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文献名1霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻
文献名2第3篇 峠の達引よみ(新仮名遣い)とうげのたてひき
文献名3第21章 神護〔962〕よみ(新仮名遣い)しんご
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-09-20 10:03:59
あらすじ虎公は、玉公、新公、久公、八公を連れて、火の国街道までやってきた。ここは黒姫が手長猿に悩まされた場所である。大蛇の三公は、ここに子分たちを潜ませて虎公を襲わせようとしていた。大蛇の三公の手下・六公は、大勢の子分を引き連れて現れ、虎公に啖呵を切った。虎公はそこに落ちていた木切れを拾うと、四五十人に対して暴れこんだ。六公以下はこの勢いに肝をつぶして散り散りに逃げてしまった。虎公は、今日に限ってこれほどの元気が出たことを不思議に思ったが、玉公は、どこからともなく荒武者が現れて虎公の加勢をしていたのを見たと話した。虎公は神様のご加護があったことを悟り、感謝の涙を流して大地に伏して祈りをささげた。虎公は子分たちと共に、宣伝歌を歌いながら駆け出した。丸木橋を渡ったところで、黒姫が妻のお愛と妹のお梅、二人の男を連れて向こうからやってくるところに出くわしたのであった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年09月14日(旧07月23日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年12月10日 愛善世界社版267頁 八幡書店版第6輯 459頁 修補版 校定版278頁 普及版117頁 初版 ページ備考
OBC rm3421
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本文  虎公は、玉公、新公、久公、八公の一行と共に火の国街道に漸く立ち現はれた。此処は樫の木の大木が太陽の光線を包んで遮つて居る、天然椅子の岩のある場所で、黒姫が手長猿に悩まされた処であつた。大蛇の三公の乾児六公は数十人の手下を引き連れ、樫の木の下に虎公の行方を求めつつ待つて居た。
 虎公は道々歌を謡ひながら何気なくここ迄来て見れば、喧嘩装束で身をかためた六公の一行、棍棒匕首を携へながら谷道に立ち塞がり、
六公『オイ、虎の野郎、昨日から貴様の所在を探して居たのだ。高山峠の絶頂に往きよつたと確に知つた故、後追ひかけて往つてみれば貴様は早くも風を喰つて、卑怯未練にも姿を隠しやがつた。俺は帰つて親分に申訳が無いから、大方貴様が建日の館へ往きよつたのだと思つて此山口に待つて居たのだ。サアこうなつては最早叶ふまい。ここで綺麗薩張と、お愛の縁を切り、親分さまの女房に奉る、と約束を致せばよし、四の五の吐して聞かないと、胴と首とを二つにしてやるがどうだ。性念を据ゑて確り返答をせい。何程貴様が焦つたところで、お愛は最早親分の手に入つて居るのだから駄目だぞ。それより柔しく三公の乾児になつたらどうだ。命を取られるが好いか、乾児になるのが好いか、二つに一つの返答をしろ』
虎公『烏のおどしのやうな態をしやがつて、身の程知らずの蠅虫め。何劫託を吐きやがるのだ。貴様こそ首と胴とを二つにしてやらア、覚悟せい』
玉公『これこれ虎公さま、大事の前の小事だから、今怒つてはいけませぬ。これ見なさい。だんだん水晶玉が曇つて来ました』
虎公『ヤアもう斯うなつては破れかぶれだ。男の意地でどこ迄もやれるだけやつて見にや虫が納まらねえや。玉公、貴様は俺が今暴れ放題暴れて見るから足手纏ひになつては俺の活動の邪魔になる。オイ、新公、久公、八公も共にどつかへ逃げて了へ』
と云ひながら、虎公は其処に落ちてあつた一間許りの節だらけの、雨に曝された木片を拾ふより早く、四五十人の群に向つて振り廻しつつ暴れ込んだ。六公は此元気に肝を潰し散々ばらばらとなつて逃げ失せて仕舞つた。
虎公『アハヽヽヽ、何と弱い奴計り寄つたものだなあ。大蛇の三公もこれだけ穀潰しを抱へて居ては大抵ぢやあるまい。オイ玉公、新、久、八、もう大丈夫だ、出て来い』
 この声に四人は顔一面蜘蛛の巣だらけになつて、真青の顔をしながら足もわなわな虎公の傍に寄つて来た。
新公『何と虎公さま、偉い馬力が出たものだなあ』
虎公『今日に限つて何故あれ程肝玉が据わり、力が出たのだらう。自分ながらに合点がゆかないのだ』
玉公『俺が木の茂みへ隠れて見て居たら、お前と同じ姿をした荒武者が七八十人どこからともなく現はれて、大きな材木を振り廻したものだから、六の野郎を初め、どいつもこいつもあの通り悲惨な態で逃げよつたのだ。本当に合点のゆかぬ不思議の事だつた』
 虎公はこれを聞いて涙を流し大地に端坐し、拍手を打ち天津祝詞を奏上し終り、
虎公『神素盞嗚大神様、よくもお助け下さいました、有難う御座います。就きましては此様子では、お愛の身の上が案じられてなりませぬから、どうぞも一度、私をお助け下さいましたやうに、お愛の身の上をお助け下さいませ。お願ひ申します』
と感謝の涙ハラハラと、大地に頭を下げて祈つて居る。
 虎公は、玉公其他の乾児と共に又もや坂道を足拍子を取り、謡ひながら吾家の方をさして走り出した。
『あゝ惟神々々  神が表に現はれて
 善と悪とを立別ける  朝な夕なに大神の
 御前に額づき村肝の  心を尽し身を尽し
 仕へまつりし甲斐ありて  大蛇の三公が乾児なる
 六公の手下にウントコシヨ  取り囲まれし其時に
 仁慈無限の御霊  神素盞嗚大神が
 厳のみたまをわけたまひ  数多の神を現はして
 たつた一人の虎公に  加勢をさして下さつた
 実に有り難き神の恩  三五教は世を救ふ
 誠一つの神の道  今更のごとドツコイシヨ
 尊くなつて参りました  かく神徳の現はれた
 ウントコドツコイ其上は  仮令大蛇の三公が
 虎公さまの留守宅へ  数多の手下を引きつれて
 如何に厳しく攻むるとも  決して恐るる事はない
 利かぬ気者の女房が  嘸今頃は素盞嗚の
 神の命の神徳で  寄せ来る敵を悉く
 嵐に花の散る如く  ウントコドツコイ追ひ散らし
 勝鬨あげて虎公が  ウントコドツコイ機嫌よく
 帰つて来るのを待つために  お酒の燗をばドツコイシヨ
 用意致してウントコシヨ  待つて居るのに違ひない
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  誠一つの三五の
 神の教に身を任せ  朝な夕なに真心を
 尽して此世を渡るなら  勢猛き獅子熊も
 虎狼も何のその  況してや大蛇の三公や
 手下の弱い面々が  仮令幾百来るとも
 片つ端から蹶り散らし  改心させるは目のあたり
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましまして
 三五教の御道を  此世の悪魔と謡はれし
 大蛇の三公初めとし  其外手下の者共の
 心を照らして惟神  誠の道に救ひませ
 一重に願ひ奉る  ウントコドツコイ ドツコイシヨ
 それにつけても黒姫や  房芳二人は今頃は
 無事に都へドツコイシヨ  着いたであらうかウントコセ
 俄にそれが気にかかる  あゝ惟神々々
 国魂神の純世姫  月照彦の神様よ
 どうぞ三人が行末を  安く守らせたまへかし
 ウントコドツコイ虎公は  是から吾家へ立ち帰り
 家の騒動を片づけて  火の国都へ立ち向ひ
 黒姫さまの後追うて  尊き神の御教を
 聞かして貰はうドツコイシヨ  それが何より楽しみだ
 ウントコドツコイ ドツコイシヨ  こいつはしまつた何時の間に
 道取り違ひドツコイシヨ  向日峠の谷道に
 思はず知らず迷ひ込んだ  これやマアどうした事だらう
 其処は危い丸木橋  渡るにや怖し渡らねば
 どしても吾家にや帰れない  ここから後へ引き返し
 元来し道を取るならば  吾家へ帰るは易けれど
 そんな事をばして居たら  時間が遅れて仕様がない
 向日峠を踏み越えて  吾家をさして帰る方が
 半時ばかり早からう  あゝ惟神々々
 これも何かのお仕組で  此処へ迷うて来たのだらう
 唯何事も人の世は  直日に見直し聞き直し
 身の過ちは宣り直せ  三五教の御教
 今更思ひ知られける  広大無限の神様の
 深き智慧には叶はない  心拗けた吾々が
 どうして尊い天地の  神の心が分らうか
 神のまにまに任すより  外に行くべき道はない
 何程危き橋ぢやとて  ウントコドツコイ躊躇する
 暇がどうしてあるものか  地獄の釜のドツコイシヨ
 一足飛びをするやうな  荒肝放り出しウントコシヨ
 渡つて見ようか玉公よ  新、久、八の三人よ
 この虎公に続けよや  一二三つ』と言ひながら
 矢を射る如く丸木橋  両手を拡げ身を軽め
 一目散に渡り行く  かかる所へ向ふより
 黒姫司を初めとし  妻のお愛やお梅迄
 二人の男に送られて  森の茂みを押しわけて
 現はれ来る訝かしさ  あゝ惟神々々
 御霊幸はへましませよ。
(大正一一・九・一四 旧七・二三 加藤明子録)
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