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文献名1出口王仁三郎全集 第1巻 皇道編
文献名2第6篇 愛善の真意義よみ(新仮名遣い)
文献名3第6章 挙国更生よみ(新仮名遣い)
著者出口王仁三郎
概要
備考
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ページ460 目次メモ
OBC B121801c52
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本文の文字数14227
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本文 出口氏『ホウ、沢山来てゐるの。ハゝわしは此処か』(と椅子に腰を下ろされて)
出口氏『寒うなつたの……足がまだ癒らんで困るわ』
神本『それでは只今から「物を尋ねる会」を開かして頂きます。今度「昭和」一月号を挙国更生号としたいと思つております。この秋から挙国更生運動を全国的に行ふといふ事になつて居ります。就きましてはこれ等の指導に任ぜられる本部の主な方々に於かれても十分挙国更生の真意義を会得しておいて頂く必要があるので、今夕は「昭和」誌の編輯責任者と挙国更生運動の指導者の方々に集つて頂いて、総裁を囲んで御教示を仰ぎ速記録を「昭和」誌に発表し、読者の羅針盤とし全同胞八千万の燈台とも致したいと思つて居ります、挙国更生と申しますれば随分其範囲が広汎でありますので、各部門に分けて御話をお願ひしたいと存じます。尚時間が許しましたならば、その他の事柄に対しても御教示を仰ぎ度いと考へて居ります。政治、宗教、思想、経済、教育、法律、軍事(陸、海、空)国防、衛生、或は言語等、色々な方面に就いて皆様の御伺ひしたいと思つてゐられます事を、忌憚なく聴いて頂いて、それに対して、総裁の御解説を頂き度いと存じます。どうか宜しく御願ひ致します』
出口氏『挙国更生といふ事は今度初めて云ふけれども、大本の御筆先にある様に、明治二十五年から更生運動が始まつて居る・それで、政治、宗教、教育、芸術一切の立替ヘ立直しを、明治廿五年の旧正月から神様が叫ばれて居る。でこの更生といふ事は更に生れる、新しく生れる、新しく生きる、改めて生きる等の意味である。又生活を改める、変更の更であつて、今迄の一切の誤つて居る、矛盾した所の事を根本的に元へ、本当に惟神の道へ戻して生かすといふのが更生運動であつて、今迄の宗教は一切この自己の事計りを説き、又偶には蛍火の様な光りを放つて社会的の事業も義務的にやつて居るけれども、これは世間で色々坊主の生ぐさとかなんとか云はれるのを避ける為に、世間の耳目を糊塗する位のものであつて、真劔な活動をやつてゐない。宗教にも偶には国体を説いてゐるのもあるが、これは只規則の上、教規の上に於いて書いてある丈で、其実其主脳者に国体のなんたるかを知らぬ者が大部分である。×x教や××教、××教、××教の如きは国家観念といふものは少しもない。
 それは表面では少し位云つて居るのもあるが、本当に信徒に向つて説いて居る所は、只下手な倫理学に神様をそこへもつて行つて煉薬を拵へて教を説いてゐる丈で、其中には仏教の説もあり、基督教の説もあり、儒教の説も入つて居るといふのであつて誠心誠意神の道を説いて居るものは一つもない。どうしても日本の皇道、所謂神道は宇宙に瀰漫して居る所の道を説くものである。其故に皇道とも云ふ。皇道は統ベる道である。
 此根本の教といふものは明治維新後神道宗教が出来、色々と当局者もやつて来たけれども本当の精神を失つて了つて今日の様な腐敗、堕落した世の中になつて了つたのである。それが為に経済も行詰り、政治も行詰り、教育も行詰り、芸術も行詰り、一切のものが行詰つて、恰度御筆先にある「石で手をつめた」といふ様に行きも戻りもならぬと云ふ様になつて居る。これは何であるかと云へば、矢張り日本皇国の道を忘れて、極浅薄な上皮計りの伏見人形の様な、表向きは立派で裏に廻ると素焼の土がその儘である。かういふ様な見掛倒しの香具師計りに幻惑されてやつて来たが為に、かういふ時代を招致したのである。これは神様が前以てさういふ事は御存じである。明治廿五年頃には腐敗したとは云へ、日本魂も今より余程しつかりして居り、生活状態も質素であり、政治も緊張して居り、宗教も謹慎して道を説いて居つたのである。けれどもその時代に今日の事を先達をして云はれたのであるから、その明治廿五年頃に更生するのではなくて、御筆先は明治廿五年に書いてあるが、今日の状態が書いてあるのだから、恰度今日から更生すればよい時期である。
 更生運動をやる事は、これは一々政治がこうである、宗教がどうであると細かくは云ふ訳に行かんけれども今日の状態を見れば大抵分つて居る。一切万事、全部更生して行けばよい。みんな誤つて居るといふ事丈は確かである。今更生運動をやるといふ事は政府の仕事に関する事や、また時期の事やらあつて、余り今から云つて、その筋の御機嫌を損ふ様な事も出来て来るから、その事は云へないが、第一金銀為本の政策といふ事がこの世の中に災してゐる。日本の国は──外国は日本の様な万世一系の天立君主がないが為に勢を得ば君となり、或は主権者になるが、勢を失へば奴となり、家来となる。或は殺されて了つたりする。さういふ様な殆ど畜類に等しき政体をもつて居る国であるから、どうしても、金とか銀といふ様な形のものがなければ皆承知しない。けれども我が国は万世一系の神様直々の御系統の陛下が居られるのであるから、これより世の中に尊いものはない。神様が世界で一番尊い。その御系統であり、直系であるから陛下より尊いものは他にない。その陛下の御稜威といふものを元としてやつて行つたならば、日本の国は総てが──経済なんか心配はいらない。明治維新の時に兵馬の権を陛下に国民が奉て、愈々日本の国は強くなつて来たのである。けれども戦争を起さうと思へば第一金が必要である。この経済の全権を陛下にお返しせなんだといふ事が今日の災をなして居る。日本銀行でも、陛下の銀行であれば外国に色々な事を云つて内兜を見られなくても、自由自在に国運の発展が陛下の御名により御稜威によつて出来るのである。それでこれに就いては私も卅年間叫んで来たけれどもその時代の当局の忌諱に触れたりなんかして、はつきりと書く事が出来なかつたが、矢張り今日はそこ迄更生せなくては日本の国の皇祖皇宗の御遺訓通り、隆々として大八洲の国を安国と平らけく治める事が出来なくなつて居るのである。
 先づ一番がけに更生すべきものは経済の根本更生である。経済が豊でなかつたならば、宗教が何程あつても、これを聞く所に行かない。それ丈の余裕がないのである。だから人心は益々悪くなつて来る。政治家も経済の為に精神が悪くなり、悪化して来るのである。経済の根本を誤つて居るが為に、芸術家も心が卑くなつて、本当の芸術品が出来ない。第一自分の生活間題が頭に入つて居るから、昔の様に名作は出来ない。絵を書いても、彫刻をしても、何をしても、それは経済を度外視して、趣味一方でやる事が出来なくなつて居るから、碌なものが出来ない。
 その他農業で云へば──今迄の農業といふものは日本人の戸数の少ない時で、地面の沢山ある時の、何百年、何千年前からの、農業を踏襲して、年に一回で差支ヘなかつたが、今日の人口がこれ丈殖えて来てゐる。人口が殖えて却つて不毛の土地が沢山出来る。家を余計建てゝ行けば、そこに物が出来なくなる。そして喰ふものは余計必要が起つて来る。これはどうしてもその儘にして居つたならばいかんから、矢張り二度作をやる。一年に二度取る、三度取るといふ事を考へねばならぬ。陸地に稲が出来なかつたのもこれは陸地に稲を作る様に水田と同じ様に作つたならば山や畑に稲が出来る様になつて来る。更生といつても日本は農が国家の大本であるから農業から更生せねばいかん。で農は国家の大本であると共に、皇室が国家の大本であるのである。何故かと云へば大甞会の時にも、天皇自ら稲をお作り遊ばされる。皇后陛下は蚕を飼つて、機を織られる。これは農業の型を示されたのである。天照皇大神以来農業を以て国を建てられたのである。農は国家の大本といふ事は、皇室の大本であるといふ事である。農業といふのは皇祖皇宗が教へられて、皇室に伝はつてゐる所のものである農業がなかつたならば日本の国民及び世界の国民は一日も命を保つ事が出来ぬ。それから今日は生活費が沢山要るといふけれども、これは自分等の若い時分から云ふと非常に贅沢になつて居る、百姓といふものは働いても働いても麦飯が──麦飯だぞ、──喰へなかつた。現今では一日が十銭位にもならない。わし等の子供時分には一年を平均すると一日に八厘位しかならなかつた。それでも大根の葉を入れたり、赤葉を入れたり草も混ぜて喰ひ、喰へるものは木の葉も喰つて、そこに麦飯を入れてやつと百姓が生命を保つてゐた。それでもウンともグウとも云はず、其が為に又死ぬ者もなく、痩せ衰ヘるものもなかつた。今日は世の中が文明のお蔭で非常に結構になつてそんな事はせなくてもよいけれども、もう少し生活費の倹約といふ事を考へ実行する事が、これが第一更生だと思ふ。農家を更生させるには取入れの事を考へる事も大切だが、冗費を省くといふ事が非常に大切である。一方には収穫を多くする事、一方には冗費を省く事を考ヘたならば、農村の更生は数年の間には幾分かよい方に向ふと思ふ。個人の家で云つても貧乏になるのと金持になるのとの境はどこにあるかと云へば只一日の事である。明日働く金で今日喰ふ人は貧乏である。昨日働いて得たものを、今日喰ふ人が金持である。それ丈で金の延びる者と延びないものが出来る。
働かん先に明日働くものを今日喰ふのは、これは貧乏になる分水嶺である。昨日働いたのを今日喰ふのが、これが金持になる分水嶺である。なんでもない。一寸の心得様で、どうでもなつて来ると思ふ。此の更生運動もさういふ小さい所にあると思ふ』
鴛海『政治の所で御話を承はり度いのですが、今日の金融資本家を背景にする独裁政治が天皇親裁政治に移る過程──移り方はどんな風になるのでせうか』
出口氏『そんな事はチヨツト云ヘんわい。これは手のひらがかヘると云つて置けばよいな。お筆先にも「手のひらがかへる」と書いてある。これは雨か風か、さもなければ地震かじや。それで出て来んと解らない。人間の頭が鈍重になつて居るから、吃驚する事が出来て来ると、変つて来る。「ひつくりかへる」といふ事は「びつくりかへる」といふ事である。だから吃驚する事が出来なければならない。然しな、或る時代には資本家も必要があるのである。これは愈々今から金が要るといふ時に、あつちこつちの零細な金を集めてゐるといふ事は出来ない。そこで固まつたのを資本家から出さして仕事が出来る(笑声)一所に集めて置くといふ事は、今日の様な過渡時代に於ける神界の経綸だらうと思ふ。俄にまに合はんからな。皆が同じ様にもつてゐて「お前もこれ丈出せ、そしてお前の方もこれ丈」……と云ふのだつたら手間が取れて叶はんからな」
神本『日本の宗教の更生といふ事に就いて、先程皇道──惟神の大道といふ事に就いて御話下さいまして判らして頂きましたが、少し気持が小さいのかも知れませんが、日本ではもう外から伝はつて来た教は、日本人には要らぬと、この頃強く感じますが、どんなもので御座いませうか』
出口氏『それはな、国家意識のない宗教は自然消滅しなければならぬ。今に神の政治になつてくるから、これは自然に自滅して来る、国家意識のないものは人間が相手にしなくなる。皆が更生すればさう成つて来るが、然しそれをやつつけて了ふのはいけない。一人あればみんなついて来る。大本も今は沢山ゐるが、元は教祖さん一人だつたからな。一人が八ケましく叫ばれた事がかうなつて来るのだから、矢張りこれは一人でもよいが、これ丈の団体が出来て、それが叫ぶといふ事は大変な力である、大変な効力がある事だと思ふ。愛善会を唱導して居つて余り外の宗教がどうだとか、かうだとか云へないけれども、国家意識のない宗教は総て何教によらず、日本に於ては成立しない。自滅する事は定つて居ると信ずる』
神本『この頃大変日本人自身が目覚めて来たと共に、外の宗教を信じて居ると、その国には矢張り頭が上らんといふ様な事がありまして、頗る不都合な事が多い様で……』
出口氏『矢張り然し、人類愛の上から見ても、世界に対する所謂人類愛と、国家に対する愛と、郷里に対する愛と、家族に対する愛と、個人に対する愛といふ様に、段々小さくなつて来る。日本国民としては国家に対する愛が必要であり、又広汎的に云へば世界一般の人間に対する愛が必要である。焦眉の急を要する問題として一番どれが主であるかと云へば、自分の祖先の墳墓の国である。これを愛するのが一番急務であり、大切な事であると思ふ』
神本『吾々としてはこんな気特をもつていゝかと思ひますが……。世界宗教聯合会も出来て居まして、日本人としては外の宗教を指導してやらねばならぬ立場にあるから、その指導する必要上、外の宗教はなくてもいゝと思ひますが……』
出口氏『国家意識のある宗教といふものは知識階級──魂の向上した人でないと分らん。牛に米計り喰はしたら腹を壊して死んで了ふ、馬には馬の食物があり、猫に猫の食物があり、人間には人間の食物がある。恰度霊魂の食物といふものがそれと同じで、米を喰ふ人種には米が必要であり始終麦計り喰はされたり、野菜計り喰はされて居れば、たとヘ穂の国の日本人でも、俄に米を喰ふと腹が下つたり脚気になつたりする。それはさうした生活になれきつて居るからそんな結果が起るのである。雪隠虫は糞壷の中に住んで居つて、それに安心し、満足して居る、それをあんな臭い所に置いてをくのは可哀想だと言ふので、米の中に雪隠虫を入れてやつても直ぐに死んで了ふ。天国にも第一、第二、第三の段階がある如く、身魂相応である。矢張り人間の霊魂にも階級があり、信仰の程度にも階級があつて、俄にそんな事をしても死んで了ふ。それはその宗教で安心して居り、それを信じて居つて成仏するから。今も云つた様に雪隠虫から糞を取つて了ふと死んで了ふのだから、糞でもなんでもよいから人類愛の上から助けてやらねばならぬ』
鴛海『近頃ギヤングとか五、一五事件といふ様なものが頻々として起り、将来も起ると思ひますが、かういふ風に帝国の治安が乱れてから、これに対しては独裁政治といふものは発展する見込があると思ひますが』
出口氏『これは仁者──勇智愛信の揃つた英雄が出て来たら独裁政治でよい。が然しおかしな者が出て来て独裁政治をやらうものなら堪らない。なほひどい事になる。殷の紂王といふ様な具合になつて来るとなQそれに日本は陛下の独裁政治であるから、其外の中途半端の奴が色々な事をやつて居るけれども、元に返しさヘすれば独裁政治になる。例ヘば議会の開会式に「朕ハ国務大臣ヲシテ××××ノ事ヲ提出セシム、爾等慎重ニ審議シ朕ノ意ニ具ヘヨ」とかういふ御詔勅を賜まつて居るのに多数決によつて否決する様な不臣行為がある。これが正に違勅である。これ丈乱れて居るのである。神代の議会は今の議会と違つて主権者が色々な問題を出される。「これをかうせい、あれをどうしてくれ」丈である。それをどうしたら最善の方法でよく出来るかといふ事を審議するのである。今日のは根本から間違つて居る。それをひつくりかへして居る。これは非常にわしは或る意味に於ては──法律はどうか知らんけれども──違勅になると思ふ。兎も角日本の国は実際云つたら天立君主の国であり、陛下の知食す国であり、独裁の国であるけれども、あゝいふ西洋の風が入つて来てこんな状態が現出したのである。憲法に於いても陛下の御意志に叛いた決議をする時は直ちに解散といふ罰を喰ふ事がある。解散を喰ふのは陛下の御怒りに触れた事になつて居る。それだから皆が更生したらよい。本当の日本に帰つたらよいのである』
神本『御筆先に「今の様なやり方を続けて居たならば、先には警察の云ふ事迄聞く者は一人もない」といふ事が出て居りますが、あれは法律の改正といふ事に解していゝでせうか?』
出口氏『何もかも立替へる、法律も変ヘると書いてある』
神本『法律の一番理想的なものはどういふ風になればよいのでせうか』
出口氏『それはな──兎も角日本は徳治国であるのに、法治国にして居るから。──余り法律による国は治らない。三ケ条の法律で思ふ様に治める様にならなければならぬ。昔の法律は三種の神器が法律であつた。玉は陛下で、悪い者は剣をもつて打懲らす。又弱い者は剣で守つてやる。そうして鏡の如く綺麗な心になれ。──これが法律であつた。この三種の神器が法律であつた。それが今では色々な法律を造り、その法律を又潜る者が出て来るから、又新な法律が出来るといふ様な具合で、今日の様な尨大なものが出来上つたのである。これはどこから来るかと云ふと、教育が悪い、国体教育がしてないから。それから神といふ事の観念がないからだ。法律を作らんでも、各々に徳義を重んじて、天を畏れ陛下を尊ぶ様に成つて来たならば、こんな法律は要らない。さうすれば皆が各々愛善の心になつて来る。人間は誰でも生れ乍らに愛善心や善良なる心をもつて居る。猫でも黙つて鰹節を盗んだ時には逃げよる。鼠を取つて来ると家の手柄をしたといふので、大きな顔をして家人の前へ持つて来て褒めて貰つて喰ひよる、あんな動物でさえも善悪の区別はよく知つてゐる。
 法律といふものは道徳の最低率を制限したものである、法律の中には善を勧めるといふ事は一つもない。こういう法律であつたならばいけない。徳教の入つた法律でなければ駄目だ。どうしてもさういふ風に変へねばいかん」(以下次号)
(「昭和青年」昭和八年一月号)

鈴木『先程経済権を奉還するといふ事を承はりましたが、さうなると各人の私有財産といふものは自然に消滅するのでムいませうか』
出口氏『「普天の下王土に非ざるなく、率土の浜王臣に非ざるなし」と昔から云つて居る。明治維新迄は個人の私有地はなかつた。明治になつてから、土地の所有権が出来たのである。だから元にお返しすればよい。奉還すればそれ丈の代は貰へるのであるから、無料で奉還するのではないから、形式が変つた丈で、そんな心配は要らん。そして皇室には地所といふものがあるのだ。それで札をなんぼ出しても札と代ヘるか、土地と代へるか丈である。民の懐にみんな入つて皇室には依然としてそれが残つて居る。これは財産が倍に成つて帰つて来た事になる。それで金融もよくなり、何もかも根本的によくなる。明治維新の時にも大政奉還の時に皆金を貰つてゐる。武士でもなんでも皆土地を貰つて居る。これを金で貰うと思つたらいけない。御稜威の余徳を貰つたと思へばよい。札で貰つたら札で買へる地所があるからよい。もう一ツ進めば良いんだが今の人間はそこ迄行かん。明治迄は庶民の所有地といふものは一ッもなかつた』
芦田『経済方面の更生でも、総てあらゆる更生が一時に行はれねば効果がないと思ひますが』
出口氏『さうだ。然し、それは肝腎のものが変つて来ればよいのである。更生しようしようとしても無茶計りして居る。根本問題を解決せねばならぬ。とても今日の小胆な政治家には出来ないと思ふ。現在の政治家ではいけない。これはなんぼ気張つてもようやらない。陸軍省が請求する。大蔵省が削る。そんな事計り繰り返してゐる。本当はそんな事はどうでもよいのだ。陛下の御稜威によつて、方法によつてはなんぼでも出来る。元来日本は宰相や外交官が弱かつたら戦争をせねばならなかつた。日清戦争にしろ日露戦争にしろさうである。日清戦争の時、わしは廿六歳の時であつたが、当時の総理大臣の伊藤さんの腰が弱かつたから戦争が起つた。窮鼠却つて猫を咬む様になつて、日清戦争が起つた。又その次の日露戦争が起つた時にも伊藤さんの腰が弱かつたから露国が付込んで来た。それでとうとう堪らなくなつて戦争をした。今度も幣原外交及び各当局者の腰が弱かつたから、満洲の戦争が起つた外交の弱いのは軍備が充実してゐない時である。軍備が充実してゐる時には外交が強くなる。日本は国民皆兵の国であり細矛千足の国である。「千足」といふ事は「一切の」といふことである。子供も、爺も婆も、みんなといふ事が千足といふ意味である。「細矛」といふ言霊は約り、矛と劔といふ意味もあるが、言霊学から云へば「細矛」といふのは「秀でたる子」であり、日本人は秀子(日子)であり、細矛といふのである。その尚武の気をもつて居る国民が国内に充実して居るのが「細矛千足」といふ名義となつて来たのである』
成瀬『それでは軍備を拡張し、国民が国防といふ事に力一パイになつて居るといふのは御神意に叶つて居る訳でムいませうか』
出口氏『さうである。阿弥陀も弥陀の利剣と云つて剣をもつて居る。即ち折伏の剣と摂受の剣を持つて居る。この摂受の剣をもつて人を助ける。それから折伏の剣はどうも仕方がなくなれば、これを振つて折伏せしむるのである。諸刃の剣になつて居るのは折伏の剣と摂受の剣である。自分の顔に向つて居る方が摂受の剣であり、向うをむいて居るのは折伏の剣である』
成瀬『防空の事に就いて一寸お伺い致したいのですが「国防は航空防なり」といふ御言葉を頂いて居りますが、未だに防空に関する仕事に対しては国民の大多数は無関心であつて陸海軍省がやつて居ればよいといふ様な調子であります。そこで防空熱がそろそろ台頭しかけた此の際、昭和青年会として半官半民の国民防空研究会とか或は国民防空促進会とかいふ様なものゝ建設につき請願書を議会に提出して政府をしてこれに予算を計上せしめる様な方法をとりたいと思ひます。これは已に軍部なんかでも希望されて居る事柄でありますが如何なもので御座ゐませうか」
出口氏『そいつは良い。通過しやうがせまいが云ふ丈云ふたらよい。こういふ機会にやる丈やつたらよい』
三千麿『話が一寸前に戻りますけれども、先刻の更生の御話の中に惟神の道に帰るといふ事でしたが、今の学者の中にも筧さんを初め、惟神の道を説く人がありますが大本の惟神の道とさういふ人達の惟神道とどう違ふんでせうか』
出口氏『人ナガラが惟神を説いて居る。大本は実行するのである。こうぢや、あゝぢやと云つて筧さんのは色々な説を集めてやつて居る。学者として人に云ふけれども自分が実行しないから駄目である。惟神の道を云つて教へても自分が率先して型を見せてやる誠意がなかつたならば、本当の惟神の道ではない。書物丈を出して人に教へて居つてもなんにもならぬ。実践躬行してこそ惟神の道が生きて来る。わしも、筧さんの「惟神の道」を読んで見たけれども、総ての神典や古事記によつて集めたに過ぎないのである。あの人の説といふものは一ツもない、極く浅い浅薄なものである』
鴛海『欧洲の諸国は亜細亜に対して色々借款をさして居りますが、さういふ事は非常に悪いと吾々は考へてゐました。さうすると日本が満洲に対してやつて居るのは矢張りよい事でないと思はれますが……』
出口氏『金をやつて居るのはよいぢやないか、亜細亜に金をかしてゐるのは亜細亜を栄えさすのであるからよいではないか。わしはよいと思ふ。それが為めに軍器を拵へて抵抗する様でも結構落付く所は定つて居るから、わしは神の経綸だと思つて居る。外国は野心があつて、貸してゐるのである。誠心誠意で貸したのであるならば酬はれるけれども野心で貸したら、元に帰つて来る事はない。あれは誠ではない』
鴛海『日本は欧洲人から悪く見られるのは巳むを得ませんでせうか』
出口氏『それは当り前ぢや。狸同志がやつて居るから、それは仕様がない。今迄は誠は一ッもないと神様が云つて居られる。引掛け合ひばかりやつて居る。世界も更生せねばならぬ。然し先づ日本が更生して範を示さねばならぬ。日本人でも今のは仕様がない。真の日本人は幾らも居らぬ。殆ど全滅の状態である。皮膚や毛髪の色丈が日本人であつて、精神的には混血児である。外国人が大部分である。人間の精神は血である。心といふものは皆血が動いて居るのである。霊といふものは血だ。故に現代の日本人は混血児になつてゐる。かういふ連中が子を拵へても混血して了つて居る。先づこの血から更生せねばならぬ。血は精神の持方で変つて来る。真正な日本人に帰つたならば──始めから心が元だから、霊主体従の人間になる。現代人は先づ血液が外国人になつて了つて居る──心が日本人に帰つたならばそれで良い』
神本『衛生と称して随分本当の事から云へば、不衛生な事が行はれて居りますから、更生の必要があると思はれますが』
出口氏『衛生々々と云つても衛生学が盛んになつて来る程病人が殖えるでないか。兎も角日本人は衛生々々と云うよりは却つて働きさへすればよい。なまくらだから病気が出て来る。働いてさへ居れば少しも病気が起らん。病気が多くて病体といふものは中々ない。病体になつて来たならば中々癒らん。大抵はみんな気を病んで居る。だから神様に参つて来ると病気が直ぐ癒つて了ふ・自然の摂理で怪我しても直に肉が出て来る。足でも怪我したら腐ると云つて切つたりなんかするけれども、日本人は普通腐らない。肉食する人種なら肉が弱いから、どうしても腐り易い。菜食人種や米を食うて居る者はさう目茶苦茶に腐るものではない』
神本『それではその他の事に就いて政治、経済なんかに就いて御伺ひになる御方はどうか御遠慮なく……』
大崎『新聞なんか見ますと、今年当りには日本の内外債を合すると約百億円になると書いてありますが、あれはどうして解決が出来るんでせうか』
出口氏『百億円あらうが、いくらあらうが構はない。世界中神様のものだ。あるから貸すのだ。ないから借りるのだ。そんな事を心配して居つたならばしようがない。なんぼあつても構はん。日本には日本の神の経綸があるから』
大崎『日本の現金は三億しかないですが』
出口氏『あんなものはどうでもよい。わしは蒙古入りの時に廿円金貨を一万円腹に捲いて居つたが、一町程行つたらどうもかうも苦しくてしようがない。その時札は結構なもの尊いものだと思つた。紙幣なら十万円懐に入れて居つても、なんともないが、金みたいなものは喰う訳にもいかず、何にもならぬ。飾りもの丈にしかならぬ。中々採れぬから高くしてあるけれども、つまり云へば子供の玩具と同じである。金が有難いと迷信して居るけれども、分析して考ヘて見ればなんにもならぬ下らぬものである。兎も角わしは、国民が一致して国を護るといふ気になれば金も何も要らんと思ふ。農業にも改良方法が沢山ある。然し満洲蒙古で農業の開拓をするといふ事は非常に不利益だと思ふ。会社を拵へるとか、紙を製造するとか、木材をきり出して製材するとか、鉱山を掘るといふ様な事はよいが、農業なんかとても日本人ぢやようやつて行けぬ。喰う事が出来ない、粟や高梁とかならまあよいが、米は中々うまく行かない。蒙古人はそんな事でも云ふと嗤つて居る。羊一匹十七円、高梁一石が六円である。この一石を作る問に、羊が百匹飼ヘて千七百円儲かる。そんな事を教へてもそんな算盤の取れぬ馬鹿な事をしさうな筈がない。喰う丈を作つて置く。百姓をやるんなら、南洋だね。ほつたらかして置いても年中大きくなるから利益が多い。取る丈に忙しい位だ』
成瀬『只今の御言葉で思ひ出しましたが、伊藤友治郎といふ人が、南洋殖民学校を東京で経営してゐて三ヶ月で青年達にビルマ語を速成教授してビルマに送つて居るのですが、実は伊藤氏はそれより前に、ビルマに行つて居つた事があり、ビルマの国王から、日本の恰度九州位の土地を無料で貰つて居るので、そこへどんどん人を送つて居りますが、大本の活動的な元気のいゝ宣伝使を送つて頂き度いと希望して居ました。矢張り同氏の話ですが、シヤムのバンコックで土地を日本人丈に売るといふ処があるといふのです。一町歩五円六十銭といふ、まるでただの様なもので、将来大いに南洋は発展する余地がある様でムいます』
出口氏『南洋にはまだ、誰も所有して居らん島がチヨイチヨイあるのだ。
兎も角殖民であつたら南洋だね。……が、兎も角国防の第一線として満洲国は必要がある。日本の国防の為にはアジアの盟主としては、どうしても、あすこがなければならね。わしがいつやら、地図に世界の鎌倉と書いておいただらう。恰度さうなつて来た。世界の鎌倉だらう(一同ハゝア)満洲といふ国は神界から云つても日本の国防上から云つても必要な国である』
鴛海『世界平和を招来する階段としても、アジア聯盟といふものはどうしても通らねばならぬ階段でせうか』
出口氏『通らねばならんがナ。日本が強かつたら一ペンに聯盟が出来るが、今の日本ではもう一寸の処が出来ない。依らしめねばいかん。日本の国に頼らさねばいかん。日本の外交といふものはなつて居ない。アジア諸国は日本に頼らうとして居るが、今の当局者にそこ迄の雅量がないし、勇気がない。欧米諸国に憚つて居る。かういふ様な弱気があるからいけない。これを日本は神国であるから愈々の時には神が働くといふ考へと、それから国体の本義を知つた国民が全部揃ふたならば外交も強くなるし、又総ての事がうまく行くやうになる。神を知るといふ事が大事である。今の当局に神を知つた者がないから思ひ切つた事がやれない。わし等ならやつて見せる。さうするとアジア諸国は喜んで出て来るナ。欧米は眼をつり上げてやつて来よる。色々干渉しやうとするだらう。然し、そんなものが出て来るなら出て来いといふ勢でやつたらよい。濠洲とシンガポールに軍艦を置いておけば、どうにも手が出せない。英国も米国も手が出せなくなつて来る……』
鴛海『若しアジア聯盟といふものが……』
出口氏『アジア聯盟をやるに就いてはシンガポールと濠洲をヤッておきさへすれば、ひとりでに出来る。さうでなければ出来ない。前門があつても後門が塞げてゐないから』
鴛海『アジアには非常に沢山の人種が色々に住んでゐる様に聞いてゐますが、それ等の人種と、どういふ風に聯絡すればいゝのでせうか』
出口氏『人種の聯合といふものは心配せんでもひとりでにやつて来る。こつちが強かつたらひとりでに出来る。先づ日本の国が更生することぢや。さうすれば光は東方よりだからナ──火をとぼしておけば虫でもなんでもそこへ飛んで来るやうなものだ。東方の光をもつともつと強くしておくと皆外国も寄つて来る。アジア丈ぢやない』
鴛海『さうするとアジアを単位にするといふことは、さう決定的の事ぢゃないでせうか』
出口氏『何もかも叫時になつて来る──とお筆先に書いてある。アジアをー元をやると云ふと何もかもみな従つて了ふさうなれば……』
鴛海『アジア聯盟──アジアモンロー主義──はさう主張せんでもいゝものでせうか』
出口氏『そんな事はせんでもよい。アジア人のアジアになつて了ふ』
鈴木『リツトン報告書が聯盟理事会で受け入れられゝば戦争が誘発されるものでせうか』
出口氏『そんなものはどうでもよいがな。採用されても、せんでも、どうでもよいぢやないか。リツトン報告書を採用したら面白くなるよ。世界の国が日本に攻めて来る。さうすると日本が鉢巻して気張るからな。兎も角、神代から神の経綸で定つて居るのだ。日本が治めてやらねばいかんといふ事は定つて居る。わしはあんな事なんか眼中において居らん。世界中攻めかけて来ると御筆先に書いてある。攻めかけて来んといふと経綸が出来ん。何もかも一時だ。神様はチョロ臭い事は嫌ひだからな』
岩田『要するに腹をきめる丈でムいますね。後は問題にならん訳ですね』
出口氏『それが一番大事だね。反宗教の時にも「大本はどう考へて居るか」と聞いた人がゐた。わしは「どうでもよい、問題にして居らん」と云つた。「左傾はどうか」──左傾でも酒でもなんでもよい。あれは酒に酔つて人に小便をかけるじやないか。真理ぢやないと立つて行かん。真理が勝利を得るに決つて居る』
三千麿『それから内部の話ですが、言論といふ事は非常に大事ですけれども、それと同時に、文筆──文章をねるといふ事も必要であると思ひますが』
出口氏『それも必要だね。これからの青年はその方の勉強をやつとかんといかん。今は何もかも違つて来てゐるが、第一に神社仏閣の幔幕──あれからして違つて了つて居る、あれは昔は長さが二丈八尺に決まつて居る。天の二十八宿に象どつて、乳は地といつて地が三十六ある。今のは皆違つて居る。信者の幕迄違つて居る。乱れて了つて居る。幕が天にあたる乳が地に当つて居る。地は六だから六六三十六だ。三十六と云つたら弥勒といふ事だから、恰度地の弥勒、幕でも昔からチヤンとさうなつて居る』
鈴木『ヒツトラーの旗ですが、卍の形になつて居りますが』
出口氏『どこでも天地は経緯だから、経と緯にきまつて居る紅卍字でも、白卍字でも妙見でも──これは先をとがらして居る丈の違ひだ。大本も○に十だ。まるに十だけれども、それを具体化して○を十拵へたんで皆同じである。仏教も基督教もみなさうだ。十といふものは天地の数だ。まるいのは世界だ。他のは宇宙が書いてない。只十丈だ。大本は周囲に○がある。まるの中に十、○十それを具体化してまるを十拵へた。どの宗教でもこれは当り前だ。十から皆作つて居る、経と緯、火と水だ』
成瀬『三五(アナナイ)といふ事はほのかに意味が分つて居りますが、直截簡明に御説示願ひ度いのですが』
出口氏『これも神様のお蔭、これも天皇陛下のお蔭、これも主人のお蔭といふ風に自分の手柄を上にもつて行く事だ。アといふ事は天だ。ナといふ事は神だ。ウは下を意味する。「あがなう」は自分が代りに賠償することで「うべなふ」(諾ふ)といふ事は承諾したといふ事である。上から下へもつて行く事である。「ウラナウ」(易う)は自分の心を調べる事である。「ウラ」といふのは心であり、「うらやすく」といふのは「心安く」といふ事で、「うら安の国」といふのは「心安い国」といふ事である。それからわし丈に饒舌らさんと皆もなんとか云はんかい』
神本『どうですか皆さん、どしどしと御尋ねになつては?──自力更生の字義の解釈でムいますが……』
出口氏『政府から国民に対して勝手にやつてくれといふ投げ言葉だ。自力更生ぢやない。自己更生だ。約り自力のない者が沢山あるのだから自己を更生して初めて自力が出来て来るのだ。力のないものに自力更生せいと云つても、力のないものはしようがない。自力更生する者があれば世の中はこんなに困つてゐないからね』
成瀬『大阪で内田先生が「政府は自力更生といふが、其範囲を全然示して居らんが然らば各々の力で更生せよと云ふのならば如何なる手段方法を以て更生しても差支へないのであるか。この点を臨席の警察官は政府にこれに対する明答を与へる様に漏れなく報告して置く様に」と云うて居られました』
出口氏『誰やー内田さんか。そりやさうだ。自力があつたならば更生更生と云はんでもコセコセ云はんかつて(軽い笑声所々に起る)やつて行けるがね。自力といふ事は「自らの力」とみんな思うて居るが、わしは「自らの力」と思うて居る。自らの力といふのは惟神の御力だと思ふ。みんな神に目覚たら文句ないんだ』
宇知麿『さあそろそろ失礼さして頂きませう。大分お疲れの様でムいますから』
一同『どうも結構な御話を有難うムいました』(完)
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