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文献名1霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻
文献名2第1篇 和光同塵よみ(新仮名遣い)わこうどうじん
文献名3第3章 高魔腹〔1297〕よみ(新仮名遣い)たかまはら
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-07-09 14:19:22
あらすじ初稚姫は祠の森の神殿に参拝し、遠征の守りを祈願すると高姫の居間へ引き帰した。高姫は遠く従って初稚姫の後ろ姿を打ち眺め、どこともなしにその神格の完備せるに驚き舌を巻いた。高姫は、初稚姫の神格に感じて心の底より尊敬したが、どことなく恐怖心にもかられ、かつやや嫉妬の念も兆したのである。高姫の身体にて沈黙していた金毛九尾の悪狐は高姫の嫉妬心が兆したのをさいわい、たちまちささやいた。あの初稚姫は稚桜姫命の再来であれば、到底我々は匹敵できない、師と仰いで共に神業に参加すべきだ、とうまく取り入ってきた。高姫は初稚姫に対する態度を一変した。初稚姫は、高姫には金毛九尾の悪孤の霊が憑依していることに気づきながらも、もし自分が真相を現せば悪孤は高姫の肉体をたちまち亡ぼすかもしれず、また逃げ出して別の肉体に居住し世の中を惑乱するかもしれない、と洞察した。そして、少しでも長く高姫の肉体に残留させるように仕向け、しばらくは自分は猫をかぶって交際し、高姫とこの地獄的精霊とを天国に救ってやろうと決心した。高姫の精霊は、自分は悪神の張本の金毛九尾の悪孤であることを初稚姫に自ら明かした。そして、高姫の肉体にある間に感化されて改心し、悪神の企みはすっかり白状されたため、高姫は精霊と共にこの祠の森で人民の因縁をよく調べる役目に従事しているのだ、と語りだした。そして、自分がここで信者を改める役を正式に認めるよう、三五教に働きかけてほしいと虫のよいことを頼みかけた。初稚姫は高姫の精霊の企みを見抜き、ここは下手に出て自分にはそのような権限はなく、むしろ神徳高い高姫にご教授を願いたいと言って一切の光明を包み、普通人のようになってしまった。高姫はニタリと打ち笑い、自分についてここで修業するようにと言い聞かせた。そして自分が杢助の後妻に収まったことを明かし、初稚姫を娘扱いしだした。初稚姫も高姫と夫婦になったのは兇霊であることを知っていたが、そらとぼけて高姫の話にのり、義理の娘のふりを通した。高姫は、初稚姫に請われて、杢助を探しに森林の中へ出て行った。高姫の精霊は、初稚姫の芝居に築かず、初稚姫が素直に義理の娘として高姫に敬意を表していると思いこみ、気高いところがあって賢いあの娘をなつかせておけば、三五教の中での自分の地位も高まる、と皮算用をしている。精霊がその企みを声に出して囁いたので、高姫は、そのようなことを声に出して誰かに聞かれたらどうする、と精霊をたしなめた。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月20日(旧12月4日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年12月7日 愛善世界社版33頁 八幡書店版第9輯 160頁 修補版 校定版35頁 普及版19頁 初版 ページ備考
OBC rm5003
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本文  初稚姫は祠の森の神殿に参拝し、長途の遠征を守らせ給へと祈願をこらし、再び高姫の居間へ引返した。高姫は遠く従うて神殿近く進み、初稚姫の後姿を打眺め、何処ともなしに其神格の完備せるに打驚き舌をまいた。そして高姫は其神格に感じ、心の底より初稚姫を神の如く尊敬した。併し乍ら何処ともなく恐怖心に駆られ、且其神格の偉大なるに稍嫉妬の念を兆したのである。今まで初稚姫の大神格に圧倒され、暫し高姫の身体内に潜みて沈黙を守つて居た金毛九尾の悪狐は、高姫が少しく嫉妬心の兆したのを幸ひ、其虚に入り忽ち囁いて云ふ。
『吾は汝の略知る如く、神代に於て常世姫命に憑依し罪悪の限りを尽した金毛九尾白面の悪狐である。併しながら時節来りてミロクの大神、地上に降臨し給ひし上は、吾等は何時迄も悪を続ける訳には行かぬ。吾は悪の張本人なれば世の中一切の悪神の企みは皆知つてゐる。悪に強ければ善にも強い。吾は金毛九尾白面の悪狐だ。そして汝は常世姫命の身魂の再来だ。もう斯うなる上は一切万事を打ち明けて、悪の企みを瑞の御霊の大神にお知らせ申さねばならぬ。就いてはあの初稚姫は稚桜姫命の再来なれば、到底汝等の匹敵すべき神人ではない。寧ろ吾よりトコトン改心を致すべければ、汝も彼の初稚姫を師と仰ぎ、共に神業に参加すべし』
と甘く高姫を誑惑してしまつた。高姫は兇霊の言を深く信じて初稚姫に対する態度を一変した。初稚姫は神殿の拝礼を終り、階段を下りながら心私かに思ふやう、
『彼高姫には金毛九尾の悪狐の霊憑依せり。而して彼悪霊は形体を有するものなれば、吾真相を現はさば忽ち彼が肉体を亡ぼすか、但は遁走して又もや相応の肉体に住居を構へ世を惑乱するに至らむ。如かず吾は和光同塵の態度を極力維持し、彼の悪霊を高姫の肉体に長く残留せしめ、彼が根本より改心すれば重畳なれども、万一改心せずとも高姫の肉体中に秘め置かば、彼精霊は外に出づる虞なし。要するに高姫の肉体は天下を乱す悪霊をつなぐ処の牢獄と見ればいい。もとより徹底的兇霊なれば、神の光明に照されなば、兇霊は忽ち自暴自棄となり、益々神業の妨害をなすべし。如かず、神慮に背くかは知らざれども、暫く吾は猫を被つて彼と交際し、何時とはなしに高姫と精霊とを天国に救ひやらむ』
と決心し、大神に念じながら素知らぬ顔にて高姫の居間に帰つて来た。精霊は高姫の口舌を使用して、いとやさしげに言葉を飾つて云ふやう、
『変性男子の御身魂初稚姫様、よくも御降臨下さいました。私は三五教の宣伝使、御存じの高姫で厶ります。大神様の御都合により悪神の張本金毛九尾の悪狐が私の肉体に潜み入り、私の真心に感化されて漸く改心を致しまして、今迄の悪をスツクリ白状致しました。就いては凡ての悪神の企みは何も彼も存じて居ると申して居りますから、私が守護神と共に此祠の森に大門を造り、凡ての人民の因縁をよく調べ改心をさせた上、斎苑の館へ送る考へで厶ります。何卒此事をお許し下さいます様に、変性男子の御霊様、お願ひ申します。そして一方には変性男子の系統なる義理天上日出神が、厳の御霊の御命令によりまして世界中を調べに歩き、世の初まりの根本の根本の成り立ちから、人民の大先祖の因縁、大黒主の身魂は如何なる因縁があるか、竜宮の乙姫のお働きは如何なるものかと云ふ事を知らしたいので厶ります。今の三五教には宣伝使は沢山厶りますが、皆智慧、学で神界の事を考へようと致すので厶りますから何も分りませぬ。貴女は変性男子の生粋の大和魂の善の神様で厶りますから、何も彼も三千世界の事は御存じで厶りますが、外の守護神や宣伝使や信者はサツパリ駄目で厶ります。それ故此処に大門を拵へ、私が一々因縁をあらため、斎苑の館へ参拝さす御役にして下さいませぬか』
と兇霊はうまく高姫に化けて虫のよい事を頼みかけた。初稚姫は彼が奸計を残らず看破した。されど前述の如く初稚姫は此悪霊を審判する事を避けられたのである。
『貴女は信心堅固にして霊界によくお通じ遊ばした方と見えますな。妾は賤しき杢助の娘と生れ、まだ年も若く、社会的の経験さへも積んでゐない愚者で厶りますから、到底霊界の消息等は分りませぬ。就いては貴女に対し左様の事をお許し申すなどとは以ての外の事で厶ります。何れ神様が貴女の御神力をお認め遊ばしたならば、屹度瑞の御霊の大神様からお許しが厶りませう。妾には左様な権限は少しも厶りませぬから、左様な事を仰有らない様にお願ひ致します。何卒至らぬ妾、神徳高き貴女様より御教授を御願ひ致したいもので厶ります』
と一切の光明を包み、普通人の如くなつて了つた。高姫はニタリと打笑ひ、
『アー、さうだらうさうだらう、それが正直の処だ。まだ年も若い癖に宣伝使に歩かすとは、瑞の御霊様も余程物好きな珍らし物喰ひだな。どれどれ此高姫がここで根本の根本の因縁を説いて聞かしますから十分修行をなさいませ。それでなければ、訳も分らずに宣伝に歩いたり、大黒主を言向和すなどとは、以ての外の無謀のやり方で厶りますからな』
『何分、至らぬ妾、老練な貴女様の御薫陶をお願ひしたいもので厶ります』
『ハイ、よしよし、お前は水晶魂だ。本当に素直な可愛い娘だな。これから此小母さまの云ふ事を聞くのだよ。否小母さまではない、絶つてもきれぬ母子だから、そのつもりでつき合つて下さいねー』
 初稚姫は心に打笑ひながら故意と空惚けて、
『小母様、今貴女は妾ときつてもきれぬ母子だと仰有いましたが、それは身魂の母子で厶りますか。チツとも愚鈍の妾には合点が参りませぬワ』
『身魂の母子は申すに及ばぬ、お前さまは杢助さまの大切の娘だらう。其杢助さまは此度神様の因縁によつて常世姫命の改心した善の折の生粋の肉宮の此高姫の夫とおなり遊ばしたのだよ。杢助様だつて、此高姫だつて、よい年をしてから若いものか何ぞの様に夫婦になつたり、そんな見つともない事はしたくはない。胸に焼鉄をあてる様に思うてゐるのだが、これも神様のため、万民を救ふため、千座の置戸を負うて御神業に参加してるのだよ。訳の分らぬ人民がいろいろと申すであらうなれど、人民の申す事に心を悩まして居りたらミロク神政の御用が勤まりませぬ。訳知らぬ人民は、杢助、高姫の結婚を何となつと申して笑へば笑へ、誹らば誹れ、神のお仕組一厘の秘密が如何して一寸先も見えない人民に分るものか、と云ふ磐石の如き決心を以てここに夫婦の約束を結んだのだから、初稚さま、貴女もそのお積りで、私を母と思つて下さいや。私も貴女を大切の大切の御子と致して敬ひますから、母となり子となるのも昔の昔のさる昔、も一つ昔のまだ昔の天地開闢の初めから大神様より定められた因縁ぢやによつて、何卒その覚悟でゐて下され。何事にも素直なお賢いお前さまだから、此高姫の生宮の申す事、よく呑込めたでせうなア』
 初稚姫は杢助の本物でなく、獅子と虎との中間動物なる兇霊に騙されてゐる事はよく看破して居た。されど故意と空惚けて、
『高姫さま、私の父が何時そんな事を貴女と約束致しましたのですか、私今が初耳ですわ。まアまアまア不思議な御縁で厶りますこと。さうしてお父さまは何処へ行かれましたの』
『一寸此森の中へ散歩にお出でになつたと見えます。杢助様は森の散歩が大変にお好きだと見えましてね。お前さまが此処へ訪ねて来られた事をお聞きになつたら、嘸喜ばれるでせう』
『はて、妙な事だわ。妾のお父さまは斎苑の館の総務を勤めて居らつしやるのだから、ここへお越し遊ばす道理はありませぬがな』
『これ初ちやま、お前の、さう疑ふのも尤もだ。実の処は杢助さまは、あの我の強い東野別の東助さまと云ふ副教主との間に事務上の衝突が起り、それがために斎苑の館を追ひ出されなさつたのですよ。東助の野郎、正直一途の英雄豪傑、三羽烏の御一人なる杢助さまを追ひ出すとは以ての外の悪人ぢやありませぬか。あの東助はやがて今迄目の上の瘤の様に困つてゐた杢助さまを首尾よく追ひ出し、斎苑の館の全権を掌握し、終には八島主の教主さまをおつ放り出し、自分が其後釜にすわると云ふ野心を抱いてをるのですよ。それでお前と私が此処で一肌脱いで、斎苑の館へ参る信者を小口から虱殺しに調べ、斎苑の館へやらぬ様にせねばなりませぬ。私がここで杢助さまと大門開きをしたのは、杢助さまや八島主の教主がお困りになつた時、お助け申すやうにチヤンと仕組をしてゐるのだから、お前さまも何処へも行かず、此処に居つて親子三人御用を致さうぢやありませぬか』
『それは又不思議な事を承はります。東助様はそんなお方ぢやない様に思ひますがな』
『それが善の仮面を被つてゐる悪魔ですよ。屹度悪人は悪相を以て現はれるものぢやありませぬ。所在虚偽と偽善を以て人民を詐り、虚栄的権威に甘んじてゐるものですよ。これ初稚さま、油断してはなりませぬぞや。此高姫は海千川千山千の修業をした善にも強い、悪にも強い、そして悪の企みは何も彼も看破してゐるのだから、一分一厘間違ひはありませぬよ』
『あの東助さまは小母さまの若い時のお馴染だつたさうですな。そんなに悪口を云ふものぢやありませぬよ。父の杢助に比ぶれば、幾層倍人格が上だか知れぬぢやありませぬか』
『ヤツパリ子供だな。然し子供は正直ぢや。何と云つても水晶魂だから心に罪がないので、表面から良く見える人を信用なさるのだ。そこが本当に尊い処だよ。然し高姫の云ふ事はチツとも違ひませぬぞや』
『さうで厶りますかな。一遍父に会つてみたいものですがな。もし小母さま、長上をお使ひ申して真に済みませぬが、一度お父さまに会ひたう厶りますから、探して来て下さいませ』
『アアさうだろさうだろ、無理もない。親子の情と云ふものは本当に尊いものだな。吾身を捨てる藪はあつても吾子を捨てる藪はないと云ふ事だが、杢助さまも何も彼も天眼通で知つて居りながら、こんな可愛い娘が来て居るのに、そしらぬ顔して森に散歩してゐなさるとは本当に水臭い方だな。子の心、親知らずだ。然し初稚さま、此高姫は斯う見えても本当にやさしいものですよ。杢助さまに比べて幾百倍も可愛がつてやりますから、何卒私を本当の母だと思つて下さいや』
『ハイ、御親切有難う厶ります』
と俯向いて見せた。
『これ初稚さま、一寸待つてゐて下さい。お父さまのあとを探して今直に屹度連れて参りますから』
と云ひながら羽ばたきしつつ欣々として森林の方に行く。高姫は森の茂みに隠れて後ふり返り舌をニユツと出し、いやらしい笑みを漏しながら独言、
『何と云つてもヤツパリ子供だな。然しながらあの娘は何処ともなしに気高い処もあり、中々シヤンとした事を云ふ。あれをうまくチヨロまかし自分の子として置けば、三五教は吾手に握つた様なものだ。何と都合のいい事になつたものだな。これから一つでも、うまい物があつたら、あの娘に呉れてやり、そして十分懐かして置かねばならぬ。然し都合のいい事には杢助さまが私の夫だから、切つても切れぬ仲だ。ああ有難う厶ります、八岐の大蛇様、金毛九尾の大神様』
と口の中から囁いた。高姫は此声に驚いて目を怒らし、臍の辺を握り拳でトントンと打ちながら、
『こりや、金毛九尾の悪狐奴、何と云ふ事を申すのだ。左様な事を申すと、もう此高姫は肉体を借さぬぞや。杢助さまや初稚姫の傍で、そんな事でも云うて見よれ。此高姫は立場がないぢやないか。改心致したと云うたぢやないか』
 腹の中から、
『ここは誰も居ないから一寸云つて見たのだから、さう怒るものぢやない。メツタに人の居る処で正体は現はさぬから安心しておくれ』
『よし、屹度守るか、うつかりした事を申すと常世姫の生宮が承知しませぬぞや。これから八岐大蛇や金毛九尾はスツカリ改心致して、あとへ日出神の義理天上が這入つてゐると何処までも主張するのだよ。よいか、分つたか。馬鹿な守護神だな』
 腹の中から、
『何とまア、我の強い、向ふ息のきつい肉体だな、アハハハハ』
(大正一二・一・二〇 旧一一・一二・四 北村隆光録)
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