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文献名1霊界物語 第41巻 舎身活躍 辰の巻
文献名2第2篇 神機赫灼よみ(新仮名遣い)しんきかくしゃく
文献名3第12章 都入り〔1116〕よみ(新仮名遣い)みやこいり
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-12-13 12:06:59
あらすじ黄金姫母娘が峠を登りきると、右守の家老ユーフテスが、従者を連れて待っていた。ユーフテスはお告げにより、黄金姫母娘が来ることを知っていたのである。ユーフテスはイルナの国の危機を救ってほしいと母娘に頼んだ。一行が話していると、下から騎馬隊が登ってきた。騎馬隊はシャールの手の者で、ヤスダラ姫を追ってきたのであった。ユーフテスは空とぼけて耳が聞こえないふりをした。騎馬隊はヤスダラ姫一行を捜索していた。黄金姫と清照姫は、ヤスダラ姫らしき一行がイルナの都を指して峠を下って行ったと騎馬隊に空とぼけた。騎馬隊をやり過ごし、黄金姫はヤスダラ姫は狼の岩窟に安全にかくまわれているとユーフテスに明かした。ユーフテスは、黄金姫母娘に狼の守護がついていると聞いてすっかりおびえてしまった。黄金姫が自分たちは狼女母娘だとユーフテスをからかい、真に受けたユーフテスは短刀で母娘に切りかかったが、狼の声を聞いて恐ろしさにその場に倒れてしまった。黄金姫に介抱されて元気を取り戻したユーフテスは、初めて黄金姫の心を悟り、頭を下げ両手を合わせてその親切を感謝し、二人の後に従って峠を下った。ユーフテスは下りながら宣伝歌を歌った。自分は右守の家老と仕えながら、左守の娘セーリス姫への恋のために、主人の右守の企みに加担せず、王と左守一族を助けようと動いていることを歌った。峠を下ると、先の右守の手先の騎士たちが弓をつがえて一行を待ち伏せていた。黄金姫は宣伝歌を歌いながら近くに進んだ。狼の声が聞こえると騎士たちの体は強直してしまった。そこへ、テームス、レーブ、カルの三人は馬に乗ってやってきた。三人は副え馬を引いており、黄金姫と清照姫は馬に乗ってイルナの都に入場した。ユーフテスは黄金姫に策を授けられ、強直した騎士たちを鎮魂して元に戻し、自分が右守の従臣であることを幸い、騎士たちと右守の館を目指した。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年11月11日(旧09月23日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年6月15日 愛善世界社版168頁 八幡書店版第7輯 591頁 修補版 校定版176頁 普及版79頁 初版 ページ備考
OBC rm4112
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本文  黄金姫、清照姫は、三人の一行を高照山に遣はし、肩の重荷を卸すやうな心持になつて、さしもに嶮しき急坂をエチエチと登り行く。漸くにして頂上に辿りついた。此処にはユーフテスと云ふ右守司の家老を勤めて居る不誠忠無比の男が、二三人の家の子を引きつれ、神の告によつて黄金姫母娘の来ることを知り、案内と迎へを兼ねて登つて来た。ユーフテスは、二人の峠の頂上に佇み、四方の景色を眺め息をやすめて居るその側に、恭しく頭を下げながら進み寄り、
『一寸ものをお尋ね申しますが、私はイルナの都の右守司の館に家老職を勤めて居りますユーフテスと申すもので厶いますが、若しや貴女様は三五教の宣伝使黄金姫様、清照姫様の御一行では御座いませぬか。イルナの都はバラモン教の教をもつて民を治むる国で御座いますれば、三五教の貴女様をお迎へ申すと申上げては、怪しく思召さるるで御座いませうが、決して汚き心で、お迎へに参つたのでは御座いませぬ。何卒お名乗り下さいませぬか』
黄金『ホー、其方はイルナの国の右守司の館に仕ふるユーフテス殿か、それは御苦労。お察しの通り、私は黄金姫、清照姫の母娘で御座います。王様の御身辺は、どうで御座いますかな』
『ハイ、有難う、唯今の処では先づ御無事で御座いますが、何時大風一過、有名なるイルナ城も破壊するかも分らない危機に瀕して居ります。実にイルナの都は暗雲低迷、豪雨臻らむとして、先づ其窓を鎖すべき真人が御座いませぬので、王様は申すも更なり、忠義にはやる真人等は夜も碌々に寝られず、心を痛めて居ります。右守司の放つた探偵は縦横無尽に横行闊歩し、大きな声で物も碌に云へないと云ふ有様で御座います。何卒御推量下さいまして、貴女の神力によつてイルナの国の危難をお救ひ下さいませ』
『反間苦肉の策を弄し、大それた野望を遂げむとする悪人輩の巣窟なれば、うつかり高い声で物を言ふ訳にも往きませぬ。此処は山の頂なれども、矢張悪神の霊は吾等一行を遠く巻いて居りますれば、込み入つた事は申されませぬ。何事も私の胸にあれば御安心なさいませ』
 清照姫はしとやかに、
『貴方がユーフテスさまで厶いましたか。御苦労でしたなア、これから都まではまだ余程の道程がありますか』
『ハイ、もはや十里足らずで御座りますれば、些しく急ぎますれば、今晩の四つ時までには到着出来るでせう。丁度夜中に御入城下さる方が安全で厶いませう』
 斯く話す処へ「オーイ オーイ」と坂の下から呼ばはりながら登り来る五人の騎馬隊がある。三人は何事ならむと訝りながら、峠の傍の石に腰打ちかけ、くだらぬ世間話を態と交換して居た。ユーフテスは節面白く唄ひながら踊つて居る。
『高い山から谷の底見れば  かぼちやや茄子の花盛り
 とは云ふもののこりや嘘ぢや  今は紅葉の秋の末
 冬の境となり果てて  木々の梢はバラバラと
 散り敷く木の葉は雨のごと  高照山の紅葉も
 衣を脱ぎて丸裸体  老木も若木もぶるぶると
 慄ひ戦く哀れさよ  照山峠と云ふけれど
 木の葉は雨に叩かれて  一つも残らず真裸体
 照山峠は忽ちに  なきやま峠となりました
 ドツコイドツコイドツコイシヨ』
と唄つて居る。其処へ五人の騎馬隊が登つて来て三人を眼下に見下しながら、
『其方は何者なるか』
と大喝すると、ユーフテスは態と空呆惚けて手を耳にあてがひ首を傾け、
『ヘイ何と仰せられますか。此下り坂は酷いかとお尋ねですか。それはそれは随分きつい坂で厶いますよ』
騎士『その方は察する所聾と見える。エヽ仕方がない。それなる女に尋ねるが、今此処へ妙齢の美人と一人の下男が通らなかつたか』
 黄金姫は態と阿呆げた顔をして、
『ハイ、此峠の少し手前で何とも云へぬ美しい女が三人、男が一人に出会ひましたが、私を見るなり、あゝ汚い乞食だと罵りながら此坂を一目散に登つて往きました。何程落魄れた乞食だつて矢張同じ人間ですもの、そんなに軽蔑したものぢやありませぬなア』
『ナニ女が三人、男が一人とは合点が行かぬ。確に女一人、男一人通つた筈だ。嘘を申して居るのではないか』
『嘘と思ふなら勝手に思はつしやい。此婆の目には確に女が三人、男が一人だ。併も素敵な別嬪だつた。一体お前は何処から何処に行かしやるのだ。大変景気のよい駒に乗つて、あのまあ強さうな事わいのう』
『あのお母さま、今往つた綺麗な女の方は、ヤスだとかダラだとか云つていらつしやつたやうですな』
『何、ヤスと云つて居たか、そりや確にヤスダラ姫に相違あるまい。踪跡を暗ますために、何処かで乞食女でも雇つて来よつたのだなア。ヤア女共、よう云つて呉れた。サア皆の者、一鞭あてて下らうではないか、シヤール様に、これで申訳が立つと云ふものだ』
と下り坂を馬に跨つたまま進まうとする。ユーフテスは、
『あゝもしもし、こんな下り坂を馬に乗つて通らうものなら、それこそ忽ちですぞ。命の惜しくないものは乗つて往かつしやい』
『何これしきの急坂が苦になるか、騎馬の達人の顔揃ひだ。下り坂になつて馬を下りるやうで、どうして此使命が果されるか、サア往かう』
と云ひながら手綱を引き締め、ハイ ハイ ハイと矢声をあびせながら下り往く。
『お母さま、神様は都合よくして下さいますなア、もう少しの事でヤスダラ姫様は彼等一行に捕へられなさる処で厶いました。マアお仕合せのお方ですこと』
『アヽさうだなア、これだから神様の御神力は尊くて忘れられぬのだよ』
ユーフテス『ヤスダラ姫様にお会ひになりましたか、どうして姫様がこんな処へお出になつたのでせう。テルマン国のシヤールと云ふ富豪の家に嫁いで居られますのだから、お帰りになるなら沢山のお供がついて居なければならぬ筈、何か変事でも起つたのでは厶りますまいか』
黄金『何れこれには訳のあることです。併し乍ら高照山の岩窟に御案内をして置きましたから、狼が守つて居ます故、御心配は要りますまい』
『何と仰有います。人々の恐れて寄りつかない高照山の狼の巣窟にヤスダラ姫様を御案内なさるとは約り殺しにおやりなさつたのですか』
『オホヽヽヽ、苟くも人を助くる宣伝使の身として、そんな事があつて堪りますか。狼だつて誠をもつて向へば至極柔順なもの、私にも、かうして居るものの、一つ手を叩けば五十や百の狼はすぐ此処へ現はれて来ますからなア。オホヽヽヽ』
 ユーフテスは顔色をサツと変へ、足をワナワナさせながら、
『ナヽヽヽ何と仰有います、貴女は狼をお使ひ遊ばすのですか』
『オホヽヽヽ、大層慄うて居りますな。私は狼婆と狼娘の一行だから、お前も此世が厭になつて死にたいと思はしやつたら、ちつとも心配はない、狼に喰はして上げる程に喜びなさいよ』
と態と作り声をして憎さげに云つて見せる。
『オホヽヽヽ、お母さまとした事が、これ程臆病な人をつかまへて威嚇すものぢやありませぬよ、貴女も余程腹が悪うなりましたなア』
『実は今通つた騎士共が此谷口で吾々三人の行路を要してキツト待つて居るから、其時手を打つて百匹許り狼を呼びあつめ追つ払つてやる積りだ。其時このユーフテスさまが、腰でも抜かしては大変だから、今の中にビツクリの修業をさして居るのだ。これこれユーフテス様、何がそれ程恐いのぢや、お前様は王様のためには不惜身命の活動をすると何時も云つて居るだらう。命の惜しくないものが何故そんなに慄ふのだろう。不惜身命もあまり当にはなりませぬぞや。口ではどんな甘い事も云へますが、イザ鎌倉となると皆逃腰になるのだから困つたものだよ』
『君のため、世のために命を捨つるのなら捨て甲斐がありますが、狼などに、バリバリやられては、それこそ犬死、いや狼死ですからたまりませぬわ。同じ事なら君のため、世のため、人間の手にかかつて死ぬ方が何程幸福だか分りませぬからなア』
『私も人間だから、それなら御注文通り、一つ殺して見て上げませうかな。それならお前も得心だらう。オホヽヽヽ』
『アヽア、イルナの都の助け神さまかと思へば、何だ狼婆アさまだつたのか。エヽ曲津の神に騙されたか、残念だ。もう此上は破れかぶれ、窮鼠却て猫を食むの譬の通り、此ユーフテスがいまはの際の死物狂ひの手並を見て置けよ』
と短剣をスラリと引き抜き黄金姫に向つて突いてかかる。忽ち後の叢よりオーン、オーンと狼の唸る声しきりに聞え来る。ユーフテスは短刀をパタリと地に落し、慄ひ戦き其場にバタリと倒れて了つた。

黄金『君のため道のためなら命まで
  捨つると云ひし人ぞをかしき。

 狼の嘯く声に驚きて
  腰を抜かせしやさ男もあり。

 口ばかりめでたき事を云ひながら
  まさかの時に肝をつぶしつ。

 照山の峠に会ひし二人連れを
  狼使ひと聞き驚くも。

 ユーフテスの神の司よ村肝の
  心を強め起き上りませ』

 清照姫は、

『吾母はユーフテス司に打ち向ひ
  醜の言霊放ちたまひぬ。

 さりながらユーフテス司聞し召せ
  汝が身魂の御試しなれば。

 この先に醜の司がかくれ居て
  吾等三人を捕へむと待つも。

 其時に汝が命は驚きて
  迷はせまじと母の計らひ。

 必ずも悪しくな思ひたまふまじ
  汝が身魂鍛えむと思へばこそ。

 惟神神に仕へし吾なれば
  いかでか人の命とるべき。

 世の人を普く救ふ宣伝使
  汝に限りて救はであるべき』

 ユーフテスは二人の歌を聞いてやつと安心し、フナフナ腰にウンと力を入れ杖を力に立ち上り、

『肝玉がどつかの国へ宿替し
  今は藻抜の殻となりぬる。

 腰抜かし肝玉とられユーフテスは
  どうして道を歩み往かむか。

 これ程に恐いお方と知つたなら
  遥々迎ひに来るぢやなかつたに。

 逃げようとあせれど脛腰立たぬ身の
  詮術さへもなき涙かな』

 黄金姫はユーフテスの腰を二三回撫で擦り、天津祝詞を奏上し、天の数歌を二三回唱へ上げた。不思議やユーフテスの腰は俄に強くなり、足の慄ひもとまり、今は神霊の感応によつて、百万の敵も恐れざる程の勇猛心が臍下丹田からむらむらと湧いて来た。ユーフテスは初めて黄金姫の心を悟り、幾回となく頭を下げ両手を合せ其親切を感謝し、元気百倍し二人の後に従ひ、急坂を下りながら一足々々拍子を取り歌ひ出す。
『右守の司のカールチン  テーナの姫の喉元へ
 甘く喰ひ込み一家老と  鰻登りに登つたる
 カールチン司の家の子と  仕へまつりしユーフテス
 朝な夕なに身を尽し  心を尽し主のため
 勤むる折しも朝夕に  慕ひまつりしセーリス姫の
 貴の命の来訪に  心は忽ち一変し
 右守の司に表向き  忠実らしく仕へつつ
 心はやつぱり裏表  セーリス姫の父上と
 現はれ給ふ神司  左守の司のクーリンス
 助けにやならぬと内々に  右守の司を佯つて
 恋の犠牲と知りながら  やつて来たのは「ウントコシヨ」
 「ヤツトコドツコイ」恥かしい  これこれ右守の司どの
 うつかり油断をなさるなよ  此坂路を下るよに
 どこに悪魔が潜むやら  何時クレリツと変るやら
 人の心は分らない  これを思へば世の中に
 恐ろしものは女ぞや  女の魂一つにて
 古今無双の豪傑も  智者と聞えしユーフテスも
 忽ち「ドツコイ」落城した  ほんに恐ろし恋の道
 とは云ふものの「ドツコイシヨ」  今となつては及ばない
 改心するのが「ドツコイシヨ」  善いか悪いか「ウントコシヨ」
 見当が取れなくなつて来た  つらつら思ひ廻らせば
 国の柱と現れませる  セーラン王に刃向ふは
 矢張り悪に違ひない  さうすりや右守の神司
 背いた処で「ドツコイシヨ」  バラモン神の神罰が
 俺等に当る筈がない  さう考へりや安心だ
 これこれもうし二人様  足許気をつけなさいませ
 照山峠は国中で  最も嶮しい坂道だ
 獅子さへ越さぬ難所ぞと  世に聞えたる「ドツコイシヨ」
 行くに行かれぬ困り場所  道の案内知らずして
 偉そに馬腹に鞭をうち  テルマン国よりやつて来た
 五人の騎士は今頃は  馬諸共に千仭の
 谷間に「ドツコイ」転落し  頭を摧き肱を折り
 ウンウンうめいて居るだらう  思へば思へば気の毒ぢや
 バラモン教の神様よ  彼等に罪はありませぬ
 此先吾等に「ドツコイシヨ」  敵対ひ来る其時は
 助けてやつて下さるな  私が些つと困るから
 「ウントコドツコイ ドツコイシヨ」  今行つた騎士の五人連れ
 黄金姫のお言葉に  此山口に身をかくし
 吾等を待つてゐると聞く  「ウントコドツコイ」猪口才な
 そのよな事を致したら  神力受けたユーフテス
 生言霊を発射して  一人も残らず打ちきため
 根底の国の旅立を  「ウントコドツコイ」さしてやる
 もしも敵対せぬならば  助けてやつて下しやんせ
 梵天帝釈自在天  オツトドツコイ国治立の
 神の命の御前に  慎み敬ひ願ぎまつる
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』
と歌ひながら母娘の後に従ひ、漸くにして照山峠を南に下りついた。五人の騎士は黄金姫の予言の如く馬の頭を立て直し、やや広き谷間に三人を待ち伏せ、弓を満月の如く絞り、矢を番へ、今や遅しと待つて居る。黄金姫は宣伝歌を歌ひながら、つかつかと騎士の傍近く進み寄つた刹那、忽ち聞ゆる狼群の唸り声、如何はしけむ五人の騎士は弓を満月の如く引き絞つたまま、身体強直しデクの棒の如くなつて居る。斯かる処へ、テームスやレーブ、カルの三人は駒に跨り、三頭の副馬を従へて蹄の音戞々と進み来る勇ましさ。黄金姫は、三人の引き連れ来りし駒に跨り、清照姫と共に五人轡を並べ、勢込んでイルナの都のセーラン王が館をさして駆り往く。闇の帳はおろされ、入城には最も適当の刻限である。あゝ黄金姫一行の今後の活動は如何に開展するだらうか。
 因に取り残されたユーフテスは黄金姫の囁きによつて五人の騎士に鎮魂を施し、元の如く身体自由を得せしめ、表面右守司の従臣なるを幸ひ、五人の騎士と共に右守の館をさして一目散に帰り行く。ユーフテスの今後の活動も亦一つの見物であらう。
(大正一一・一一・一一 旧九・二三 加藤明子録)
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