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文献名1霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻
文献名2第1篇 千辛万苦よみ(新仮名遣い)せんしんばんく
文献名3第1章 高春山〔675〕よみ(新仮名遣い)たかはるやま
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-05-02 19:11:05
あらすじ蜈蚣姫の手下・鷹依姫は、南に瀬戸の海、東南に浪速の里を見下ろす高山・高春山の頂上に岩屋を造り、バラモン教の一派・アルプス教を立てて自転倒島を八岐大蛇の勢力化に置こうと画策していた。山麓の津田の湖には多数の大蛇が潜伏して、日夜邪気を吐き出していた。高姫と黒姫は、三五教に改心した証として、鷹依姫を言向け和そうと、高春山に飛行船にてやってきた。高春山の五合目辺りに天の森という巨岩が立ち並ぶ、うっそうたる森がある。森には竜神の祠があり、雨風を自由にするといって鷹依姫が崇拝していた。アルプス教のテーリスタンとカーリンスが、この祠の警護にあたっていた。そこへ高姫と黒姫が登って来た。二人は、噂に聞く竜神の祠の扉を開けた。高姫は、すぐにでも、鷹依姫が拠り所としているこの竜神を言向け和して手柄を現そうとする。黒姫は、焦らずにじっくり探りを入れてからとりかかろうと諌めると、高姫は黒姫の過去をあげつらって非難を始めた。売り言葉に買い言葉で、高姫が師弟の縁を切ると言い出し、黒姫も三五教に来てから粗略に扱われた不満を表して、高姫に暇を告げる。テーリスタンとカーリンスは、竜神の聖地を汚したと言って現れ、二人を引っ立てようとする。黒姫は、竜神が自分を呼んだのだ、と言い、逆に二人に取り入ってアルプス教に寝返ってしまう。テーリスタンは、黒姫を鷹依姫に面会させるために、手を引いて頂上の岩屋へと連れて行った。後に残された高姫は、カーリンスを言向け和そうと説教にかかるが、カーリンスは鷹依姫から、三五教の高姫はアルプス教には間に合わない、と聞かされていた。高姫はカーリンスによって捕縛されてしまう。鷹依姫は、聖地に密偵を入り込ませていたので、高姫と黒姫が山を登ってやってくることを知っていた。テーリスタンが黒姫を連れて来ると、丁重に出迎えた。そうして、部屋に案内する振りをして、岩屋に閉じ込めてしまう。鷹依姫は、黒姫を仲間にしようと黒姫の腹の底を油断なく伺っている。また、高姫は如意宝珠を飲み込んでいるので、腹を割いて玉を奪おうと考えていた。カーリンスが高姫を捕縛してくると、鷹依姫は庭先に下させて、黒姫を呼びにやらせた。黒姫は岩屋の中に座って、自らの心の内を宣伝歌に託して、小声で歌っていた。黒姫が高姫と喧嘩をして縁を切ったのは、本心ではなく、アルプス教を油断させようと心にもなく高姫を罵ったのであった。黒姫は鷹依姫の前に呼び出されると、鷹依姫に忠誠を近い、倒れている高姫を拳で打ちすえてみせたそれを見た鷹依姫は、高姫の如意宝珠の玉取りを、黒姫に任せ、秘密の部屋に高姫を運ばせた。やがて高姫は気がついた。黒姫はここは高春山の岩窟であることを告げ、何事かを高姫にささやく。高姫は、秘密の部屋に紫色の玉があることに気がついた。黒姫は、これがアルプス教の性念玉であることを告げると、高姫は紫色の玉を餅のように伸ばして飲んでしまった。秘密室の外には、慌しい足音が駆け出すのが聞こえた。これはテーリスタンとカーリンスであった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年05月16日(旧04月20日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年4月5日 愛善世界社版9頁 八幡書店版第4輯 267頁 修補版 校定版9頁 普及版3頁 初版 ページ備考
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本文のヒット件数全 1 件/神力=1
本文の文字数10700
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本文  雲を圧して聳り立つ  高春山の山頂に
 バラモン教を開きたる  大国別に憑依せる
 八岐大蛇の分霊  醜の曲霊が割拠して
 山野河海を睥睨し  大江の山と三国岳
 六甲山と相俟つて  冷たき魔風を吹き送り
 蜈蚣の姫の手下なる  鷹依姫が朝夕に
 心を砕く鳩胸や  仕組の奥は割れ岩の
 胆を煎るこそ恐ろしき。
 南に瀬戸の海を控へ、東南に浪速の里を見下ろし、西北東に重畳たる連山を瞰下する高春山の絶頂に岩窟を作り、バラモン教の一派を建て、アルプス教と称し、自転倒島を飽く迄も、八岐大蛇の勢力圏内に握らむと、昼夜心を悩まして居た。山麓には細長き津田の湖が横たはつてゐる。此湖水には大蛇の分身たる数多の蛇神潜伏して、日夜邪気を吐き出し、地上の空気を腐爛せしめつつあつた。高姫、黒姫は波斯の国北山村の本山を捨て蠑螈別、魔我彦をして後を守らしめおき、三五教に帰順したる改心の証拠として、アルプス教の鷹依姫を言向け和さむと、波斯の国より乗り来れる飛行船に乗じ、高春山の山麓に着いた。これより二人は巡礼姿に身を変じ、高春山の鷹依姫が岩窟に進まむと、壁を立てたる如き高山を登り行く。
 高春山の五合目許りの処に、天の森と云ふ巨岩が立並び、中央の樹木鬱蒼たる間に、小さき祠がある。之を竜神の宮と云ふ。此竜神は雨風を自由になす神と称へられ、鷹依姫が唯一の守護神として尊敬して居た。それが為に何人も、此境域に近づく事を厳禁して居た。テーリスタン、カーリンスと云ふ二人の荒男は、此竜神の宮を固く警護して居た。二人は巌の上に高鼾をかいて寝んで居る。高姫、黒姫は漸く此処に登り来り、
高姫『なんと立派な岩が並んで居るぢやありませぬか。一つ此景色の佳い所で休息して行きませう。まだ頂上までは余程道程がありますから……』
黒姫『宜しう御座いませう』
と碁盤形の門の戸を押し開け奥に進み入る。
『アヽ此処には妙な祠がある。是れが噂に名高い鷹依姫の、雨を降らせ風を起す唯一の武器でせう。一つ改心さしてやりませうか。将を射むとする者は先づ其馬を射よと云ふ事だから、此雨風を起す悪神の眷属を改心させる方が、近路かも知れませぬなア』
『マア一寸お待ちなさいませ。拙劣に間誤付くと、大風大雨で攻められては困りますから、充分に様子を探つた上、ゆつくりとやらうぢやありませぬか』
『そりや黒姫さま、何を仰有る。冠島の金剛不壊の玉を腹に呑み込んだ此高姫、言はば妾の体は如意宝珠も同然、多寡の知れた雨や風を起す竜神位に、何躊躇する事がありますかい。お前さまは三五教に帰順してから、チツと変になつたぢやありませぬか……イヤ三五教に帰順する以前から高山彦さまに対し、余程御親切が過ぎたやうですよ。神第一主義をどつかへ遺失し、高山第一、神第二と云ふ様なあなたの態度だから、そんな弱音を吐く様になるのだ。モウ此処へ来たら生命を的に、悪神を改心させて大神様にお目にかけ、我々の今迄の御無礼、お気障りの謝罪をせなくてはならぬ。謂はば千騎一騎の性念場だ。チツとしつかりしなさらぬかい』
『ハイハイ、そんな事に呆けて居る様な黒姫と見えますかな。チト残酷ぢやありませぬか。それ程妾に信用がないのなれば、却て貴女の御邪魔になつては可けませぬから、あなたユツクリ如意宝珠の力を発揮して手柄をなさいませ。妾は飛行船を借用して、自分の性の合うた所へ活動に参ります』
『益々変な事を仰有るぢやないか。すべて戦ひは結束を固くせねば勝利は得らるるものでない。味方の方から裏切りをする様な弱音を吹いて何うなりますか。飛行船は既に既に鷹依姫の部下が占領して了つて居ますよ。飛行船なんかモウ必要はない。是れから頂上の割れ岩の醜の岩窟を言向け和し、進んで六甲山へ行かねばならぬ。チト確りしなさい。あまり高山さまに精神を取られて居れるものだから、曲津が憑依したのだらう。サア妾が鎮魂をして審べてあげよう。婆アの癖に髪を染めたり、薄化粧をしたり、まるで化物見たやうなそんな柔弱な事でどうして神界の御用が出来ますか。お前さまは二つ目に、言依別命様を柔弱だとか、ハイカラだとか非難をしなさるが、それはお前さまの心が映つて見えるのだよ』
『何と仰有つても、鎮魂は御無用です。さうしてお暇を頂きませう』
『御勝手になさいませ。モウ今日限り師弟の縁を絶りますから』
『其お言葉を待つて居ました。サアサアどうぞ絶つて貰ひませう』
『アヽ絶つてあげよう。黒姫の肉体を此処に置いて、サツサと帰りなさい。黒姫はソンナ馬鹿な事を云ふ身霊ぢやなからう』
『決して決して守護神(精霊)が言ふのぢやありませぬよ。黒姫の本人が申すのです。何程神直日大直日に見直し聞直して、妾の肉体に瑕瑾をつけぬ様に宣り直して下さつても、それは気休めです。どうしてもお暇を頂戴致します。本当に好かんたらしい、驕慢な高姫さま。どうぞ此れ限り、何と云つても御暇を頂き、醜の岩窟の鷹依姫様の御家来となつて活動致します。ウラナイ教の時には大変に重く用ひて下さつたが、三五教になつてからは、あなたを始め、誰も彼も妾を馬鹿にして……態ア見たか、偉相に威張つて居つたが、今の態は何ぢや。白米に籾が混つた様な顔して、隈くたに小さくなつて居らねばならぬぞよ……と神様が仰有つたぢやないか、その実地が来たのだ……なんて言依別命の左右に侍る幹部連が、妙な顔をして妾を冷笑して居る。それが第一気に喰はないのだ。モウ妾は三五教は駄目だと思ふ。しかし神様は結構だ。取次が間違つて居るのだから、三五教に離れても、あなたに暇を貰つても、一寸も痛痒は感じない。神様だけは妾の真心を知つて居て下さる。お前さまも将来になつたら……ア黒姫はそんな心であつたか、流石玄人だけあつて偉い者だつたと、アフンとしなさる事が出来て来ませうぞい』
『随分猛烈な気焔ですなア。どうなつと勝手になされ。人を杖に突くなと云ふ事がある。妾もこれから独舞台で活動するのだ』
『師匠を依頼にするなと神様が仰有つた。こんな猫の目の様に心のクレクレ変る高姫のお師匠さまは、真平御免だ。好い腐れ縁の絶り時だ。お前さまは今日限り妾の宗旨敵だからさう思ひなさい。天晴戦場で、堂々とお目にかかりませうかい』
 岩の上に寝て居つた、最前の二人の男、ムツクリ立ちあがり、
『コリヤ女、此処を何と心得て居る、天の森の竜神様の御守護遊ばす聖地だ。汚らはしい女の分際として、断りもなく、此聖地を蹂躙しやがつた。サアもう量見がならぬ。当山の規則に照らして制敗してやらう。……オイ、カーリンス、綱を持つて来い。フン縛つて鷹依姫様の御前に引ずり据ゑてやるのだから……』
『モシモシお二人のお方、此処へ参りましたのは、決して蹂躙したのではありませぬ、竜宮の乙姫様の肉の宮、黒姫に用があるから、一寸来て呉れいと、天の森の竜神様が仰有つたので、飛行船に乗つて遥々参つたのですよ』
『ナニ、お前さんが、竜宮の乙姫さまの御命令で来たと云ふのか』
『ハイハイ、妾は乙姫様の肉の宮ですもの』
『妙な事を言ひますな。我々の御大将鷹依姫さまも、此頃は大変に、竜宮の乙姫さまがお出でになると云つて、一生懸命祈念を凝らして居られますよ』
『それ見なさい、高姫さま』
『竜宮の乙姫さまは、遠の昔にお前さまの肉体を出て、後には曲津神が巣を組んで居るのですよ』
『最前から我々が寝真似をして、二人の話を聞いて居れば、三五教の宣伝使と見えるが、なんだか愚図々々と喧嘩をしてゐたぢやないか』
『没分暁漢の高姫が、如意宝珠の玉を腹に呑み込んで居ると言つて、あんまり威張るものですから、今妾の方から絶縁を申込んだ所です』
『そりや結構だ。お前さまは全く我々の同志だ。よしよし鷹依姫様に申上げて、都合好くとりなしを致しませう』
『どうぞ宜しうお頼み申します。………コラ高姫、態を見い、何程如意宝珠でも、大勢と一人では叶ふまいぞや』
と捨台詞を残し、テーリスタンと云ふ大の男に手を曳かれ乍ら急坂を登り行く。
『アヽ仕方がない。到頭悪魔の容器になつて了つた。黒姫も今迄長らくの苦労を、一朝にして水の泡にして了つたか。アヽ可哀相なものだなア。コレコレそこのカーリンスと云ふお方、お前さまは何処から来たのだ、生れは何処だえ』
『自分の国や生れが分る様な者が、斯んな所へ来て、宮番をするものかい。馬鹿な事を言ふない』
『お前さまは如意宝珠の玉の肉体を知つて居るか。日の出神の生宮は誰だと云ふ事が分つて居るかい』
『知つて居らいでか。お前の事ぢやないか。真偽の程は確でないが、最前から二人の話を聞いて居た。お前が所謂日の出神の生宮だらう』
『敵の中にも味方あり、味方の中にも敵があるとは、よう言つたものだ。お前は妾の知己だ。中々身魂がよく磨けて居る。三五教へでも入信つたら、こんな小つぽけな宮番をせなくとも、立派な宣伝使になれるがなア』
『私は宣伝使は嫌ひだ。朝から晩まで酒を飲んでグウグウと寝るのが好だ。彼方や此方へ乞食の様な真似をして、戸別訪問をして、犬の様に杓で水をかけられたり、箒で掃出されたり、引合はぬからなア。爺の痰を飲まされ、薯汁と痰の混汁に辷り転けて、揚句の果てには真裸で茨の池に落ち込み、着物を敵から貰ふ様な事が出来するから止めとかうかい』
『お前は妙なことを言ふ。薯汁や痰に辷り転けたのは何時の事だ。そして又誰の事だいなア』
『そりやあお前さまよく御存じの筈だ』
『ハテなア。海洋万里の波斯の国の出来事の譏り走りを聞いて居るとは、世間は広いやうなものの狭いものだ。これだから人間は慎まねばならぬ。悪事千里と云つて何処迄もよく行きわたるものだなア』
『お前さまビツクリしただらう』
『そりやまた、誰に聞いたのだい』
『今頃そんな事を知らぬ者が一人でもあるものか。随分名高い話だぜ。鷹依姫さまは……おつつけ、心の明き盲、高姫と云ふ者が此山に出て来るから、一つ泡を吹かして改心させてやらねばならぬ。彼奴を改心させたならば、アルプス教の為には大変に間に合ふ……と云つて居られました。お前は高姫さまだらうがな』
『ヘン、見違ひをして下さるな。黒姫の様な猫の目とは、チツと違ひますよ。サアこれから高姫が獅子奮迅の勢を以て、鷹依姫其他の部下を悉く言向け和すのだ。万々一、高姫の失敗になる様な事であれば、再び三五教へは帰らぬ積りだ。喉でも突いて死んで了うのだから、何と云つても、バラモン教の焼直しのアルプス教に対し、徹頭徹尾、頭を下げぬから、其積りで居なさい』
『大変な固い決心だなア』
『定つた事だよ』
 高姫は谷間から滲み出る清水を手に掬んで、渇いた喉を潤して居る。其隙を窺ひ、カーリンスは高姫の首に細紐を手早くひつ掛け、グツと首を締め、
『サアもう大丈夫だ。これで一つ、私の出世が出来る』
と高姫を背に負ひ乍ら、急坂をエチエチ登つて行く。
 岩窟の中には、アルプス教の開山鷹依姫と云ふ中婆ア、木の株で作つた天然の火鉢を前に、長煙管を喞へ、二三の部下を前に据ゑて、
『今日は高姫、黒姫と云ふ二人の婆アが、此処へ出て来る筈だ。キツと神の魔力に依りて、天の森の竜神の宮に立ち寄る筈だから、テーリスタン、カーリンスの二人に、待伏せをさせて置いたのだが、やがてやつて来る時刻だらう』
甲『そんな事は、どうして分るのですか』
『そんな事に抜目のある妾かいな。チヤンと三五教の聖地へ指して密偵が這入り込ましてあるから、それが知らして来たのだよ。モウつい二人共、此処へやつて来る筈だから、お前達も充分に気を付けて、妾が此煙管で「クワン」と此磬盤を叩いたが最後飛んで出るのだ。それまでは次の間で、横になり考へて居るのだよ。併し寝て了つては可かぬから、目を開けて居るのだぜ』
 三人は『ハイ』と答へて、次の間に身を隠した。そこへテーリスタンに伴なはれて黒姫が這入つて来た。
『只今帰りました。あなたの眼識には、実に敬服致しました。此通り黒姫を巧く引張り込みましたから、御安心下さいませ』
鷹依姫『これこれテーリスタン、何と云ふ失礼な事を言ふのだい。鬼の岩窟か何ぞの様に、引つぱり込みましたなんて、チツト言霊を慎みなさい。結構なお方を御迎へして帰りましたと、何故言はないのだい。……これはこれは黒姫様、遥々とよう来て下さいました。空中は余程風が烈しうてお困りでしたらう。後程ユルユルとお話を承はりますから、少時奥で御休息を願ひます』
『初めてお目にかかります。御神徳の高い御山と見えまして、雲までが皆謙遜り、谷底へ遠慮を致してゐますなア』
『雲に突き出た高春山、誠の御神徳は俗塵を離れて中空に聳えた聖地でなければ本当の神力は現はれませぬ。炮烙を伏せた様な低い山を背景にして神業を開始するなぞと、てんで物に成りませぬワ。四尾山と高春山とは気分が違ひませうがなア』
『大きに違ひます。妾も此処へ登つてから何だか気分が面白くなつて来ました。三五教のアの字を聞いても厭になりましたよ。それに言依別命と云ふハイカラな教主になつて居るのだから、内幕の腐爛状態と云つたら御話になりませぬ。又高姫と云ふ……もとは妾のお師匠で御座いますが、カンカラカンのカン太郎が、頑固一途を立て通すものですから、妾も此処までやつて来て、天の森の竜神さまの前で、暇を呉れてやりました』
『それは何より結構です。此世でさへも切り替へがあるのだから、良い加減に思ひ切つて、新しい世界へ出た方が貴女の身の為ですよ』
『ハイ有難う御座います。黒姫の思うて居ることをスツカリ仰有つて下さいまして、唯一の共鳴者を得た様な心持が致します。生れてからこれ位愉快な事はありませぬワ』
『サアどうぞ奥へ行つて御休息下さいませ』
とテーリスタンに目配せした。
『サア黒姫さま、奥へ御案内致しませう』
と手を取つて岩室の中に案内した。そして外よりガタリと蝦錠をおろし、
『モウ斯うなつては、何程藻掻いても駄目ですから、充分に御考へ置きを願ひます。左様ならば』
と云ひ捨て、鷹依姫の側に立帰り、
『首尾よう岩室の中に籠城を命じて置きました。併し乍ら、あの黒姫に限つて、決して御心配は要りませぬ。平岩の上に於てスツカリ、高姫と黒姫の心中を探りました。モウ大丈夫ですよ』
『さう軽々しく楽観は出来ない。油断は大敵だ。罷り違へば爆裂弾を抱いて寝るやうなものだからなア』
『竜神の祠の前へ来るまでは、両人はどうしても、貴女を三五教へ帰順させると云ふ目算らしう御座いましたが、竜神の祠の中から神様の御神霊が現はれ、黒姫にのり憑られたと見えて、俄に……妾は竜宮の乙姫の生宮だと威張り出し、二人が喧嘩をおつ始め、到頭黒姫は貴女の部下になると云つて、ここを目蒐けて走り出しました。それで私もコレコソ渡りに船だと心勇み、手を曳いて此処まで連れて帰つたのです。モウ大丈夫ですから御安心下さいませ』
『それは結構だが、モウ一人の高姫はどうなつたのだえ』
『高姫ですか。あれは何事にも抜目のないカーリンスに一任して来ました。屹度フン縛つて、やがて登つて来るでせう』
『あの高姫は腹に如意宝珠の玉を呑んで居るのだから、どうしても腹断ち割つて抉り出さねばならないのだ。併しうまくカーリンスが連れて帰つて来るだらうかなア。黒姫は玉無しだから、どうでも良い様なものの、肝腎要なは高姫だ。カーリンスが大変に困つて居るだらう。お前御苦労だが、モウ一度加勢に行つて呉れまいか』
『行けと仰有れば、行かぬ事はありませぬが、大変に、彼奴の顔を見ると目がマクマクするのですよ』
『何、目がマクマクするか、正しく如意宝珠の玉を呑んで居る証拠だ。目を塞いで、早くどうでもいいからフン縛つてなつと、二人して連れてお出で』
『承知致しました』
とテーリスタンは、山を一散走りに駆下る。後に鷹依姫は独言、
『アヽ時節は待たねばならぬものだなア。鬼雲彦や鬼熊別の大将株は、三五教の言霊とやらに討たれて、見つともない、男の癖に雲を霞と本国へ逃帰り、いい恥曝しをなされたが、女の一心岩でも徹すと云つて、夫に似ぬ健気な女房蜈蚣姫は三国ケ岳に立籠り、到頭黄金の玉を手に入れた。ヤレ嬉しやと思ふ間もなく、又しても其玉を三五教にウマウマと取返され、喜んだのは束の間、サツパリ糠喜びとなつて了つた。併し何程蜈蚣姫が智慧があつても、神徳が備はつて居ると云つても、此鷹依姫には足元へも寄れない。チツと爪の垢でも煎じて呑まして上げたいものだ。如意宝珠の玉の容器は、声なくして呼びつける。黒姫は玉無しだが彼奴は黄金の玉の在処を一番よく知つて居ると云ふ事だ。此間帰つて来た虎公の報告では黒姫さへ手に入れてうまく白状させたならば、黄金の玉も手に入ると云ふ事だから、云はば玉を手に入れたも同然だ。アヽなんとした結構な事が出来て来たものだらう』
とカンカン磬盤を長煙管で打つた。ウツウツと眠つて居た三人の耳には、早鐘の様に強く響いた。三人はビツクリ仰天起あがり、周章狼狽き、鷹依姫の居間に走り行き、
『火事だ 火事だ』
と擂鉢を抱へて走る奴、火鉢を抱へて飛び出さうとする者、座敷の真中でキリキリ舞をする奴、右往左往に狼狽へ廻る。鷹依姫は長煙管の先で三人の頭をピシヤピシヤと叩き、元の座に悠然として腰をおろし、
『コラコラ貴様達は、何を狼狽へて居るのだい』
と大きな尖つた声で喚き立てる。
『ハイハイ何で御座いますか』
鷹依姫『何でもない。気を落ち着けなさい。今タカが一羽此家へ来るのだから、料理をせにやならぬ。其用意に出刃でも磨いで置きなされ』
『誰か鷹の様なものを捕つたのですか。彼奴は肉食鳥だから味が悪うて、臭くつて喰べられませぬ。大きな図体の割りとは羽根ばつかりで、食ふ所はチヨビンとよりないものですよ』
『エーそんな講釈は後にしなさい。羽根の無いタカが来たのだ』
 斯く話す折しも、カーリンス、テーリスタンの両人は、高姫の首を締めた儘、担いで這入つて来た。
『アヽ御苦労々々々、マア庭の隅へでも片付けておいて、ユツクリ休んでお呉れ。随分骨が折れただらうなア』
『イエ骨は折りませぬが、首だけ締めて置きました』
『早く解いてやらないと息が絶れるぢやないか。息が絶れて了へば、折角の玉が死んで了ふ。生きた間に取らねば間に合はぬのだ。早う早う…』
と急き立てる。カーリンス、テーリスタンの両人は『ハイ』と答へて、徳利結びにした首の紐を解いた。最早高姫は縡切れたか、ビクとも動かぬ。
『ヤア此奴ア、到頭寂滅しやがつたなア。どうしたら宜からうか』
『人工呼吸法だ』
と両人は一生懸命に高姫の体を捉へ、手や足を無暗矢鱈に動かして居る。暫くあつて、高姫は「ウーン」と息を吹き返す。
『アヽもう此方のものだ。鷹依姫さま、此先はどうするのですか』
『マア茶でも飲んでユツクリするのだ。其間に妾から命令を下すから……』
 暫くあつて鷹依姫は、
『黒姫さまを招んで来なさい』
『ハイ』
と答へてテーリスタンは、黒姫を押込めた岩窟の前に走り行く。黒姫は忍び忍びに何か歌つて居る。
『高天原を立出でて  三五教の宣伝使
 高姫さまと諸共に  御空を翔ける磐船に
 乗りてやうやう高春の  山の麓に着陸し
 黄金の草をより分けて  霧の海原探りつつ
 一歩々々急坂を  登つて来たのが天の森
 巨岩怪石立並び  風光絶佳の霊地ぞと
 二人は此処に息休め  竜神さまの祠をば
 眺めて休らふ折柄に  何んとは無しにビリビリと
 震ひ出したる我身体  高姫さまは知らねども
 確かに尊き神懸り  さはさり乍ら黒姫が
 夢にも思はぬ囈語を  ベラベラ喋つて高姫に
 力の限り毒ついた  吾師の君よ高姫よ
 猫の目玉のくれくれと  心の変る黒姫と
 必ず思うて下さるな  此れには何か神界の
 深い仕組のあるならむ  曲津の軍いと多く
 アルプス教を開きたる  鷹依姫が右左
 司と仕へしカーリンス  テーリスタンの両人が
 巌の上に横臥して  狐狸の空寝入り
 様子を窺ひ居ることに  黒姫早くも気が付いて
 ワザと師匠の高姫に  心に在らぬ事ばかり
 申上げたは済まないが  これも何かの御経綸
 妾の心はさうぢやない  どうぞ赦して下さんせ
 生命捧げた宣伝使  悪魔のはびこる此岩窟
 如何なる憂を見るとても  言向和さで置くべきか
 暫く待てよ高姫の  吾師の君の宣伝使
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  黒姫如何になるとても
 三五教の神教を  天下に拡げにや置くものか
 巌をも射貫く黒姫が  固き心の梓弓
 矢竹心は高姫の  心の的に命中し
 やがては疑雲隅も無く  天津日の如晴れるだろ
 アヽ惟神々々  御霊の幸を賜へかし』
と歌つて居る。カーリンスは外より岩の戸を、鍵を以て押開け、
『黒姫さま、教主様がお召びになりました。大変な所へお入れ申して、さぞ御腹が立つたでせうが、ここはどんな立派なお方でも、初めて這入つて来た方は、早くて三日、遅いのは十日二十日と、此岩窟で修行をさすのが規則ですから、決して押籠めたなどと思つては可けませぬぞや。三五教でさへも、岩窟の修行場が拵へてあるでせう』
『イエイエ決して悪くは思うて居ませぬ。斯様な結構な所で修行をさして頂くなら仮令一月が二月、三年五年要つた所で、別に苦痛とは思ひませぬよ』
『それはまた大変な馬力ですな』
 黒姫は微笑み乍ら、イソイソとして鷹依姫の前に現はれ、
『これはこれは教主様、結構な修行をさして頂きまして有難う御座います。成程あの岩窟は心が静まつて、結構で御座いますな』
『結構でせうがな。あなたは身魂の洗錬が出来て居りますから、僅一時位で卒業が出来たのですよ。開教以来あなたの様に早く出た方は御座いませぬ。お芽出度う御座います』
 黒姫は、
『イヤ有難う御座いました』
と振り向く途端に、高姫の横たはる姿を見て打驚き、
『ヤア高姫さまが縡切れて居らつしやる』
と顔の色をサツと変へた。鷹依姫は、
『オツホツホツホヽ、あんまりカーリンスと格闘をなさつたものだから、御疲労なさつたものと見えます。お前さまは今見て居れば蒼白の顔をしてビツクリなさつたが、矢張り未練がありますかい。斃つた人を座敷へも上げず、土間に寝かして置いたのは無残の様に貴女は思つたでせうが、これは一つの医療法ですよ。お土のお蔭で血液の循環が旧へ復り、息吹き返す様にしてあるのだ。やがて蘇生されるでせう』
『ナニ妾は高姫なんかに未練がありますものか。こんな傲慢不遜な頑固者、今天の森で弟子の方から暇を与れてやつた所です。それを証拠に、妾は貴女の弟子になりたいのですが、使つて下さいますか』
『お前さまの云ふ事に間違ひなくば、喜んで手を引合うて行きませう』
『有難う御座います』
と云ひつつ黒姫は庭に下り、高姫の尻を力限りに握り拳を固めて、七つ八つ打ち、
『コリヤ高姫、思ひ知つたか』
 高姫は『ウーン』と息を吹く。
『オホヽヽヽ、能う斃つたものだ。この儘棄てておけば死んで了ふのだが、併し此奴は貴方の御存じの通り如意宝珠の玉を呑んで居りますから、吐出さしてアルプス教の神宝にせなくてはなりますまい。何とかして大事に……イヤイヤ大事にせなくてもよい。生き返らして生玉を取らねばなりませぬから、暫く助けてやつたらどうです』
『黒姫さまの仰有る通り、一先づ生かして、玉を吐き出させねば、折角苦労した効能が無い。玉さへ取れば後は煮て食はうと、焼いて食はうと、若い奴に呉れてやる。併し生き返らうかな』
『これは容易に恢復しますまい。何卒黒姫に任して下さるまいか。さうすればキツト体を旧の通りにして、さうして折を考へ、生玉を引抜いて見せませう』
『アヽそんならお前様にお任せするから、宜しく頼みます』
『何と云つても玉を呑んで居るのだから、玉の納めてある室へ高姫の死骸を寝さし妾が介抱をしてやりますから、極秘密に、誰にも分らぬ様にして下さい。黒姫がキツト取つてお目に掛けます』
『アヽそんなら御頼み申します。誰も這入つた事のない玉の居間、彼処には紫の夜光の玉が納まつて居る。是れはアルプス教の生玉だから、誰にも見せないのだが、お前さまの精神を見届けたから、其居間を一任しませう』
『それはそれは実に望外の仕合せ、此上は粉骨砕身、アルプス教の為に、犬馬の労を惜みませぬ』
『妾も実は相談しようにも相手がなくて困つて居つたのだ。御前さまが此処へ来て呉れたは天の与へ、肉身の妹が来たも同然だから、互にこれから諒解し合うて秘密の相談を致しませう。サア妾が案内をしますから……』
と先に立つ。
『高姫の死骸を持つて行かねばなりますまい』
『アヽさうでしたな。併し乍ら秘密室に誰も入れる事が出来ないのだから……』
『妾が担いで参りませう。………ヤイ高姫、お前は幸福者だ。一旦縁を絶つた妾に又世話になるのかいやい』
と口汚く罵り乍ら、脇にエチエチ引抱へ、足を引摺りもつて、鷹依姫の後に従つて秘密室に這入つて行く。
『ここが大切な所だから、お前さま、高姫の息吹き返す様に、鎮魂をしてやつて下さい。さうして時節を待つて生玉を抜いて下さいや』
『何事も呑み込んで居ます。其代りに十日許り、二人前の食料を入れて下さい』
 鷹依姫はニコニコし乍ら、我居間に帰り、珍味佳肴を、ソツト秘密室へ持運び、素知らぬ顔をして居る。
 高姫はムクムクと起上り、四辺をキヨロキヨロ見廻して、
『アヽ妾は夢を見て居たのかいな。アヽ黒姫さま、お前さまと天の森の竜神の祠で従来に無い大喧嘩をして、それより悪い奴に喉を締められたと思つて居たが……ヤツパリ夢だつたかなア』
 黒姫、あたりを憚る小声にて、
『高姫さま、決して夢ぢやありませぬ。ここは高春山の割れ岩の岩窟……』
と耳に口を当て、何事かヒソヒソと囁いて居る。高姫は紫の玉を眺め、
『マア立派な玉がありますな』
『これがアルプス教の性念玉です。此れさへ手に入れば、アルプス教は最早寂滅、何とかして帰順させる方法はありますまいかなア』
『ナニ、ありますとも、この高姫が呑んで持つて帰れば好いのだ』
『何でもあなたは呑み込みが良いから便利ですなア』
『練つて練つて練つて練り倒し、仕組の奥の生玉を呑み込んだ此妾、此玉の一つや二つ呑むのに何の手間暇が要りますものか』
と云ふより早く、玉を手に取り、クネクネクネと撫で廻し、餅の様に軟かくして、グツと呑み込んで了つた。此時秘密室の外に、慌ただしく駆出す足音が聞えた。此れはテーリスタン、カーリンスの二人であつた。嗚呼、高姫、黒姫の運命は如何なるであらうか。
(大正一一・五・一六 旧四・二〇 松村真澄録)
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