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文献名1霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
文献名2第3篇 秘露より巴留へよみ(新仮名遣い)ひるよりはるへ
文献名3第18章 巴留の関守〔368〕よみ(新仮名遣い)はるのせきもり
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-06-04 17:35:10
あらすじ淤縢山津見は谷底に落ち込んで重傷を負った荒熊を助け出し、鎮魂を施すと、荒熊の負傷はたちまち癒えて元の体に回復した。荒熊は淤縢山津見の前に両手をつき、命を助けてくれた恩を涙ながらに感謝し、これまでの無礼を謝した。蚊々虎は自分の威力で荒熊が谷底へ落ちたと得意になってまたおかしな説教を荒熊に垂れている。淤縢山津見がそれをたしなめた。荒熊は淤縢山津見が醜国別であると認めた。荒熊はかつての醜国別の部下・高彦の後身であった。高彦は、醜国別が帰幽して以来、讒言によって常世神王の元を追い出されて流人となっていたという。巴留の国は今、鷹取別が厳しく支配し、他国者を寄せ付けないという。鷹取別は、大自在天の部下で、かつては高彦や蚊々虎の同僚であった。荒熊は、自分が高彦であると鷹取別に正体を知られると、また迫害を受ける、と心配している。蚊々虎は、鷹取別なんか恐くない、吹き飛ばしてやる、俺が貴様を巴留の国の王にするのだ、とまた法螺を吹いて息巻いている。淤縢山津見がそれをたしなめる。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月08日(旧01月12日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年6月15日 愛善世界社版119頁 八幡書店版第2輯 193頁 修補版 校定版121頁 普及版52頁 初版 ページ備考
OBC rm0818
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本文  激潭飛沫囂々と音騒がしき千仭の谷間に、身を躍らして飛び入り、重傷に悩む荒熊を助け起して吾背に負ひ、漸く此処に駆上つて来た淤縢山津見は、荒熊を大地に下して神言を奏上し鎮魂を施し、頭部の傷所に向つて息を吹きかけたるに、不思議や荒熊の負傷は拭ふが如く癒え、苦痛も全く止まりて元の身体に復したり。荒熊は大地に両手をつき高恩を涙と共に感謝し、且つ無礼を陳謝したりける。
『オイ荒さま、ドツコイ黒坊の熊さま、三五教の御神徳とはコンナものだい。耳の穴を浚つてとつくりと聞かう。エヘン、蚊々虎様の』
と云ひつつ指の先で鼻を押さへながら、
『この大きな鼻の穴からフンと伊吹をやつたが最後、貴様は蠑螈が泥に酔つたやうに大きな口を開けよつて、アヽアーと虚空を掴んで仰向けに顛覆返つたが最後、この深い深い谷底へスツテンドウと顛覆返つて頭を打ち割つて、「アイタツタツタ、コイタツタツタ、アーア今日は如何なる悪日かと、処もあらうにコンナ深い深い谷底へ取つて放られ、此処で死ぬのか、後で女房は嘸やさぞ、悔むであらう。死ぬるこの身は厭はねど、昨日に変る今日の空、定め無き世と云ひながら、さてもさてもあまりだわ、不運が重なれば重なるものか、と云つて女房が泣くであらう」などと下らぬ事を、河鹿のやうに、谷水に漬つて吐きよつた其処へ、天道は人を殺さず、三五教の俺らの先生様の醜国別オツトドツコイ淤縢山津見様が悠然として現はれたまひ、摂取不捨、大慈大悲の大御心をもつてお助け遊ばしたのだよ。何と有難いか、勿体ないか、エーン改心を致せ、慢心は大怪我の基だぞよ。慢心するとその通り、谷底に落ちて酷い目に遇つてアフンと致さねばならぬぞよと、三五教の神様は仰有るのだ。その実地正真を此方がして見せてやつたのだぞ。改心ほど結構なものは無いぞよ。エヘン』
『コラ、コラ蚊々虎、黙らぬか。何といふ法螺を吹く、神様の教を聞きかじりよつて、仕方のない奴だ。黙つて俺の云ふ事を聴いて居れ』
『ヘン、大勢のところで耻を掻かさいでも、ちつとは俺に花を持たして呉れてもよささうなものだなあ』
と小声にて呟く。荒熊は宣伝使の顔をじつと見上げ、
『ヨウヨウ、貴下は醜国別様では無かつたか』
『ヤヽさういふお前は高彦ではなかつたか。これはこれは妙な処で遇うたものだ。一体お前はコンナ処へどうして来たのだ。常世会議の時には随分偉い元気で弥次りよつたが、かうなつた訳を聞かして呉れないか』
『ハイ、ハイ、委細包まず申上げますが、併しながら、貴下は大自在天様の宰相醜国別様、一旦幽界とやら遠い国へお出になつたと云ふ事だのに、どうしてまあ此処へお越しになつたのか、ユヽ幽霊ぢや無からうかナア』
『幽霊でも何でもない』
 実は斯様々々でと、有し来歴を詳細に物語り、高彦の経歴談を熱心に聴き入りぬ。高彦は両眼に涙を湛へながら、
『私は貴下が宰相として大自在天にお仕へ遊ばした頃は、貴下のお加護で相当な立派な役を与へられ、肩で風を切つて歩いたものでございますが、貴下の御帰幽後は鷹取別の天下となり、悪者のために讒言されて常世神王様の勘気を蒙り、常世国を叩き払ひにされて妻子眷属は離散し、私は何処へ取つく島もなく、寄る辺渚の捨小舟、漸く巴留の国に押し流され、夜に紛れてこの国に上り、労働者となつて働人の仲間に紛れ込み、些し力のあるを幸に今は僅に五人頭となつて、この巴留の国の関守となり、面白からぬ月日を送つて居ります。この巴留の国には常世神王の勢力侮り難く今また伊弉冊命様が何処からかお出になつて、ロッキー山にお鎮まりなされ、常世神王の勢力ますます旺盛となり、この巴留の国は鷹取別の御領地で、それはそれは大変厳しい制度を布かれ、他国の者は一人もこの国へ這入れない事になつて居ます。万一これから先へ貴下がお越しなさるやうな事があれば、私は関守としての役が勤まらず、鷹取別の面前に引き出され、裁きを受けねばなりませぬ。その時私の顔を見知つてゐる鷹取別はヤア貴様は高彦ではないか、と睨まれやうものなら、又もやこの国を叩き払ひにされて辛い目に遇はねばならぬ。折角命を助けて貰つて、その御恩も返さず、これから元へ帰つて下さいと申上げるは恩を仇にかへす道理、ぢやと申して行つて貰へば今申す通りの破目に遇はねばならず、貴下がお出になるならば、この関守の荒熊の首を刎ねて行つて下さい』
と滝の如き涙を垂らして大地に泣き伏しける。蚊々虎は笑ひ出し、
『ウワハヽ弱い奴ぢや。何だい、高の知れた鷹取別、彼奴がそれほど恐ろしいのか。俺の鼻息で貴様を吹き飛ばしたやうに、鷹取別もまた吹き飛ばしてやるワイ。エヽ心配するな、蚊々虎に従いて来い、俺が貴様を巴留の国の王様に為てやるのだ。面白い面白い』
『オイ蚊々虎、貴様は口が過ぎる。この国の守護神が、其辺一面に聞いてをるぞ』
 折から吹き来る夏の風、この場の囁きを乗せて巴留の都へ送り行く。
(大正一一・二・八 旧一・一二 加藤明子録)
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