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文献名1霊界物語 第47巻 舎身活躍 戌の巻
文献名2第1篇 浮木の盲亀よみ(新仮名遣い)うききのもうき
文献名3第2章 黒士会〔1235〕よみ(新仮名遣い)こくしかい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-04-10 13:42:34
あらすじ治国別は竜公をいたわった。見れば穴の上にはタールがいる。竜公は、タールはもともとは人間のいい奴だから、善悪どちらにも傾くというと、治国別はタールの説得を竜公に命じた。竜公は、自分はわざと治国別のところに入り込んで、ここまで宣伝使をおびきよせたのだ、と呼びかけて梯子を下ろさせた。しかし梯子から上がってきたのは治国別であった。治国別は、竜公は幽霊となったと言っておいて、後から竜公が上がってきてタールをおどかし、からかった。タールは、今にアークが大勢の軍勢を連れてやってくるから、今のうちに逃げた方がよい、自分も供としてついていくから、と心配するが、治国別は笑って取り合わない。そのうちにアークが数十人の騎士を引き連れてやってきて、治国別一行を取り囲んだ。アークは召し捕るように下知するが、治国別が天の数歌を奏上すると一同は身体が強直して馬上から転倒してしまった。治国別は今度は、竜公に天の数歌を奏上させた。すると騎士たちは少しの怪我もなく身体は元に戻った。騎士たちは手早く馬にまたがって逃げ帰って行く。後にはアークただ一人、どうしたものか体の自由がきかない。竜公がなにほど祈っても、アークの強直状態は直らなかった。治国別は、アークは自分に危害を加えようとしたから、自分が祈願してやらなければだめだろうと言って、暗祈黙祷した上で許す、と一言述べた。アークの体は元に戻り、アークは治国別の前にひざまづいて涙を流しながら重々の無礼を謝した。治国別は自分はかすり傷一つ負っておらず、神の警告を示してくれた導師だと答えた。そしてアークに、ランチ将軍への面会を依頼した。アークは感謝を現し、ランチ将軍に三五教への降伏を進めるように取り計らうと述べると、駒にまたがって陣中に帰って行った。どうせランチ将軍の前に出たら前言を撤回してまたバラモン教に逆戻りするだろうと竜公が批評した。タールは、このごろアークはバラモン軍の中で決死隊を組織しているほど骨がしっかりしてきていると弁護した。竜公が、そのアークが組織したという「国士会」の会則を見せてもらうと、立派な趣意書が書かれていたが、後に決意が骨抜きになるような但し書きが並んでいた。それを見て治国別と竜公は笑った。二人はタールに案内されて、浮木の村の陣屋を指して宣伝歌を歌いながら進んで行く。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月08日(旧11月22日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年10月6日 愛善世界社版28頁 八幡書店版第8輯 481頁 修補版 校定版28頁 普及版14頁 初版 ページ備考
OBC rm4702
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本文の文字数5347
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本文  思はぬ不覚をとつた治国別は、竜公を労はりながら、
『オイ竜公、どこも怪我はなかつたかなア。大変な不覚をとつて、深く落ち込んだものだ』
『ハイ有難う厶います、別にどこも怪我は致して居りませぬが、余り深い企みに乗ぜられ、深い穴へ落されて、チツとばかり不快でたまりませぬ。アハヽヽヽ』
『ウフヽヽヽ、貴様も余程三五教式になつたな。如何なる艱難に出会つても、其態度でなくちや駄目だ』
『アナ有難や、穴尊しや、三五教の神様、ヤツパリ、バラモン教は三五教の反対で穴有教ですなア』
『オイ何時迄もこんな所に蟄居して居つても約らぬぢやないか。モウいい加減に這ひ上る工夫をしたら何うだ』
『さうですな、幸ひ沢山な槍を立ててゐやがるし、此通り、蜘蛛の巣の如く、吾々の身体にまきつくやうに網をはつてゐよるのだから、槍の先を皆ぬいて、先ぐり之をくくりつけ、槍の梯子でも拵へて上つてやりませうか。グヅグヅしてゐると、アークの奴沢山の子分をつれて来て、上から槍の雨でも降らされると困りますで』
『ナアニ其時は、これ丈沢山の槍だから、下から上へ向けて槍の雨を降らしてやればいいのだ。マアゆつくりと風の当らぬ空井の底で休養でもして上ることにしようかい。時に穴の縁には誰かゐるぢやないか』
『彼奴ア、タールといふ男です。随分馬鹿ですけれど、人間のいゝ奴ですから、どちらへでも傾く代物です。一つ彼奴を言向け和したらどうでせうかな』
『お前の初陣に一つやつて見よ、治国別はここにて、竜公の言霊戦を観戦するから……』
 竜公は、
『ハイ有難う』
と云ひながら、空を打仰ぎ、
『バラモン教の先鋒隊片彦将軍が秘書役、竜公、今更めてタールの奴に申付ける。此竜公は、汝の知る如く、河鹿峠に於て治国別の為に一敗地にまみれ、全軍遁走する折しも、腑甲斐なき味方の敗残見るに忍びず一計を案じ、松公と共に詐つて治国別に降参を装ひ、ここ迄導いて来たのだ。一時も早く此方を縄梯子なりと吊り下して救ひ出せよ。さすれば汝は、アークにまさる手柄者として、ランチ将軍に奏上してやらう。どうぢやタール、此方の神算鬼謀は恐れ入つたであらうがなア』
『ハイハイ、そんな事とは存じませず、誠に以て御無礼を致しました。サア何うぞお上り下さいませ。幸ひここに縄梯子が厶いますから、今つり下します。どうぞ貴方丈上つて下さい。そして治国別はどうなりましたか』
『最早治国別にかまふ必要はなくなつた。縄梯子さへつり下したらいいのだ』
『それは真に気の毒な様、気の毒でない様なことで厶いますな。芋刺しにでもおなりなさつたのですか。あゝ惟神霊幸倍坐世』
と云ひながら、縄梯子を暗い陥穽へ吊り下した。治国別は縄梯子を伝うてトントンと上りゆく。
『ヤア竜公さま、あゝ結構々々、怪我がなくて何よりでした。どうぞ私の御無礼は平に許して下さいませ』
『タールとやら、拙者は竜公では厶らぬ。治国別だよ』
『ヤア、これはこれは真にはや、何ともかとも申上げられませぬ。マンマンマンお目出度う厶います。そして竜公は何うなりましたか』
『ウン、竜公は都合好くなつた。マア大丈夫だよ』
『それはマア可哀相なことを致しました。沢山に血が出ましただらうな』
『ウン、今に幽霊となつて、井戸の底から青い火をとぼし、ヒユーとやつて来るだらうよ』
 此時早くも竜公は穴の口へ九分ばかり登つて来てゐた。そして両人の話を小耳にはさみ、俄に幽霊気分となつて、目をクルリとむき、口をポカンと開け、舌をたらし、腰をフニヤフニヤさせ、両手を力なげにグナリと前に突出し、
『恨めしや』
と妙な声を絞り出した。タールは、
『キヤツ』
と其場に尻餅をつき、
『アヽヽヽヽ』
と口をあけて慄うてゐる。
『アハヽヽヽ、オイ、タールさま、嘘だ嘘だ。竜公が悪戯をしてゐるのだ。オイ竜公、朝つぱらから幽霊も、根つからはやらないぞ』
『オイ、タール、実の処は済まなかつたが、井戸の底から俺の言つた事は皆嘘だ。地獄の様な所へ落されたのだから、地獄相応の佯りを云つたのだよ。最早井戸の底から比ぶれば、天国にも比すべき、此平地へ上つて来たのだから、嘘佯りは云ふこた出来ない。サア是から、ランチ将軍の館へさして案内をしてくれ』
『ヤ、それで俺も一寸ばかり安心した。併しながら、そんな所へ行かないで、私も一緒に伴れて、宣伝使様に逃げて貰ふ訳には行きますまいか。なモシ治国別様とやら、決して悪いこた申しませぬ、今にアークが沢山の軍勢を引連れて、貴方を召捕りに来るに違ひありませぬ。サ早く引返して下さい。其代り私もお供さして貰ひますから』
『ハヽヽヽヽ、敵を見て旗を捲き、矛を納めて退却するといふことはない、三五教は目的に向つては退却はない。只驀進あるのみだ』
 かく話す所へ、馬に跨り、先頭に立つてやつて来たのはアークであつた。アークは数十人の騎士を引連れ、轡を並べてバラバラと治国別一行を取囲み、
『三五教の治国別とやら、最早かうなつては叶ふまい。サ尋常に手をまはし、縛につけ。ランチ将軍の御前に引連れくれむ』
と大音声に呼ばはつた。
治国別は平然として、
『イヤ、アークとやら、出迎へ大儀、治国別は汝が要求なくとも、堂々とランチ将軍に面会すべく進んで来たものだ。必ず心配致すな、逃げも隠れも致さぬ』
『左様なことを申して、吾々に油断をさせ、隙を窺ひ、遁走致す所存であらう。其手は食はぬぞ。ヤア部下の者、治国別を始め、反逆者の竜公諸共召捕れ、縄をかけよ』
と下知をする。治国別は平然として、天の数歌を奏上するや、一同の騎士は身体強直し如何ともするに由なく、パタリパタリと馬上より椿の花が雨にあうて落ちるが如く、地上に顛倒し始めた。アークも馬上から真逆様に転落し、治国別の脚下に大の字になつて、ふん伸びて了つた。治国別は竜公に向ひ、天の数歌を奏上せしめた。竜公は稍心中に不安を感じながら、一生懸命になつて天の数歌を二回ばかり奏上した。不思議や一同の騎士はすこしの怪我もなく強直した身体は元に復し、手早く又馬に跨り、駒に鞭ち、一生懸命、疾風の如く陣屋をさして逃げ帰り行く。後に残るはアーク只一人、何うしたものか、身体の自由が利かない。
『神様、有難う厶います。私の様な悪党が尊き数歌を奏上致しまして、即座に効験を現はし下さいましたのは、全く神様の御恵御稜威と存じます。決して竜公の力では厶いませぬ。どうぞ此上益々厚く私の身体を御使用下さいます様にお願ひ致します。就いては此アーク一人のみ、まだ言霊の神徳を頂かずに、此通り強直状態になつて居ります。どうぞ之も私の口を通してお救ひ下さいます様、御願ひ致します。あゝ惟神霊幸倍坐世』
と一生懸命に合掌する。何程祈つても、数歌を奏上しても、アークの強直状態は旧に復らなかつた。
『モシ治国別様、何うしたものでせうか、アーク一人は神様がお許し遊ばさぬのでせうかな』
『ウン、此アークは治国別に危害を加へむと致したのだから、拙者が祈願致してやらねば、駄目だらう』
と云ひながら、暫く暗祈黙祷をつづけ、全身に神格の流入充溢せし時を窺ひ……許す……と一言を宣れば、不思議やアークの身体は旧に復した。アークは治国別の前に跪き、涙をたらしながら、重々の無礼を謝した。
『アークとやら、大変なお骨折りで厶つたなア。併しながら治国別はお蔭に仍つて此通り、カスリ疵一つ負うて居らねば、汝に対して少しも恨むることはない。否寧ろ神々様の御警告だと思ひ感謝してゐる。神様は汝が手をとほし、此治国別に、油断の大敵たることをお示し下さつたのであらう。さすれば汝は吾に対して、唯一の導師だ。大に感謝する。サア、アーク殿、そなたもバラモン軍の中に於て、可なり相当の地位を持つてゐる人物らしい。さぞ陣中にも御用もあらう。早く帰つて治国別即刻ランチ将軍に面会の為、参上致すと伝へてくれ』
『ハイ、何とも申上げ様が厶いませぬ。併しながら私はこれより仰せに従ひ、ランチ将軍の前に罷り出で、三五教の教理を申上げ、一時も早く貴方の前に降服致す様取計らひませう。然らば御免下さいませ』
といふより早く駒に跨り、一鞭あてて雲を霞と陣中指して帰り行く。
『ハヽヽヽヽ、たうとうアークの大将、ヘコたれよつたな。併しマア偉相にランチ将軍を改心させるなんて、御託を云つて行きよつたが、彼奴も駄目だ。そばへゆくと、猫の前へ出た鼠のやうにピリピリふるうて、何もよう云はないのだからなア。ランチ将軍の目の動き方や顔の色ばかり考へて、ハートに浪を立たせる代物だから、到底成功は覚束ない。別れる時のお正月言葉だ。キツとランチ将軍の後について、治国別征伐なんて、洒落てやつて来るでせうよ。宣伝使様、決して油断はなりませぬで、あゝいふことはバラモン教一般の常套手段ですからなア』
『ウン、さうかも知れないが、吾々は決して人を疑ふこた出来ない。何事も惟神に任しておけばいいのだ』
『オイ竜公さま、さう見くびつたものぢやないよ。バラモン教の中にもチツとは骨もあり、花も実もある人物も交ぜつてゐるからな。アークは此頃、バラモン教軍の中で、一種の決死隊ともいふべき団体を作つてるのだ』
『有名無実の団体が幾らあつたつて、役に立つものかい。そんなことを云つて空威張りをするのだらう。コケ威した、曰く何々団、曰く何々会と、雨後の筍ほどにそこら中に奇々怪々な会が創立されるが、宣言は立派でも実行が出来るためしはないぢやないか。そしてアークの創立した会はどんな会だ、法螺の貝か、溝の貝か、どうでロクなものぢやなからう』
『馬鹿云ふな、吾々国士がよつて、国士会といふものを作り、最善のベストを尽してゐるのだ』
『ハハア、まつくろけになつて死ぬ黒死病の会だな。ウンそれで分つた、ペストを尽すのだ。それよりもバラモン省へ掛合つて、一匹の鼠を十銭づつに買上げさせさへすりや、それの方が余程近道だよ』
『貴様にはテンデ話が出来ないワ。国士会と云つたら、国家を憂ふる志士の団体だ』
『獅子か虎か狼か豹か鼠か知らぬが、どうでロクな奴の集まる団体ぢやなからう、アークが発頭人だと聞いちや、余り信用も出来ぬぢやないか。そして何か会の趣意書でも出来てゐるのか』
『先づ不平党の張本人アークさまが主唱者で、おれ達が賛助員だ。此趣意書を一寸拝読してみよ』
と得意気に懐から小さい印刷物を取出して見せた。竜公は手に取り、趣意書を読み下せば左の文章が書いてある。

 趣意書
 国事日に非なれども、天下一人の聴従すべき権威者なし、所謂慨世の士、口を開けば思想の変化を言ひ、思想に対するには思想を以てせざる可らざるを説く、其言や不可なしと雖も、漫然たる抽象論は此際寸効なし。況んや公党公人相率ゐて世を欺き、己を欺き、只自ら守るに急にして、心術の陋劣を暴露して憚らず、益々思想の変化を助長しつつあるに於ておや。吾々国民は寧ろ百人の論客よりも一人の志士の立つべきを思ふ。それ難に赴くは士の本領なり、大にしては天下国家の難、小にしては一地方一個人の難、吾党の士は苟くも辞せず、身を挺して之を救はむことを欲す。もし吾党の士一度立つて解決せざる案件あらば、そは士道の汚辱たらむのみ。何とならば吾国士会は名正しからざれば、断じて立たず、誓約十則に示すが如く、悉く士道に率由して行動すればなり、敢て天下に宣す。
  年 月 日
      国士会

 十則
一、国士はバラモン教男子たることを誇りとす。
二、国士は難に赴くを以て本領とす、但し時処位によるべし。
三、国士は誓つて無名の戦ひを宣せず。但しランチ将軍の命なれば敢て辞せず。
四、国士は対者の為に計つて忠なるを期す。但三五教に対しては此限りにあらず。
五、国士は本来の敵を有せず、故に勝敗に超越す。(河鹿峠の言霊戦に於ける吾軍の行動は其好適例なり)
六、国士は一諾が一死に値するも悔いず、但し最愛の女性に限る。
七、国士は精神を主とし、形式を従とす。但しバラモン軍中に在りては、或は適用せざることあるべし。
八、国士は過去を追はず未来を信ず、但バラモン教の大棟梁大黒主の最後は必ずしも光明ならざることを。
九、国士は無意義なる一日を天に恥づ、但酒宴の時は仮令三日四日たりとも之を恥づることなし。
十、国士は一人の知己を有すれば足れり、但し異性なれば最もよしとなす。

『なアんだ、立派なことを並べてゐるが但書がサツパリ駄目ぢやないか。これだからバラモン式は当にならないといふのだ。羊頭をかかげて狗肉を売るのだからなア』
『これが現代の処世法の最優秀なる手段だ。バラモン教の真髄をうがつたものだ、之でなくちや世の中が渡れないからな』
『アハヽヽヽ、モシ先生、どうです、国士会も、随分奇抜なことを云ふぢやありませぬか』
『ウン結構だ、詐らざるバラモンの告白だ。イヤもう感心致した』
『私だつたら、こんな会へは入会しませぬな。エキスキユーズ・ミー………とやりますよ』
『ハヽヽヽヽ、ドラ行かう。タールさまに案内して貰はうかなア。否国士会の賛助員さま、御先導を願ひます』
竜公『国士会員万歳、アハヽヽヽ』
 かく笑ひ興じながら、治国別外二人は浮木の村の陣屋を指して、宣伝歌を歌ひながら、朝露をふんで勢よく進み行く。
(大正一二・一・八 旧一一・一一・二二 松村真澄録)
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