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文献名1霊界物語 第43巻 舎身活躍 午の巻
文献名2第5篇 清松懐春よみ(新仮名遣い)せいしょうかいしゅん
文献名3第18章 石室〔1169〕よみ(新仮名遣い)いわむろ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-01-13 11:40:24
あらすじ
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年11月28日(旧10月10日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年7月25日 愛善世界社版284頁 八幡書店版第8輯 131頁 修補版 校定版295頁 普及版122頁 初版 ページ備考
OBC rm4318
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本文の文字数2966
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本文  谷の下り道、半分許りの所に七八人這入れる石室が穿たれてあつた。俄に吹き来る山颪、大粒の雨さへ混つてゐる。松公は、
『オイ、伊太公さま、其外一同の者、かう雨風が一度に襲来しては下りる事も出来ない。幸ひ此石室で雨風の過ぐるを待つ事にしようではないか』
竜公『そりや結構だなア、皆さま、一服しませうかい』
伊太公『大変に気もせきますが、仰せに随つて雨をまつ事に致しませう、別に吾々の体は紙で拵へたのではないから、少々の雨位構ひませぬが、皆様がお気の毒だからおつきあひに憩ませて貰ひませう』
 入口の戸もない石室に侵入し、天然の岩椅子に各自腰をかけ、暫く足をやすめて居た。竜公は俄に顔色蒼め、冷汗をかき、ブルブルと慄ひ出した。一同は驚いて『ヤア何だ何だ竜公確りせぬか』と周囲からよつて集つて撫でさする。竜公は汗を滲ませながら歯をガチガチ云はせ、団栗眼をむき出した。
松公『ヤアこいつは困つた、とうとう瘧に襲はれやがつたなア、モシモシ伊太公さま、どうしたらよろしからう』
伊太公『困つた事になつたものだ、こりや瘧に違ひない。途中の事と云ひ、どうも仕方がない。瘧をおとすには病人の頭へ擂鉢をかぶせ、艾を一つかみ其上にのせて灸を据ゑると直落ちるのだけれど、擂鉢もなし、艾もなし困つたものだ』
松公『一体瘧と云ふのは何神の仕業でせうかなア』
伊太公『瘧は皆死霊の業だ。谷川へ陥つたり、池や沼に落ち込んだ奴の亡霊が憑依するのだ。硫黄温泉でもあれば、そこへ突込んでやれば直退散するのだけれど、困つたところで瘧をふるつたものだわい』
松公『温泉へ入れたら瘧が落ちますか、ヤアそりや聞き初めだ。幸ひこの谷道を一丁ばかり右へ下りると、昔から硫黄温泉が湧いて居るとの事です、そこへ浴れてやつたら何うでせうなア。貴方もお急きでせうが、どうせ玉国別さまも治国別さまも祠の森をお離れなさる気遣ひはないから、一寸そこ迄廻つて貰へますまいかなア』
伊太公『そりやお易い事です、人の苦しんで居るのを見捨てて行く訳にも行きませぬから』
松公『そりや有難い、そんなら御苦労になりませうかなア』
 竜公は歯をキリキリと云はせながら目を怒らせ、
『オヽ俺は決して死霊ではないぞ、瘧でもないぞ、大黒主に仕へ奉る八岐大蛇の片割だ。汝等五人の不届者奴、俺達の仲間を滅さむと計る、素盞嗚尊の手下、玉国別や治国別に甲を脱ぎ吾々に背くやつ、決して許しは致さぬぞ。此竜公が命を取り、次には松公が命をとり、イル、イク、サール三人の奴は申すに及ばず、伊太公迄もとり殺してやるのだから、其覚悟を致したらよからう』
 松公は口を尖らし乍ら、
『伊太公さま、あんな事を云ひますわ、これでは温泉も駄目でせう、何とか工夫はありますまいかな』
伊太公『瘧でないと分れば、又方法もあります。サアこれから三五教独特の鎮魂を以て悪魔を見事退散さして見ませう』
松公『どうぞ宜しう願ひます。オイ三人のもの貴様も一つ祈つて呉れい』
 茲に伊太公、外四人は一生懸命に両手を合せ、惟神霊幸倍坐世を十回許り唱へた後、伊太公はポンポンと手を拍ち天津祝詞を奏上し終つて天の数歌を二三回唱ひ上げた。大蛇の憑霊は、天の数歌に怯ぢ恐れ、竜公を其場に倒して逃げ去つて了つた。竜公はけろりとして汗をふきながら、
『ヤア苦しい事だつた。ようマア伊太公さま助けて下さつた、何とマア三五教のお経はよく利きますねえ』
伊太公『マア何より結構でした。三五教ではお経とは申しませぬ、これは重要なる讃美歌で、天の数歌と云ひます。皆さまもこれから間があれば、この数歌をお唱ひなさい』
松公『イヤもう義弟の命を助けて頂き、此の御恩は忘れませぬ。サア雨も余程小降りになり、風も熄んだやうです。も一気張りですから、ポツポツ下りませうか』
と先に立ち、又もや足拍子をとつて歌ふ。
『清春山の下り路  天下にまれなる難関所
 下る折しも竜公が  石室中に飛び込んで
 ガタガタ ブルブル慄ひ出す  これぞ正しく「ウントコシヨ」
 「ヤツトコドツコイ六つかしい  足踏み入れる所もない」
 瘧のやつに違ひないと  心をいため谷間に
 滾々湧き出る硫黄の湯  そいつへ入れて助けよと
 評定して居る最中に  竜公のやつが口をきり
 俺は死霊ぢやない程に  八岐大蛇の片割ぢや
 俺等の仲間を倒さうと  企んで居よる素盞嗚の
 神の手下に帰順して  「ヤツトコドツコイ」怪しからぬ
 事をするから竜公の  命を先に奪ひとり
 松公さまや三人の  大事の大事の命まで
 取つてやらうと嚇しよる  俺も些つとは「ドツコイシヨ」
 吃驚せずには居られない  狼狽へ騒ぎ居る中に
 三五教の伊太公は  神変不思議の鎮魂と
 一二三ツ四ツ五ツ六ツ  七八ツ九ツ十百千
 万の曲を払はむと  声も涼しく「ドツコイシヨ」
 天の数歌歌ひあげ  雄建びませば悪神は
 其神力に怯ぢ恐れ  雲を霞と逃げよつた
 あゝ惟神々々  神の恵は目のあたり
 俺もこれからバラモンの  醜の教を思ひ切り
 神徳高き三五の  神の御教に従ひて
 種々雑多と修業なし  名さへ目出度き神司
 松公別と名乗りつつ  普く世人の悩みをば
 助けにや置かぬ惟神  兄の命とあれませる
 治国別の宣伝使  同じ腹から生れたる
 「ウントコドツコイ」俺の身は  兄貴の真似が出来ないと
 云ふよな理屈はあるまいぞ  あゝ面白い面白い
 前途の光明が見えて来た  神徳高き素盞嗚の
 誠の神に刃向ふは  命知らずのする事だ
 俺はこれから心境を  根本的に改良し
 神の御子と生れたる  其天職を詳細に
 神の御前に尽すべし  竜公お前も神様に
 苦しい所を助けられ  尊き事が「ドツコイシヨ」
 漸く分つたであらうぞや  何程人が偉いとて
 蠅一匹の寿命さへ  一秒時間延ばす事
 出来ないやうな身を以て  神に刃向ひなるものか
 思へば思へば人間は  神の力に比ぶれば
 塵か芥の如きもの  もうこれからは神様に
 体も魂も打ち任せ  一心不乱に善道を
 進んで道の御為に  力限りに尽さうか
 あゝ勇ましし勇ましし  長い坂でもドンドンと
 一足々々下りなば  遂には麓につく如く
 如何に小さい信仰も  積れば遂に山となる
 山より高く海よりも  深き尊き神の恩
 報いまつらで置くべきか  此世計りか神界へ
 国替へしても神様が  矢張り構うて下される
 真の親は神様だ  恋しい親に死別れ
 今迄悔んで居たけれど  それは此世の親様だ
 万劫末代変らない  吾身を救ふ親様は
 神様よりは外に無い  思へば思へば有難や
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  神に任せた其上は
 如何なる事か恐れむや  地震雷火の車
 大洪水の来るとも  一旦覚悟をした上は
 誠の神の立てませる  三五教の御道は
 決して決して捨てはせぬ  「ウントコ ドツコイ ドツコイシヨ」
 大分坂も下りて来た  もう一気張りだ皆さまよ
 足許用心するがよい  ここは悪魔の巣窟だ
 うかうかしとると大蛇奴が  何時憑くか分らない
 竜公の奴が好い手本  御魂に気をつけ足許に
 心を配つて下りませ  あゝ惟神々々
 御霊幸倍ましませよ』
と節面白く歌ひつつ、玉国別の宣伝使が休息して居る祠の森をさして急ぎ行く。
(大正一一・一一・二八 旧一〇・一〇 加藤明子録)
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