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文献名1霊界物語 第12巻 霊主体従 亥の巻
文献名2第3篇 天岩戸開(三)よみ(新仮名遣い)あまのいわとびらき(三)
文献名3第22章 一島攻撃〔518〕よみ(新仮名遣い)ひとつじまこうげき
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグサルヂニヤ島(サルジニヤ、一つ島) データ凡例 データ最終更新日2020-11-12 00:59:32
あらすじ尚武の気に富む深雪姫は、サルジニヤ島にあって、アルプス山より掘り出した鋼鉄で種々の武器を作り、国家鎮護の神業に奉仕するため、島に英雄豪傑を集めて悪魔征討の準備をしていた。天照大御神はこの様子に、素盞嗚命が善言美詞をもって世の曲業を見直し聞き直し宣り直すべき惟神の大道を無視しているのは、高天原を占領しようという汚い心があるのではないか、と疑いを抱いた。サルジニヤ島では、兵士たちが日夜訓練をしている。新入り兵の御年村の虎公は、深雪姫が武を蓄えているのは、三五教の精神を忘れたからではない、悪魔を武の威徳によって帰順させるためであり、また、まさかの事態に備えているのだ、と語る。兵士たちは、館が騒がしくなったのを見て、一目散に走って帰った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年03月11日(旧02月13日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年9月30日 愛善世界社版184頁 八幡書店版第2輯 693頁 修補版 校定版194頁 普及版79頁 初版 ページ備考
OBC rm1222
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本文  大空に雲立ち塞ぎ海原に  霧立ち籠めて四方の国
 神の恵の露もなく  山川草木泣き干して
 黒白も分かぬ暗の夜を  今や照さむ瀬戸の海
 百の神たち百人を  松の神代の末長く
 救はむために素盞嗚の  神の御言を畏みて
 思ひは積る深雪姫  解くるよしなき真心の
 誠一つの一つ島  熱き涙の多気理姫
 コーカス山に現れませる  十握の剣の威徳にて
 雲霧四方に切り払ひ  醜の曲津を除かむと
 高杉別の籠りたる  この神島に宮柱
 太敷立てて世を偲ぶ  瑞霊の深雪姫
 吹き来る風も腥く  人馬の音は絶間なく
 矢叫びの声鬨の声  世は騒がしく群鳥の
 群れ立つばかり沖つ鳥  沖の鴎の声さへも
 いと佗しげに聞ゆなり  ここは名に負ふサルジニヤ
 神の守りもアルプスの  鋼、鉄取り出でて
 百の兵器造りつつ  珍の御魂と仕へたる
 心も猛き兵士は  雲の如くに集まれり。
 コーカス山の珍の宮に、御巫子として仕へたる、月雪花の姉妹の一人、深雪姫は、尚武勇健の気質に富み、十握の剣の威徳に感じて、アルプス山の鋼鉄を掘出し、種々の武器を造り備へて、国家鎮護の神業に奉仕せむと、天下の英雄豪傑を此島に集め、悪魔征討の準備に備へつつあつた。
 宮殿の屋根は千木、勝男木を高く、千木の先は鋭利なる両刃の剣を以て造り、勝男木もまた両端を剣の如く尖らせ、館の周囲には剣の垣を繞らし、曲津の侵入を許さず用心堅固の金城鉄壁なりける。
 武勇の神は先を争うてこの一つ島に集まり来り、天下の邪神を掃蕩し、遍く神人を安堵せしめむと昼夜間断なく武術の稽古に余念なく、剣戟射御に勤む声は瀬戸の海を越えて、遠く天教山に鎮まります撞の御柱の神、天照大神の御許にも、手に取るが如く轟き渡りぬ。
 天照大御神は、善言美詞をもつて世の曲業を、見直し聞き直し詔り直すべき天地惟神の大道を無視して、殺伐なる武器を造り武芸を励むは弟神素盞嗚命の高天原を占領せむとする、汚き心のあるならむと、内心日夜不快の念に駆られ給ひつつあらせられた。
 四五の勇士は武術の稽古を終り、眺望よき一つ島の山巓に登り、諸々の木実を漁り、瓢の酒を傾けながら雑談に耽り居る。
甲『我々はかうして昼夜の区別なく太刀打の稽古、槍の稽古に体も骨もグダグダになつて仕舞つた。太刀と槍との稽古が済めば、また弓の稽古、馬乗りの稽古をと強られるのだ。敵も無いのに此離島で、これだけ武芸を励まされるのは何のためだらう』
乙『平和の時に武を練るのが武術の奥義だ。サア戦争が勃発したからと云つて、俄に慌てたところが、何の役にも立たない。武士は国を護るものだ。常から武術の鍛練が必要だから、それで日々稽古をさせられるのだよ』
丙『かう毎日日日空は曇り、地は霧とも靄とも知れぬ物が立ち籠めて、一間先が碌々見えぬやうになつて来たのだから、此世の中が物騒で、安心して暮されぬやうになつたので、各自護身のために、大慈大悲の神様が武術を奨励なさるのだよ』
甲『三五教の教には……神は言霊をもつて言向け和すのであるから、武器をもつて征伐を行つたり、侵略したり、他の国を併呑するやうな体主霊従的の教でない。道義的に世界を統一するのだ……と仰せられて居るではないか、何を苦しむで武備を整へ、平地に浪を起すやうな事をなさるのだらう。まるでウラル教のやうぢやないか』
乙『さうだなア、三五教の教理とは名実相反して居るやり方だ。大声では言はれぬが、これや何でも深雪姫の神様に八岐の大蛇か、鬼が憑いて為せるのだらうよ』
丙『実際それだつたら我々は実に約らぬものだ。一生懸命骨身を砕くやうな辛い稽古をさせられて、天則違反の大罪を重ねるやうでは約らぬじやないか』
丁『神様が武を練り、数多の武器を蓄へ給ふのは変事に際して天下万民を救うためだよ。大慈大悲の神様が何しに好むで殺伐な修業を遊ばすものかい。悪魔は剣の威徳に恐れ、武術の徳によつて心を改め、善道に帰順するものだ。如何に善言美詞の言霊と雖も、曇り切つたる悪神の耳には入るものでない、そこで神様が大慈大悲心を発揮して、眼にものを見せて、改心させると云ふお経綸だ。素盞嗚命様は一寸見たところでは、実に恐ろしい、猛しい戦好きの神様のやうだが、決して殺伐な事はお好みにはならぬ。それ故に此世に愛想を尽かして、円満具足温和なる月の大神の世界へ帰り度いと云つて、日夜御歎き遊ばし、慈愛の涙に暮れて居られると、そこへ御父神が天よりお降りになつて、お前のやうな気の弱い事ではどうして此世が治まるか、勇気絶倫の汝を選むで、悪魔の蔓る海原の国を修理固成せよと命令を下してあるに、その女々しいやり方は怪しからぬ、と云つて大変に御立腹遊ばしたので、素盞嗚命様は、姉君の天照大神にお暇乞のために、高天原にお上りになつたと云ふ事だ。其御魂を受け継いだる珍の御子深雪姫様は、尚武勇健なる女神に在す故にまさかの時の用意に武を練つて居らるるのであらうよ。武術は決して折伏のためではない、摂受のためだ。悪魔を払ひ万民を救ふ真心から出でさせられた御神策に違ひないワ』
甲『お前はよく詳しい事を知つて居るなア、一体何処から来たのだ。此道場へ来てから未だ間もないに、武術は中々立派なものだなア』
丁『俺か、俺は元は百姓だ。御年村の虎公と云ふ男だよ』
甲『ヤア、お前があの名高い自称艮の金神だな、道理で大きな男だと思つたよ』
虎公『アア、確に夫とは分らぬが、何だか館は騒動がおつ始まつたやうだ。サア皆の連中、愚図々々しては居れない。早く館へ駆けつけよう』
と虎さまを先頭に一同は丘を下り、館を指して一散走りに駆けり行く。
(大正一一・三・一一 旧二・一三 加藤明子録)
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