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文献名1霊界物語 第13巻 如意宝珠 子の巻
文献名2第4篇 奇窟怪巌よみ(新仮名遣い)きくつかいがん
文献名3第19章 馳走の幕〔545〕よみ(新仮名遣い)ちそうのまく
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-11-26 18:07:43
あらすじ一行は出雲姫の案内で、タカオ山脈のコシの峠に着いた。日の出別命、岩彦、鷹彦、梅彦らが岩石の上に体を伸ばして寝ている。出雲姫は、日の出別らは休息中なので、一同はここで日の出別らが起きるまで待っているように、と言って素早くどこかへ行ってしまった。三人は寝ている宣伝使らに、何とかしていたずらしてやろう、と相談を始めた。岩彦にいたずらしようと足を引っ張ると、岩彦も鷹彦も起きていて、三人を叱り付ける。鷹彦が三人の前に立って、霧水を吹きかけた。すると不思議にも、またしても三人は岩窟の中で、臥竜姫の館に居るのであった。琵琶を抱えた美人が現れ、三人に蛇や虫や蛙の料理を勧める。そして美人は、自分はうわばみの野呂公の妻である、と告げた。音彦は女を化け物と思い、退治しようといきり立つが、逆に身魂が磨けていないことを女に指摘されて、馬鹿にされてしまう。亀彦は怒って剣を抜いて立ち上がろうとするが、体の自由がきかない。駒彦も音彦も動けなくなってしまっていた。祝詞を唱えようとするが、脱線してまともに唱えることができなくなっている。女は、三人が宣伝使の証である被面布を紛失していることを指摘した。ここに至って音彦はついに観念し、すべてを相手に任せる気持ちになった。すると女は、ようやく三人の心の岩戸が開けたことを告げた。そして、ここは岩窟の中心点であり、この岩窟は木花咲耶姫命の経綸の聖場にして、高照姫神が鎮まる御舎であることを明かした。そして執着心を捨てた心であれば、岩窟の探検を無事に終えられるであろうことを告げ、姿を隠した。音彦、亀彦、駒彦は今まで自分の心の中に迷い・曇りがあったことを悟り、神言を奏上した。三人は打って変わって野卑な言葉使いを改め、探検を続けることとなった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年03月21日(旧02月23日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年10月30日 愛善世界社版211頁 八幡書店版第3輯 107頁 修補版 校定版212頁 普及版92頁 初版 ページ備考
OBC rm1319
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本文  音彦、亀彦、駒彦の三人は、出雲姫に誘はれ、足を早めて漸くタカオ山脈のコシの峠の麓に着いた。此処には巨大にして平面なる数個の岩石があり、峠の両側に竝立して居る。日の出別命を初め、鷹彦、岩彦、梅彦はその中の最も巨大なる岩の上に、足を延ばして寝転び休らい居る。
出雲姫『音彦様、その他の方々、サゾお疲労でせう。これがコシの峠の登り口で御座います。日の出別の宣伝使一行は、今お睡眠中ですから、お目の覚める迄、静かに此処で、あなた方も足を延ばして御休息下さいませ。妾は少しく神界の御用の都合に依りて、一足お先へ参ります。また後ほどフサの都でお目にかかる事に致しませう』
と言ひ遺し、足早に峠を登り行くその早さ、
音彦『ヤアナンダ、折角美人の道連が出来たと思へば、コンナ処でアリヨウスを喰はされて、奴拍子の抜けた事だ。天の磐船から何時の間にか、吾々三人を墜落させよつた腹癒せに、日の出別を初め一行の連中に対し、報復手段を、講究せなくてはならうまい』
亀彦『ヤア幸ひ羽の無い磐船の上に、四人がゴロリとやつて居るのだから、ナントか一つ嚇かしてやらうかなア』
駒彦『コラ措け措け、日の出別の宣伝使は、神変不可思議の神徳を所持して居るから、反対に吾々がやられるかも知れやしない。先づおとなしくして下から出て、マ一度ご保護を受ける方が、賢明な行方だよ』
音彦『それでもあまり吾々を馬鹿にしよつたから、何とかして、吃驚をさしてやらねば虫が得心せぬぢやないか』
亀彦『貴様は三五教の宣伝使ぢやないか。宣伝使が未だソンナ卑劣な根性を保留して居るのか』
音彦『アハヽヽヽ、亀公、貴様は馬鹿正直な奴だ。誰がソンナ心を持つて居るものか、あまり嬉しいから、一寸貴様がどう云ふか心を曳いて見たのだ。神はトコトンまで気を引くぞよ、改心致されよ、改心ほど結構な事はないぞよ』
亀彦『アハヽヽヽ、何を吐しよるのだ』
音彦『岩に松の堅い神代が造られて、日の出の守護と致すぞよ』
駒彦『岩の上に、日の出別命が寝て居るぢやないか、もはや松の世は建設されたやうなものだよ』
音彦『巌に松が生えて、日の出の守護になるといふ瑞祥だ。どうぞ日の出別神様は、これなりに眼を覚さず、蒲鉾板の様に岩を背中に負うて、何時までも竪磐常磐に御守護して下さらば、世界の人民が勇んで暮す五六七の世になるけれどなア。ワツハヽヽヽ』
駒彦『岩の上に岩公が、フンゾリ返り、鷹公が高鼾をかき、梅公がウメイ塩梅で、スウスウとスウさうな鼻息をして睡眠んで居ると云ふのも、神代の出現する瑞祥だアハヽヽヽ』
音彦『そこへお出になつたのが音サンだ。コンナ結構な神徳は、亀の齢の亀サンぢやないが、千年も万年も御神徳を音サン様にして、身魂を研くと云ふ前兆だ。困つたのは駒公だ………イヤ困るのは駒サン計りでない、ウラル教の守護神、八頭八尾の大蛇と、金毛九尾のコンコンサンだ………』
駒彦『馬鹿にするない、俺計り継児扱ひにしよつて………コシの峠を越すのは、駒サンの御用だ、何程足が痛いと云つても、駒サンがヒーンヒンヒンと、一つ鼻息を荒くし足掻を行つたら、スツテントーと、大地へ空中滑走の曲芸を演じ、この深い谷底へ着陸し、プロペラを粉砕して、吠面をかわかねばならぬのは、今に一目瞭然だよ』
音彦『峠に掛つたから、駒サンが敵愾心を起し、奮闘する様に、一寸駒に鞭つて見たのだ。決して悪い気で云つたのぢやない。神直日大直日に見直し聞直し、凡ての事を善意に解釈するのだ。痩馬の様に、営養不良神経過敏な面をして居るから、一つ春駒の勇むやうにヒントを与へたのだよ』
駒彦『何を吐しよるのだい。貴様等の盲目漢が、吾々の人格をヒントする資格が有るかい。屁なつと喰うとけ………駒サンの尻からヘイヘイ ハイハイと云つて、ドウドウ(同道)すれば良いのだ。アハヽヽヽ』
音彦『音高し音高し。折角日の出別命が、積日の疲労を休養して御座るのに、お眼を覚しては済まないぞ。チット音なしくせぬかい。貴様は人情を解せない奴だよ』
駒彦『どうぞ音なしく、この場の結末は音便に願ひます。それにしても日の出別命様は、特別待遇として、岩公の奴、ナントか一つ悪戯をやらないと景物がないぢやないか』
岩彦『古池に飛込んで、脂を取られた音公、化玉に出会つて、魂をひしがれた駒公、亀公未だ改心が貴様は出来ぬか』
音、亀、駒一時に、
『ヤー此奴あ狸寝をやつて居よつたな、油断のならぬ奴だ。これだから現代の人間は油断が出来ぬと云ふのだ。岩公の寝の悪さ、見られた態ぢやないワ。一方の目を塞ぎよつて、一方の眼を猟師が兎でも狙ふ様に、クルリと開けて眠てる奴は、どうせ碌な奴ではない。此奴は横死の相がある、可哀相なものだ。寝る時にはグツタリと寝、起きる時には潔く起きて活動するのが人間の本分だ。こいちや因果者だから、半分寝て半分の目は起きて居やがる』
駒彦『定つた事よ、右の眼はウラル教、左の眼は三五教だ。まだ守護神が改心せぬと見えてウラめし相に、片一方の目は団栗の様な恰好して睨んでけつかるのだ。………オイ岩公、良い加減に起きぬかい』
岩彦『グウグウ…………』
音彦『ヤアナンだ。寝言ぬかしてけつかつたのだナア。それにしても、目を開けて寝る奴は厭らしいぢやないか』
亀彦『さうだ、本当に厭らしい。どうぢや、片一方の目を剔出してやつたら本当に改心するかも知れないぞ。三五教の北光神の様に「あゝ有難い神様、私はまだ一つの目を与へて貰ひました」ナンて言ひよれば、本当に改心をしてるのだが………一つ改心の有無を試験してやらうか』
駒彦『ソンナ事をしたら、日の出別命様にお目玉を頂戴するぞ』
音彦『お目玉を一つ頂戴すれば返してやれば良いのぢやないか。三人が一つ宛貰つたら、まだ二つ余るといふ勘定だ。アハヽヽヽ、………オイどこぞ其処らに竹片でもないか、一寸探して来い』
駒彦『岩公の目は岩目と書く。眼目を無くしては宣伝使が勤まろまい』
音彦『ナニ所存の片目ぢや。岩の信仰を岩の如く片目と云ふ洒落だ』
亀彦『目惑千万な事だ。どれ、其処らにないか探して来てやらうか。併し夫れ迄に緊急動議がある』
駒彦『緊急動議とは何だ』
亀彦『北光神は、覚醒状態で目を突かれたのだ。岩の上に端座して、三五教の教理を説いて居る時に突かねば、騙討は卑怯だぞ。寝鳥を締める様な悪逆無道は、宣伝使の為すべき事ではあるまいぞ』
音彦『そらさうだ、一つ起してやらうかい』
と云ひ乍ら、岩公の足をグイグイと引つ張る。
岩彦『ダダ誰だ、俺の足をひつぱる奴は、大方音公だらう。北光神の様に片目にしてやらうかい、ナア音公、グウグウ ムニヤムニヤ』
音彦『ヤア怪体な奴ぢや、やつぱり此奴は半眠半醍状態だ。自己催眠術にかかりよつて幻覚でも起して居ると見えるワイ』
鷹彦『アハヽヽヽヽ』
梅彦『ウフヽヽヽヽ』
亀彦『ヤア一時に覚醒状態になりよつたなア』
鷹彦『オイ貴様等三人は、何処を間誤ついて居つたのだ。貴様等の顔はなんだ、蜘蛛の巣だらけぢやないか。いつ手水を使うたか分らぬ様な面付しよつて、その態は一体どうしたのだ』
音彦『曖昧濛糊として訳が分らぬやうになつて来たワイ』
鷹彦『狸穴にひつぱり込まれよつて、ナニ今頃に寝言を云つてるのだ。此処はどこだと思つてるツ』
音彦『どこだつて、此処ぢやと思つてるのだ』
鷹彦『此処は定つてる、地名は何だ』
音彦『知名の士は、鷹公、梅公、岩公、日の出別の宣伝使だ』
鷹彦『馬鹿、所の名は何処だと云うのだ』
音彦『所の名は、やつぱり所だ』
鷹彦『今は何時ぢやと思つとる』
音彦『定つた事だ、昨日の今頃とは、言ふ間丈遅いのだ』
鷹彦『オイ岩公、起ぬか起ぬか、三人の奴、ド狸に魅まれて来よつて、蜘蛛の巣だらけになつて、催眠術にかかつた様な事をほざきよるのだ。一寸やそつとに、覚醒する予算がつかぬ、強度の催眠状態だから。一つ貴様と協力して片一方の目を剔つてやつたら、チツとは気が付くだらう』
岩彦『そら面白からう。吾輩の目の玉を抜いてやるなんて、明盲奴が最前から岩上会議をやつて居よつたのだ。オイ音公、亀公、駒公、目を出せツ』
音彦『この頃は春先で、何処の草木も沢山に芽を出して居るワイ。ナンダか頭がポカポカして来だした。アハヽヽ』
 鷹公は三人の前にスツと立ち、プウプウプウと霧水を、面上目がけて吹きかけた。三人は初めて吃驚し、
三人『ヤア此処はどこだ。岩窟の中ぢやないか』
とキヨロキヨロ見廻す。琵琶の声は幽かに聞えて、奥の方より玉の中から現はれた美人の顔に酷似の主が琵琶を抱へ乍ら、ニコニコとして現はれて来た。三人は附近をキヨロキヨロ見廻せば、日の出別の宣伝使の姿も、その他三人の影も、巌も何も無い。以前の石畳をもつて繞らしたる岩窟内の女神の屋敷であつた。
音彦『ヤア夢とも現とも何とも訳が分らぬぢやないか。やつぱり醜の岩窟だけの特色が有るワイ』
 三人は目を見張り、首を傾けて怪訝の念に打たれ、両手を組み、青息吐息の態にて、一言も発せず、沈黙を続けて居る。琵琶を抱へた美人は、しとやかに襠姿の儘、三人の前に静かに座を占め、
『コレハコレハ三人の宣伝使様、能くも妾が茅屋を御訪問下さいました、嘸々お腹が空いたで御座いませう。蜥蜴の吸物に百足のおひたし、蛙の膾に蛇の蒲焼、お口に合ひますまいが、ゆるりとお食り下さいませ。コレコレ松や、春や、お客様に御膳を持つて来るのだよ』
音彦『イヤー、モシモシ滅相な。蜥蜴や百足、蛙、蛇、ソンナ御馳走を頂戴いたしましては、冥加に尽きまする。どうぞ御構ひ下さいますな』
美人『オホヽヽヽヽ、お嫌ひとあれば仕方が御座いませぬ。然らばなめくぢのつくり身に、蚯蚓の饂飩でも如何で御座いませう』
音彦『イヤ、コレハコレハ一向不調法で御座います。どうぞ御心配下さいますな。このお宅は何時もさういふ物を召しあがるのですかなア』
美人『ホヽヽヽヽ、妾は蛙が大好物ですよ』
音彦『オイオイ亀公、駒公、どうやら此奴ア怪しいぞ。ノロノロと違うか』
美人『ホヽヽヽヽ、妾の夫は蟒の野呂公と申します』
音彦『ヤア失敗つた、野呂公の奴、到頭計略にかけよつて、コンナ岩窟の中へ引つ張り込みよつたのだらう、油断の出来ぬ奴だ。斯う立派な邸宅と見えて居るが、どうやら、フル野ケ原の草茫々と生えたシクシク原ではあるまいかな。オイ亀公、駒公、一寸そこらを撫でて見よ、立派な座敷の様なが、ヒヨツとしたら芝ツ原かも知れぬぞ』
美人『イヤお三人のお方、御心配下さいますな。………あなた方は醜の岩窟の探検はどうなさいました』
音彦『醜の岩窟の、いま探険最中だ。岩窟の中かと思へば、野ツ原のやうでもあり、野原かと思へば、岩窟の中でもあり、何が何だか、一向合点が承知仕らぬワイ。ナンでも貴様は大化物に相違ない。もう斯うなつた以上は、ウラル教の地金を現はし、双刃の劔の刄の続く限り、斬つて斬つて切りまくり、荒れて荒れて暴れ廻り、汝等が化物の正体を、天日に曝して、天下の禍を断つてやるから、覚悟を致せ』
美人『ホヽヽヽヽ、あのマア音サンの気張り様、苧殻に固糊をつけたやうな腕を振りまはして力味シヤンス事ワイナ。肝腎の身魂も研けずに、腹の中に………イヤイヤ腹の岩窟に、沢山の曲津を棲息させて、足許の掃除もせずに、おほけなくも、醜の岩窟の悪魔退治とお出掛なさつた、心根がいじらしう御座ンす。ホヽヽヽヽ』
亀彦『エー言はして置けば、ベラベラ能う囀る野呂蛇奴が、人を馬鹿にするな。一寸の虫にも五分の魂だ。一寸刻の五分試し、思ひ知れよ』
と双刃の劔に手をかけて立上らむとし、
亀彦『アイタヽヽヽ、ナンダ、床板が足に固着して了つた』
美人『亀サン、それはお気の毒さま、床板に足が固着しましたか。コチヤ苦にならぬ、コチヤ構やせぬ。ホヽヽヽヽ』
亀彦『エーもう斯うなる上は、破れかぶれだ。覚悟を致せ。オイ駒公、しつかりせぬかい。この阿魔女を、俺に代つてブスリとやるのだ』
駒彦『八釜しう云ふない、俺の身体は、信神堅固なものだ。首から下は斯ういふ場合に天然的にビクとも動かぬ一大特性を、完全に具備して御座るのだよ』
亀彦『何減らず口を吐しよるのだ。貴様は身体強直したな』
駒彦『吾輩の身心は鞏固不抜なものだ、ビクとも致さぬ某だ』
亀彦『ヤイ音公、貴様なにマゴマゴしてるのだ。二人の敵を討たぬかい』
音彦『敵を討てと云つたつて、堅木所か、松の木も、杉の木も生えて居ないぢやないか。難きを避けて易きに就くが処世の要点だよ』
美人『ホヽヽヽヽ、モシモシお三人様、あなた様は三五教の宣伝使丈あつて、随分お堅いお方、あなたの肝腎の霊も、霊肉一致して堅くなつて下さらむ事を希望いたします』
亀彦『エー放つときやがれ。オーさうだ、良い事を思ひ出した、神言だ。悪魔調伏の唯一の武器を所持して居るこの方を、ナント心得とる。サアこれから言霊の乱射だぞ。生命の惜い奴は、一時も早く逃げたがよからうぞ』
美人『ホヽヽヽヽ、あなたの言霊は、三味線玉ですよ。ソンナボンボン三味線でも、神力が現はれますかな』
亀彦『エー八釜しいワー、最前も貴様の宅の石門を開いた、現実的経験があるのだ。吾輩の言霊を敬虔の態度を以て、経験の為に聴聞を致せ』
美人『オホヽヽヽ、どうぞ聴聞さして下さいませ。妾が為に頂門の一針、あなたの為にも前門の狼後門の虎、随分御用心なされませや』
亀彦『エー人を馬鹿にして居よる、………オイ音サン、駒サン、言霊の一斉射撃だ。鶴翼の陣を張つて、一声天地を震憾し、一音風雨雷霆を叱咤する、無限絶対力の天津祝詞の太祝詞、善言美詞の言霊の発射だよ』
音彦『タ、タ、カ、カ、タカ、ヒ、ヒ、ヒ、コ、ニ、ホ、ホカサレ、ヒ、ヒノデノ、ワケニ、ス、ステラレ…………』
亀彦『オイ音公、何を吐しよるのだ、「高天原」を言ふのだぞ』
音彦『ナンだか知らないが、自然的に脱線するのだ』
美人『ホヽヽヽヽ、モシモシ音サン、亀サン、駒サン、あなた方は何がお商売で御座いますか』
音彦『いまさら尋ねるに及ばぬ、勿体なくも、三五教の宣伝使の御一行だ。この方の被面布が目に着かぬか、盲女奴』
美人『被面布は、どこに御所持で御座います、お頭にも懸つて居らぬ様ですが』
 音公は頭へ手をあげて見て、
音彦『ヤア何時の間にか消滅して了ひよつた。………オイ亀公、駒公、貴様等の被面布はどうした』
亀、駒『ヤア吾々も何時の間にか、過激な労働をしたので、磨滅して了つたらしいワイ』
美人『ホヽヽヽそれでは、三五教の宣伝使も被免になりませう。お気の毒さま』
音彦『エーけつたいの悪い、一体此処はどこだ。モウ吾輩も兜を脱ぐから、魔性の女、斯う五里霧中に彷徨つては仕方がない。頭からカブリなと呑みなと、勝手にせい。俺の身体は全部貴様に任した、エー棄鉢だツ』
美人『ヤア三人のお方、そこまで行つたら、あなたの臍下丹田も、岩戸が開けました、能う改心して下さいました。此処はフル野ケ原の醜の岩窟の中心点、木花咲耶姫命が経綸の聖場、高照姫神の堅磐常磐に鎮まり給ふ岩窟第一の珍の御舎で御座います。サアサアこれから妾が先達となつて、この岩窟の探険を首尾能く終了させませう。決して執着心を、又もや持たぬ様に、今の心になつて神業に参加して下さい。この先種々の怪物が現はれても、必ず御心配なされますな。生命を棄てると云ふ御考へならば、ドンナ難関でも、無事に通過が出来ますから………サア斯う定つた以上は、一時も早く当館を御出立遊ばして、醜の岩窟の修業場を巡回して下さい。何れ日の出別の宣伝使にも、その他の方々にも、この岩窟内で御対面が出来ませう、左様なら』
と徐々と襖を開いて奥の間に姿を隠したりける。
音彦『アヽ随分吾々の身魂は、種々の残滓物が蓄積してると見えて、散々な目に会はされたが、何だか生れ変つた様な心持になつた。気分も晴々として来た、サア是から醜の岩窟の探険だ。あまり日の出別の宣伝使を依頼にするものだから、妙な幻覚を起したり、迷うたのだ。改めて神言を奏上し、岩窟の探険と出掛ることとしようかい』
亀、駒『左様で御座います。結構さまで御座います。謹んでお伴を致しませう』
音彦『アヽあなた方も、是で善言美詞の言霊が使へる様になつて来ました、私もどうぞあなた方のお力を借つて、共に岩窟の修業をさして頂きませう。サア皆さま参りませう』
と今までの野卑な言葉を改め、心より清々として、三人は岩窟の探険に出かける事となりける。
(大正一一・三・二一 旧二・二三 松村真澄録)
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