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文献名1霊界物語 第56巻 真善美愛 未の巻
文献名2第4篇 三五開道よみ(新仮名遣い)あなないかいどう
文献名3第18章 寛恕〔1448〕よみ(新仮名遣い)かんじょ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2024-07-16 12:07:31
あらすじ小国姫と三千彦は、家令オールスチンのせがれが如意宝珠紛失事件に関わっていると気づいていた。三千彦は、この罪は内々にこの件を処理することが肝心であることを小国姫に説いて聞かせている。そこへエルがあわてて家令家で起こったことを報告しにやってきた。慌て者のエルの説明は要領を得なかったが、三千彦はすべて見通していた。そこへオールスチンが如意宝珠の玉を持ち、息子を引いてやってきて、罪を告白し、謝罪した。オールスチンが自害しようとしたのを三千彦は素早く引き留め、自分が三五教の宣伝使であることを一同に明かした。三千彦は立って宣伝歌を歌い、これまでの述懐を述べた。そしてこれ以上罪びとを造らせない意志を明かした。オールスチンとワックスは、三千彦の宣伝歌を聞いて安堵した。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月17日(旧02月1日) 口述場所竜宮館 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年5月3日 愛善世界社版256頁 八幡書店版第10輯 241頁 修補版 校定版270頁 普及版122頁 初版 ページ備考
OBC rm5618
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本文  小国姫は三千彦と共に一間に入つて心配らし相に、密々と話をしてゐる。
姫『モシ、アンブラツク様、家令の態度がどうも貴方が御出になつてから、何だかソワソワしてゐるやうですから、彼の悴でも若しや玉を隠したのでは厶いますまいか。吾々夫婦を困らせ窮地に陥れ、娘のデビス姫を女房に致し、良からぬ思惑を立てようとしてゐるのでは厶いますまいか。何うも常から怪しいと思つてゐますが、何を云つても家令の悴ではあり、言ひ出しかねて誠に困つて居ります。貴方の御考へは何うで厶いますな』
三千『モシ貴方、家令の悴が如意宝珠の玉を隠して居つたとすれば、何うなさる考へで厶いますか』
姫『左様な事が判れば、何程家令の息子と云つても許す事は出来ますまい』
三千『ここは兎も角円満に事を済まさなくてはなりますまい。第一お館の恥になりますから……、そして世間へパツとしてからは仕方がありませぬから、成るべくは内証で済ましてやつたら何うで厶いませう』
姫『玉さへ還つて参りますれば、吾々夫婦の不調法にもならず、皆が助かる事ならば余り表へ出したくは厶いませぬ。併し乍ら之も明瞭した事は判りませぬから貴方様に伺つて頂き度いと思つて、主人の病気の看護の隙に御居間迄参りました』
三千『貴方が如何なる罪も内済にしてやると云ふ御考へならば申しませう。実は御察しの通り家令の悴ワツクス、並にエキス、ヘルマンと云ふ三人の若い者が或目的の為宝珠を盗んで隠してゐるのです』
姫『ああ、それで合点が行きました。何うもワツクスの態度がソワソワして居ると思ふて居りました。家令のオールスチンは極めて忠実な正直な者で厶いますから、彼に限つてそんな事をする気遣は厶いませぬが、体は生みつけても、魂は生みつけぬとか申しまして、英雄豪傑の悴に馬鹿が生れたり、忠臣義士の子に叛逆人の生れるのは世間に沢山ある習ひで厶いますから、家令が貴方の話を聞いて慌てて帰りましたのも、何か心に当る事があつたので厶いませう。夫に就て僕のエルをして様子を考へにやらせましたが何うしたものか未だ帰つて来ませぬ』
三千『ヤ、今に帰られます。さうすれば真相が解ります。成る可く之は大業にしては成りますまい』
と話す処へ、僕のエルは慌ただしく帰り来り、息を喘ませ乍ら、
エル『モシ奥様、タタ大変で厶います。殺し合ひが始まりました』
姫『ナニ、殺し合が始まつたと……どこかに喧嘩をして居つたのかい』
エル『メメ滅相な、殺し合といつたら喧嘩ぢやありませぬがなア。喧嘩のモ一つ毛の生えた事ですがなア。ソレ生命の取合の事ですがなア。怖ろしや怖ろしや、地異天変地異天変、喉を締める、置物をブツつける、喚く、裏口から山越しに逃げ出す、庫へスツ込む、ソレはソレは偉い事で厶いました』
姫『エル、そんな事云つて解るかい。そら一体何処の事だい』
エル『ヘイ、定つて居りますがなア。家の中の事ですがなア』
姫『誰と誰とが喧嘩をしたと云ふのだ』
エル『男と男が命の奪り合をしたのです。エー、解らぬ御方ですなア』
姫『何処の何兵衛だと問ふてゐるのぢや』
エル『エー辛気臭い、何兵衛も彼兵衛もありますかい。愚図々々して居ると生命が失くなりますがなア。アアもどかしい事だワイ』
姫『そんな解らぬ事を何時迄も云つて居つても埒があかぬぢやないか。此方がもどかしいワ。家令の館へ未だ行かぬのか。大方犬の喧嘩でも見て居つたのだらう』
エル『ハイ、その家令ですがなア。それはそれは偉い事怒つてましたよ。大きな額口に青筋を立てましてね……』
三千『アハハハハ、イヤもうエルさまとやら、分つて居ります。お前さまは随分慌てて居るから、云ふ事がシドロモドロになつて解り憎いが、お前は家令の宅へ行つて四人の喧嘩を見て来たのだらう』
エル『ハイ其通りで厶います。サア之から村中を布令て来ます。大変ぢや大変ぢや』
と飛び出さうとするのを、小国姫は襟髪掴んでグツと引戻し、
姫『コリヤ、エル、何処へも行く事はならぬ。そして何も喋る事はならぬぞ』
エル『ソソそんな事仰有つても、之が黙つて居られませうか。愚図々々して居ると家令の生命が失くなるか知れませぬぞや』
三千『エルさま、まア落付いて下さい。家令は大丈夫だから、そして何も云つちやなりませぬよ』
 エルは『ハイ』と云ひ乍ら、縮んで了つた。
三千『奥さま、何うやらワツクスが隠してゐたところ、家令殿に看破されて一悶着が起つたと見えます。之は私に任して下さい。キツト如意宝珠を持つて帰り御目にかけます。そして家令の親子を私に任して下さいませ。斯うして発見したのも矢張神様の御蔭で厶いますからなア』
姫『何事も神徳高き貴方様の仰せ、御任せ申します』
と話して居る処へ、家令のオールスチンは、吾子のワツクスを引立て乍ら、如意宝珠の玉を幾重にも厳重に包み、此場に現はれ来り、パツと両手をつき、
オールス『奥様、誠に申訳の無い事を致しました。悴の馬鹿者が悪い友達に唆され、種々の謀叛を企み、隠して居りましたのを漸く覚り、悴に腰縄をつけて、此処迄お詫に参りました。何れ倅は生命の大罪人で厶いますから、思ふ存分にしてやつて下さいませ。私の倅に斯様な者が出来たと思へば旦那様へも、世間へも申訳が立ちませぬから……』
と云ふより早く懐剣を引抜き、矢庭に吾腹に突立てようとする一刹那、三千彦は飛び下りて懐剣をもぎとり、声を励まして、
三千『オールスチン殿、心を落付けなされ。何事も皆神様の摂理で厶いませう。此問題は奥様より私が一任されて居りますから、先づ御急きなさるには及びませぬ。今死ぬる命を長らへて御主人様へ忠義を御尽しなさる方が、何程誠が通るか知れませぬよ。そして貴方の息子、ワツクス殿も三千彦が預かつて居りますれば安心なさるが宜しい。実の処私はアンブラツクとは仮の名、実は三五教の宣伝使三千彦と申す者、当館はバラモン教だと知つた故に、故意とバラモン教の宣伝使と化け込んで御救ひに参つたのです。今迄吾名を詐つた罪は奥様を始め御一同様御許しを願ひます』
姫『エー何と仰有います。貴方は三五教の宣伝使様で厶いましたか。之はイカイ御無礼を致しました。併し乍らよくまア急場を助けて下さいました。有難う存じます。貴方の御神徳に依つて玉の所在が分り、斯んな嬉しい事は厶いませぬ』
三千『三五教と云ひ、バラモン教と云ふも元を正せば一つの神様で厶いますから、教に勝劣は厶いますまい。只道を奉ずるものの心に依つて御神徳の現はれに大小高下の区別がつく丈けのものです』
オールス『貴方は初めて御目にかかつた時から、何処とはなしに変つた御方と思つて居りましたが、三五教の宣伝使で厶いましたか。誠に失礼致しました。斯様な乱痴気騒ぎを御目に掛け、誠に御恥かしう厶います。吾々親子はバラモンの顔に泥を塗つたものですから、何卒死なして下さいませ。之ばかりがお願で厶います。そして私の自殺に依つて倅の罪を幾分軽くして下さる事ならば、それを冥途の御土産として、勇んで死に就きます。南無大自在天大国彦命様……』
と合掌し、決死の覚悟を示して居る。
 三千彦は立上り宣伝歌を歌ひ始めたり。
『三五教の宣伝使  吾は三千彦神司
 神の御綱に操られ  不知々々にテルモンの
 山の麓に現はれて  清き流れを打ち渡り
 此方に向つて進む折  小国姫の神司
 二人の侍女を伴ひて  いと懇に吾が身をば
 館に誘ひ帰りまし  種々雑多の御悩み
 包まず隠さず宣り玉ひ  はからせ玉ふを聞くよりも
 同情の涙に堪えかねて  皇大神の御前に
 真心籠めて祈る折  神の化身のスマートが
 吾が耳近く声をかけ  如意の宝珠の行衛をば
 完全に委曲に相示し  ケリナの姫や其外の
 数多の託宣下しつつ  雲路を分けて帰ります
 吾れは心も勇み立ち  小国姫に打ち向ひ
 天地の道理を説き諭し  唯何事も神直日
 心も広き大直日  見直しませと勧めつつ
 神の御前に平伏して  此難局をいと安く
 結ばむために村肝の  心を千々に配りけり
 時しもあれやエルさまは  慌ただしくも入り来り
 家令の館に人殺  大騒動が突発し
 居たりと報告聞くよりも  外へ洩れては一大事
 如何はせむと思ふ折  オールスチンの御入来
 珍の宝を芽出度も  此処に運ばせ玉ひたる
 此祥はテルモンの  館の万代不易なる
 祥なりと祝ひつつ  凡ての曲を宣り直し
 唯何事も大神の  さばきに任せ奉るべし
 人は神の子神の宮  元より悪しきものならず
 八岐大蛇や醜神の  曲津霊に曇らされ
 不知々々に悪魔道へ  堕ち行きたりしものなれば
 皇大神に賜ひたる  厳の言霊宣り上げて
 いろいろ雑多の罪科を  科戸の風に吹払ひ
 払ひ清めて速川の  流れの如く身体や
 霊に塵も止めざれと  皇大神の御前に
 三千彦祈り奉る  小国姫よオールスチンよ
 ワツクス司よ心安く  思召されよ三千彦が
 ここに現はれ来し上は  如何でか罪人造らむや
 心安かれ惟神  神に誓ひて宣り伝ふ
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  誠一つの三五の
 教に身をば任しなば  如何なる曲の猛びをも
 決して怖るる事は無し  尊み敬へ三五の
 皇大神の御神徳  バラモン教を守ります
 大国彦の御稜威  ああ惟神々々
 霊幸はひましませよ』
 三千彦の歌にて家令のオールスチン及ワツクスはヤツと安心し、涙を流して神恩を感謝し、如意宝珠を奉持して小国別の病室に罪を陳謝すべく、小国姫、三千彦と共にシトシトと進み行く。
(大正一二・三・一七 旧二・一 於竜宮館 外山豊二録)
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