其方こそトルマン国の柱石、ガーデン王の嗣子として恥しからぬ偉丈夫だ。サア草臥ただらう、ゆつくり休んで下さい。其方はチンレイ、ハリス、能くマア女の身を以て凛々しい武者振、母も感じ入りました』
 太子は妖僧キユーバーを見て目を丸くし乍ら、
『母上様、此処にゐる坊主はスコブツエン宗の邪教を開き、大足別の軍勢を導いたる悪僧では御座いませぬか。かかる魔者を何故御居間に侍らせ、優待遊ばすのですか。チウイン、其意を得ませぬ』
千草『如何にも此方はキユーバー様に違ひない。併し乍ら、大足別が手先となり当城へ談判にお越になつたのも、止むを得ぬ事情あつての事、此母がとつくとキユーバー様の心底を調べ、大足別の秘密を探り、キユーバー様の応援によりて無事に敵を撃退する事を得たのだ。此母が保証するから、必ず必ず疑うてはなりませぬぞ。チンレイもハリスも必ず誤解しちやなりませぬ。母が証拠だから……』
ハリス『ハイ、畏れ入りまして御座います。太子様、王女様は申すに及ばず、妾の如き孱弱き女の身として戦陣に立ち、勝利を得たのも神様の御蔭、キユーバー様の御尽力の致すところで御座いませう。併し乍ら吾父右守は如何なりまして御座りまするか』
千草『右守殿は国家の為犠牲者となつて国替遊ばしたよ。キツト神様に導かれ、天国にお出になつてゐるだらう。必ず必ず心配致されな。千草姫が其女の身は引うけて世話を致すから……』
 ハリスは『ハイ』と言つたきり、父の死を聞いて驚愕し、其場に気絶して了つた。チウイン太子は水よ薬よと種々手を尽し、漸くにして息ふき返さしめ、吾居間をさしてチンレイと共に伴れ帰り行く。
(大正一四・八・二三 旧七・四 於丹後由良秋田別荘 松村真澄録)
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