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文献名1霊界物語 第71巻 山河草木 戌の巻
文献名2第3篇 惨嫁僧目よみ(新仮名遣い)さんかそうもく
文献名3第20章 困客〔1809〕よみ(新仮名遣い)こんきゃく
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2019-05-11 01:35:17
あらすじ月の国々を宣伝に回っている照国別、照公、梅公別の三人は、宣伝歌を歌いながら入江村の近くまでやってきていた3人はスガの里への道程として、入江村に逗留しようとしていた。そこへ、草むらの中から人の唸り声が聞こえてくる。梅公別は倒れている坊主を見つけ、天の数歌を奏上すると、坊主は息を吹き返した。梅公別がふと見れば、それはオーラ山で自分が言向け和した、玄真坊であった。玄真坊はここまできてようやく改心し、一行の共に加えてくれと梅公別に頼み込む。一行は入江村の浜屋旅館に宿を取る。まず、梅公別が高姫に気づき、玄真坊は高姫に黄金を奪い取られたことを一同に話す。一方、高姫も照国別一行に気づく。宣伝使たちを恐れた妖幻坊の杢助と高姫は、旅館を抜け出すと夜陰にまぎれ、舟を盗んでハルの海をスガの里に向けて漕ぎ出し、逃げてしまった。翌朝、照国別一行も船をあつらえ、スガの港を指して出立した。
主な人物 舞台 口述日1926(大正15)年02月01日(旧12月19日) 口述場所月光閣 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1929(昭和4)年2月1日 愛善世界社版271頁 八幡書店版第12輯 599頁 修補版 校定版282頁 普及版133頁 初版 ページ備考
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本文 『瑞魂の大神が  勅命を畏みフサの国
 ウブスナ山の霊場ゆ  月の神国に蟠まる
 大黒主の悪身魂  言向和し天国の
 神園に救ひ助けむと  照国別の宣伝使
 一行四人は河鹿山  烈しき風に吹かれつつ
 祠の森や山口や  怪しの森を乗り越えて
 彼方此方と駆けめぐり  神の誠の御教を
 国人達に宣り伝へ  病めるを癒し貧しきを
 救ひ助けて今此所に  百の神業仕へつつ
 トルマン国の危難をば  救ひて此所迄来りけり
 あゝ惟神々々  神の身魂の幸ひて
 吾等が使命を詳細に  遂げさせ玉へと願ぎ奉る
 大日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くる共
 仮令大地は沈むとも  曲津の神は猛ぶとも
 誠の神の御力  吾身に浴びし其上は
 如何なる曲も恐れむや  進めや進めいざ進め
 吾等は神の子神の宮  虎狼や獅子熊や
 鬼や大蛇の曲神が  如何程猛り狂ふとも
 何か恐れむ敷島の  大和男子の宣伝使
 勝利の都に至る迄  いつかな怯ぬ雄心の
 大和心を振り起し  進みて行かむ大野原
 地獄は忽ち天国と  吾言霊に宣り直し
 上は王侯貴人より  下旃陀羅に至るまで
 神の救ひの手を伸べて  一蓮托生救ひ上げ
 瑞の霊の神力を  現はしまつる吾使命
 遂げさせ玉へ惟神  皇大神の御前に
 畏み畏み願ぎ奉る  三千世界の梅の花
 一度に開く神の国  開いて散りて実を結ぶ
 日の大神や月の神  大地を守らす荒金の
 司とゐます瑞魂  神素盞嗚の大神の
 深き恵は忘れまじ  尊き勲功は忘れまじ
 進めよ進めいざ進め  悪魔の砦に立向ひ
 摂受の剣を抜き持ちて  言向和すは案の内
 アヽ勇ましや勇ましや  神の使命を身に受けし
 名さへ尊き宣伝使  到る所に敵はなし
 バラモン教やウラル教  如何程刃向ひ来るとも
 皇大神の賜ひてし  厳言霊の光にて
 暗夜を照らし神徳を  月の御国に輝かし
 照らさにやおかぬ吾使命  守らせ玉へと願ぎ奉る
 アヽ惟神々々  霊幸ひましませよ』
 斯く歌ひ乍ら入江の村近き田圃道まで、やつて来たのは照国別、照公、梅公別の三人であつた。
照公『モシ、先生、モウ日も暮れ近くなりましたが今晩は入江の村で宿をとり、緩り休息を致しまして、明日は船でスガの港へ行かうぢやありませぬか』
照国別『成程、大分に疲れたやうだ、先づ此所で一服しよう。モウあの村へは遠くはあるまいから』
梅公別『先生、今晩は是非入江村で泊りませう。浜屋と云ふ景色よい宿屋が御座いますから是非そこへ泊つて、明日スガの港に着く事に致しませう。スガの港にはアリスと云ふ薬屋の長者がありまして、その息子には、イルク、娘にはダリヤ姫と云ふ熱心な三五教の信者が居ります。キツト待つて居るに違ひありませぬから』
照国『さうだ、梅公別さまは一度お泊りになつた事があるさうだから、心安くてよからう』

照『四方八方の景色を遠く見渡せば
  コバルト色に遠山かすめり』

照国『薄墨にぼかしたやうな山影は
  スガの里なる高山ならむ』

梅『夏草の生ひ茂りたる広野原
  進み行く身の楽しくもある哉。

 今日の日も早や暮れむとす草枕
  旅の疲れを宿に癒さむ』

 三人が休んでゐる後の草の中から何だか、ウンウンと呻り声が聞えて来る。梅公別は耳敏くも之を聞き、ツカツカと叢の中の呻き声を尋ねて近づき見れば、醜い賤しい面をした坊主が一人半死半生の態で倒れて居る。梅公別は直様天の数歌を奏上するや、倒れ人はムクムクと起き上り、
『何方か知りませぬが、よくまア助けて下さいました。拙僧はバラモン教の修験者で天真坊と申します』
 梅公別は、どこか見覚えのある顔だなア……とよくよく念入りに調べて見ると、オーラ山に立籠つて大望を企んでゐた妖僧の玄真坊なる事を知り、
『やアお前は玄真坊ぢやないか、オーラ山で改心をすると云ひ乍ら、再び悪に復つて三百の手下を引率れ、各地に押入強盗をやつて居ると云ふ噂であつたが、天罰は恐ろしいものだ。何人に、お前は虐げられて、こんな所へ倒れて居たのだ。察する処持前のデレ根性を起し、女に一物を締つけられ、息の根の止まつたのを幸ひ、かやうな淋しき原野に遺棄されたのだらう、扨も扨も憐れな代物だな』
玄『これはこれは恐れ入りました。私はお察しの通り、女に睾丸を締めつけられ、三万両の金をぼつたくられ、かやうな所へ、ほかされたもので御座います。只今限り悪事は止めまする。さうして女等には、キツト今後目をくれませぬから、何卒私をお荷物持にでも構ひませぬ、お伴に連れて行つて下さいませぬか』
梅『やア、俺にはお師匠様がある。俺一人の一量見では如何する事も出来ぬ。先づお師匠様の御意見を聞いた上の事にしよう』
 照国別は最前から二人の問答を聞き終り様子を知つて居るので、梅公別の言葉も待たず、
『ヤ、玄真坊とやら、最早や日の暮にも近いから、緩りと宿屋にでも行つて話を承はらう。之から吾々は入江村の浜屋旅館に一泊するつもりだ。お前も一緒に行かうぢやないか』
玄『へ、何と仰有います、浜屋旅館にお泊りで御座いますか。あの家はお客があまり沢山で、どさくつてゐますから、少し景色は悪う御座いますが、玉屋と云ふ立派な宿屋がありますから、其処へお泊りになつては如何で御座いませう。私もお伴をさせて頂きますから』
梅『ヤ、一旦浜屋旅館と相談が定つた上は是非とも浜屋へ行かう。吾々の精霊は已に浜屋に納まつて居るのだから』
玄『そら、さうで御座いませうが、ならう事なら待遇も良し、夜具も上等なり、家も新しう御座いますから、玉屋になさつたら如何で御座いませうかな』
梅『ハヽヽヽヽ、此男は十日許り浜屋旅館に泊つてゐたのだらう。越後獅子に小ぴどくこみ割られ、捕手にフン込まれた鬼門の場所だから、浜屋は厭だらう。ヤ、それは無理もない。然し吾々がついてゐる以上は大丈夫だ。ソツと後から跟いて来い。お前の身柄は引受けてやるから、その代り今迄のやうな心では一日だつて安心に世を暮す事は出来ぬぞ。心の底から悔い改めるか、どうぢや』
玄『ハイ、生れ赤子になつてお仕へ致します。何卒お助け下さいませ』
梅『ウン、ヨシ、先生、今斯様に申してゐますが、然し乍ら此奴の悪事は芝を被らねば直らない奴で御座いますが、私も何とかして、改心をさして遣り度う御座いますから、お伴をさせて下さいませ。梅公別が無調法のないやうに引き受けますから』
照国『兎も角、二三日間連れて見よう。如何してもいかなけりや、突放す迄の事だ。さア日も暮れかかつた、急いで行かう』
と又もや声も涼しく宣伝歌を歌ひ乍ら入江村の浜屋をさして進み行く。
 浜屋の表口にさしかかると客引の女が、二三人門口に立つて、
女『もしお客さま、どちらにお出で御座います。明日の船の都合も宜しう御座いますから此方にお泊り下さいませ。十分丁寧に、待遇も致しますから。さうして、加減のいい潮湯も沸いてゐますから、何卒当家でお泊りを願ひます』
梅『ヤ、お前がさう云はなくても、此方の方からお世話になりたいと思つて来たのだ。一行四人だ、よい居間があるかな』
女『ハイ、裏に離棟が御座いまして、そのお座敷からはハルの海の鏡が居乍らに見えまする。何なら二三日御逗留下さいますれば、真帆片帆の行き交ふ景色は、まるで胡蝶が春の野辺に飛び交ふやうで御座います』
梅『もし先生、さアお這入り下さい』
照国『そんなら御免蒙らうか』
と先に立つて縄暖簾をくぐる。玄真坊はビクビク慄ひ乍ら、照国別の後になり小さくなつて跟いて行く。次に照公、梅公別は亭主や下女に愛嬌を振り撒き乍ら、奥の離棟に進み行く。
 先づ入浴を済ませ夕食を終り、四人は浴衣がけになつて、団扇片手に罪のない話に耽つて居ると、表の二階の間に、なまめかしい声が聞えて来る。梅公別は不思議さうに首を傾け聞いてゐる。
照『これ梅公別さま、何思案をして居るのだい。ありや何処の女が客とふざけて居るのだい』
梅『いや、どうも合点の行かぬ声だ。千草の高姫ぢやあるまいかな』
照『ヘン、馬鹿を云ふない、千草の高姫が、こんな所へ泊るものか。彼奴は屹度何処かの王城へ忍び入り、又もや刹帝利の后に化け込んでゐやがるだらう』
梅『ヤ、どうも怪しいぞ。一つ照公、お前調べて見てくれぬか』
 玄真坊は小さい声で、
玄『モシお三人さま、あの声は千草の高姫に間違ひ御座いませぬ。私の睾丸を締めつけ、三万両の金をぼつたくつた大悪人で御座います。何卒彼奴をとつちめ、三万両を取り返して下さい。さうすりや一万両宛、お前さま等に進上致しまする』
梅『馬鹿を云ふな、吾々は金なんか必要はない。況して左守の館でぼつたくつた金ぢやないか』
玄『ハイ、お察しの通りで御座います』
梅『どうやら千草の高姫の相客は人間ぢやないらしいぞ。先生、之から私が正体を見届けて来ます。何卒暫く此処に待つて居て下さいや』
照国『人さまの居間へ飛び込んで調べると云ふ失礼な事はないぢやないか、そんな事せずとも自然に分つて来るよ』
 斯く話す時しも二階の障子をサツと開けて離れ座敷を覗いたのは千草の高姫であつた、梅公の顔と高姫の顔はピツタリと合つた。千草の高姫は梅公の顔をパツと見るより、恋しいやら怖ろしいやら、顔を真蒼にしてピリピリと慄ふた。妖幻坊の杢助は高姫の様子の只ならぬに不審を起し、
『オイ、高チヤン、お前は様子が変ぢやないか、何をオヂオヂして居るのだ』
千『杢助さま、あれ御覧なさいませ、三五教の照国別、照公、梅公別の三宣伝使が離棟の居間に泊つて居ます。そして玄真坊が横にゐますのを見れば、三万両の金を取り返す為に、息をふきかへして来たものと思はれます』
杢『やアそりや大変だ、三五教の奴と聞けば俺もチツト虫が好かない、何とかしてお前と二人、此所を逃げ出さうぢやないか』
千『杢助さま、貴方も気の弱い事を仰有いますな、斎苑の館で彼奴等を家来扱をして居つたぢやありませぬか。一つ貴方の大きな声で、呶鳴つて下されば照国別等と云ふへぼ宣伝使は、一たまりもなく逃げ出すぢやありませぬか』
杢『ウン、それもさうだが、今荒立てては事が面倒になる。俺にも一つの考へがあるからのう』
千『智謀絶倫と聞えた貴方の事ですから、滅多に如才はありますまい。それで何も彼も貴方にお任せ致して置きます』
杢『ウン、今夜の処置は俺に任しておけ。俺に計略があるから、さア千草の高姫、此方へおじや』
と云ひ乍ら二階の段梯子をトントントンと下り、表へ出て番頭に小判を一枚握らせ、
杢『一寸月を賞して半時ばかり経てば帰つて来るから、表戸開けて置いてくれよ』
と、巧く誤魔化し高姫と共に浜辺に駆け出し、一艘の舟を盗んで一生懸命にハルの湖の波を分けてスガの港へ向け漕いで行く。
 照国別の一行は一夜を此所に明かし、あくる日の朝早くより一艘の船を誂へ、之亦スガの港をさして進み行く事となつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。
(大正一五・二・一 旧一四・一二・一九 於月光閣 北村隆光録)
(昭和一〇・六・二四 王仁校正)
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