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文献名1霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻
文献名2第3篇 千里万行よみ(新仮名遣い)せんりばんこう
文献名3第17章 新しき女〔883〕よみ(新仮名遣い)あたらしきおんな
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-04-11 19:36:50
あらすじ恋のとりことなった秋山別とモリスは、紅井姫とエリナ姫(実は旭明神と月日明神)に伴われて酷熱の太陽の下、大山脈のふもとを東南さして進んで行き、アマゾン河の支流である、シーズン河という大河の河堤にやってきた。秋山別が紅井姫だと思っていた女は、河のほとりまで来ると、急に言動を変え、理詰めで秋山別を男として先見の明が無い古い人間だと非難を始めた。秋山別が何を言っても秋山別のこれまでの行動を非難し、秋山別が怒り出すと、河に飛び込んで消えてしまった。秋山別は呆然としながらも、紅井姫の舌鋒や行動に辟易し、エリナを女房にしようとすればよかったなどと不謹慎なことを考えている。そこへ、モリスとエリナが仲よさそうにやってきた。秋山別が、紅井姫が突然ハイカラな理屈を振りかざし出して、ついには河に身を投げてしまったと説明した。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月20日(旧06月28日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年9月15日 愛善世界社版201頁 八幡書店版第6輯 116頁 修補版 校定版206頁 普及版65頁 初版 ページ備考
OBC rm3117
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本文  恋の暗路にふみ迷ひ  ブラジル山の谷底迄
 情欲の鬼に魅せられて  モリス、秋山別の両人は
 百津常磐木の山桃の  大木の株に憩ひつつ
 悲しき恋の叫び声  山は裂け海はあせなむ世ありとも
 いかで忘れむ紅井姫  エリナの後をどこ迄も
 捜さにやおかぬと雄健びし  俄に化た木の上の
 天狗相手に大問答  烏鷺闘はす最中に
 夢にも忘れぬ恋人が  不思議や爰に現はれて
 恨の数々並べ立て  お前は情ない男ぞや
 かよわき女の身を以て  虎狼や獅子熊の
 伊猛り叫ぶ山野原  慕うて尋ね来た者を
 今迄何処にうろうろと  主なき花を手折りつつ
 妾二人を振り棄てて  こンな所迄来ると云ふ
 情ない事がありませうか  男心と秋山別の
 空恐ろしい早変り  やいのやいのと取りついて
 若い男女の囁きも  二人は遂に解け合うて
 お前の優しい心根を  モチいと早く知つたなら
 こンな苦労はせまいもの  恋に上下の隔てない
 さあさあお出でと手を執つて  怪しき女と白雲の
 山かき分けて進み行く  恋の擒となり果てし
 二人の男の身の上ぞ  憐なりける次第なり
 あゝ惟神々々  神の御幸を蒙りて
 体主霊従の情動に  経験深き月や(月)
 浄写菩薩の両人が  狩野の流れの波高く(波子)
 杉の林を村肝の  心静かに眺めつつ(林静)
 安楽椅子に横たはり  遠慮会釈も荒川の
 飛沫の音もサワサワと  あたりの人を敷島の
 淡き煙に巻乍ら  国依別の一行が
 四人の男女のローマンス  いと永々と述べたつる
 此物語新しき  歴史の様に聞ゆれど
 百年千年五千年  万年筆の其昔
 昔の昔の其昔  殆ど三十万年の
 古き神代の事ぞかし  二人に憑いた副守護神が
 肉体かつて経験を  喋つて書くと思ふたら
 非常に大きな間違ぢや  あゝ惟神々々
 神の心に見直して  すべてを善意に解釈し
 此物語聞いてたべ  夢か現か誠か嘘か
 判断つかぬも無理はない  今の世人の心では
 神代の人は押し並べて  皆正直な堅造で
 情欲などに心をば  奪はれ苦しむ人なしと
 誤解してゐる眼より  此物語読むならば
 合点の行かぬ事であろ  過去と現在未来迄
 一貫したる神界の  真理に変りはなきものぞ
 暫くうぶの心もて  只一片の神の代の
 恋物語とけなさずに  心をひそめて読むならば
 苦集滅道の真諦を  確かに悟り村肝の
 心の暗の明りとも  塩ともなりて諸々の
 罪や穢れを清め得る  清涼剤と信じつつ
 あらあら茲に述べておく  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ。
 恋の擒となつた両人は、怪しき女に伴はれ、茨を分け、萱草の間を潜り、蜈蚣、大蜥蜴の群に驚かされ、蜂には刺され、虻には咬まれ、蚋には悩まされ、酷熱の太陽に曝され乍ら、果てしも知らぬ大山脈の麓を東南指して、当途もなく進み行く。
 アマゾン河の支流なる、可なり広き深き、シーズン河と云ふ河堤に、四人の男女は、漸くにして辿り着きぬ。
『秋山別さま、あなたは妾を何処迄つれて往つて下さいますの』
『あなたこそ、私を何処迄伴れて行つて下さるのですか。迷ひ迷うた恋の暗路、行手が知れる様なことなれば、決して恋とは申しませぬワ。姫様が後を向いては、手招きし、早く来い来いと、恋の手招き遊ばしたのを楽みに、何の事はなく、見失つては大変と、敏心の勇み心を振起し、生命を的に従いて来ました』
『あなたが妾を妻にしてやらうとの御熱心には妾も感謝に堪へませぬが、男として否人間として、災多き現世に、独立独歩相当の生活を営まむとするならば自分の行くべき所、又進むべき方針がつかなくてはならぬぢやありませぬか。只女の美貌に恋着して、自分の身を忘れ、恋の荒野に彷徨ひ、一寸先の目当も付かぬ様な男子は妾は厭ですよ。女としては男らしい男、気の利いた前途の見える人ならば、どンなヒヨツトコでも、跛足でも目つかちでも、鼻曲りでも、菊目面でも構ひませぬ。甲斐性のある男を、女は好ます。女は男に一生其身を任す者ですから、女の禍福は夫の強弱、正邪勝劣、賢愚等にあります。折角ここまで、お前を伴れて来て、試して見たが、何とマア、お前さまは、交尾期の来た、犬猫の様なものだワ。エヽ汚らはしい、何卒只今限り、こンな見つともない腰抜身魂を、妾の前に曝して下さるな。エヽ好かンたらしい腰抜男だなア』
と云ひ乍ら、秋山別の頭を、白い細い手にてピシヤピシヤと打叩けば、秋山別は、
『イヤ何とお前にそれ丈の考へがあるとは、今の今迄知らなかつたよ。深窓に育つたお嬢さまだから、何一つ知りはしよまい、是から此秋山別が、いろいろと世間学を仕込ンで、立派な賢母良妻に作り上げ、円満なホームを作り、世界の花と謳はれて、幾久しく、末永う、偕老同穴の契を結ばうと思つて居たのだ。イヤもう今の言葉を聞いて、ズーンと感心した。実の所は是れから、大方針を立てて、夫婦の水火を合せ、神の生宮として、大神業に奉仕すると云ふ大抱負を持つて居る秋山別だから、姫さま、必ず必ず取越苦労はして下さるな。何も彼も、此秋山別が方寸に止めてあるから……』
 紅井姫はツンとして、
『男と云ふ者は凡て一生の方針を立てて、是なれば妻子を大丈夫に養つて行く事が出来ると云ふ様になつてから、女房を持つべきものぢやありませぬか。それに何ぞや、是から方針をきめると云ふ様な薄野呂男に、何程女が沢山ある世の中でも、一人だつて相手になる者が御座いますかい。いい加減に馬鹿を尽しておきなさいよ。妾は只今限り御免を蒙りませう。其代りお前さまが一人前の立派な男にお成りになつた暁は、何程お前が妾を嫌つても、今度は私の方から放しませぬから、そこまで御出世をして下さい。今から女に心を取られる様な腰抜野郎だつたら、駄目ですよ。第一あなたの身が立たず妾も約りませぬから、どうぞ悪く思はずに諦めて下さい』
『コレコレ姫さま、一応其お言葉は無理とは思ひませぬが、そりや又余り薄情ぢやありませぬか。貴女を慕うてこンな山奥迄ついて来た男を、今更、一度の枕も交さず、愛想づかしとは、余りで御座います。斯うなつた以上は、私も男の意地、生命にかけても、やり遂げねば置きませぬ。サア姫さま、私の恋は命懸けだ。返答なさいませ。御返答次第に依つては、此儘ではおきませぬぞ』
『ホヽヽヽヽ、あのマア腰抜男わいのう。多寡の知れた女一人を捉まへて、脅し文句を並べしやます、其卑怯さ。何程脅喝なされても、そンな事にビリつく様な女では御座いませぬわいなア。ヘンお前さまの様な未練男に添う位なら、一層此シーズン河へ身を投げて死ンだが得策で御座ンすぞえ』
『死ぬ死ぬ云ふ奴に死ンだ例しなしだ。そンな事を云つて、姫さまは反対に此秋山別を脅喝するのですなア。油断のならぬは女だ。何時の間にこンなお転婆にお成りなさつたのかなア』
『ホヽヽヽヽ、婦人開放に目覚めた新しい女ですよ。是でも女子大学の優等卒業生ですから、男の五人や十人、喰はへてふる位は朝飯前の仕事、今迄深窓に育つた未通娘の紅井姫だと思つてゐたのが、お前さまの不覚だ。オイ君、チトしつかりせないと、婦人同盟会を組織し、男子放逐論を主唱し、女尊男卑の社会にして了ひますよ。オツと、君も僕のハズバンドに成りたいと思ふなら、それ丈の資格を具備して来なくては駄目だよ。僕はもう、是から帰るから、君はここでゆつくりと思案し玉へ』
『何とマア、呆れたお嬢さまだなア。黙つて聞いて居れば、君だの僕だのと、女の癖に何と云ふ事を仰有るのだ。併し乍ら、さう活溌な女と聞けば、なほなほ恋しくなる。お嬢さま、イヤイヤ君、……君といつた方がお気に入るだらう……君と僕と二人相提携して、天下の経綸を堂々と遂行したら如何だね。随分面白からうよ』
『エー好かンたらしい男だこと、お前さまの方から吹いて来る風も厭になつた。こンな時代遅れの男とは思はなかつたに、選りに選つて、古めかしい頭脳の黴の生えた骨董品、斯んな品物をウツカリ買ひ込まうものなら、それこそ一生僕の浮ぶ瀬がなくなる。オウさうだ一層の事、此シーズン河へ身を投げて寂滅為楽となり、浮き上つて川瀬を流れたら、それこそ浮む瀬があると云ふものだ。オイ君、僕は是からザンブと計り、投身するから、君は娑婆に残つて、十分の馬鹿を尽し、決して僕の後を尋ねて来ちやならないよ。アリヨース』
と云ひ乍ら、身を躍らしてザンブと計り、シーズン河の激流に飛び込み、パツと立つ水煙と共に後白波と消えにける。
 秋山別は水面を眺め、アフンとして、暫し思案に暮れ居たりしが、
『あゝどうしたら良からうかな。こンな事ならヤツパリ、エリナの方を情婦に持つのだつたに、モリスの奴甘い事をしよつたナ。何時の間にやら、俺達の目を掠め、エリナを伴れて、どこかへ伏艇しよつたと見えるワイ。潜航水雷艇をどこへ伴れて行きよつたかなア。一つ俺もエリナ丸に乗り替へねば、敵艦に向つて夜襲することが出来まい。アーア、掌中の玉を取られたとは此事だ。紅井姫も可哀相に、余り暑い所を無理に歩かしたものだから、陽気のせいで精神逆上し、そこへ数十万年未来のハイカラ女の悪霊が憑依し、君だの、僕だのと、取とめもない事を云ひ、しまひの果にや、シーズン河の投身とお出かけなすつた。どうも気の毒なものだ。あゝ併し俺も斯うして、一人こンな所に溺死よけの石地蔵の様に川を眺めて立つてゐてもつまらないワ』
と呟いてゐる。そこへエリナの手を引いて、モリスはさも嬉し相にニコニコと辿り来り、
『ヤア秋さま、お前はここに居つたのか。紅井姫さまにお前はモウ秋さまだと云つて、エツパツパを喰はされたのだなア、アハヽヽヽ』
『ホヽヽヽヽ』
『エヽ喧しワイ、余りハイカラ女で、到底家庭の主婦として不適任だと思つたから、俺の方から秋山風を吹かして、どうぞ是からお前の様な女は、俺に顔を合して紅井姫だと云つて、エツパツパとやつたら、紅井姫が云ふのには……君それ程僕が不信用なら、僕も君に対し、強つて添うてくれとは云はないよ、アリヨースと云つてあつたら生命を水の中にザンブと計り、シーズン河だ、さすがの俺でもチツとは憐れを催し、同情の涙にシーズンで居るのだよ、あゝゝゝとは云ふものの、如何したら姫が帰つて来るだらうかな、思へば思へばいぢらしいワイの、オンオンオン』
『君は何かい、紅井氏をどうしたと云ふのだい。僕に詳細なる顛末を差支なくば知らして呉れないか。僕大いに期する所があるのだからね』
『ヤア此奴も又伝染しよつたなア。オイ、モリス、用心せいよ。又ドンブリコと計画に取掛られるかも知れないぞ。こンな所で、舟の一艘や二艘沈めたつて、閉塞隊の御用も勤まるものでなし、丸で淵へ塩をほり込むやうな不利益だから、シツカリエリナ君を捉まへてゐ玉へ。僕は経験上、君に注意を与へておくよ』
『あゝ、モリスも薩張り合点の行かぬ事になつて来たワイ』
と拍手し終つて『惟神霊幸倍坐世』を三唱し、何事か切りに暗祈黙祷を久しうして居る。
(大正一一・八・二〇 旧六・二八 松村真澄録)
(昭和九・一二・一九 王仁校正)
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