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文献名1霊界物語 第49巻 真善美愛 子の巻
文献名2第2篇 立春薫香よみ(新仮名遣い)りっしゅんくんこう
文献名3第6章 梅の初花〔1280〕よみ(新仮名遣い)うめのはつはな
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-06-12 16:03:13
あらすじ初稚姫は神素盞嗚大神の命を奉じ、大黒主の身魂を救い天下の害を除くために、ハルナの都に向かってただ一人、征途の旅に出ようとしていた。初稚姫は照国別、玉国別、治国別、黄金姫、清照姫たちと同時に出征の徒に上るはずであったが、神素盞嗚大神の命によって百有余日、自宅において修業を命じられていた。修業が終わって、初稚姫はいよいよ父に別れを告げ、斎苑館の八島主神に挨拶をすべく訪問した。八島主は、初稚姫の精神を試すために、征途の旅に出る前に夫たるべき人を決めておくべきだと告げた。八島主は、初稚姫の疑問に答えて、天国の理想の夫婦とは神が結び給うた婚姻であり、互いに善と真、意志と知性が和合一致していると説明した。初稚姫は、自分は決して独身主義ではないが、ハルナの都の御用が済んでから八島主の世話に預かってそれ相当の夫を持つつもりだと答えた。八島主は初稚姫の答えに満足し、互いに別れの歌を詠み交わした。初稚姫は旅支度に身を整えて斎苑館を出立し、進んで行った。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月16日(旧11月30日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年11月5日 愛善世界社版85頁 八幡書店版第9輯 62頁 修補版 校定版87頁 普及版39頁 初版 ページ備考
OBC rm4906
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本文  初稚姫はハルナの都に蟠る大黒主の身魂を救ひ、天下の害を除かむため神素盞嗚大神の命を奉じ、供をもつれず只一人征途に上らむとし、百日有余を杢助の宅に奥深く潜みて神の教をよく調べ聖言を耽読し愈父に別れを告げ征途に上るべくイソの館の八島主に暇乞ひのため面会を乞ふた。此初稚姫は照国別、玉国別、治国別及び黄金姫、清照姫等と同時に出征の途に上る筈であつたが、神素盞嗚大神の命令黙し難く、ここに一百有余日自宅に於て修業を命ぜらるる事となつたのである。
 初稚姫は、イソの館の奥の神殿に進み、神素盞嗚尊の大前に伺候し、八島主神に挨拶すべく訪問した。八島主は喜んで出で迎へ初稚姫を居間に招じて悪魔征討に対し初稚姫が採らむとする其大略を聞きとり莞爾として打喜び且つ云ふやう、
八島『初稚姫様、貴女は愈数千里を隔てたるハルナの都にお出遊ばすに就いては、最早年頃、独身者では何かの都合が悪いでせう。どうか今の間に夫たるべき人をきめておかなくては、途中に困る事が出来るでせう』
初稚『妾は年が若う厶りますれば夫なぞは持つ気はありませぬ、又理想の夫が見当りませぬから』
八島『人間が地上の世界にある間は如何しても独身生活は出来ませぬ。又理想の夫を得様等と何程思つても、さううまく貴女の気に入りさうな事はありませぬ。夫たり妻たるものは各其欠点を辛抱し合ふてここに初めて円満な家庭を作り、大神の神業に参加し得るのです。理想の夫を求めむとし又理想の妻を得むとする欲望は到底現界では望み得られませぬ。何事も神様の命に従つて夫婦睦じく暮すより道はありませぬ。理想の夫又は妻等は到底天国でなければ自然界に左右せらるる肉体人は到底駄目です。然し乍ら、三五教の御教がスツパリと天下に行き渡り人間の心が理想的に改良さるる様になつた暁は地上にも亦天国の型が其儘に映り人間は理想の婚姻をする事が出来るでせう』
初稚『然ば妾は地上にミロクの世が来る迄待つ事に致しませう。高天原の天人と天人との間に於ける神聖なる婚姻の状態は如何なもので厶りませうか』
八島『ここ五年や十年に到底理想の世界の出現は難かしいでせう。八岐大蛇の亡ぶ迄は到底地上に天国は完全に来ませぬ。高天原の婚姻に就て一言お話しすれば、天人と天女との婚姻あるは猶地上の世界に男女両性の婚姻が行はれてゐるやうなものであります。そして高天原に於けると地上の世界に於けるとはその婚姻に相違の点もあり一致の点もあります。そもそも、
一、高天原の婚姻なるものは智性と意志との二つのものを和合して一心となすの謂であり、智性と意志の二つのものが合一して、動作するものを一心といひます。夫は智性妻は意志と呼ばるる部分を代表するものであります。
一、此和合は元より内分的に起るものであつて、之が霊身に属する時、之を知覚し感覚して愛なるものを生ずる。この愛を婚姻の愛といふのであります。智性と意志両者の和合して一心となる所に婚姻の愛なるものが発生するのである。故に天人は男女一体にして一双の夫婦は二個の天人でなく一個の天人となすのであります』
初稚『夫婦の間に以上御話の如き親和のあるのは男子女子創造の真因より来たるものでせうか』
八島『男子の生るるや自ら智的であるから凡ての思索は智性よりするものです。之に反して女子の生るるや自ら情的であるから、其思索も又意志より来るものであります。男女の性行より見るも形体より見るも明かな事実です。性情から見る時は男子の行動は凡て理性的で女子は情動的であります。その形態の上から見ても男子の面は女子の如く優美で柔軟でない。男子は身体剛健なれども女子は柔嫩なものであります。故に男女間に於ける智性と意志や情動と想念との間にも亦これに似たる区別があります。真と善、信と愛との間にも区別がある。如何とならば信と真とは智性に属し、善と愛とは意志に属するからであります』
初稚『天国に於て青年、成人、処女、婦人の区別がありますか』
八島『霊的意義より言ふ時は、真を全得すべき智を表はして青年成人となし、善に対する情動を表はして処女、婦人といふのである。又この善と真とに対する情動より見て聖場、又は教場を婦人と呼んだり、処女と呼び、変性女子の身魂と呼ぶこともあるのです』
初稚『男子は智性のみ活動し、女子は意志のみ活動するものとの御説は、妾には少しも合点が行きませぬ。女子だつて智性をも有つてゐる様に思はれますが……』
八島『男女の区別なく智性も意志も保有してゐるのです。唯々男子は智性を主とし女子は意志を主とするのみです。人の性格を定むるは、其主とする所如何に由らなければ成らない。併し高天原に於ける婚姻には偏重する所がない。即ち妻の意志は夫の意志であり、夫の智性は妻の智性である。男女互に他の思ふ所を思ひ、志す所を志すが故に、両者の想念と意志とは互に感応し相和合して一体となるのです。この和合は実際上の和合だから夫の智性は妻の意志に入り、妻の意志は夫の智性に入るものです。そしてこの和合は殊に相互間に於てその面を見る時に於て生ずるものである。高天原には、想念と情動の交通あるが上に殊に夫婦の間には相愛深き故、この交通は更に濃厚密接の度が強いからであります。是を見ても高天原の天人等の婚姻状態は如何にして成立するか。この愛を喚起する所の男女両心の和合とは如何なるものかが明かになつたでありませう。天国のこの愛なるものは相互に自己の有する一切を挙げて他に与へむと願ふ心なることは明かであります』
初稚『男子の智性と女子の意志との和合して一心一体となり、天国の婚姻が神聖に行はれる状態は明瞭に覚る事を得ました。併し智性は何物を摂受し、意志は何ものを天国に於て摂受し得るものなるか今一度御明示を願ひます』
八島『神聖なる婚姻をなせる男女の間に此の如き和合一致のある限り彼等天人男女は婚姻の愛に居り又之と同時に智慧と証覚と幸福と歓喜とに居るものであります。一切の智慧と証覚と幸福と歓喜の来るべき源泉なる神善の神真とは主として婚姻の愛の中に流入するものなるが故であります。故に婚姻の愛なるものは神格が流入する所の平面そのものである。蓋し同時に真と善との婚姻だからであります。真と善との和合は智性と意志との和合の如くであつて、智は神真を摂受し、これに由つて其智性を成就し、意は神善を摂受し之に由つて其意性を成就するのであります』
初稚『智性と意志との和合と、真と善との和合に如何なる区別がありますか』
八島『畢竟同一であります。真と善との和合は天人を成就し、又智慧と証覚と幸福と歓喜とを成就するものです。如何となれば天人の天人たるは如何なる程度まで彼の善は真と和合し、彼の真は善と和合したかに在るのです。要するに彼の愛は信と和合し彼の信は愛と和合した程度の如何に由つて婚姻の行はるるものであります』
初稚『善と真との和合の原因は何れより来たるものですか』
八島『太元神が高天原及び地の世界にある万物に対して有し給へる神愛より発するのです。この神愛より神善を出し、そして此神善は天人と神的諸真に居る人々とが享くるものである。善を享くる唯一無二の器は、真より外に無いのだから、真に居らないものは何事も太元神及び高天原より享くることは出来ないのです。故に人間にある所の諸々の真にして善と和合した限り、太元神及び天界と和合するのです。婚姻の愛の原頭なるものは茲にあります。故にこの愛なるものは神格の流るる平面そのものです。又高天原に於て善と真との和合せし状態を、天的婚姻と云ふのであります』
初稚『高天原の夫婦は二個一体即ち一天人の形式の様に承はりましたが、尚今一度詳細な説明を願ひます』
八島『天人または地上の人間の中に和合した善と真とは一にして二にあらず。何故なれば善は真よりし真は善よりするからである。この和合は人その志す所を思ひ、その思ふ所を志す時に成り立つ所の和合の如くにして、この時彼の想念と意志とは一となつて即ち一心を成すに至る。何んとなれば想念は意志の欲する所に従つて象づくり之を形式の上に現はし、而して意志は之に歓喜の情を附与するからであります。高天原に於て男女両者の婚姻せるを一個の天人と呼びなし、両個の天人とせないのは之が為であります』
初稚『元始に人を造り給ひしものは之を男女に造れり。此故に人父母を離れて其妻に合ふ。二人のもの一体となるなり。されば二つにはあらず一体なり。神の合せ給へるものは人之を離すべからず。此言は人皆受け納るること能はず、唯賦けられたるもののみ之を為し得べし……と聖言に記されたるは天人の居る天界の婚姻ですか』
八島『天界に於ける天人の婚姻であつて是れ善と真との婚姻、神の結び給ふた婚姻は人が離すことは出来ない。要するに善を真から離すことは出来ぬといふ意義であります。是に由つて真の婚姻は何れの処から創まるかを見ることが出来るのです。即ち先づ婚姻を結ぶものの心裡が成り立ち之から伝はつて肉体に下り、此処に知覚ありて之を感じて愛となるのです。凡て肉体の感ずる所、知覚する所は、皆其源泉を人の霊的原力に汲むものなるが故であります』
初稚『いろいろと御理解を仰ぎまして有難う厶います。然し乍ら、それを承はらば尚々私は地上に於て婚姻をする事が気が向かない様です。併し乍ら父にも申して置きましたものですが、ハルナの都の御用が済んでから貴方様方の御世話に預つて、それ相当の夫と婚姻する事を誓つておきます。決して妾は独身主義でやり通さうとは申しませぬ。何と云つても年も若く前途も長いのですから、独立独歩の活動が致し度う厶ります』
八島『さう仰有れば強つて申しませぬ。実の所白状致しますが素盞嗚大神より貴女の御精神を試して見よとの仰せで厶りました故、斯様の事を申上げました。其御決心ならばキツとハルナの都の邪神を言向和す事が出来るでせう。夫がお在りになるとすれば実際の活動は出来ませぬからな。八人乙女の方々でも夫を持たれた方は家庭の主婦として自由自在の活動が出来ない様なものです。まだ独身でゐらつしやる英子姫様悦子姫様等はあの通りの大活動を試みられて居られますからな。それもやはり独身のお蔭ですよ。時に初稚姫さま、杢助さまは貴女の出立を何故お送りにならないのですか』
初稚『父は左様な女々しいものでは御座りませぬ。妾が「父上さま、之より御用のため遥々ハルナの都へ参りますから何卒御壮健で」と申しましたら父は直ちに声を荒らげ「決して杢助の事は気にかけちやならない。お前はお前の御用があるのだ」と云つたきり門口へ見送りもして呉れませなんだのです。実に親の愛と云ふものは深いもので厶ります。妾も父の雄々しき心根に対しても飽迄大神様のため、世人のために、活動を致さねばなりませぬ』
八島『成程、此親にして此子あり、イヤもう感じ入りました。素盞嗚大神様が貴女親子の御精神をお聞きになりましたら嘸御満足に思召すで御座りませう。何卒仕合せよく征途にお上り下さいませ』

初稚姫『惟神神の恵みに助けられ
  ハルナの都に進む嬉しさ。

 八島主神の命よ吾父を
  守らせ玉へ朝な夕なに』

八島主『親思ひ子思ふ心ぞ世にも尊けれ
  神に任せし心ぞ尚も尊き。

 初稚姫イソの館を出でませば
  神は汝をば守りますらむ』

初稚姫『八十曲津如何に伊猛り狂ふとも
  誠の剣に斬り屠らなむ。

 大神の依さし玉ひし言霊を
  力と頼み行くぞ嬉しき』

八島主『いざさらば之にてお別れ申すべし
 初稚……………八島主君安くましませ』

と歌ひ終り此処に両神人は袂を分つ事となりぬ。初稚姫は春とは云へどまだ寒き風に衣の袖を煽られ乍ら、ウブスナ山の咲き初めし梅の花の薫りに名残を惜しみつつ、此聖場を只一人草鞋脚絆に身を固め扮装も軽き蓑笠、金剛杖を突き乍ら踏みもならはぬ長途の旅に上るべく勇み進み行く。
(大正一二・一・一六 旧一一・一一・三〇 北村隆光録)
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