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文献名1霊界物語 第25巻 海洋万里 子の巻
文献名2第5篇 千里彷徨よみ(新仮名遣い)せんりほうこう
文献名3第18章 玉の所在〔764〕よみ(新仮名遣い)たまのありか
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-10-15 02:46:12
あらすじ高姫、黒姫、高山彦、アール、エースは一生懸命、国依別と秋彦を元の人間に戻すようにと祈願を凝らし始めた。国依別と秋彦は起き上がると、飛び上がって高姫らをからかう。高姫は、日の出神の神力で二人を畜生道から救い出したと悦に入っている。そして、そのまま二人から玉のありかを白状させようとする。駒彦は、二人は高姫たちをからかっているのだ、と忠告するが、高姫は耳を貸さない。高姫が祈願をこらして霊を送ると、国依別は再度山の大天狗と名乗って、偽の神懸りを始めた。問答をしているうちに、国依別は面倒くさくなって白状するが、玉のありかを神懸りから聞き出したい高姫は、信用しないで詰問する。仕方なく国依別は、高姫、黒姫、高山彦の三人に、三つの玉のありかをそれぞれ明かすと言ってこの場を逃れようとする。そして一人一人に、それぞれ玉のありかは竹生島の社殿の下に埋めてある、と同じ事を囁いた。高姫、黒姫、高山彦は、国依別の偽の託宣を信じて、それぞれ互いに同じ場所に向かって走って行ってしまった。一方国依別と秋彦は、駒彦に留守を任せて聖地の神業に参加するために急いで出て行った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年07月12日(旧閏05月18日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年5月25日 愛善世界社版266頁 八幡書店版第5輯 129頁 修補版 校定版278頁 普及版119頁 初版 ページ備考
OBC rm2518
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本文  高姫の言葉に従ひ、黒姫、高山彦、アール、エースは一生懸命汗みどろに成つて、両人の身魂の救はれむ事を祈願し始めた。国依別、秋彦両人はムツクと起き上り手を組み、ドスン ドスンと座敷の真中に床がぬける程、飛び上り揶揄ふ。
高姫『皆さま御覧なさい。日の出神の御神力と言ふものは偉いものでせう。あの通り生き乍ら畜生道に陥ち込み、足をピンと上にあげて、如何する事も出来ずに鼠の霊に憑られて……チユウ チユウ、クウ クウ……と泣いて居りましたが、日の出神の反魂力に依りて此通り元の様になりました。座敷中飛び上つて居つたのも、此の日の出神の御神力に恐れての事、サア皆さま、寄つて集つて四方八方から鎮魂攻めにあはせ、国依別等を霊媒として、誠の玉の所在を白状させようぢやありませぬか』
黒姫『そりや、至極結構でせう』
駒彦『もしもし、高姫さま、黒姫さま、何卒御心配下さいますな。彼奴ア、あんな事をして貴方等を揶揄つて居るのですよ。本当にして居ると馬鹿を見ますよ』
高姫『お黙りなさい。お前さま等に分つて堪りますか。此方には日の出神と竜宮の乙姫とが憑いて居ります。揶揄つて居るのか、本当か、邪霊が憑つて居るのか、そんな事が分らずに如何して神界の御用が出来ますか。お前さまのやうに、婆になつたり娘になつて誤魔化さうとしても、日の出神の此高姫が……ヘン……見れば直ぐ化が現はれる。お前さまはゴテゴテ言ふ資格はないから、其辺辺のペンペン草でも引きなさい。それが性に合うて居りますワイ、オホヽヽヽ』
駒彦『高姫さま、お前さまの仰有るのも一応御尤もだが、よく泳ぐ者はよく溺ると言ふ事がありますぜ。神懸りの道を知らぬ者は神懸りに騙される事は無いが、お前さまの様に神懸りに不徹底して居ると、却つてアフンと言ふ目に遭はされるか知れませぬよ。此処は例のアフン鉄道の終点、ビツクリ駅だからなア』
高姫『エー、八釜しいワイな。まア黙つて此生宮の審神を見て御座れ。今に此両人に口をきらして、お前達の一切の素性を素破抜かすから……。アーア、竜宮の一つ島から帰つて来る途中随分苦労をしたが、一つ試験の為め霊をかけて聞いて見よう』
と両手を組み、
『大将軍様、十悪道様、地上大神様、地鎮荒神様、大黒主神様、鷹鳥神様、何卒々々此両人にお憑り下さいまして、玉の所在を一伍一什お示し下さいませ。天下国家の一大事、決して高姫や黒姫の私有物に致すのでは御座いませぬ。惟神霊幸倍坐世。一、二、三つ此玉が一時も早く出ます様に、一、二、三、四、五つの玉が又もや現はれたと言ふ事、それが真実ならば、今度こそは高姫、黒姫、高山彦の三人にお渡し下さい。一、二、三、四、五つの玉が早く発見致しまするやう……六、七、八、九、十、百、千、万、仮令何処の果に隠しあるとも、大神様の御眼力を以て御発見遊ばし、此肉体の口を借つて直接に御示し下さいませ』
とウーンウーンと霊を送る。国依別は組んだ手を頭上高くさし上げ、弓の様に反り身になつて、
『ウヽヽヽ運命の綱に引かれて、竜宮の一つ島まで彷徨ひ歩く汝の心の可憐しさ、オホヽヽヽおれは……俺は、俺は、俺は、俺は、フヽヽヽ再度山の大天狗であるぞよ。高山彦や黒姫の心事を憐み、聖地の神には済まぬなれども、玉の所在を知らして遣はす。それに就いては意地くねの悪い高姫が、此処に居つては絶対に言ふ事は出来ぬぞよ』
『再度山の大天狗、そりやチツと量見が違ひはしませぬか。高山彦や黒姫に知らして此高姫に知らさぬと言ふのは、そりや又如何言ふ理由ぢや。それを聞かして下され』
『それは…それは…それは我眷族の小天狗が、秋彦の肉体に憑つて居るから、それに聞いたが宜からうぞ。俺はもう引き取るぞよ』
『引き取ると言うても此事解決をつける迄、霊縛を加へて引き取らせませぬぞ。サア高姫に言はれぬと云ふ其理由から判然と聞かして貰ひませう』
『日の出神は世界中見え透く神ぢやから、玉の所在は大天狗が知らさずともよく御存じの筈だ。申上ぐるも畏し、釈迦に説教を致す様なものだ。高姫に対し玉の所在を明かさぬのは、畢竟敬意を払つて、日の出神の御神力を輝かさむと思ふ大天狗の真心で御座る』
『御心遣ひは御無用に成されませ。さあチヤツと日の出神様の様な尊い神に御苦労をかけるのも畏れ多い、お前さま、知つてるのなら小さい声でソツと言つて下さい。黒姫や高山彦は、言はばお添物だから如何でも宜しいのだ』
と耳の端に口を持つて行き、小さい声で囁く。国依別は故意と大きな声で、
『それは高姫、一寸量見が違ひは致さぬか、今耳の端で……高姫さへ玉を手に入れたら宜い、高山彦や黒姫などは添物だ、如何でもいい……と囁いたであらうがな。そんな二心で黒姫、高山彦を扱つて居るのか。ヤイ、高山彦、黒姫、よう今迄高姫に馬鹿にしられよつたな。もう神懸りは嫌になつた。俺は斯う見えて居つてもチツとも霊は懸つては居らぬぞ。国依別は肉体で申して居るぞよ。それに間違ひは無いぞよ。よく審神して下されよ』
『悪神と言ふものはよく嘘言をつくものだ。コラ大天狗、其手は喰はぬぞ。国依別の肉体が言うた等と巧く逃げ様と思つても、いつかないつかな此日の出神が睨んだ以上は逃がしはせぬ。サア綺麗サツパリと、高姫、黒姫、高山彦の三人の前で玉の所在を白状致すが宜からう』
国依別『三つの玉の所在を知らせませうか、但し五つの玉の所在からお知らせ致しませうか』
『何卒三つの玉の所在は申すも更なり、五つの玉の所在も一緒に仰有つて下さい。さうすれば再度山に立派なお宮を建て、其上大天狗の遊ぶ公園を造つて上げますから……何卒仰有つて下さい』
『そんなら是非に及ばず、知らしてやらう。三つの玉は二三日中に聖地へ八咫烏に乗つて来るぞよ。一つの玉は玉治別、も一つは玉能姫、も一つはお玉の方、これが三つの生魂であるぞよ。又も玉照彦、玉照姫を合せて五つの御魂となるぞよ。アハヽヽヽ』
『エー、合点の悪い。それは人間の名ぢやないか。本当の宝玉は何処にあるのだ、それを言ひなさい』
『実の処は此国依別も、秋彦、駒彦も聖地へ行き度いのが胸一杯なれど、折あしく其方等がやつて来たものだから行くに行かれず、迷惑致して居るぞよ。それに就いて玉の所在は此処ぞと嘘言を言ひ、高山彦の一行を或地点へ玉探しにやつて置き、其ままコツソリと三人が聖地に行つて秘密の神業に参加する積りであつたが……アヽ如何したら宜いかなア』
『それ見たか、矢張り国依別では無い。大天狗の神懸りだ。国依別が如何して自分の秘密を自分の口で言ふものか。これ大天狗、そんな嘘言云うた処で此高姫は承知しませぬぞ。早く玉の所在を知らして下さい。大天狗なら何でも知つてる筈だ』
『そんなら玉の所在を詐つて騙してやらうか。間違つても決して国依別の肉体に対して不足は申さぬか』
『決して不足は申さぬ。嘘言から出た誠、誠から出た嘘言と言ふ事がある。嘘実不二表裏一体だ。何でも宜いから言つて下さい。物も研究だ。オーストラリヤ三界まで調べに行つて来た熱心な我々一同、仮令一日二日遅れても構ふものか、なるべく本当の事を嘘言らしく言ふのだよ』
『本当の嘘言の事を本真らしく申してやらう。神の奥には奥があり、其又奥には奥があるぞよ』
『エーそんな事は妾の言ふ事だ。奥の奥の其奥は羽織の紐ぢやないがチヤンと胸にある。サア言つて下さい』
『オヽヽヽ俺は、俺は大天狗の事であるから、言依別命の為さる事はチツとも分らぬぞよ。実の処は知らぬと申すより外は無いぞよ』
『エー、意茶つかさずに置いて下され。あた辛気臭い、早く言ふのだよ。何時までも人を暇さうに焦慮らすものだない。時機切迫の今日の神界、仮令一分間でも空に光陰を費やす事は出来ませぬ』
『此大天狗が知らぬと言うたら何処迄も、シヽ知らぬぞよ。ウフヽヽヽ』
『もしもし高姫さま、此奴ア駄目ですよ。あんまり玉々と言つて玉に魂を抜かして居るものだから、大天狗の鼻高が我々を嬲るのですから、よい加減になつて置きなさいませ』
『これ黒姫さま、そりや何を仰有る。掃溜の中にも金玉が隠される事がある。斯う言ふ低い神に聞いた方が却て都合が好いのだ。少し腹のある神は中々秘密は申さぬが、斯う言ふ低い神は責めて責めて責め倒すとツイ白状するものだ。お前さまも来てチツト鎮魂攻めを手伝つて下さい。何処までも責めて、白状させねば措きませぬぞえ』
『アーア、悪戯が本当になつて来た。二進も三進も方法がつかぬワイ、……もし高姫さま、何も憑つては居りませぬ。国依別が出放題を申したのですから、何卒神直日大直日に見直し聞直し、一座の興だと思つて諦めて下さい』
 高姫は首を振りウンと息をかけ、
『一座のけふも明日もあつたものかい。何処までも調べて調べて、調べ上げねば措きませぬぞ。仮令百日かかつても千日かかつても白状させねば措くものか、サア大天狗、もう好い加減に白状したら如何だい』
『アヽ困つたな。実の処は早く聖地に行かねば、言依別神様にお目玉を頂戴するのだ。然し高姫と一緒に帰つては困るなり、実際は嘘言だから何処に玉が隠してあるか、そんな事が分るものか。国依別の肉体に間違ひないから、何卒疑ひを晴らして下さい』
 高姫はキツとなり、
『こりや、再度山の大天狗奴、何と言つても白状させねば措くものか』
と又もや汗をたらたら流し、『ウンウン』と霊を送る。側に目を塞ぎ手を組んで坐つて居た秋彦の方は根つから、相手になつて呉れぬので、
『アーア、偽神懸りも辛いものだ。誰も相手になつて呉れない。本当に玉なしだ。アヽもう廃めとこかい』
『これ、小天狗、巧い事化けやがるな。何と言つても肉体ぢや無い。サアお前はチツとでよいから何方の方面だと言ふ事位は知らして呉れ。さうしたら公園を拵へお宮を建てて祀つてやる』
『公園も何も要りませぬ。あゝ足が痛くなつて来た』
と立ち上らうとする。
『これ黒姫さま、高山彦さま。秋彦の両方の手をグツと握つて下さい。小天狗の奴、何処へ肉体を連れて行くか分りませぬぞ。白状させる迄は此肉体を外にやる事は絶対になりませぬぞ』
国依別『そんなら、エー、白状致します。再度山の大天狗に間違ひはありませぬ。又此秋彦の肉体に憑つて居るのは私の眷族小天狗です。何卒しつかり手足を掴まへて立つて去なぬ様にして下さい』
『これこれ国依別さま、殺生な事を言はないで下さい。足が痛んで仕方がありませぬ。お前さまがするから真似したのが病付きだ。……もしもし御両人様、どうぞ手を放して下さい。お前さまも肉体か神懸りか分らぬ事はあるまい。本当によく調べて下さい』
『何と仰有つても小天狗は小天狗だ。国依別は平常から鼻が高いから大天狗が憑るのは当然だ。お前も鼻高だから身魂相応の小天狗が憑るのだ。巧い事肉体に化けてもあきませぬぞよ』
国依別『アハヽヽヽ、暁没漢ほど困つたものは無いワイ。そんなら偽の神懸りで、大天狗が高姫に玉の所在のスカタンを知らして上げようかい。其代りに知らしてやつたら此処を立ち退くだらうなア』
『何処迄もお前を引張つて行つて神懸りをさせて玉を探させ、土の中でも何尺下と言ふ事を透視さすのだから、玉が出る迄放しませぬぞえ』
国依別『こいつは困つたなア。俺も自分乍ら肉体だか神懸りだか分らぬ様になつて仕舞つた』
高姫『それ見なさい。何処だかハツキリと白状しなさい、事と品とに依つたら此場で開放してやるかも知れませぬ』
国依別『別に開放して貰はなくてもよい。霊縛されたのでも無し、自由自在に行き度い処に行けるのだが、一つ困るのはお前さまが跟いてくる事だ。跟いて来さへせねば国依別は国依別としての御用が勤まるのだ。二三日遅れて聖地へ帰るなら帰つて下さい。それ迄にチヤンと秘密の相談をして、お前さま達にアフンとさせる仕組をさせねばならぬからなア』
『何と言つても国依別が其んな自分の不利益な事を喋るものか。再度山の大天狗に間違はあるまいがな』
と後程大きな声で呶鳴りつける。
『そんなら三つの玉の所在を一人々々一ケ所づつ申し上げるから、互に秘密を守つて下さい。三人が三人乍ら分らない様にするといふお約束になれば、実際の事を大天狗が申し上げませう。実の処は言依別命様が明日の朝早く掘り出しに御出になり、又外へお隠し遊ばすのだから、玉を手に入れるのなら今の内ですよ』
 高姫、首を縦に三つ四つ振り乍ら、
『あ、さうだらうさうだらう、そんなら高山彦さま、黒姫さま、妾は如意宝珠の玉の所在を聞きますから、貴方達は彼方へ行つて下さい。順番が廻つて来たら知らせますから……』
黒姫『エー、仕方が無い。そんなら順番が来る迄待つて居ませう』
と次の間に下がる。
『此家を遠く離れて森の中まで行つて下さい。さうでないとお前さまの副守護神が立聞きすると困るから……』
『ハーイ ハーイ』
と長い返事をし乍ら黒姫は出でて行く。
高姫『さア御註文通り誰も居りませぬ。チヤツと仰有つて下さいませ』
『金剛不壊の御玉は、杢助の娘、初稚姫、言依別の手より受取り給ひ、近江の国の竹生島の社殿の下に三角石を標として匿し置かれたぞよ。その方は只今より黒姫に姿を隠して、一時も早く竹生島に向つて玉取りに行くが宜からう。愚図々々致して居ると言依別の使者に先に掘出されて仕舞ふぞよ』
『何でも妾の霊眼に映じたのは島ぢやと思うて居た。お礼は後で申し上げる。又国依別の肉体も良い御用をしたのだから、肉体に対しても後で御礼を申すから……』
と欣々と杢助館の裏口より駆出して仕舞つた。
国依別『オイ秋彦、駒彦、如何だ。俺の狂言は余り巧くやり過ぎて、本当の大天狗にしられて仕舞つたぢやないか。アハヽヽヽ』
秋彦『然し国依別さま、本当に金剛不壊の玉は竹生島に隠してあるのですか。俺は初めて聞きましたよ』
国依別『大きな声で言ふな。疑ひ深い高姫がソツと俺達の話を立聞きしてるか知れぬぞ……オイ、駒彦、家の周囲を見て来い』
駒彦『イヽエ、高姫は雲を霞と走つて行きましたよ』
『サア、之から此大天狗が黒姫、高山彦を何とか撒かねばならぬ。今度は何処に隠したと言はうかな。エー、よしよし、其時の塩梅ぢや、……オイ駒彦、黒姫さま唯一人来いと言うて呼んで来い』
『承知しました』
と尻引からげ、森の中に控へて居る黒姫を迎へて来た。黒姫はイソイソとして足も地に着かず此場に現はれた。
『今改めて大天狗より黒姫に黄金の玉の所在を知らしてやらう。高姫は既に宝の所在を教へられ掘出しに出立致したぞよ。サア秋彦、駒彦、其方は門外へ出て仕舞へ、秘密が洩れると大変だから……』
 二人は笑ひ乍ら門口へ飛び出す。
『再度山の大天狗が今改めて黒姫に黄金の玉の所在を知らしてやる程に、仮令高山彦になりとも口外せぬと言ふ事を誓ふか、如何だ』
『ハイ、決して秘密は漏らしませぬ』
『そんなら確に聞け。近江の国は琵琶の湖、竹生島の弁天の祠の下に、三角形の石を標として三尺下に黄金の玉は隠されてあるぞよ。早く参らぬと言依別の使の者が掘出して、後でアフンとせねばならぬぞよ。一時も早く行つたが宜からう』
『それはそれは、有難い貴方のお示し、そんなら之から参ります』
と裏口より夜叉の如く尻引からげ、雲を霞と駆け出しぬ。続いて高山彦も此処に招かれて又もや国依別の居間に入り来る。
『ヤア其方は高山彦で御座つたか。今大天狗が知つた丈の事を教へて遣はす。高姫には金剛不壊の如意宝珠の玉の所在を示し、黒姫には黄金の玉の所在を知らした処、両人は時おくれては一大事と、玉の隠し場所へ走つて行つたぞ。紫の玉の所在は瑞の御魂の佩かせ給ふ十握の剣より現はれ出でたる、三女神の鎮まり給ふ近江の国は竹生島、弁天の祠の下に、三角形の石を乗せて三尺ばかり底の方へ隠してあるぞよ。一時も早く取りに行かぬと聖地より掘出しに行くぞよ。如何ぢや、ありがたいか』
『ハイ、有難う。三人共願望成就、御礼は後から、ゆつくり……左様なら……大天狗様、之にてお別れ致します』
『汝は裏口より走つて行け。さうしてアール、エースの二人を伴ひ、刻を移さず走つて行くが宜いぞよ』
『何から何まで御注意下さいまして有難う御座います。御礼は後より……』
と言ひ捨てて、長いコンパスを大股に踏張り乍ら地響き打たせて、ドスンドスンと床を鳴らして進み行く。国依別は後見送つて、
『アハヽヽヽ、三五の神の道にはチツとも嘘言は申されぬのだが、アア責められちや仕方がない。玉はなくても弁天様へ参拝して結構な悟を開き、玉以上の御神徳を頂くと思つて、竹生島詣りをさしてやつたのだ。知らず知らずに瑞の御魂に頭を下げさすと言ふ俺の仕組だ、何と妙案だらう』
秋彦『其奴ア上出来だつた。然し駒彦さま、お前しつかり留守して居て呉れ。愚図々々して居ると初稚姫様や玉能姫様が聖地へお帰り遊ばした後になつては大変だから、俺達二人は之から聖地へ参拝するから……あと宜しく頼むよ』
駒彦『ヨシ、承知した。サア早く行つたが宜からう。東助さまも、モウ今頃は聖地へ安着されてる時分だ。お前達両人の帰るのを首を長うして待つて居られるだらう。サア後は俺が引受けるから、心配せずに早く足の用意に掛つて呉れ』
 国依別、秋彦は急ぎ旅装を整へ、館を後に聖地を指して進み行く。
(大正一一・七・一二 旧閏五・一八 北村隆光録)
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