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文献名1霊界物語 第63巻 山河草木 寅の巻
文献名2第1篇 妙法山月よみ(新仮名遣い)すだるまさんげつ
文献名3第3章 伊猛彦〔1610〕よみ(新仮名遣い)いたけりひこ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2019-09-11 14:30:39
あらすじ玉国別は伊太彦の申し出に対し、もろ手を組んで思案に暮れている。玉国別は、伊太彦が玉への執着にとらわれて焦っているのではないかと心配していた。玉国別は、宝玉は神様から与えられるものだから、自分から求めて得ようとするのはよろしくない、それよりも自分の内なる玉を磨いたほうがよい、と諭した。伊太彦は内在の玉が大切なのはわかっているが、霊肉一致の原理によって外形的な玉も必要なのだ、と反論する。そして自分は神界からの内流を得て言っているのだ、と玉国別に反論する。そこまで言うなら仕方がないと玉国別も折れた。伊太彦は師匠の許しを得て、カークスとベースを従えて、スーラヤ山指して意気揚々と出発してしまった。一同は伊太彦の朗らかな意気に笑いに包まれた。玉国別は、伊太彦が神界の経綸で神掛かりになっていたと明かし、後々その霊の素性がわかるだろうと告げた。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年05月18日(旧04月3日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年2月3日 愛善世界社版33頁 八幡書店版第11輯 274頁 修補版 校定版34頁 普及版64頁 初版 ページ備考
OBC rm6303
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本文  玉国別は三人の話を聞いて双手を組み何か思案に暮れてゐる。伊太彦は気をいらち、
『もし先生、千騎一騎の此場合、何を御思案して厶るのですか。貴方も玉国別と名を頂いた以上は、今お聞きでせうが夜光の玉を、も一つ伊太彦にお取らせになるのも、お名前から云つても普通の事だと考へます。私も諦めて居りましたが、又俄に何だか勇気が勃々として参りました。諺にも「聞かざるは之を聞くに如かず、之を聞くは之を見るに如かず、之を見るは之を知るに如かず、之を知るは之を行ふに如かず」と云ふ事が厶いますから、玉の所在を聞いた以上は、何処迄も実否をつきとめ、果して玉在りとせば、之を竜王の手より預つて帰らうと思ひます。そして竜王に三五の道を説き聞かせてやり度う厶いますが、どうか私を特命全権公使に任命して下さいますまいかな』
玉国『「来りて学ぶを聞く、未だ行きて教ふるを聞かず」と聖人も云つて居る。又お前の様に余り強ばると失策をやらうまいものでもないから、些とジツクリしたら宜からう。ウバナンダ竜王に教をするのは宜いが、ここへ言霊を以て招き寄せて教へてやつたらどうだ。こちらから行く必要はあるまい。諺にも「兵強ければ即ち滅び、木強ければ即ち折れる」と云ふ事がある。人間は控目にすることが肝腎だからな』
伊太『先生、貴方は卑怯な事を仰せられますな。「危きは疑ひに任すより危きはなし、危きものは其安を保ち、亡ぶるものは其存を保つ」と云ひますぜ』
 玉国別は儼然として容を改め、徐に口を開いて、
『伊太彦さま、貴方は夜光の玉 夜光の玉と頻りに熱望して居られますが、形態ある玉は或は毀損し或は紛失する虞れが伴ふものですよ。夫れよりも貴方御自身が所持して居らるる内在の宝玉を穢さないやうに為さいませ』
伊太『内在の玉とは何ですか。拙者はそんなものは持ちませぬがナア。貴師は夜光の玉をお持ちになつたものだから、ソンナ平気なことを謂つて居られるでせうが、苟くも三五教の宣伝使たるもの玉の一つ位有形的に所持せなくては、巾が利かないぢや有りませぬか。現に、イク、サールの両君さへも結構な水晶魂を神界より与へられて居られるでせう。拙者は如何しても、今回はお許しを戴いて大蛇の窟に飛び込み、一箇だけ手に入れて見たいものです。言依別命様も国依別様も琉と球との宝玉の威光によつて、アンナ立派な御神業を遊ばしたぢや有りませぬか。現にこの霊山に宝玉ありと聞いた以上は、実否は兎も角も、一度探険と出かけたいものですなア』
玉国『伊太彦さま、御説は御尤もだが俺の話も一つ聞いて貰ひたい。先づ第一に僕が玉を所持して居るのは貴方の手を通して徳叉伽竜王から預かり、之を大神様に奉納せなくては成らぬ宝玉だ。この御用も僕から決して希望したのでは無い、惟神の摂理によつて自然に僕があづからなくてはならない様になつたのだ。天の命ずる所だから、之を拒むことは出来ない。要するに竜王が帰順の至誠を表白する一つの証拠品だ。之を僕が預かつて大神様に献つて上げねば、竜王さまの解脱が出来ないからだよ。お前の様に自分の方から求めて宝玉を得ようとするのは、余り面白くないと思ふがなア。伊太彦さま、僕が何時ぞやら比喩話を聞いたことを今思ひ出したから聞いて下さい。エヽと或る処に一人の男があつて、友人の所へ訪問した。そして大変に振舞酒に泥酔してグタグタに前後も知らず酔ひ潰れて了つた。その時にその親友は、或る官用のために急に出掛けることと成つたので酔ひ潰れて居る友人を色々と揺り起して見た所が、容易に目が醒めないので止むを得ず、眠つてゐる友人の衣服の裏へ非常に高価な玉をソツと繋いで出掛た。其後になつて酒に酔ひ潰れてゐた男は眼を醒まし、友人の繋いで置いて呉れた球のことは一向に気が附かずに、親友のゐないのに驚き家を立出で、懐中無一物のため仕方がないので放浪して他国へ出かけて行つた。何と云つても無銭旅行をやつてゐるため衣食と住居に就て具さに艱難辛苦を嘗めた。然しその男は例の親友が自分の衣服の裏に、貴重なる宝玉を繋いで置いて呉れたことは夢にも知らず、依然として衣食に窮し所々方々と放浪し苦辛を嘗めた。所が余程経つてから後のこと、偶然にも昔の親友に出会した。そこで今まで艱難苦労したことの一部始終を涙と共に物語ると、友人は吃驚して、「君はマア何といふ馬鹿な真似をしたのだらう。何もそれ程迄に苦まなくてもよかつたのだ。昔君と僕と酒を呑んだ際に君は大変に酔つてゐたので知らなかつたけれ共、君に将来不自由なく安楽に暮させようと思つて、態々高価な宝珠を、君の衣服の裏に繋ぎ隠しておいた筈だ。まア、一度調べて見給へ、今も当時の球は君の衣服の裏にきつと有るに違ひない。君がその球にさへ早く気が附いてゐたら、決して今迄の様な苦労なんか為なくても可かつた筈だ。早く其の球を取り出して何なりと君に必用なものを買ふ資料にしたが可い」と親切に諭した。所がその男は今更のやうに気がついて衣服の裏を査べると親友の言つた通り高価な球があつたので、男は友の懇情を涙と共に感謝し、それから後は安楽に暮したと謂ふことだ。然し伊太彦さま、これは譬話だから有形の宝玉ではない。人間が本来具有せる内在の神でもあり霊的の宝玉だ。そして球を繋いで呉れた親友と云ふのは、吾々に神の性能あることを知らして下さつた瑞の御魂の救ひ主、神素盞嗚尊様だ。又酒と云ふのは名利女色等の際限なき欲望のことだ。そして酒に酔ひつぶれた男と云ふのは、果して何人であらうか』
伊太『先生ソンナ事は三十万年未来に於て月照彦様が釈迦と現はれて、御説きになつた法華経の七大比喩の中に記してある文句ですよ。内在の玉は既に已に認めて居ります。併し世界は顕幽一本とか霊肉一致とか云つて、内外に玉が必用ぢやありませぬか』
玉国『アヽ困りましたなア。到底拙者の言霊では伊太彦砲台の陥落は不可能かも知れぬ。治道様、貴方一つ援兵を繰出して下さいな。何うやら玉国別の軍勢は旗色が悪くなつた様です』
治道『伊太彦さま、先づ冷静にお考へなさいませ。現在の吾々お互を神直日大直日の神鏡に照らして反省して見ると、今玉国別様の御言葉の酔ひ潰れの男とは、若しや自分共の事を仰有つたのでは在りますまいか。人間は兎角忘れてはならない事を忘れたり、忘れて可い事を忘れないものです。今私達は肉団の胸の中に高価な珠を持ち乍ら忘れ込んで了つて居るのです。又その珠を用ゆることもせずに徒に形ある宝に心酔して、肝腎の霊魂を失つて居るのでは有りますまいかなア』
伊太『……』
玉国『魯の哀公は、「人の好く忘るるものあり、移宅に乃ち其妻を忘れたり」といつた所が、孔子は亦、之に対して「また好く忘るること此より甚だしきあり。桀紂は乃ち其身を忘れたり」と皮肉を言つたと言ふが、桀と紂とは支那の未来の暴君で、酒地肉林の淫楽に耽つて、遂にその身と国家とを失つた虐主である。何が一番大きな忘れものだと言つても、自分を忘れる程、大きい忘れものは無からう。人間の弱点は兎角この忘れる筈のもので無い自分を忘れてゐる場合が多いものだ。桀や紂の如く暴君たらずとも、金銭や名誉や酒色の暴君となつて何時も本来の我を忘れてゐるのだ。伊太彦さまの霊肉一致説も亦一理ある様だが肝腎の御魂の置所を忘れては居ないだらうかなア』
伊太『御心配下さいますな、拙者は神界から直接内流があつて命令を受けてゐるのです。何が御都合になるか判りませぬからなア』
玉国『神界からの内流とある以上は、吾何をか言はむやだ。そんなら伊太彦さま、玉国別はこれ限り何も申しませぬ。自由に神示の御用をなさい。人間の分際として神の御経綸は到底測知する事は出来ませぬからなア』
伊太『さすがは先生だ。有難うエヘヽヽヽ。サア、お許しを得た以上は、之から逸早くスダルマ山の嶮を越え、カークス、ベースの勇士を従へ旗鼓堂々としてスーラヤの湖に永久に漂ふ宝の山、スーラヤ山の岩窟に攻め寄せ、ウバナンダ竜王を言向け、夜光の玉を貢がせ、三人轡を並べて黄金山に参上り、天晴功名手柄を致すで厶らう。者共、吾に従へ』
と云ひ乍ら肩肱怒らし、カークス、ベースの両人を引率れ、玉国別一行に別れ、「何れエルサレムにて御面会」と一言を残し、意気揚々として、カークスに間道を教へられ足早に進み行く。
 後見送つて玉国別は打笑ひ、
『アハヽヽヽヽ、イヤ、面白い男だ。之で伊太彦の使命も果せるであらう。併し乍らスーラヤ山の竜王は非常に猛悪神と聞いて居る。どうも伊太彦一人にては心許ない。真純彦さま、その他皆さま、之からそろそろ時機を見図らひ応援に参りませうか』
治道『謹んでお伴いたしませう。伊太彦さまは随分快活な人ですな。拙者は非常に伊太彦崇拝熱が高まつて参りましたよ。アハヽヽヽヽ』
真純『「材に任じ能を使ふは務めを済す所以なり、物を済す所以なり」と云つて、流石は玉国別様だ。適材を適所にお使ひ遊ばす、その御明察には感じ入りました』
玉国『伊太彦さまは本当に偉いですよ。最前から彼んな事を云つてゐましたが神界の御経綸によつて神懸になつてゐたのです。諺にも「死を知るは必ず勇なり。死するは難きに非ず、死に所するは難し」と云つて、剣呑な所を好んで神界のために行かうとする、その精神は天晴なものですよ』
三千『伊太彦さまは普通の人間ぢやありますまいね』
玉国『普通の人間ならば如何してタクシャカ竜王を言向和す事が出来ませう。やがて霊の素性が分るでせう。私も今初めて非凡の神格者なる事を……恥し乍ら悟つたのです、アハヽヽヽ』
デビス『サア、皆様、ボツボツ参りませうか』
『宜しからう』
と一同は油蝉の鳴く炎天の山道を喘ぎ喘ぎ登り行く。
(大正一二・五・一八 旧四・三 北村隆光録)
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