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文献名1霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻
文献名2第2篇 千種蛮態よみ(新仮名遣い)せんしゅばんたい
文献名3第13章 喃悶題〔1780〕よみ(新仮名遣い)なんもんだい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-06-25 20:26:58
あらすじ千草姫は自分の部屋に、故・左守の妻モクレン、娘のテイラ、故・右守の娘ハリスを集め、ご馳走を振舞っている。千草姫は、3人に自分は今日から三千世界の救世主、底津岩根の大みろくの霊体、第一霊国の天人、日の出神の生宮であると宣言する。3人はあまりのことに顔を見合わせるが、千草姫は一人一人詰問をはじめる。3人とも、自分の主君である王妃の言葉とて、否みがたく、絶対服従を誓ってしまう。千草姫は、テイラにキューバーの捜索を命じ、ハリスには自分の邪魔をする太子を誘惑するように命じ、散会する。
主な人物 舞台 口述日1925(大正14)年08月24日(旧07月5日) 口述場所丹後由良 秋田別荘 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年10月16日 愛善世界社版162頁 八幡書店版第12輯 449頁 修補版 校定版165頁 普及版81頁 初版 ページ備考
OBC rm7013
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本文の文字数5547
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本文  千草姫は左守司の妻モクレン同じく娘テイラ姫、右守の娘ハリスを膝下近く呼び寄せ、薬籠中のものとなしおかむと、あらゆる歓待を尽してゐる。モクレン、テイラ、ハリスの三人は恐る恐る千草姫の御殿に卓を囲んで千草姫が心からの馳走を頂いてゐた。千草姫は一同に向ひ、
『これ、モクレンさま、其方は国家の為に一命を捨てた左守様の奥様だから、女とは云へトルマン国にとつては国家の柱石、誰よりも彼よりも大切にせなくてはならない方だから、今後も国家のため妾と共に十分の力を尽して下さいや』
モクレン『ハイ、有り難き姫様のお言葉では御座りまするが、お見かけ通り、最早老齢、何の用にも立ちませぬのでお恥しう御座ります』
千草『これこれそりや何を又、気の弱い事を云ふのだい。お前さまもトルマン国に於て第一人者たる左守司の未亡人ぢやないか。夫が討死された以上は、賢母良妻の実を挙げ、夫にまさる活動をせなくちや済みますまい。これから此千草姫が其方に対し、無限の神徳を与へるから力一杯千草姫の為活動して下さい。それが、つまり王様の為ともなり、又トルマン国一般のためともなるのだからなア』
モク『ハイ、有り難う御座ります。妾のやうな年をとつた老耄、何の用にも立ちますまいが、姫様の御用とあれば否む訳には行きませぬ。何なりと御用仰付け下さいますれば力のあらむ限り、屹度おつとめ致しませう』
千草『イヤ、満足々々、それでこそ左守の妻モクレン殿、この千草姫は今迄の千草とは聊か変つてゐますから、その考へでゐて下さいや。決して此千草姫は発狂はして居りませぬ。愈今日より三千世界の救世主、底津岩根の大みろくの霊体、第一霊国の天人、日の出神の生宮で御座るぞや。今日迄はトルマン国ガーデン王の王妃として内政に干与致して居つたが、最早左様な小さい事は出来ませぬ。天の根本の根本の大みろくの霊体として、此地上に現はれた以上は、七千余国の月の国は申すに及ばず、三千世界を立替立直し遊ばす日の出神の活動。其方も余程しつかりして下さらぬと、此世の大望、立替立直しがおそくなりますからな』
 千草姫の此意外の言にモクレンも、テイラも、ハリスも呆れはて、互に顔を見合せて舌を捲き、目を瞠つた。
千草『これ、ハリス、お前は今舌を捲いてゐたぢやないか。妾の云ふ事が、それほど可笑しいのか。なぜ真面目に神の申す事をお聞きなさらぬのだい』
ハリス『ハイ、誠に畏れ入りまして御座ります。王妃様と許り今の今迄存じましたのに、途方もない大きい大みろく様の御霊体とやら、心小さき吾々には真偽に迷ひ、茫然と致しました』
千草『オツホヽヽヽ、そらさうだろう。三千世界の救世主と、トルマン国の右守司の娘とを比較すれば、象と黴菌とよりまだ懸隔があるのだから、分らぬのも無理はない。然し乍ら此千草姫を何と思ひますか、よもや狂人とは思はないでせうな』
ハリ『勿体ない姫様を、どうして狂人と見られませう』
千草『そんなら、其方此肉宮を、どう考へるか』
と矢つぎ早やに問ひつめられ、
ハリ『ハイ、到底黴菌の分際として宇宙大の神様のこと、御神徳高き王妃様の御身の上が分つて堪りませうか。只有難し勿体なしと申すより外に言葉は御座りませぬ』
千草『なるほどなるほど、そら、さうだ。お前の云ふ通り、神の事は人間の分際で分りさうな事はないからな。この千草姫をみろくの太柱、日の出神の生宮と信じた以上は、何事でも絶対服従を誓ふでせうな』
ハリ『ハイ、絶対服従を誓ひます。生宮様のお言葉ならば、仮令山を逆様に登れと仰有つても登つて見せませう』
千草『ホヽヽヽ流石は右守の忘れ形見だけあつて偉いものだな。これから此生宮が三千世界の救世主と現はれるについて、其方を立派な三千世界に又とない結構なお方とし、万古末代名の残る御用を仰付ける程に……』
ハリ『ハイ、有難う御座ります。何分よろしくお願ひ申しまする』
千草『ウン、よしよし、大みろくの太柱、確に承知致したぞや。次には左守の娘テイラ殿は此生宮を何と心得て御座るか、御意見を承はり度いものだな』
テイラ『ハイ、妾は、どう致しましても、ガーデン王の王妃様とより思ふ事が出来ませぬ。日の出神とか底津岩根のみろくとか仰有りましたが、今日迄一度も承はつた事が御座りませぬので、心の中にて真偽の判別に迷うて居ります』
千草『人間の分際として畏れ多くも神に対し、真偽の判別に迷ふとは、何たる不遜の言葉ぞや。一寸先も分らぬ人間が三千世界を一目に見通す日の出神の生宮を審神致す等とは以ての外の悪行、左様な不心得な量見では、左守の娘とは云はせませぬぞや』
テイ『ハイ、畏れ入りました。あまり俄の事で吃驚致しまして、ツヒ粗相を申しました。どうぞ広き御心に見直し聞直しを願ひ上げまする』
千草『ウンさう柔順く事が分ればそれでよい。この生宮の正体が分らぬのが本当だ。何と云つても三千世界を救ふ為に、いろいろ雑多とヘグレてヘグレて来た此方、それぢやによつてヘグレのヘグレのヘグレ武者、ヘグレ神社の大神と、神界では申すのぢやぞえ』
テイ『ハイ、有難う御座ります』
千草『何が有難いのだ。妾の言葉が承知が行つたのか。只王妃様だから何事も御無理御尤も、ヘイヘイハイハイと、面従してさへ居ればいいと云ふやうなズルイ考へは駄目ですよ。人民の心のドン底まで見えすく生神だから』
テイ『左様で御座ります。妾は決して疑ひは致しませぬ。只神様の御心のまにまに御用に仕へ奉る丈けで御座ります』
千草『なるほど、流石は左守の忘れ形見だけあつて、よく物が分るわい。屹度此千草姫の肉宮に対して一言たりとも反きは致しますまいな。絶対服従を誓ふでせうな』
テイ『ハイ、何事も主人の申し付け、絶対服従を致しませう』
千草『これこれそれや何を云ふのぢやいな。この生宮を人間としての御挨拶は痛み入る。主人の命令等とは怪しからぬ、生宮様の御命令だと何故申さないのか』
テイ『ハイ、粗相申しました。生宮様の御命令ならば、如何なる御用でも厭ひませぬ。仮令火の中、水の底でも、喜んで御用を承はりませう』
千草『ホヽヽヽヤレヤレ嬉しや嬉しや、日の出神の生宮満足致したぞや。命令とあれば山を逆様に歩くハリス姫、火の中、水の底へでも喜んで飛込むと云ふテイラ殿、これ丈けの決死隊が出来た上は、此日の出神の生宮も大磐石。それに就いてはモクレン殿は如何の御量見か、キツパリ、それが承はり度い』
モク『仰せ迄もなく絶対服従を誓ひます』
千草『絶対服従では、余り答弁がボツとしてゐるぢやないか。火の中を潜るとか水の底を潜るとか山を逆様に登るとか何とか的確な返答がありさうなものぢやなア』
モク『ハイ、左様ならば、妾は御命令とあらば神の贄となつて暖かい血潮を奉りませう』
千草『ウン、よしよし、其方こそ秀逸だ。流石は左守司の未亡人、千草姫、否々日の出神の生宮、感じ入りましたぞや。サア早速、かう話が纏まれば、今この生宮がテイラ、ハリスの両人に御用を申付ける』
 テイラ、ハリス両人は一度に『ハツ』と頭を下げ、
『如何なる御命令なりとも謹んで御受け仕ります』
千草『ホヽヽ流石は賢女だ。然らば早速御用を申し付ける。其方も聞いてゐる通り、スコブツエン宗の名僧キユーバー殿の行衛を、テイラ殿は探して来て下さい』
テイ『何れへ参りましたら宜しう御座りますか。どうか神様、お指図を下さりませ』
千草『探しに行くやうなものに、方角が分る道理があらうか。どちらに行けばよいか分らぬから、捜索に出ようと申すのだ』
テイ『ハイ、畏まりました。然らば、これから直様、御所在を尋ねて参りませう。どうか王様にも太子様にも、宜しく御承諾を願つて下さいませよ』
千草『これ、テイラ、何と云ふ分らぬ事を申すのだえ。王様は僅かなトルマン国の主権者、三十万人の父上ぢやぞえ。太子は又、その後継、今は何の権威もない部屋住ぢやぞや。五十六億七千万人の霊を救ふ三千世界の生宮の言葉を何と心得なさる』
テイ『ハイ、畏れ入りました』
と此場を匆々に立ち、
『皆様、左様ならば』
と挨拶を残し出て行かむとする。母モクレンは、
『これテイラ姫、生宮様の御命令とは云ひ乍ら、其方も矢張ガーデン王に仕へ奉る左守の娘なれば、一応王様に御挨拶申し上げた上、キユーバー殿の捜索においでなさるがよからう。母として一言、注意致しますぞや』
千草『これこれモクレン、何と云ふ分らぬ事を申すのだい。テイラは此生宮の申す事を絶対服従致すと云つたではないか』
モク『ハイ、誠に済まない事を申しました。テイラ、早く、サア、おいでなさい』
と云ひ乍ら、「王様に一応申し上げよ」と、口には出さねど目を以て之を伝へた。
 テイラは母モクレンの心を汲みとり、さあらぬ態にて、
『左様ならば愈捜索に参ります。生宮様、御安心下さいませ』
と早くも此場を立去つた。
千草『オツホヽヽヽ、ヤア、流石は偉いテイラ殿。これモクレン、お喜びなさい。底津岩根の大みろくの太柱、日の出神の御用を第一番に致したのは、其方の娘テイラで御座るぞや。サア早く神様にお礼を申しや』
 モクレンは仕方なしに両掌を合せ、天に向つて暗祈黙祷してゐる。
千草『コレコレ、あまり訳が分らなさすぎるぢやないか。モクレン其方は、どこを拝んで居るのぢや。空虚なる大空を拝んで何になる。天にまします大みろくの神は今や地上に降臨し、此処に御座るぢやないか。神を拝めと申すのは此生宮を拝めと云ふのだよ。ても扨も、訳の分らぬ代物だなア』
 モクレンは心の中にて、「エーこの狂人女郎、何を吐しやがる。馬鹿らしい」とは思へども、そこが主従の悲しさ、色にも出さず、
『ハイ、左様で御座りましたか。何分愚鈍の妾、現在目の前に結構な神様が御出現遊ばして御座るのに気がつかないとは、何と云ふ馬鹿だらうかと、吾乍ら呆れはてて御座ります。然らば御免下さいませ、生宮様』
と三拝九拝、拍手した。
 千草姫は益々得意になり、ツンとあげ面をさらし乍ら、
『ヤア、善哉々々。其方こそ此生宮を神として認めた第一人者ぢや、必ず必ず信仰をかへてはなりませぬぞや。サア、かうきまつた上はモクレン殿は暇を遣はす。随意に吾家にかへり休息なされ。これからハリスに向つて折入つて特別の御用がある、吾居間においでなさい。結構な結構な三千世界に又とない弥勒成就の御用を仰付けますぞや』
ハリ『ハイ、仰せに従ひ参ります』
と千草姫の居間に伴はれ行く。千草姫はドアの戸を堅く締め四方の窓を閉ぢ、声をひそめて、
『これ、ハリス殿、この生宮が特別の大々々の秘密の御用を仰付けるからお聞きなさい』
ハリ『ハイ、謹んで承はりませう。如何なる御用なりとも身に叶ふ事ならば』
千草『ヤア、ハリス殿外でもない。其方はトルマン国きつての美貌と聞く、その美貌を楯として、太子チウインの心を奪ひ、彼を恋の淵に陥れくれるならば、其方をチウイン太子の妃となし、このトルマン城の花と致すであらう。どうだ嬉しいか、よもや不足はあるまいがな』
ハリ『何事かと存じますれば御勿体ない。左様な御命令、どうして臣下の身を以て、畏れ多くも太子様に、左様に大それた事が女の身として申されませう。第一身分に懸隔が御座りまする。又妾は右守司の一人娘、右守家を継がねばなりませぬ。どうぞこれ許りは偏に御容赦を願ひ奉りまする』
千草『これこれハリス、そんな遠慮はチツとも要らぬ。右守家の血統は天にも地にもお前只一人、成程後を継がねばならうまい。それなれば尚更、其方にとつては、打つてすげたやうな話ではないか。チウインをうまく恋に引入れたならば、其方の夫につかはす程に。何と嬉しからうがな』
ハリ『畏れ多くもトルマン国の継承者たる太子様を右守の家に下さるとは、天地顛倒も同様、ガーデン王様が決して許しは致されますまい。又太子様とて顕要の地位を捨て、臣下の家に養子におなり遊ばすやうな道理は御座りませぬ。仮令右守家は妾一代にて血統がきれませうとも、王家には替へられませぬ。この儀許りは平に御容赦を願ひ奉りまする』
千草『これこれハリス殿、其方は此生宮の命令ならば、山でも逆様に登ると云つたぢやないか。その舌の根の乾かぬ中、掌かへしたやうな其方の変心、千草姫の生宮、左様な事で承知は致さぬぞや』
ハリ『ハイ、是非は御座りませぬ。万々一妾の力によつて太子様を恋に陥し奉つた上は、王家の御世継は、どうなさいますか。それが妾は心配でなりませぬ』
千草『ホヽヽヽ、成程一応尤もだ尤もだ。人間心としては、実に申分のないお前の真心、感じ入りました。然し乍ら三千世界を自由に致す底津岩根の大みろくの太柱、現はれた以上は霊の親子たるものを御世継に致す考へだ。左様な事に心配はチツとも要らない。其方の霊はチウイン太子と夫婦の霊だによつて、日の出神の生宮が神界に於て調べて調べて調べ上げた上、かう申してゐるのだから、力一杯活動して下さい。屹度成功疑ひなしぢやぞえ』
 ハリスは太子と共に大軍を率ゐ、敵軍を駆け悩ましたる女武者である。さうして太子の容色や胆力には心の底から感服してゐた。然し乍ら夫に持たう、妻にならう等との野心はチツトも持つてゐないのであるが、千草姫の言葉に否みかね、一先づ此の場を逃れむものと、心にもなき言辞を弄し、暫時千草姫の意を迎へ、嬉しさうな顔をして見せたのである。千草姫は満足の態にて、
千草『ヤア、ハリス殿、あつぱれ あつぱれ、必ず成功祈るぞや。これさへ承諾した上は、最早今日は之で御用済みだ。これから家へ帰り、あらむ限りの盛装をなし、紅、白粉、油を惜しまず、抜目なく立働く準備をなさい』
 ハリスは『ハイ、有難う』と丁寧に挨拶をなし此場を匆々立ちて行く。
(大正一四・八・二四 旧七・五 於由良海岸秋田別荘 北村隆光録)
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